新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

アニメにおける挿入歌の役割とは―『けいおん!』『Angel Beats!』の挿入歌の比較・考察

けいおん!!』と『Angel Beats!』。2010年を代表する両アニメには、一つ共通点がある。それは、キャラクターの心情やストーリーを盛り上げるために挿入歌が多用されていることである。両アニメとも、挿入歌が単にBGM的な音楽の枠を超え、作品に無くてはならないものとなっている。

例えば、Angel Beats!第3話で岩沢さんが消えてゆくシーン。そこで岩沢さんが歌った曲『My Song』のサビの部分を以下に記す。

泣いてる君こそ 孤独な君こそ
正しいよ 人間らしいよ

私はこの歌詞を聞いて、『劇場版ドラえもん のび太とアニマル惑星』の主題歌『天までとどけ』(武田鉄也作詞)を思い出した。そのサビには次のような歌詞がある。

流れる涙は 人間だから
弱いあなたは 人間らしい

まあそれはさておき、第3話の中で岩沢さんは、孤独や悲しみの中で生きることを「人間らしい」と肯定的にとらえ、自分の人生に意味を見いだして消えてゆく。この挿入歌がなければ、彼女の心情を完全に理解することは難しかったと思う。また、第5話では、ユイが「戦い」をテーマとした曲『Thousand Enemies』を歌うことで、戦線と天使との争いが空回りしている様子を象徴している。さらに、10話のユイが消えてゆくクライマックスで『一番の宝物』が流れる。この曲にはまさに、「どんなに恵まれない人生だったとしても、愛する人や家族・仲間と共に『生きる』ということは素晴らしいことだ」という、このアニメのテーマにも関わる歌詞が含まれていることは言うまでもない。このようにAngel Beats!では、重要なシーンで必ずと言っていいほど挿入歌が出てくるだけでなく、「挿入歌が無ければ、このアニメの良さは半減しただろう」と言っても良いほど、作中でかなりのウェイトを占めているのだ。

では、対するけいおん!の方はどうか。第1期第1話では、まだ入部する前の唯に他のメンバーが『翼をください』を演奏している。これについては、ブログ『アニオタ保守本流』が詳しいのでそちらを引用させていただく。

『今 私の願いごとが かなうならば 翼が欲しい』である。正に本作のテーマの象徴である。社会的には何者でもない高校生。翼が欲しい代わりに、私達は軽音やります!軽音を翼として飛び立ちます!というわけである。この辺り、絶妙な演出が光る。
きょうび「けいおん!」を観ない奴は非国民である。より引用)

「何をすればいいのかが分からない」と悩んでいた唯が、軽音部という「翼」を見つけるシーンを、見事に表現している。この他にも、2期6話では、唯が『あめふり』(「雨雨ふれふれ母さんが」と続くあの曲)を歌くことで、梅雨のアンニュイな気持ちを吹き飛ばそうとしている様子を表現している。そして、最も象徴的だったのが2期8話の『うさぎとかめ』(「もしもしカメよ」と続くあの曲)だ。これも言うまでもないことだが、唯が亀のようにゆっくりだけれども着実に未来へ向かって進んでいる様子を象徴しているわけである。

このように、挿入歌が作中で重要な役割を果たしている両アニメだが、決定的に異なるのは、Angel Beats!がこのアニメのためだけに麻枝准作詞作曲の歌を大量に用意したのに対し、けいおん!が日本人なら誰でも知っている既存の歌を用いた、という点であろう。このアニメのために大量の曲を書きおろしたAngel Beats!サイドの熱意はもちろん評価に値するが、私はけいおん!方式の方が演出的に優れていたと思う。けいおん!は我々に、「新しく曲を作らなくても、既存の曲だけでもキャラクターの心情や象徴的描写を十分に表現できる」ということを教えてくれた。そういった意味で、けいおん!の方が一枚上手だったと言えるだろう。