新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

小説版『心が叫びたがってるんだ。』を読んで映画館に行くのを断念したという話(ネタバレ注意)

映画版に先立って発売された小説版『心が叫びたがってるんだ。』を読みましたので早速感想を書きます。念のため言っておきますが、これから映画を見る予定の人でネタバレを避けたい方は、小説版もこの記事も読まない方がいいと思います。私も小説を読まずに映画を先に見ようかと思ってたのですが、アラサーのおっさんが一人で観に行くのも何か気恥ずかしいので、まずは小説を読んで「これは面白い、是非映画の方も観たい」と思えたなら劇場に足を運ぼうと思った次第です。で、結論から言うと、映画館で見るのはやめようかなと思ったわけですが…。

高校2年生の成瀬順は、子供の頃に自分の発した一言がきっかけで両親が離婚してしまうという経験をし、それ以来しゃべることが出来なくなってしまった女の子で、ある日、同じクラスの坂上拓実・仁藤菜月・田崎大樹とともに地域ふれあい交流会の実行委員に選ばれてしまったところから物語は始まる。交流会でミュージカルを上演することになり、その準備をする中で最初はバラバラだった4人が心の交流を深めていく。次第に拓実のことが好きになっていく順だったが、本番前日、拓実と菜月が両想いの関係にあることを知りショックを受ける。結局自分の言葉は他人を傷つけてしまうのだと絶望し、交流会の会場から逃げ出した順。彼女を追ってやってきた拓実は、俺は傷付けられても構わない、いやむしろ、お前の言葉のおかげで救われていたんだ、と語り、これによって順の抱えていたトラウマが一気に解消する。2人は会場に戻り、ミュージカルは大盛況のうちに幕を閉じる。

…というのが、超ざっくりとした物語のあらすじなんですが、なんかもう、どこかで見たようなストーリー展開の連続で新鮮味がない。「傷付け合う事を過度に怖れるのはやめよう」「まずは自分の気持ちをはっきりと相手に伝える事が大事」的なテーマの作品、最近多すぎやろ。小説の出来自体は悪くないとは思いますが、似たような内容のラノベや小説は他にもたくさんあるわけで、わざわざこれを映画館で観たいとは思えませんでしたね。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』では、めんまの死という強烈な出来事を登場人物全員が共有していて、それが物語の大きな駆動力となっていたわけですが、本作ではそのような共有された過去の記憶というものが存在せず、したがって、物語に引きずり込まれるようなワクワク感もあまりありませんでした。

順のキャラ設定も何かありきたりでした。最近、ラノベでも漫画でもコミュ障系ヒロイン増えすぎて食傷気味なんですよね。無口だけど表情や仕草で何考えてるか丸分かり、というのもテンプレそのものですわ。まあ、これを映像と音声を伴って見ればメチャクチャ可愛いんだろうけど。あと、話すのは無理だけど歌うのはOK、っていう設定も何か釈然としない。人前で話せないんなら歌うなんて尚更無理やろ普通。

とまあ、ここまで不満点を述べてきましたが、この記事が本質的に「アンフェア」な批評であるということは一応言っておきます。『心が叫びたがってるんだ。』は基本的に「映像作品」であるわけですから、それをきちんと批評しようと思うのなら、映画館に行かなければなりません。それを承知の上で、でもやっぱり「この内容なら映画館には行く必要ないかなあ」という思いを禁じえなかったことは指摘しておきます。DVDが出たなら、レンタルして見るかもしれません。