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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『侵略!イカ娘』まとめ―アニメ2期が始まる前にしておきたい要点整理

イカちゃんが地上で学んだこと一覧

イカちゃんが地上にやってきて、これまでに学んだ世間一般に関する知識(相沢家やその他キャラの個人的なことは除く)。右の数字は単行本の巻数。

  1. 人類の数や兵力。ゴミ拾い。シャチの浮き輪。日焼け。犬。花火。パニック映画。携帯電話。誕生日会。デジカメ。夏祭りと盆踊り。
  2. お金の威力。肝試し。触手を使わずに泳ぐ方法。秘密基地。相沢家の生活。数学。小銭を拾う方法。高校。小学校。テレビゲーム。
  3. 地震。占い。サッカー。ハエとハエ叩き。傘。地球が丸いこと、地球の大きさ。体重計。三輪車、自転車。節電。ビーチフラッグス。雪。
  4. 鯉のぼり。セミの儚さ、セミの抜け殻。ポイントカード。ビーチバレー。お皿に描かれたエビの絵。留守番。手品。おままごと。ファミレスと押しボタン。凧。
  5. 栗。手帳とスケジュール管理。遊園地。ザリガニ。くすぐり。じゃんけん。メダルゲーム。ヒーローショー。風船ガム。落とし穴。
  6. アクション映画。てるてる坊主。ラジコン。幽霊の怖さ。口紅、お化粧。オリンピック、金メダル。登山。ストップウォッチ。万歩計。ケイドロ。ドラム。
  7. ハロウィン。ピンポンダッシュ。サーフィン。犬の散歩。間違い探し。スイカの種。3Dメガネ。ボウリング。宝くじ。バドミントン。乳母車。雷。川は海に繋がっているということ。
  8. クリスマス。どっきりTV。ライフセーバーの仕事。ラジオ体操。ヒマワリ。バッグ。七夕と短冊。プール。浴衣。鎌倉の大仏。イエローカード。ヘビ花火、線香花火。英語。
  9. サンダル。熱中症。ドッジボール。光化学スモッグ。なわとび。部活動。帽子。親子・兄弟関係。

『侵略!イカ娘』という作品は、イカちゃんの成長物語だと言っても過言ではない。イカちゃんが人間の社会や文化に触れ、少しずつ成長して行く物語。単行本はすでに9巻まで発売されているが、この「成長」はまだまだ終わる気配が無い。イカちゃんにとって地上はまだまだ知らない事だらけなのだ。

この成長を象徴しているのが単行本3巻にある田辺梢のエピソードだ。彼女が言っていたように、成長とは、他者との交流を通じて新しいことを知るということ。イカちゃんが地上に来て学んだこと全てが、成長につながっている。そして、新しいことを知るということは、同時に自分を見つめ直すことでもある。地上と海の境界で、イカちゃんは人間達と向き合い、同時に自分とも向き合いながら、成長してゆく。

栄子という存在

上記のようなイカちゃんの成長に、最も重要な役割を果たしているのが、栄子に他ならない。タケルはまだ子供だし、千鶴は怖くて近寄り難い。結果として、栄子とイカ娘は本当の姉妹のようにいつも一緒に行動している。イカちゃんが得た知識は、自分の身をもって知り得たものか、そうでなければ栄子から教わったものであることが多い。ドラえもんがのび太に物事を教える時のように、栄子は優しく、ときには厳しく、イカちゃんに世の中のことを教えている。

「人間にとってお金は生きる上でとても大事な物なんだ。なければ飢え死に、あればあるだけなんでも手に入る。正当にお金を稼ぐ者がいる一方で・・・金のためなら人を殺すっていう奴もこの世には腐る程いるんだ」(2巻)
「何千人という犠牲者が出る地震は過去に何度も起きてるし (中略) 地上にいる以上、そういう危険があることを肝に命じておけ」(3巻)
「怪しい人にエビをあげると言われたらついていかないこと!」(3巻)
「みんなに受け入れられる侵略者がいてもいいと思うぞ?」(4巻)
「生き物を飼うっていうのは難しいんだよ。たとえ正しい飼育をしていても死ぬ時は死ぬんだ」(5巻)
「対等な人間がいなくなったら、お前は真の意味で1人ぼっちになってしまうんだぞ!(中略)みんながお前を特別扱いしないのはそれだけ信頼してるってことなんだぞ」(5巻)
「ほれ、私が掴んでてやるから、安心して寝ろ!」(6巻)

よくある表現ではあるが、イカ娘が栄子から教わることと同じくらい、栄子がイカ娘から教わることも多い。タケルは結構しっかりした性格だから、姉2人に頼ることは少ない。だから、栄子が「お姉ちゃん」として接することが出来るのは、イカ娘しかいない。血はつながってないけれど、姉妹のような、友達のような、不思議な関係。この関係性も本作の見どころの一つだと言えよう。

謎が謎を呼ぶ不思議な構造

  • 相沢家は何故、海の家で働いているのだろうか。両親はどこにいるのか。
  • その海の家にやってきたイカちゃんって何者だろう。
  • 周囲の人々は何故、イカちゃんに普通に接しているのか。
  • イカちゃんを調査しようとしているシンディーとは何者なのか。
  • みんな普通に接しているのに、どうして渚だけはイカちゃんを怖がるのか。

この作品の大前提として、相沢姉妹が経営している海の家れもんがある。落ち着いて考えればこれも実に不思議な設定だ。まだ若い姉妹が、何故海の家を経営するに至ったのか。両親の事に関しても、小さい頃に両親と遊園地に行ったとか、相沢家に今は使われていない両親の寝室があるとか、断片的な情報は出てくるが、詳しいことは一切語られていない。相沢家の謎。これは作中において、イカ娘と同じくらい大いなる謎なのだ。

その謎の姉妹のところに、謎の少女・イカ娘がやってくる。触手、帽子、生態、その他詳細は一切不明。しかし、新種の生物として大騒ぎになることもなく、何故か海水浴場のマスコットとして皆に受け入れられている。にも関わらず、何故か一人だけイカちゃんを怖がっている渚。

本作は、このように謎が謎を呼ぶ不思議な構造をしている。何重にも積み重なった謎。そこに存在するのは、いくつもの登場人物の「視点」。相沢家にとって当たり前のことが、イカちゃんや渚にとっては「異常」なことに見えるし、その逆もまた同じ。多くの視点が入り乱れる中で、我々読者の「常識」も相対化される。人類とイカの交流を通して、読者は逆に、当たり前に受け入れていたこの「日常」の特殊性を知る。イカちゃんの目を通してこの現代社会を見ることで、これまで全く意識したことのなかった別の「視点」が浮かび上がってくる。

イカちゃん名言(迷言)集

人間とは感性が違うからか、単におバカなだけなのか、イカちゃんは時折、大人をも唸らせる名言(迷言)を放つ。上記の考察と合わせてイカちゃんの台詞を読むと、また違った感想が沸いてくるのではなかろうか。

  • 「ネタバレなんてひどいでゲソ!!」(1巻)
    • 陳腐なSF映画でも真剣に見入り、ネタバレされると怒るイカちゃん。イカちゃんはいつでも真剣なのだ。
  • 「べ・・・別に助けたくて助けたわけじゃないでゲソ! 人類は私の敵でゲソからね」(1巻)
    • ツンデレイカちゃん。
  • 「人類はひどいこともするけど、楽しいことも考える・・・つくづくやっかいな生き物でゲソ」(1巻)
    • 善と悪、美と醜、といった二元論では語ることのできない、人間の複雑さ。それを1巻の地点ですでに理解していたイカちゃん。成長とは、他人の気持ちや考え方を知る、ということなのかもしれない。
  • 「お・・・落ちつくでゲソ!こんなの子供の戯言じゃなイカ!!一生懸命作ったお城がバカにされたくらいで・・・」(2巻)
    • 子供にバカにされて泣きそうになっている自分を、必死で落ち着かせようとするイカちゃん。努力も実らず、その1コマ後で号泣。子供に泣かされる侵略者って一体・・・。
  • 「やっとの思いで外に出てもすぐ死んでしまうなんて・・・セミはなんて儚い生き物なのでゲソ・・・」(4巻)
    • やっとの思いで地上に出ても人類侵略も出来ずにゴロゴロしている自分を棚に上げての発言。小さなもの、儚いものに対する慈悲の心。実に侵略者らしくない。
  • 「1人でいるのはつまらないし、おいしくないし、やっかいだし、さみしいし・・・留守番はもう二度とゴメンでゲソ」(4巻)
    • 一人になって初めて気付く家族の暖かさ。本来憎むべき対象である人類に抱いてしまった不思議な感情を前に、イカちゃんは何を思うのだろう。
  • 「首を括ってるのに笑っているのが逆に怖いでゲソ・・・」(6巻)
    • てるてる坊主を見ての一言。日本人にとってはお馴染の光景でも、イカちゃんにとっては「怖い」になる。常識って何だろう。そして、一部の人にしか通用しない常識を、さも世界全体の理であるかのように誤解してしまう、我々の精神とは何だろう。
  • 「栄子が金メダルを取ったわけでもないのに・・・」(6巻)
    • 日本人選手がメダルを取って喜ぶ栄子への一言。実にコスモポリタンなイカちゃん。近代以降の人間以外にとっては、国籍という概念ですら奇異なものなのだ。
  • 「ズルはイカんでゲソよ この卑怯者! この景色は歩いて登った者にしか見ることを許されていないのでゲソ!!」(6巻)
    • いい思いがしたいのなら、それ相応の努力をしろ。正論なんだけど、なんか間違っている。まあ、不公平な現代日本に異議を唱えた発言・・・ということにしておこう。
  • 「壁に行きづまったらまた戻ればいいのでゲソ。こんなことでめげてはイカんでゲソよ。常に前向きに生きていれば嫌なことを忘れるくらいのいいことが待っているのでゲソ!」(7巻)
    • もと来た道を引き帰すことを、前向きに捉えることが出来るイカちゃん。そう、「戻る」ということは決してネガティブな行為ではない。引き返すことも含めて、未来に進むということ。こんな当たり前のことも忘れてしまった現代人。そして、それをイカから教わっている俺・・・。
  • 「女としては正しいけど・・・やっぱり栄子としては間違ってるでゲソ!」(7巻)
    • 普段とは違う女の子っぽい服を着た栄子を見ての一言。個性って何だろう。女らしさ、男らしさって何だろう。シンプルな分、実に考えさせられる台詞だ。
  • 「それじゃあ今まで1回光る度に誰かのヘソが奪われていたわけでゲソか。ご愁傷さまでゲソ」(7巻)
    • 雷の迷信をあっさり信じてしまうイカちゃん。他にも、シャチ型の浮き輪を本物と信じたり、鎌倉の大仏を生きてる人間だと勘違いしたりと、おバカな行動が笑いを誘う。
  • 「川と海はつながっているのでゲソか・・・やはり地上の物は全て海に還るのでゲソね・・・」(7巻)
    • 川に流した笹舟を追って海に辿り着いた時の一言。イカちゃんに限らず、あらゆる子供は、自らの体験を通して世界の理を知り、成長してゆく。まさに「百聞は一見にしかず」だ。
  • 「クラゲもいないしサメもいない安全な海でゲソが・・・やっぱり いろんな生物が共存できる故郷の海の方がずっと魅力的な気がするでゲソ。でもまあ、楽しければそれでよしでゲソ!」(8巻)
    • 波のあるプールに行った時の純粋な感想。人工的に整備された川や森や海岸は、果たして「自然」と呼べるのだろうか。人が心地よく感じるように設計して作られた人工物を「自然」だと言う矛盾。でも、そういった「自然」が「楽しい」ということも事実。今日の自然回帰志向に一石を投じる台詞だ。
  • 「この家を侵略しに来たでゲソ!」(9巻)
    • 風邪を引いた清美のお見舞いに行くことを「侵略」と言うイカちゃん。その一方で、先住民が平和に暮らしている土地へ侵略することを「文明化」「教化」などと言い換えた帝国主義者。実に対照的だ