新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『魔法少女まどか☆マギカ』と原発事故―「キュゥべえ」と「原子力ムラ」の共通点

本来なら3月11日深夜放送予定だった10話「もう誰にも頼らない」の物語は、まるで原発事故後の日本を予感していたような内容だった。

  • キュゥべえ・・・日本政府、保安院や原子力安全委員会など官僚・学術組織、電力会社、マスコミ
  • まどか・・・原発事故後の私たち日本国民
  • ほむら・・・政府の発表を信じちゃだめだと警告する人

と見立てて、台詞を解釈可能だった。
『魔法少女まどかマギカ』10話「もう誰にも頼らない」の物語は、まるで原発事故後の日本を予感したような内容より引用)

東北大震災の後の、現実社会での「原発事故」と、アニメ界での「まどマギの流行」。東電の「原発安全説」も、まどマギの「魔法少女の契約」も、異なる文脈に在りながらも「既得権益を維持するために、関係者の悲劇を隠しつつ、その悲劇からエネルギーを搾取したい」という物語を共有している。
「1995年オウム事件≒エヴァ→2011年原発事故≒まどマギ」説のまとめより引用)

きゅうべぇ「こういう事故は滅多にあることじゃないんだけど」
地域住民「なぜ、原発の危険性を教えてくれなかったんだ?」
きゅうべぇ「訊かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね」
地域住民「我々を騙していたんだな?」
きゅうべぇ「勘違いしないで欲しいんだが、僕らは何も、住民に対して悪意を持っている訳じゃない」
きゅうべぇ「全ては、資本主義という経済制度の寿命を伸ばすためなんだ」
原発企業とアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のきゅうべぇの共通点。(YAHOO!知恵袋)より引用)

こうしてQBの任務について考えると、原発における“ムラ”の存在を連想すると思う。政官産学が一体となって、原発産業を推進する一連のネットワークである。
(中略)
マスメディアなども利用しつつ安全な原発をPRし、事故や不祥事を起こしてどれだけほころびを見せても、すぐにほとぼり冷まして復活するタフさ。言葉巧みに少女を誘い魔法少女の契約を結ばせ、殺しても殺しても生き返るQBを彷彿とさせる。
「魔法少女まどか☆マギカ」と原発をこじつけてみた(物語編)より引用)

東電「僕達の文明は核分裂反応を電気に変えるテクノロジーを発明した。ところがあいにく当の僕らが『被曝しても構わない土地』というものを持ち合わせていなかった。そこで、この日本の様々な地域を調査し、キミたち福島を見いだしたんだ。福島の人口と面積を鑑みれば、原子力の恩恵を受ける首都圏の人口は、被曝して故郷が不毛の土地になる福島の人口を凌駕する。キミたちの土地は、首都を放射能から守る緩衝領域たりうるんだよ。とりわけ最も効率がいいのは海沿いの過疎地だ。原子力発電所になったキミたちの土地は事故が起きて被爆地になるその瞬間まで膨大なエネルギーを発生させる。それを回収するのが僕達東京電力の役割だ。」
原発少女めると☆ダウン 第9話より引用)

QBと同じように、僕らは誰かに、罪の意識を持たないまま都合の良い論理と契約を押し付けて、快適な生活(エネルギー)を手に入れている。
視聴者が抱くQBに対する嫌悪は、やはり同族嫌悪なのだなと思った。
まどか☆マギカは原発問題の擬人化より引用)

驚いた。こんなにたくさんの論者が、キュゥべえ=原子力ムラの住人(原発推進派)という主張をしていたとは。「原発 まどかマギカ」とか「原発 キュゥべえ」とかでググれば、出るわ出るわ。

キュゥべえと原子力ムラの共通点、それは、より大きな利益のために少数派の犠牲を強いたことだ。宇宙の寿命を延ばすために少女達に絶望を与えたキュゥべえ。電力を得るために周辺住民や作業員の命と生活を脅かしている原子力ムラ。さらに、犠牲になった人々との間において、願い事を一つ叶えたり、補助金や雇用で町を潤したりして、あくまでも「対等な契約」を装っている点もそっくりだ。しかし、だ。仮にそれが「対等な契約」だったとしても、果たしてそんなことが許されるのだろうか。周辺住民の生活、作業員の健康、大量の放射性廃棄物を受け継ぐ我々の子孫。それらは本当に犠牲になってよいものなのか。

奇跡はね、本当なら人の命でさえ購えるものじゃないのよ。それを売って歩いているのがあいつ。
(『魔法少女まどか☆マギカ』、第7話)

では我々は、キュゥべえに騙された魔法少女だったのか。いや、そうではないだろう。我々は、キュゥべえと一緒になって原発を推進し、魔法少女達に犠牲を強要した。その点は、皆が真摯に反省しなければならないだろう。原発推進派か反対派かは関係ない。我々は知らず知らずのうちに原子力システムの中に組み込まれ、気付かぬうちに加害者になっていた。アニオタ保守本流さんらが述べていたように、キュゥべえは「敵」ではなく「システム」なのだ。*1 同様に、原子力ムラも「敵」ではなく「システム」だ。だから、日本がこれから脱原発に舵を切ろうとするなら、東電が悪い、政府が悪いと「敵」を探して回るのではなく、原子力に依存してしまうこの社会構造そのものを変えてゆく必要がある。

それは不可能なことだろうか。いや、違う、諦めなければ世界は変わる。ここで私はあえて「奇跡も、魔法も、あるんだよ」とは言わない。まどかが最終話で見せたような奇跡に頼らなくとも、人類の知恵を結集すれば世界を変えることは可能だと思う。現に、そうやって人類は何度も不可能を可能に変えてきたのだから。

*1:参考:[http://www.youtube.com/watch?v=eu9zd8VnHb8:title=【アニメ夜話 in 桜】魔法少女まどかマギカを語る]