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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

肩書き通りじゃなくても良いじゃなイカ!―『倭トトは神様である!』『侵略!イカ娘』から見る現代社会

マンガ イカ娘

「らしくない」ことが可愛さを生む

倭トトは神様である! (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

倭トトは神様である! (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

本屋の4コマ漫画コーナーで何気なく本を眺めていると、『倭トトは神様である!』という漫画(上図)が目に止まった。本の帯には次のような説明が書かれていた。

倭トトは歴とした神様である。なんだけど、ちっこくてかわいくて威厳がなくて、食い意地張ってて甘い物が大好きで釣られやすくて、たまに威光を示そうとするんだけど大抵が空回りで、とにかく神様らしくないのである。だけど、友達のササネとスモンはこの神様の事がとても大好きだ。(中略)そんな暖かい空気の中で、トトは少しずつ、神様らしくなろうと微妙に頑張る。いつか立派な神様に・・・なれるのかな、本当に。

これを読んだ時、私はある一つの言葉を連想した。そう、「いかむすめ」という5文字の単語を! この説明文をちょっと変えればそのまま『侵略!イカ娘』の本の帯にも使えるのだ。

イカ娘はれっきとした侵略者である。なんだけど、ちっこくてかわいくて威厳がなくて、食い意地張っててエビが大好きで釣られやすくて、たまに威光を示そうとするんだけど大抵が空回りで、とにかく侵略者らしくないのである。だけど、海の家のみんなと早苗はこの侵略者の事がとても大好きだ。(中略)そんな暖かい空気の中で、イカ娘は少しずつ、侵略者らしくなろうと微妙に頑張る。いつか立派な侵略者に・・・なれるのかな、本当に。

もちろん、この本の作者や編集者は、同じ「神様らしくない神様」が登場する漫画『かんなぎ』の事を念頭に置いていたはずだ。*1 しかし、今、時代は何と言ってもイカ娘だ。「神様」という文字通り神々しい存在なのに、「ちっこくてかわいくて威厳がなくて」という設定は、どうしてもイカ娘を連想してしまう。

このイカ娘みたいな神様は一体何者なんだろう。イカ娘ファンとして、これは買わないわけにはいきません。というわけで、買って家で読んでみたのですが・・・はっきり言って、これは凄い。全然神様らしくない。

主人公の倭(やまと)トト*2は「神様見習い」の身で、とある町の古びた神社に祀られています。しかし、見た目や性格はどう見ても人間の子供。実に俗物で、ゆるくて、そして可愛い。その一例を下に挙げます。

  • 神様なのに、普通に学校に通っている。
  • 神様なのに、お菓子が大好き。
  • 神様なのに、テストで赤点。
  • 神様なのに、サンタさんからプレゼントを貰う。*3

トトがいかに神様らしくないか、文字だけでも十分お分かりいただけるかと思います。また、この作品には頻繁に「神様ネタ」が出てくるのですが、それがかなり笑える。

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出雲まで行くのめんどくさいなwww あまりにも神様らしくない神様。『かんなぎ』のナギ様も脱帽。そんなわけで、侵略者らしくない侵略者・イカ娘が好きな人は、この『倭トトは神様である!』を買っても損は無いんじゃなイカ?

神様らしくない、侵略者らしくない・・・。この「らしくない」系キャラは何故こんなにも可愛いのか。普段はツンなのに時々デレになる(ツンデレ)、強がりなのに実は泣き虫(ギャップ萌え)、といったキャラの可愛さと基本は同じなのでしょう。トトやイカ娘において「ツン」に相当するのは、「神様」「侵略者」といった、仰々しく、壮大で、勇ましい「肩書き」です。そういった肩書きを持っているにも関わらず、性格は俗物で、おバカで、愛らしい、という実態が「デレ」に相当します。

「肩書き」に縛られない自由な生き方

ちょっと話は変わりますが、現実世界でも「なんだか仰々しいな、すごいな」という肩書きが結構あります。政治家・市民運動家・大学教授などと聞くと、私達は「この人は一般人とは違うんだろうな」というイメージを抱いてしまいがちです。しかし、肩書きというものは、実はその本人の一面を表す言葉に過ぎません。表向きは政治家・市民運動家・大学教授でも、プライベートでは普通の父親であったり、その辺に居るおじさんと変わりなかったりするわけです。しかし、肩書きは時に、その人の行動や性格を全面にわたって縛ってしまいます。例えば、金メダリストとかノーベル賞受賞者という肩書きはその本人に一生ついてまわり、それがプレッシャーとなることもあります。肩書きは「自分で名乗る」ものではあるのですが、一方では、大衆やマスコミによって「名乗らされている」という側面もあるのです。本来、人の一面でしかない肩書き。しかし周囲によって名乗らされた肩書きは、その人の行動・性格まで変えてしまう力を持っている。だからいつの時代も、政治家は威厳を保とうとするし、専門家は知ったかぶりをするし、学者の話は難しい。

こういった「肩書きに縛られている人」の対極に位置しているのが、トトやイカ娘だと言えるのでしょう。彼女たちは「肩書き」通りに行動しようとするんだけど、それが全然出来ない。でも、人間は本来それでも良いんですよ。なぜなら、肩書きはその人の一面でしかないから。金メダリストやノーベル賞受賞者は、確かにその専門分野では第一人者で、尊敬される存在。でも、それ以外の部分では、何の変哲もない一般人。だけど悲しいことに、「普通に生きたい」と願っても、周囲は四六時中、金メダリストやノーベル賞受賞者としての行動を要求してくる。トトやイカ娘は、そんな肩書きを強要してくる現代社会へのアンチテーゼに他なりません。

例えばイカ娘は、自称・侵略者ではありますが、同時に、海の家でバイトしている店員でもあり、相沢家の一員でもあります。本人は、その肩書きを時と場合によって使い分けているつもりです。こういう自由な肩書きの使い分けだって、あっても良いんじゃなイカ? 肩書きは誰かから強要されるものじゃなくて、本人が自由に名乗るものでゲソ。侵略者らしくない侵略者が居たっていいじゃなイカ! イカ娘やトトは、窮屈な現代社会にこう物申しているかのようです。*4

*1:実際、本の帯には「またここにひとり、らしくねぇ神様が!」という文言もある。

*2:作者のあとがきによると、古事記に出てくる倭迹迹日百襲媛命(やまとととひももそひめのみこと)なる神様が、名前の由来だそうです。

*3:神道なのにいいのかwww

*4:アニメ『侵略!イカ娘』のOPに「今の世の中は ちょっと窮屈な感じ」という歌詞もあります。