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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

「普通」と「異常」の境界で―『侵略!イカ娘』が大ヒットした理由

私は以前、注目しているアニメ作品として『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を挙げ、このブログでも記事にしました(詳しくは、「普通」と「異常」の境界で―『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が描く「一般人から見たオタク像」を参照)。しかし、実際にアニメが始まると、原作破壊が相次いだことなどもあり、いまいちパッとしなかったなあ、という印象が残りました。これは、私が原作を読んでいるからそう思うのかもしれませんが、やはり原作の良さを十分に生かし切れてないなあ、という感が拭えませんでした。そんな中、それとは対照的に、原作の良さを引き出しつつ、さらにその上を行ったアニメが『侵略!イカ娘』でした。

誤解を恐れずに言いますが、『侵略!イカ娘』という作品には、イカ娘の可愛さ以外何もありません。特別な事件が起こるわけでもなく、何か奇抜な設定があるわけでもない。ただ、イカ娘の可愛さ、たったそれだけで勝負している作品です。周りのキャラクター、演出、作画、声優さんの演技、その全てがイカ娘の可愛さに直結しています。あれやこれやと欲張らないで、持てる力を全て、イカ娘の可愛さを引き出すために使った。それがこの作品が成功した秘訣ではないでしょうか。原作漫画でもよく「オチがない」などと言われる本作ですが、イカ娘の可愛さの前では全てが許されてしまいます。これは、可愛さというものを徹底的に追求したからこそ、許されることです。画力・ストーリー・演出など、あらゆる要素を向上させようと努力している作品があるのだとすれば、『侵略!イカ娘』のように、長所だけを徹底的に磨き上げてゆく作品も十分アリだと思います。

ところで、私はこれまで、タイトルが『「普通」と「異常」の境界で』という文言から始まる記事を2つ書いて、その中で『荒川アンダーザブリッジ』『WORKING!!』そして『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を紹介してきました。この3作の共通点は、「普通」と「異常」が遭遇する界面が舞台となっていることでした。そう考えてみると、『侵略!イカ娘』も同様の作品だと言えるのではないでしょうか。地上に住む「普通」の人々にとって、イカ娘という存在は明らかに「異常」です。見た目は人間だけど、触手はあるし、スミは吐くし、発光するし、地上侵略とか言っています。でも、そんな「異常」なイカ娘が、いつの間にか当たり前の存在となって「日常」に溶け込んでいる。ある意味、キャラクターも読者も、すでにイカ娘に「侵略」されていると言って良いでしょう。

一方、イカ娘視点で見れば、地上の人間は「異常」以外の何物でもありません。何故人間はお化けを怖がるのか、何故こんな簡単な数学の問題が解けないのか、何故てるてる坊主は首を吊ってるのに笑っているのか、何故辛い思いをしてまで山に登ろうとするのか。イカ娘にとって、地上は不思議の宝庫です。その他、化粧、傘、学校、花火、ありとあらゆる物が初めて目にする物です。地上人とイカ娘との間の認識の違いに起因する勘違いやトラブルが、イカ娘の可愛さを引き立てる重要なツールとなっています。そんなイカ娘も少しずつ地上に適応して行き、それがまた葛藤を生んだりするわけですが。しかし、原作7巻や8巻を見ても分かる通り、イカ娘にとって地上はまだまだ分からない事だらけの「異常」な世界です(例えば、雷、3Dメガネ、スイカ、七夕、大仏、などなど)。『侵略!イカ娘』における「普通」と「異常」の遭遇は、まだまだ終わりそうにありません。