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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ココロコネクト』第7話考察

※作品に対する様々な考え方を併記するために、対論形式の記事にしてあります。

唯と稲葉

司会者  さて、『ココロコネクト』第7話では、『欲望解放』の恐ろしさが改めて浮き彫りになりました。この現象のせいで意図せずお互いを傷つけてしまう5人を見るのは、皆さんも大変心苦しかったと思います。今回も、前回に引き続き、この現象についてじっくり考察していこうと思います。

九州人  『欲望解放』は、『人格入れ替わり』以上にやっかいな現象だということが、今回よく分かったと思います。前回の現象では、唯・稲葉・伊織たちが、それぞれ悩みを抱え込んで精神的に追い詰められていきましたが、部員どうしが激しくぶつかり合う事はありませんでした。もちろん、部員どうしが口論になる場面はありましたが、基本的には、悩みを抱えた女性陣と太一との対話によって物語が進んでいきましたよね。ところが今回は、部員どうしが真正面からぶつかり合って、互いに傷ついてしまいます。『欲望解放』によって、稲葉が唯に辛辣な言葉をぶつけたり、太一と稲葉が口論になったり。

唯信者  まったく、稲葉には失望しましたよ。今回、唯は何も悪いことしてないのに……。ただ、『欲望解放』によって人を傷つけるのが怖くて家に籠っていただけなのに、ここまで酷いことを言われて……。ほんと、謝って済む問題じゃないですよ、これは。

九州人  しかし、稲葉が唯に怒鳴ったのは、欲望解放によって理性が失われていたからでしょう。ここで稲葉を責めるのは酷な気がしますが……。

唯信者  いや、問題はそこじゃないんですよ! 唯も言っていましたよね。「稲葉はそう思ってるんでしょ」って。要は、日頃から稲葉が心の中で思っていたことが今回表に出てきたことで、ああいう発言に繋がったわけですよね。つまり、唯が学校に行けないほど思い悩んでいる時に、稲葉は「一人だけ被害者面しやがって」とか「甘えてんじゃねえぞ」とか心の中で思っていたんですよ! そのくせ、表向きは唯を心配している風を装って良い子ぶってる。なんて嫌な性格してるんだ!

カント主義者  ちょっと待ちたまえ。欲望解放状態にある人の行動を見て、その人を批判するのは間違っている。前回の討論でも述べたが、人間は理性を伴っている時に最も「その人らしさ」を発揮するのであって、欲望解放状態のような自らの欲望に支配されている状態は「本当の自分」とは呼べない。稲葉が唯を怒鳴ったのは、欲望に従属せざるを得ない状況下で意図せずそうなったまでであって、稲葉自身が主体的に考えてそういう行動をとったわけではない。

唯信者  ですから、私は、稲葉が無神経な行動に出たことに怒っているんじゃなくて、稲葉が無神経な事を心の中で思っていたということに怒っているんです。

カント主義者  はっきり言うが、「心の中で思っている」という事と、「それを行動に移す」という事とでは、天と地ほどの差があるのだよ。君は、今まで親や友人や恋人に対して、「ウザい」とか「バカ野郎!」とか「面倒くさい」とか、そういった「負の感情」を抱いたことは無いのかね? もし本当に無いのであれば、君には稲葉を批判する権利があるかもしれないが、そういう聖人君子みたいな人はこの世の中にほとんど居ないはずだ。ほぼ全ての人が周囲の人間に対する「負の感情」を持っている。だが普段は、それを表に出したりしない。出すとしても、相手を傷つけないように言葉を選びながら意思を伝えている。もし、稲葉に欲望解放が起こらなければ、他の多くの人間と同じように、唯を傷つけないように慎重に状況を説明し、優しく「学校に来い」と伝えることができたはずだ。

九州人  人に暴力を振るってしまった唯だって、欲望解放がなければ、そんな事をするはずがないですよね。相手を「ぶちのめしたい」とか、もっと極端に「殺したい」とか思っていても、ほとんどの人がそれを実行に移さない。もし、頭の中で思うだけでそれが「悪いこと」だとされるのなら、唯も含めてほとんど全ての人間が悪人ということになってしまいます。

唯信者  ……分かりました。確かに私も、稲葉の人格を否定するようなことを言ってしまった点に関しては、ちょっと言い過ぎたと思い直しました。唯を想うあまり、冷静さを失っていたと思います。でも、今回の唯はちょっと可哀想すぎます! 稲葉に非はなかったとはいえ、怒鳴られた方はたまったもんじゃないですよ。唯は本当に真面目で繊細な子なんです。そんな子が、意図せずして人を傷つけてしまい、補導までされてしまった。それに加えて、何時また欲望解放が起こるか分からないという恐怖がある。ここまで追い込まれて、気持ちを整理するために逃げ出したい、と思う事を一体誰が責められるでしょうか。世の中には、ダメになりそうな時でも負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないことが大事だという人がいますが、無理に立ち向かって失敗して、もっと酷い状況に追い込まれるくらいなら、いっそ潔く逃げ出した方が良いという場合もあります。そして何より、唯にとって一番ショックだったのは、信頼していた仲間から酷い言葉を浴びせられたという事実なんですよ。唯にとって稲葉は頼りになる大事な親友であって、男性恐怖症の件でも稲葉は色々と唯を気遣ってくれましたよね。そんな信頼していた稲葉から、あんな風に怒鳴り散らされて、そりゃ誰だって泣きますよ。……そう思うと……唯が可哀想で可哀想で……うう……

司会者  ちょ、ちょっと、あなたまで泣かないで下さいよ。どんだけ唯に感情移入してるんですか……。

『欲望解放』の恐ろしさ

九州人  〈ふうせんかずら〉による現象の嫌らしいところは、相手の事を大切に思えば思うほど、下手に動くことが出来ずにギクシャクした状況に追い詰められてしまう点でしょう。例えば『人格入れ替わり』の場合、入れ替わっている最中に相手に迷惑がかからないように慎重に行動しなければなりません。あるいは、稲葉のように、どうしても嫌な想像をしてしまう心配性な部分と、相手を信頼しなければならないという仲間意識との間で葛藤が生じてしまう。今回の『欲望解放』もまさに同じで、相手のためを思って話し合おうとしても、そこで欲望解放が起こって相手を傷つけてしまうかもしれない、という不安から話し合う事ができなくなるわけですね。

心理学者  『欲望解放』の真の恐ろしさは、そういう点にあるんですね。前回の現象では、誰かが悩みを抱えていても、対話によってそれを解決することができました。しかし今回は、対話中に『欲望解放』が起これば、ますます相手を傷つけてしまうんじゃないか、と考えてしまって、なかなか対話ができない。

司会者  『人格入れ替わり』の時は、唯・稲葉・伊織の悩みを主に太一が聞いてあげて、そこから対話によって解決策を導いていったわけですが、今回は、稲葉が唯と対話をしようとして見事に失敗してしまったわけですね。文研部を避けようとする稲葉を、太一は引き留めようとしましたが、そこでも欲望解放が起こって、稲葉はますます心を閉ざしてしまいました。

カント主義者  もう「欲望解放中に起こってしまったことは仕方ない」と割り切ってしまえばいい。欲望に支配された状態では正常な判断など出来ないのだから、それによって傷ついたとしても相手を恨むのはやめるべきだ。第一、唯を傷つけた稲葉だって、大切な親友を傷つけたことで心を痛めているはずだ。一言、唯に謝れば、唯もそれを水に流すべきではないかね。

唯信者  確かに、理性的に考えるなら、それが一番良い方法でしょう。「相手は欲望解放状態だったんだから仕方がない」と思えば、傷つかずに済む。でも、これは感情の問題なんですよ。いくら頭の中では分かっていても、心のどこかではどうしても「心の中ではそう思ってるんでしょ?」と思ってしまうんです。例えば、子供の頃とかに、何かの人違いとか手違いで、自分は何も悪くないのに怒られたことってありませんでしたか? そんな時、後からそれが分かって相手から謝罪されたとして、「ああ、向こうも悪気があったわけじゃないのね。自分も怒られるようなことをしたわけじゃないようだし、良かった良かった」と割り切ることが出来ますか? 私はそう簡単な問題じゃないと思うんですよ。いくら勘違いでも、怒られれば嫌な気持ちになるし、怒った相手に対して「なんだこいつ」と思ったりするはずです。

司会者  う~ん、対話しようと思っても、欲望解放によって仲間を傷つけてしまい絆にヒビが入る。仲間を傷つけないようにと思えば、対話することが出来ずに孤立してしまい、これまた絆にヒビが入る。どちらに転んでも、事態は全く好転せず、手も足も出ないといった感じでしょうか。こんな絶望的な状況から、どのようにして絆を取り戻してゆくのか、次回以降も目が離せません。