新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ガールズ&パンツァー』を見るなら、『ニーナとうさぎと魔法の戦車』も合わせて読んでおきたいところ

アニメ『ガールズ&パンツァー』の大ヒットによって、戦車と萌えの融合がにわかに注目されているが、戦車と萌えと言ったら、スーパーダッシュ文庫の『ニーナとうさぎと魔法の戦車』を忘れてはいけない。両作品は、戦車に乗って戦う少女達が描かれているという点は共通しているが、『ガルパン』が「戦車道」という架空の競技における人が死なない戦いを描いているのに対して、『ニーナ』はガチで人が死ぬ戦争を描いているという点は対照的だ。また、『ガルパン』が「仲間・友情の大切さ」といったスポーツものや部活動ものと同様のテーマを終始描いているのに対して、『ニーナ』では戦争の悲惨さや愚かさが全編を通じて描かれ、「反戦」という政治的メッセージが前面に押し出されている。

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

『ニーナ』は、秋津国という架空の国(言うまでもなくモデルは日本と思われる)に新型魔力爆弾が投下されてから数年後の世界が舞台。魔力爆弾によって放出された大量の魔力によって、世界中で野良戦車と呼ばれる存在が誕生し、終戦後も、それらの野良戦車が町や人を襲い、甚大な被害を与え続けている。主人公のニーナが所属する私立戦車隊・ラビッツは、魔法を原動力にして動く魔法戦車に乗り込んで、野良戦車から町を守る業務に就いている。

この魔力爆弾は言うまでもなく、現実世界における核兵器に相当する、強力で非人道的な兵器として描かれており、野良戦車はさながら、原爆の投下や核実験によって生じた放射能のような意味合いを持っている。あるいは、戦争終結後も人々を苦しめ続けている地雷や不発弾のようなものと言えなくもない。『ニーナ』における魔力爆弾や、現実世界における核兵器・対人地雷・クラスター爆弾のような兵器は、戦場の兵士だけでなく一般市民にも危害を与える点、さらに、戦争が終わった後も長い間人々を苦しめ続けるという点において、他の兵器よりも非人道的な性格の強い兵器と言える。しかし、現実世界においては、核兵器の廃絶は遅々として進まず、対人地雷禁止条約も米・中・露といった大国は未だに締約していない。

このように、現実の世界ともリンクした世界観を持つ『ニーナ』は、『ガルパン』とは比べ物にならないくらいシリアスな描写が多い。例えば、ニーナは貧困ゆえに親に捨てられて孤児となり、町をさまよっていたところをラビッツの面々に保護されたという過去を持っている。また、彼女の上司である戦車長も、戦場で魔法を受けて子どもを産めない体になってしまったという過去があるし、彼女の同僚たちの中には、戦争で家族を失った人もいる。このように戦争の悲惨さを身をもって知っているからこそ、彼女らの行動は常に人道主義的・平和主義的であり、二度と野良戦車が生み出されない平和な世界を築くという理想を掲げて行動している。各巻に登場する彼女らの敵は、過激な思想を持つ軍人や、魔法爆弾による相互確証破壊戦略を信奉する工作員だったりする。

同じ少女と戦車を描いた作品でも『ガルパン』と『ニーナ』は対極に位置すると言えそうだ。どちらが好みかは人によって異なるだろうが、自分は『ニーナ』の方を推したい。そう言えば、先日、amamakoさんがブログで次のようなことを述べられていた。

そのようなアメリカみたいな姿*1が「普通の国」のあり様ならば、今回のガルパンのイベント*2のように、アニメのキャラクターも積極的に軍事利用され、お国に奉仕する姿は、日本という国が「普通の国」になり、そして、日本のマンガやアニメといったサブカルチャーも、戦争経験に束縛された世代から解き放たれて、普通の国のサブカルチャーになる第一歩なのかもしれません。
しかし、僕ははっきりと、そんな「普通の国のサブカルチャー」なんてまっぴらごめんだと、主張したいのです。そしてそんな僕の考え方からすると、今回のイベントや、今回のイベントも含めた、自衛隊という軍隊とオタクのサブカルチャーの接近は、一線を越えた、危険なものに思えてならないのです。
アニメイベントでの石破&戦車は「軍靴の響き」か「普通の国への第一歩」か - 斜め上から目線より引用)

近年人気を集めている萌えミリタリー系の作品群(要するに、『ガールズ&パンツァー』『ストライクウィッチーズ』『うぽって!!』『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』『特例措置団体ステラ女学院中等科C3部』などのように、女の子が戦車に乗ったり、女の子のみで構成される小隊が出てきたり、女の子がサバゲーをして遊んだりする作品)は、自民党的改憲右翼の思想と親和性が高いのではないか、と危惧するのは分からなくもない。しかし、こういった作品の中には、「反戦」という確固たるメッセージ性を持った作品もあるということは覚えておいて損はない。

もういっその事、『ニーナとうさぎと魔法の戦車』をアニメ化して、そのイベントに石破氏を呼んだらどうか。そして、彼の目の前で、核兵器や対人地雷の廃絶に非協力的な米国や中国との関係を見直すべきだと主張しよう。具体的には、日米同盟を見直し、平和主義外交を徹底することですね。憲法改正なんてもってのほか(笑)。ちょうど安倍政権はクールジャパン戦略とかで、日本のサブカルチャーを積極的に発信していこうとしているらしいので、是非とも、こういう反戦・反核・反自民を掲げるアニメを世界中に発信してほしいものですね。

*1:筆者注:アイドルが軍隊を慰問したり、アニメのキャラクターを国威発揚に利用したりすることに、何の違和感や嫌悪感も覚えないアメリカ的なあり方のこと。

*2:筆者注:アニメ『ガールズ&パンツァー』のトークショーに石破茂・元防衛大臣がコメントを寄せた。