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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『緋弾のアリア』に学ぶ国際政治―各勢力についての要点整理を兼ねて

(※注)『緋弾のアリア』に関する重大なネタバレがあります。原作ライトノベル9巻まで読んでない方はご注意を。

緋弾のアリア』第8巻以降の勢力図

緋弾のアリア』は、第5巻においてイ・ウーが壊滅し、一区切りがついたと言って良いでしょう。しかし、イ・ウーという巨大勢力が無くなることによって、他勢力との均衡が崩れ、第8巻からまた新たな戦いが始まりました。第8巻の冒頭で行われた宣戦会議(バンディーレ)の描写などを基に、登場した勢力についてちょっと整理してみましょう。

  • 【師団(ディーン)】
    • 『バスカービル』 キンジ・アリア・理子・白雪・レキのチーム。
    • バチカン』 修道女メーヤらが所属。キリスト教の教えに従い、眷属を討とうとしている。過去の戦役では常に師団側だったらしい。カナとメーヤはローマ武偵高で先輩・後輩の関係。
    • 『玉藻(たまも)』 狐の妖怪。星伽神社や緋緋色金とも関係が深い。前回の戦役では眷属側だったらしい。東京に結界を張るなどして、キンジ達を援護。
    • 『リバティー・メイソン』 英国貴族がノブレス・オブリージュの精神から設立した秘密結社(ほぼ間違いなく、元ネタはフリーメイソン)。ワトソンらが所属。アリアの一族(ホームズ家)も、彼らの活動に共感しているらしい。
    • 『ウルス族』 チンギス・ハンの末裔の一族で、現在では女ばかり47名しか残っていない。レキはウルス族の姫。
    • 『イ・ウー残党 研鑽派(ダイオ)』 純粋に自己の鍛練のためにイ・ウーに所属していたメンバー。ジャンヌらが所属。
  • 【眷属(グレナダ)】
    • 『ブラド一族』 吸血鬼の一族で、現在ではブラド・ヒルダの親娘二人しか残っていない。ブラドは元イ・ウーのナンバー2。ブラドは第3巻、ヒルダは第10巻でキンジらに敗れる。過去の戦役では常に眷属側だったらしい。幼い頃の理子を監禁していた。
    • 『魔女連隊』 リビア・イラン・北朝鮮などにも雇われているスパイ・テロリスト集団らしい。イ・ウーOBのカツェ=グラッセらが所属。
    • 『イ・ウー残党 主戦派(イグナティス)』 世界を支配しようと画策してイ・ウーに所属していたメンバー。パトラらが所属。
    • 『ハビ』 額に二本の角を持つ謎の少女。詳細不明。
    • 『藍幇(ランパン)』 香港を拠点に活動する秘密結社。ココ三姉妹や諸葛静幻が所属。第6巻、第7巻でココ三姉妹がレキらを襲撃。
  • 【無所属】
    • 『カナ(遠山金一)』 キンジの兄。イ・ウーを崩壊させるために潜入捜査を行っていた。
    • 『LOO(ルウ)』 人型兵器を所有。アメリカ陸軍と関係があるらしい。
    • 『G3(ジーサード)およびG4(ジーフォース)』 詳細不明。第9巻のラストでバスカービルを襲撃。

これら14の勢力が、「師団」「眷属」に分かれた理由も推察可能です。まず、「眷属」の方を見てみますと、吸血鬼のブラド、魔女のカツェ=グラッセ、謎の角を持つハビ、というように普通の人間とは異なる「怪物」的な勢力が多いことが分かります。おそらく、これらの勢力は何百年も前から同じ怪物どうし共闘し、闇の勢力として暗躍していたのでしょう。その伝統に則り、今回も眷属として共闘しているようです。また、キンジらに恨みのあるパトラ(イ・ウー主戦派)や藍幇は、「敵の敵は味方」の原理により、眷属についています。

さて、上のような闇の勢力に対抗するために、バチカンのような表の勢力が古くから結束して「師団」を形成していたのだろう、ということは容易に想像できます。そのバチカンと何らかの盟約を結んでいるらしい玉藻も、今回は師団につきました(緋緋色金の関係者が師団側に多くいるということも理由の一つでしょう)。さらに、イ・ウー研鑽派と、バスカービル、ウルス族も、闇の怪物だらけの眷属に入るのは抵抗があるでしょうから、当然師団側ということになります(理子とブラド一族との因縁などを考えれば、なおさら眷属に入るのは不可能でしょう)。リバティー・メイソンも、最初は様子見をしていましたが、アリアらを支援するために師団に入りました。

一方、眷属・師団のどちらにも属していない勢力も3つあります。彼らは、他勢力と距離を置いて独自の活動を行うつもりなのか、どちらが自分らにとって有利なのかを様子見しているのか、他と共闘しなくても渡り合えるだけの自信があるのか、詳しいことはまだ分かりません。

バスカービルの立ち位置は?

かつてワトソンはリバティー・メイソンに眷属側に入るように進言していました。これは、眷属側の勢力が強大で、彼らを敵に回すのはマズいと考えてのことでした。しかし、結局はアリアのいるバスカービルを支援するために、彼らも師団側に入ることになりました。眷属側勢力の全体像が分からないので何とも言えないのですが、師団側についたキンジ達は果たしてそんなに分が悪いのでしょうか。私は決してそうは思いません。師団側についたキンジらの選択は、決して間違ってないと思います。

まず第一に、眷属側は非常にイメージが悪いです。眷属は、とても好戦的で、卑劣で、非人道的なイメージがあります。それはもちろん、眷属側には、理子を苦しめていたブラド一族や、世界征服を目論むイ・ウー主戦派や、レキらを襲った藍幇がいるからです。たとえ戦力的に有利であっても、こういう連中と共闘するのは無理があります。一方の師団側については、確かに変人ぞろいではありますが、一応「話の分かる奴」っぽい人達ばかりです。本作を読んだ読者10人に「どちらのチームに入りたいか」と聞けば、10人中9人までが「師団」と答えるでしょう。

さらに、バスカービルが師団にいるメリットは他にもあります。例えばバスカービルの構成員は、ウルス族のレキ、イ・ウーでジャンヌと同僚だった理子、玉藻と関係の深い白雪、という具合に、他の師団勢力と深い繋がりがあります。つまり、バスカービルが師団に所属していれば、共闘や情報共有などの面で極めて有利と言えそうです。というわけで、バスカービルは現状、戦役において極めて有利な位置にいると言ってもいいでしょう。眷属なんかに行かなくたって大丈夫です。ましてや、アリアを連れて眷属に入ろうだなんて、言語道断。もう少しよく考えてから行動したまえ、ワトソン君。*1

まとめ

以上のことをまとめると、バスカービルは2つの意味で非常に理想的なチームと言えます。その1点目は、メンバーの長所・短所がそれぞれ異なっており、皆が長所を活用して短所を補っているということです。キンジは拳銃、アリアは格闘、白雪は刀、そして理子が変装・工作、レキが狙撃、というように役割分担が出来ています。こういうチームが出来たのは、キンジらの「昨日の敵は今日の友」的精神、変化や多様性を恐れない気質が大きく影響しています。ウルス族やブラド一族が非常に排他的・保守的になって失敗したのと対照的に、バスカービルは非常にリベラルな集団です。このリベラルさこそが、バスカービルの強さの秘訣です。

2点目は、眷属の非民主的な勢力と距離を置いているということ。師団側にいるバチカンや玉藻が民主的かはさておき、少なくとも眷属の連中よりははるかにマシだと言えそうです。眷属が旧ソ連的な全体主義だとしたら、師団側は、一応は民主主義なわけです。そういう民主主義勢力と組むメリットは色々ありますが、まず第一に、約束を守ってくれる可能性が高い、決断が正当な手続きを経て下される、といった事が挙げられます。そして、私利私欲で世界をどうかしようという意図ではなくて、平和的・人道的な思考ができる。こういう勢力を味方につけているということは、バスカービルにとって非常にメリットになるはずです(当然ですが、このメリットが生きてくるのは、自らも民主主義的で、他勢力からそれを認められている場合のみですが)。

以上のようなことは日本のような民主主義国家でも言えることではないでしょうか。すなわち、

  • 国内的には、急進的になりすぎないように注意しつつも、リベラルであること、すなわち、共同体内部の多様性やグローバル化に寛容であること
  • 国際関係的には、日本国憲法が謳う価値観(例えば基本的人権や民主主義)を共有できる勢力と同盟を組み、自らもその価値観に見合った行動を示してゆくこと

この2点が国際政治において重要になるはずです。バスカービルは今のところ、この両方を満たしているので、戦役においてかなり良いポジションを確保していると言っていいでしょう。しかし、ワトソンの忠告や、第9巻のラストのこともあるので、楽観はできません。アニメの方もいよいよ始まりますが、原作ラノベの方も今後の展開が大変気になるところです。

*1:しかし、安心感ありすぎて過ぎて逆に不安になるな、これは。