新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

反戦アニメの表現1―『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』のアイキャッチについて

今更ながらアニメ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』を見て、風景描写の緻密さや演出の上手さにびっくりしているのですが、今日は本作が持つメッセージ性について少し話そうと思います。さて、本作を1話から順に追って行く過程で多くの人が考えたことは、「この作品はいったい何を表現したいのだろう」という一点に尽きると言えるでしょう。意味深な伝承や世界観が語られたかと思えば、ほのぼのとした日常が長々と続いたり、きな臭い社会情勢や心温まるエピソードが描かれたかと思えば、コメディと萌えを存分に入れてくる。純粋な萌えアニメでもなく、単なる戦争アニメでもなく、実にどっちつかず。いったい何が言いたいのだろう。こんな声が放送期間中には聞こえてきましたし、実際に私も見ていてそう思いました。

しかし、最終回まで見れば、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』が私達に提示したメッセージが、何となくはおろか、極めてはっきりと浮かび上がってきました。それはすなわち、次の2点に他なりません。

  1. 本作では、荒廃した街や自然の描写、さらにキャラクター達が戦争で負った心の傷を通じて、戦争の悲惨さと無意味さを強調しています。また、風の谷のナウシカ』的な文明の黄昏を描くことで、そこからさらに一歩進んで、生きることそのものの無意味さすらほのめかしています。いずれ滅びることが分かっている世界、破滅に向かう世界、そこにあるのは圧倒的な虚無感です。それでも主人公達は「平和」や「日常」というものの価値を肯定し、それを選択します。平和や日常の大切さを強調しているという点において、本作は間違いなく反戦アニメとしての側面を持ちます。
  2. その一方で、ソラノヲトというタイトルからも分かる通り、思いを伝えるということの素晴らしさも描かれています。カナタが「Amazing Grace」を吹くあのクライマックスから見えてくるもの。それは、思いを伝えることの大切さ、そして、その思いは必ず皆に届くのだというメッセージではないでしょうか。

もちろん、本作序盤のいくつかの描写は、作品テーマと関係のない単なる視聴者サービスだったのでしょう。でも、本作全体を通して見た時、上記のようなメッセージが浮かび上がるのです。すなわち、「反戦のメッセージ」と「思いを伝えることの素晴らしさ」です。

なるほど、最終回まで見てようやく明らかになったメッセージですが、実はそのメッセージをほのめかす象徴的なものは、すでに第1話の段階から提示されていたのです(ここからがこの記事の本題です)。下の2枚のイラストを見て下さい。

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皆さんお分かりとは思いますが、本作で毎回使われたアイキャッチです。カナタをはじめとするキャラクター達が5人そろって視聴者の方を向いている。そして傍らにあるのは大きな白旗です。言うまでもないことですが、白旗を掲げるという行為は、敵に対して降伏すること、戦う意志がないことを示します。つまり、このアイキャッチを見れば、キャラクター達に敵と戦う意志はないこと、そして平和や日常こそが大切なのだと考えていることがよく分かります。作品を全部見た後だから言えることかもしれませんが、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』が掲げるテーマは、こんな簡単な所にはっきりと見てとれるのです。*1

さらに、これはこじつけと言われるかもしれませんが、「旗を掲げる」という行為自体が「自分の思いを伝える」ことを目的とした行為なわけですから、前述2番目のメッセージ(思いを伝えることの素晴らしさ)とも通じる所があるわけです。つまり、このアイキャッチには、平和や日常に価値を見いだそうとするキャラクター達の姿勢と、それを高らかに表明しようという意志がはっきり見てとれるのです。作品をテーマを簡潔に表現している、実に秀逸なアイキャッチと言えるでしょう。

*1:私が知らないだけで、同じような考察をしている人は他にもいるような気がしますが、なかなか面白いなと思ったので自分でも記事にした次第です。