新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

「普通」と「異常」の境界で―『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が描く「一般人から見たオタク像」

今年、「普通」と「異常」との交流をテーマにしたアニメがいくつか登場しており、『WORKING!!』や『荒川アンダーザブリッジ』がその典型である、という記事をかつて書いた(詳しくは、「「普通」と「異常」の境界で―『WORKING!!』『荒川アンダーザブリッジ』が語りかけるもの」を参照)。さらに、今年9月にアニメ化されるライトノベル俺の妹がこんなに可愛いわけがない』も同系統の作品であると言えよう。主人公・高坂京介は、どこにでもいるような「普通」の高校生。一方、その妹・桐乃はエロゲやアニメが大好きないわゆる「オタク」である。主人公は、妹やその友達を通じてエロゲ・アキバ・コミケ腐女子といったオタク文化に触れてゆく。これらは全て、一般人である京介からすれば「異常」以外の何物でもない。

多少の脚色はあるとしても、一般人から見たオタク像というものをこれほど鮮明に表現した作品は他に例がないと思う。「普通」の一般人の物語でもなく、「オタク」だけの物語でもなく、「普通」の一般人から見た「異常」なオタク、という関係性の中から生まれる物語。常に新しいフロンティア領域を開拓していく事が求められるライトノベルという媒体だからこそ誕生し得た作品であると言える。さらに、この作品が面白いのは、ヒロイン・桐乃が京介にとって、二重の意味で「異常」であるという点にある。桐乃は、学校では成績優秀で、部活動では海外へ強化合宿に行くほどの実力を持ち、おまけに雑誌の読者モデルまでこなしている。京介にして見れば、雲の上の存在、自分にある種の劣等感を抱かせる存在であった。それに加えて、エロゲやアニメの関連商品を密かに収集している妹。京介からして見れば、自分の常識が全く通用しない人に他ならない。

しかし話が進むにつれて、妹ひいては「オタク」というものについて京介が抱いていた「異常」という認識は無くなってゆく。『WORKING!!』や『荒川アンダーザブリッジ』などと同様に、妹やそのオタク友達という「異常」と接してゆくうちに、「異常」の中に隠れている「普通」が見出されたのだ。オタクには一般人の常識が通用しないと考えていた京介だが、そのオタク達との交流を通じて、彼らの情熱、真剣さ、そして一般人と変わらない喜怒哀楽の感情を理解してゆく。一方で、「普通」を自負する京介ではあるが、物語が進むにつれて彼の中にも「異常」が芽生えてゆく。我々読者はそれらの過程を目の当たりにし、我々にとっての「普通」と「異常」の境界も曖昧になってゆく。

いずれにしても、この作品がアニメとしてどのように表現されるのかが非常に気になるところである。時代の転換点にふさわしい「普通と異常の交流」というテーマ、しかもそれを「一般人とオタク」という、視聴者にとって極めて内輪ネタ的な対比の中で表現するという試み。この試みが成功するか否かによって、今後の日本アニメ界の動向が決まってくるだろう。