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アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ゆゆ式』第5話考察―ゆずこと唯・縁との間に生じた微妙な距離感

アニメ『ゆゆ式』第5話。ゆずこにとっては大変辛い回になったことでしょう。

「唯と縁 とゆずこ」というサブタイトルが暗示しているように、第5話はこれまでの回とは一転して、ゆずこと他2人との間の微妙な距離感・すれ違いが強調されていました。また、flunkyさんが以前指摘していたような、『ゆゆ式』の見所の一つである「ディスコミュニケーションの面白さ」が際立っていた回でした。

本来ゆずこは、唯や縁をいじったり、笑わせたり、楽しませたりする時の言葉のチョイスが天才的に上手い子なんですよね。「こんな事を言えば唯ちゃんは恥ずかしがってツッコミを入れてくれるんじゃないか、でもこれ以上いじったらマジギレしそうだからやめとこう」とか、「この場面でこういう話題を振ってこういうギャグを言えば、2人とも爆笑してくれるんじゃないか」とか。その場の空気を読んで、どうすれば楽しい空間が生まれるかを目測したうえで、ああいうおバカな行動をとってるわけです。そして、これまでその目測は面白いように的中してきたんですね。ところが、第5話に限っては、その目測はことごとく外れ、話がかみ合わない、話に入れない、タイミングが合わない、という3重苦がゆずこを襲います。

まず、OP前の部室でゆずこはターン制(1人が動いているときは他2人は動いてはいけない)を提案します。これはゆずこからしたら、唯ちゃんをいじる千載一遇のチャンスです。唯が動けない隙にちょっかいを出して百合的スキンシップをはかる完璧な計画。となるはずだったのですが、はさみを持った唯が「私に何かしたら次のターンでしばくぞ」と思いのほか強い抵抗を見せます。これにはゆずこもターン制を取り下げざるを得ませんでした。

冒頭で垣間見えた嫌な予感はすぐに的中。お昼休みのベンチで「良い感じのレタス」を落としたことがきっかけとなり、ゆずこの歯車は決定的に狂っていきます。縁が取り出したタオルから話題は小学生の頃のエピソードに移り、画面は唯と縁の回想シーンに。思い出を共有していないゆずこは「私も唯ちゃんの小さい頃のエピソードほしい!」と駄々をこね、さらに急に泣いてる唯ちゃんを見たくなったと言って「泣いてよ!子どものようにさ!!」と迫りますが、唯に拒絶されてしまいます。そして、とうとう泣き出してしまうゆずこ…。

さらに不幸なことに、ゆずこが「その地面の色と違うところまで飛べたら帰るというのはどう?」と提案したことがきっかけとなり、縁が足をぐねらせてしまい、唯と縁は二人仲良く手を繋いで保健室に。一人取り残されたゆずこは、「ぐねっとくもんだね」と後悔します。

昼の挽回とばかりに、その夜、唯に「しりとりしようぜ!」と電話をかけるゆずこ。唯からの「いきなりかよ!」というツコッミを期待していましたが、読書の最中だった唯は会話を一方的に断ち切ってしまいます。その後、今度は縁にメールするも、入浴中で返信が来ません。2人ともただ単に運悪くタイミングが合わなかっただけですが、ここでも疎外感を感じてしまうゆずこ。

次の日の教室。昨晩の行動が偶然かみ合って「虫の知らせみたいだな」「さすが私と唯ちゃんだね」と面白がる唯と縁。一方ゆずこは、「その時間私、辞書で変な言葉探してたな…」。その後は、縁とゆずこが協力しての、唯ちゃんいじりタイムに。しかし、ゆずこの期待に反して、唯が「教室で変なこと言うな」とツッコミを入れたのは縁だけでした。嗚呼、なんという疎外感。

と、ここで苦しい流れを変える千載一遇の助け舟が! 昨夜のしりとりを思い出した縁が「ゆずちゃん、ゼブラ、ゼブラ!」。ここで「ランチョンマット」と返していれば、久しぶりに会話がかみ合った感覚をつかむことができたでしょう。しかし、ここでゆずこは、しりとりの事を忘れてまともに言葉を返せないという致命的なミスを犯してしまいます。

完全に悪い流れに飲み込まれてしまったゆずこ。昼休みには「それにしても、なんで生き物は死ぬんすかね?」と微妙な話の振りををしてしまい、唯と縁はキョトン。一気に場が白けてしまい、「この話ないね…」と自分から話をたたもうとするゆずこ。と、そこに、聖人・縁から「死ぬ日わかったら、前の日なに食べたい? 私、唯ちゃんの手作りシチュー食べたい」という神業的な返しが。ところが、そこから唯と縁が2人で話し込んでしまい、またしても会話に入れないゆずこ…。

なんとか2人の気を引くために、渾身の死亡フラグネタを入れてきますが…。ただ死亡フラグをやりたかっただけで、おしっこに行きたいのは本当(=引き留めるまでは求めてない)という真意は伝わることなく、唯に足止めされておもらし寸前に! そして極めつけが、トイレを済ませた後の「ランチョンマット!」。時すでに遅し。ゆずこの真意は全く縁に伝わりません。

最後、夕焼けの廊下で「死ぬ時までみんな一緒」という言葉に救われて、少し心が安らいだゆずこ。しかし、一度狂った歯車が元に戻っていくという具体的なエピソードは無いまま、第5話は終わりを向かえてしまいます。今回、ゆずこは別に他2人と喧嘩をしていたわけでもありません。もちろん、だれが悪いというわけでもない。ただ「良い感じのレタス」を落としたことで歯車が狂い、会話がかみ合わなくなっただけ。これは他の日常系アニメのシリアス回とはまた趣が異なります。喧嘩して、仲直りして、より一層絆を強くする、なんていう分かりやすいエピソードじゃない。ただただ、3人の距離感がほんのちょっと変わってしまった瞬間を、ありのままに描写しただけ。

それでも、ゆずこの繊細な心を傷つけるには十分なインパクトがあったようです。第4話で、ゆずこと縁が「思春期だよ~大変だよ~」「ふとした一言に傷ついたりするよ~」と言っていましたが、まさに今回、唯や縁のほんの些細な何気ない行動がゆずこを傷つけてしまう結果になったわけですね。

ゆずこというキャラクターの別の一面を見ることが出来、作品により一層の深みを与えた第5話。これまでの回の中では断トツで面白かったです。