新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ニーナとうさぎと魔法の戦車』に描かれた反戦・反核の思想

見事なエンディングだった。最後の最後まで平和主義の理想を貫き通したラビッツ達が、ずっと大切にしてきたのは、実は自らの中にある「子どもの心」だったのかもしれない。私たちはいつから「子どもの心」を忘れて生きるようになったのだろうか。子どもの心とは、あらゆる打算や邪心を抜きにして純粋に物事と向き合える素直な心、もっと言えば、間違っているものに毅然と「ノー」と言うことのできる心だ。

人それぞれに正義があり、何が正義で何が悪かを決める事なんてできない、とよく言われるこの世の中で、それでもなお「悪」と呼ぶべきものが存在するということを、ラビッツたちは教えてくれた。それは、たくさんの無実の人々を死に追いやる大量破壊兵器であり、戦争が終わってもなお人々を苦しめ続ける核兵器や地雷・クラスター爆弾であり、人の命や権利を奪う非人道的な民族主義・軍国主義だ。たとえどんな状況であれ、そのような非人道的な手段に訴えることは、悪であり、人の尊厳を踏みにじる行為だ。だが、子どもの心を忘れてしまった大人たちは、様々な理由をでっち上げて自らの内にある「悪」を正当化しようとする。

では、そのような「悪」を無くして行くためにはどうしたら良いのだろうか。そのためには、「悪」に対して「悪」で対抗するのではなく、人間の尊厳を守るという強い決意を持つことが必要なのだろう。社会の中で最も弱い立場に置かれ、戦争の無意味さ、残酷さを身を持って理解していたからこそ、ラビッツ達はその事実に気付くことができた。

世界平和を成し遂げることは果てしない。でも、だからこそ、諦めずに戦い続けることが大切なのだ。誰かが戦争を始めようと企んだとき、全世界の人たちがそれを許さず、勇気を持って立ち向かえるように……。
(第8巻、349~350P)

近年、ガールズミリタリー系とも言うべき、萌えとミリタリーの融合が注目されている。本作の作者はあとがきの中で、『ニーナ』はミリタリー系ではないと述べていたが、確かにそのあたりの線引きは難しい。本作は『ゼロの使い魔』や『ストライクウィッチーズ』のように、ミリタリーとSFファンタジー系の境界線上に位置する作品なのかもしれない。このような作品群を含めた広い意味でガールズミリタリー系をとらえた場合、『ニーナ』は最もメッセージ性が強くシリアスな作品の一つと言えるだろう。これは、シリアス度少なめで明るく楽しい女の子だけの空間を描くという、今日の流れに逆行しているのかもしれない。

しかし、だからこそ『ニーナ』には、他の作品にはない魅力があると思う。『ニーナ』は、平和であることが当たり前で、女の子どうしのキャッキャウフフな空間こそが一番だ、と思っている私たちの心を徹底的に揺さぶってくる(この心が揺さぶられる感覚は、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』や『GUNSLINGER GIRL』など、ごく僅かな作品でないと味わえないものだ)。シリアスな展開があまり好まれなくなった今日だからこそ、逆に『ニーナ』のような作品は絶対に必要なのだと思う。