読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『そんな世界は壊してしまえ』第2巻―特に意味のないおもらし描写が読者を襲う!

ライトノベル クオリディア・コード

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ…

荒廃した東京で朱雀とカナリアがトップに上り詰めるまでの物語だと思って『そんな世界は壊してしまえ』第2巻を読み始めたら、いつの間にか、鶉野珠子ちゃんのおしっこおもらしを描く物語になっていた…

な…何を言ってるのか分からねーと思うが…

おれも何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

萌えだとか超展開だとか そんなチャチなもんじゃ 断じてねえ

もっと恐ろしい「変態」の片鱗を 味わったぜ…

最初に読者を襲う衝撃的なおもらしシーン

作中の東京では、【世界】と呼ばれる特殊能力を宿した少年少女たちが、東京湾からやってくる強大な敵・アンノウンと戦っています。しかし、アンノウンとまともにやりあえるのは戦闘向きの【世界】を獲得したエリートのみ。戦えない者は「落伍者」として東京近郊の廃墟での生活を余儀なくされています。

本作のヒロインであるカナリアさんは、廃墟で暮らす人たちを救いたいという思いから活動をしているのですが、…第2巻の冒頭、廃墟で暮らす少女とカナリアさんが何やら押し問答をしているようです。

「ですから、うう、今、困ってますから……」
迫られてたじたじとなっているのは、この廃墟で暮らす少女だ。
年齢はカナリアや朱雀よりもいくらか若いぐらいだろう。眉は八の字に固定されて、内気そうな唇をすぼめて、肩を卑屈に縮めている。
粗雑に編みこんだ髪が一房、頬の横でふるふると震えていた。
「はいはい、わかりますわかります! 困ったときこそ笑顔ですよ! その困ってる理由をお聞かせください! ええとお名前は……そう、珠子ちゃん! 覚えていますとも! 鶉野珠子ちゃんでしたね!」
「ううううう……そんなに大声で言わないで……」
鶉野珠子と呼ばれた少女は、周囲の視線を気にするように頬を赤くしてうつむいた。
前かがみの内股となって、自信の太腿をもぞもぞと擦り合せて、居心地悪そうに小さく足踏みする。
明らかになんらかの生理的欲求を堪えている仕種であり、視線の先には廃墟の端に設けられた共用トイレがあり、そのあいだには両手を広げたカナリアがしっかりと立ちふさがっているのである。*1

ちょwwwカナリアさん何やってんすかwww

ていうか、鶉野珠子って、お前誰だよ。初登場シーンでいきなりこんな恥ずかしい姿披露しちゃったよ。

だがしかし、ここから事態はもっと大変なことに。

「あ、さ、触らないで……」
カナリアに肩をがしっと掴まれ、鶉野は悲痛な声をあげた。
「はっ! わたしわかりました! もしや、お身体のどこかが痛むのでは!? 病気ですか怪我ですか! 至急、医療チームの編成を!」
「ち、ちが、ちがいま、あ、まって、おねがい、まって……」
前後左右に激しく揺さぶられて、声の高さが一方通行の階段をどんどん登っていく。
「や、や、だめ、これだめ、ほんとだめ、ゆすっちゃだめ、だめだめだめ、やだ、やだやだいく、とまって、とまっ、でちゃ、でちゃ、でちゃっ」
「でちゃ? るちゃ? りぶれ?」
「あッ、あっ、あ――」
張りつめきった弦のように、ビクン、と鶉野は硬直したあと、
「……ああああああああ~っ……」
視線を中空に彷徨わせ、全身をいっぺんに弛緩させた。*2

ぎゃああああ! やりおった! この子、本当にやりおったよ! 本編始まってまだ10ページくらいしか進んでないのに、おもらししちゃったよ…。なんてことだ…。

しかも、その後の描写がまた生々しいんです。

ぴちゃぴちゃ――びちゃびちゃ……。
辺りには、ただ、音だけが秘めやかに響く。
廃墟は陥没した地形の真ん中にあり、雨水の湖に風が吹きつけるたび、水面を波立たせるのだろう。聴こえるのはその水音である、もちろん。
「あふ、あふ、ふわぁ……」
弱気な鶉野の唇が、だらしなく半開きになってしまっていた。そのゆるんだ隙間から、ヨダレのような液体が一筋、じょわじょわちょろちょろと漏れ出している。
焦点を結ばない眼差しが、逃れえない絶望とほのかににじむ法悦の狭間で、甘く蕩けたうつろな光を宿していた。
すべてが終わったあとには、硬い沈黙が訪れる。
ぴちゃぴちゃと奏でられていた水音も、いまや完全に止まった。風が止まったということである、もちろん。
「ううううううううううう……」
さながら人として大事なものを喪ってしまったかのごとく。
身体の芯から崩れ落ちるような格好で、鶉野はその場にうずくまった。*3

この文章の横には、まさに「逃れえない絶望とほのかににじむ法悦の狭間」にいる少女のイラスト(イラスト担当・カントク)まで付いてます。実に素晴らしいので、これだけでも一見の価値があります。

そして、あくまでもこれは、「水音」なのです。この作者ほどの変態にもなると、「おしっこ」とか「おもらし」なんていう直接的な表現は一切使いません。「びちゃびちゃ」という水の音がするのは、あくまでも風によって湖面が波打ったからからなのです、もちろん。

さて、どうやらカナリアさんは、廃墟に住む人達に「何か困ってる事はないか」と聞いて回っていたらしいです。

「はい……。『女性用のお手洗いがないこと』に困っているそうです」
(中略)
朽ちた板きれで四方を囲むようにして、男女共有のトイレがひっそりと設けられている。扉のまえで並んでいたら、なかの音がすべて聞こえてしまうほど簡素なつくりだ。
神経が太い束で構成されている朱雀は考えたこともなかったが、少女たちのなかには、異性の目を気にして、限界まで利用回数を減らすように試みる者もいるらしい。
「……犠牲は大きかったようだがな……」
さらに視線を横に移せば、先刻の悲劇を体験した鶉野がいる。腐った魚のような眼をして、地べたにぐったりと横たわるばかりだ。朱雀は静かに黙祷した。*4

なるほど…そういうことだったのか…。鶉野さん、限界まで我慢して我慢してもう無理我慢できない!ってなってトイレの前に来て、カナリアさんに捕まっちゃったんですね…。

繰り返しますが、彼女がおもらししたなんて誰も言ってませんからね。先ほどのイラスト、廃墟におけるトイレ事情、「腐った魚のような眼をして」横たわる鶉野さん――ありとあらゆる傍証はそろってますけど、そこにいるのは、あくまでも、何故か下半身水浸しになってる少女っていうだけですから! 合掌…。

その後も断続的に発生するおもらし!

その後、朱雀の働きかけにより「落伍者」たちも戦闘訓練を再開します。それは、落ちこぼれでも戦えるということを示すため。世界から必要とされる存在になるため。

「う、うう……むり、無理だよう……」
へっぴり腰の鶉野は、早くも涙目だ。前屈みになって、内腿を何度もすり合わせ、すがるように杖を必死に掲げながら、
「また出ちゃう、出ちゃう、なんで、なんで……」
なにかを堪えるように、ぶるぶると全身を弱気に震わせる。*5

って、おい! なんでだよ!

何でまたおしっこ我慢してんだよ。さっきはカナリアさんがいてトイレ行けんかったからやろ。今度は別に誰も邪魔してないやん。何で内腿すり合わせてんだよ。

コンクリートの残骸に片膝をつく朱雀に、鶉野がおずおずと近づいてくる。
バスタオルを首や体に巻きつけ、運動用の新しいパンツに着替えた脚をもじもじとすり合わせて、
「なんで、私たちのために、ここまでしてくれるんですか。……私たちは、なにもできないのに。私たちの訓練は、無意味なのに」*6

結局また漏らしてんじゃねえかwwwww

こんな具合で、鶉野さんおもらし描写は何回も登場してきます。しかも、何の意味もない場面でサラッと出てくるのです。

「はわわ――あっあっ……」
鶉野はがくがくと内腿を擦り合せて、大量の汗を垂れ流した。*7

その日の訓練は遅くまで続いた。
落伍者たちの【世界】は、どれもこれもろくな能力ではない。たとえばすり合わせた内腿から水をちょっと多めに排出できるとか、せいぜいその程度だ。*8

見れば、コウスケの座りこんだ地面、鶉野の立つ足元は、夜の土がびしゃびしゃに湿っている。
あれが全部、汗だとしたら、シャツから絞れるほどの量の汗をかいていることになる。言葉と裏腹に、努力した成果ではあるのだ。*9

朱雀さん、それ汗じゃないっす。能力でもないっす。まあ、訓練で汗をかいたのは本当なんでしょうけど、果たしてそのうちの何割が「汗以外」の成分なんでしょうか…。

もうここまで来ると、彼女は元々からトイレが異様に近いか、あるいは、冒頭のおもらしのせいでおしっこ我慢&おもらしの快感に目覚めちゃったか、そのどちらかだと思うんですけど。

おもらし、それは、少女の悲しみと絶望

そして、ついに「落伍者」たちが実際の戦闘に参加する日がやってきました。しかし、圧倒的に力が足りない彼らは、思い通りの活躍ができません。戦場で右へ左へ振り回されてボロボロになり、味方のエリート戦闘員からも罵倒され……

「ううう……うう…」
今にも泣きだしそうな、気弱な女生徒の顔が間近にある。どれほどぼろぼろに貶され、罵られ、ぶつかられてきたのだろうか。制服はあちこち擦り切れ、小柄な体躯は生傷だらけだ。
「あっ、あっ――」
少女は自分の手首を見つめて、小鳥のように呻いた。細い内腿を、ぶるぶるじょろじょろと擦り合せている。*10

って、また内腿すり合わせてるのかよ! 「ぶるぶるじょろじょろ」ってもうそれ、完全にちびってんじゃねえか! ああもうシリアスな場面が台無しだよ!

しかし、ここからとんでもない事が起こります。なんと、「落伍者」たちが裏切り行為をはたらき、味方であるはずのエリート戦闘員を攻撃し始めたのです。背後から予想外の攻撃を受け大混乱に陥る戦場で、鶉野さんが話し始めます。

「――私、少し、勘違いしていたみたいです」
(中略)
「……ヘンな夢を見ていたのかも、しれません。力の劣る人間が、能力のある人と――すごい人と、同じ立場になんてなれるはずがなかったのに……最初から、わかっていたはずだったのに……」*11

どんなに努力しても成果が出ない。自分は社会から必要とされていない。邪魔物と罵られる立場からは絶対に抜け出せない。ならばいっそのこと、自分でこの社会を壊してリセットしてしまえばいい。そんな絶望を抱いた鶉野さんの足元には、もちろん…

編みこんだ髪が、彼女の横顔をくすぐっている。汗とも涙ともつかない滴が、ぽたりと、足元を湿らせていく。
(中略)
もはやその顔に、涙はない。上から張りつけられたような、か弱く窺うような笑みだけが浮かんでいる。
「価値を示す……そんなこと、できるかな。いえ」
はにかんだ横顔が、静かにうつむく。
「できるわけ、ないじゃないですか」
その言葉は、周囲の仲間を代表するように。
「価値がないものはどうやったって無価値なんですよ」
戦場のなかで、ぽつんと、一際大きく聴こえた。*12

そうか…そうだったのか…。

鶉野さんにとって「おもらし」とは、涙、悲しみ、絶望に他ならなかったのです。鶉野さんが戦っていたのは、アンノウンでもなく、尿意でもない。彼女はただ、「自分は劣った人間だ」という現実を変えるために戦っていたのです。

それはどんなに苦しく辛い戦いだったことでしょう。目に涙を浮かべ、前屈みになり、内腿をすり合わせて、必死に我慢して、我慢して、我慢して…、でも、そこまで頑張っても「自然の摂理」にはどうしたって抗えずに、「自分の価値を示したい」という鶉野さんの夢はチョロチョロ、ビチャビチャと音を立てて地面にこぼれ落ちていくのです!

そう。この作品は、どんなに努力しても「落伍者」という運命から逃れられない、そんな悲しみと絶望を、「おもらし」を用いて見事に表現していたのです。作者のさがら総さんには、称賛とともに次の言葉を送りたい。

変態だー!!!!

AA略

今後の展開

鶉野さんはその後、味方を攻撃した罪により、内地に強制送還されてしまいます。戦闘員たちのリーダーである嘴広もまた、他の「落伍者」たちによって責任を擦り付けられ、最後は内地送りになります。鶉野さんにとっては、あまりにも夢も希望もない物語ですが、最後にちょっとだけ救いが用意されています。

一方、自分が目をかけてきた人間に裏切られる形となった朱雀は、ついに、この世界は全てが狂っている、こんな世界は壊してしまえ、という心境に達します。しかし、そんな狂った世界の中で唯一、壊すべきでない大切なものを見出したのです。それこそが、カナリアが周囲の人々に向ける無償の愛に他ならなかったのです。確かに彼女の利他精神は最早「狂気」と言っていいレベルにあるのですが、朱雀は、そこに絶対的に揺るがない「愛」の本質を見たのです。

これは、愛を知らずに育った青年が、自分と何もかもが違う少女の放つ狂気に怯え、次第にその中に真の愛を見出していく物語。この続きは、7月から始まるアニメ『クオリディア・コード』で見ることができるでしょう。

*1:20~21頁

*2:21~22頁

*3:22~24頁

*4:37頁

*5:113頁

*6:116頁

*7:136頁

*8:144頁

*9:150頁

*10:166頁

*11:170~171頁

*12:171~172頁