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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

映画『聲の形』を見る前に『たまこラブストーリー』を見直してみた

アニメ映画

山田尚子監督の最新作である映画『聲の形』がもうすぐ公開ということで、過去の作品である『たまこラブストーリー』を見直して改めて記事を書いてみますよ~。

公開当時に書いた記事はこちら→『たまこラブストーリー』ネタバレ有り感想―変化を受け入れ、想いを伝えるまでの物語 - 新・怖いくらいに青い空

序盤

アニメ版の『たまこまーけっと』の方は、昔ながらの商店街という「日本的」な空間の中にしゃべる鳥という「非日常」的要素が混在しているというお話で、構造としては『少年アシベ』とか『オバケのQ太郎』にも似てるのかなぁなんて思っていたのですが、映画版では純粋な「ラブストーリー」となっており、デラやチョイちゃんとかの出番が冒頭くらいしか無くて少し寂しかったのですが、まあこれは致し方ないと思います。そんな中でも、冒頭、デラとチョイちゃんによる寸劇とか、下ネタ耐性のないチョイちゃんの圧倒的可愛さとか、色々見所はあったのですが、全部語ってたら話が長くなるので省略します。

場面が変わって、もち蔵が自室からたまこの部屋に向かって糸電話を投げるけど、たまこがそれを上手くキャッチできないという場面。たまこが「相手の気持ちを受け止められずに悩む」という今後のストーリーを暗示させる場面ですが、この映画は小道具を使った象徴的なシーンが随所に登場してくるので、2回3回と見直すと映画館で見ただけでは分からなかった部分がどんどん明らかになっていくので何度見ても飽きないのが良いですね。

その後、「KOI NO UTA」っていうオープニング曲が流れるわけですが、それはたまこの父・豆大さんが高校時代にたまこの母親に贈った曲で、しかも、OP後すぐのシーンでもたまこがその歌を口ずさみながらバトン部の練習をやっていて、もうやめて~お父さんのライフはゼロよ! 黒歴史を蒸し返して来ないで~! って心の中で叫びたくなりました。さて、そのたまこが頭上に投げたバトンをキャッチしようとしますが、やはりさっきの糸電話と同じく上手くいかなくて、みどりちゃんが「必死でつかみに行けばとれるよ」とかアドバイスしていて、これもまさに今後の伏線となる重要な台詞となるわけですね。

そうこうしてる内にかんなちゃんが登場してくるんですが、とにかくこの後の一連のシーンはかんなちゃんの言動がいちいち可愛くて、体育館を黒タイツで滑りながらスススススス~って登場してくるところとか、ステージに上がって高所恐怖症でクラクラしてるのとか、史織に英語で話しかけてスルーされたりとか、階段に座りながらこぶしトントンとか、色々と語りたいのですが語り出したら時間がいくらあっても足りないのでこの辺でとどめておきますね。

そんなこんなで、たまこが皆から留学、建築学科に進学、地元の大学に進学といった進路を聞いて、「みんな色々考えてるんだな」なんて思うシーン。ここでたまこは「自分はこのままでいいのだろうか」みたいな漠然とした不安を抱くわけですが、商店街で会話しながら歩くうちにこうしたアンニュイな気持ちが薄れて笑顔が戻っていく、というのもまた印象的なシーンです。ここから分かるように、たまこにとって商店街とは「変わらない日常」を象徴するものなわけですね。しかし、レコード屋でコーヒーを飲む時に、いつもと違って牛乳を入れずに「苦っ!」ってなってることからも分かるように、変わらないと思っていた日常は少しずつ変化していて、たまこは大人になっていってるのです。

一方、もち蔵の方も、東京の大学に行く事とたまこへの想いを伝えようとして悶々としていて、「たまこが糸電話をキャッチできたら想いを伝えよう」みたいな自分ルール作って糸電話を投げて、本当にキャッチに成功して、うおー!マジかよ!ってなった瞬間、部屋にある鉄道模型が動き出したのは、もう完全にあのラストへの伏線でしたね。でも結局、キャッチしたのは実は妹のあんこでした~ってオチで、「明日の朝、伝えよう」とか考えながら銭湯に行ったらたまこが居て「明日から朝練あるから~」「え?てことは一緒に登校できんやん」みたいな感じで心を折られるのがなんとも不憫ですな。あ、あと、どうでもいいけど、この銭湯での着替えシーンは怖ろしいほどディテールに凝っていて、これぞ京アニの真骨頂と思ったのと、銭湯の前でたまこがもち蔵と会話する時に、私服の襟元から覗く鎖骨はすごくエロかったです。

中盤

そんで、次の日の掃除時間にもち蔵さん、たまこの事メッチャ見てる。それをみどりに指摘されてメッチャ焦ってる。そんなもち蔵の背中を押すようなことをやってしまい「あーあ」と自己嫌悪に陥るみどりちゃんホント素晴らしい。下手なアニメの場合こういうシーンでは、しゃがみ込んで頭を抱えながら「う~わ~やってしまった~」みたいなオーバーリアクションな演出をやってしまうところですが、みどりちゃんの場合は、あくまでも感情を徹底的に自分の中に押し込めたまま、それでも滲み出てきてしまったどうしても口にせずにはいられない思いが、あの「あーあ」という一言に凝縮されていて、本当にもう素晴らしいとしか言いようがないシーンです。

そして、たまこに気持ちを伝える決心がついたもち蔵が、映研メンバーと決起集会、というかただのじゃれ合いやってるシーン、ここもなかなか破壊力大きいですね~。やっぱりですね、男の子っていうのは、こんな風に同性どうしではしゃいでる時が一番居心地がいいんですよ。彼女欲しいしセックスしたい、けれども、同性の友達とくだらない会話してる時間も大好き、っていう面倒臭い生き物なんです。これまでもち蔵はずっと「たまこに恋心を寄せる男の子」としてしか描かれてこなかったんですが、ここに来て、ああ、もち蔵にもこういう素敵な居場所があったんだなあと思ってほっこりします。そんな空間に、幼なじみの女の子が迎えに来るとか、なんというかもう、青春してるなぁ、お前ら…。

さあ、ここから超重要なシーンですよ~。河川敷で餅みたいな石を拾ってもち蔵に見せるたまこ。この餅も「変わらない日常」を象徴する小道具ですね。足を滑らせたたまこがその石を川に落とすことで、これまでの「日常」は終わり、この瞬間に空気がガラっと変わって、もち蔵の告白タイムへと移る、という見事な演出です。そして、驚いたたまこが川に落ち、ここからみんな大好き「かたじけねぇ」の時間です。「かたじけねぇ」「先に失礼するでござんす」からの~、河川敷シャカシャカ走りからの~、光の中を必死に駆け抜けるたまこさんの可愛さといったら、京アニヒロインの中でも一二を争うレベルだと思います。また、たまこさんの可愛さに隠れてしまってますが、夕日に照らされた水面とか、小石やたまこが落ちた時の水の質感とか、水に濡れた制服の感じとか、京アニ特有の優れた水の表現が堪能できる名シーンでもありますね。

で、家に帰り着いたたまこですが…、あんこに話しかけられても「かたじけねぇ」、急に思い出したかのように顔を赤くしカーテンを閉める、「もち」が全部「もちぞう」になってる、バトンについてるボールが餅に見えて上手く受け取れない、教室ではもち蔵と顔を合わせないようにじっと椅子に座ったままで、……本当に…もうねぇ……何?この可愛い生き物!? もち蔵の言葉を受け止められなくてテンパりまくってる状態のことを、私は勝手に「かたじけねぇ状態」と呼んでるんですが、かたじけねぇ状態のたまこは本当にもう奇跡の可愛さですよね。

そんで、昼休みにかんなちゃんから苦手なものは「心を強く持って克服」するんだとアドバイスを受けた後、帰り道にばったり遭遇したもち蔵と話をしようとしますが…。「オウ、ワルイナ、モチゾウ!アリガトヨ」って、全然克服できてないじゃないですか(笑)。銭湯で会った時も「ゲンキカモチゾウ、ワタシハゲンキダ、ジャアナ」って、まだ「かたじけねぇ状態」継続してる(笑)。翌日、仕事を休んで朝の商店街を散歩したたまこは「みんないつも通りだ」と思って一旦安心するわけですが、学校では史織さんから「留学するか悩むより、行ってみちゃおうかなって」と決意を聞かされ、再び商店街を歩いた後には「みんなにもいろんな事があったのかなあ」なんて考えるようになるたまこ。そして、そこで再び登場する親父の黒歴史カセット! たまこが徐々に変化を受け入れていく過程の描き方が実に丁寧で良いですね。

だがしかし、その後、爺ちゃんが餅を詰まらせて病院へ運ばれ、そこでヘタレもち蔵が告白を「無かったことにしてくれていい」とか言い出したせいで、たまこの心はまた掻き乱されてしまうのでした。もち蔵との事を皆に相談し、母親が死んだ時に餅を使って励ましてくれたのが実はもち蔵だったということも分かり、さあいよいよ返事をしなければとなるわけですが、ここでまた例の「かたじけねぇ」状態が再発動ですよ! かんなちゃん主導で、廊下でばったり作戦とか、メールで返事作戦とか、家の前で返事作戦とか、いろいろやるわけですが、たまこが完全にテンパっちゃってことごとく失敗。もう、かわいいのうwwwかわいいのうwww

そんな中、みどりがもち蔵に向かって「見直した」と言う名シーン。あのトイレの前の会話で、みどりちゃんはもち蔵を試していたんです。気持ちを伝えるなんて私にはできないけど、アンタはできるの?どうせできないだろ? けど、もち蔵はみどりを乗り越えてたまこに気持ちを伝えてしまった。ゆえにこの台詞は、「(私にはできないことをやってのけたから)見直した」という意味であり、みどりのもち蔵に対する事実上の敗北宣言でもあるのです。嗚呼、なんて切ないんだ……

一方たまこは黒歴史カセットを聞きながら、あんこに中学の制服を着せたりしてて、制服あんこちゃんが可愛すぎて観客全員ニヤニヤしている中、カセットのB面に続きがあることが発覚。そうか、お母さんもかつて勇気を出して相手に気持ちを伝えたんだ。お母さんだけでなく、お父さんも、商店街の皆も、こうやって誰かに気持ちを伝えてきたからこそ、今があるんだ。その事に気付いたたまこは、ついにもち蔵の気持ちを受け止め、返事をする決心を固めるわけです。

終盤

そしてフェスティバルの本番。「上を向いて歩こう」の曲に合わせて踊りながら、たまことみどりがお互いに目配せするところとか、バトンをキャッチした瞬間たまこが一瞬だけ驚きと喜びの混じった良い表情になるところとか、さすが京アニという感じの素晴らしい演出でした。こうして、バトンをキャッチすることに成功したたまこは、わざと休校の連絡をもち蔵に回さないようにして、自分の気持ちを伝えようと心に決めます。

そして当日、みどりちゃんが京都駅で2人が会うという最高の舞台を演出してくれます。それは、新たな世界へと旅立つ2人を見送ると同時に、みどり自身もまた未来に向けて大きく飛翔する再スタートの瞬間でもあったのです。だからこそ、そんなみどりちゃんを見てかんなちゃんは「今、ちょっと良い顔してますよ」と言うのです。かんなちゃんもまた、高所恐怖症を克服しようと木に登ることで、新しい一歩を踏み出すのです。史織もチョイちゃんもまた、同様でしょう。みんな、たまこともち蔵に寄り添ってくれてありがとう。2人の背中を押してくれてありがとう。幸せになれよ…。

そしてついにクライマックス! 新幹線に乗る寸前でもち蔵を捕まえたたまこは、相変わらずたどたどしいけれども、今度はきちんと自分の気持ちを伝えます。もち蔵が投げた糸電話をちゃんとキャッチして、ようやく「大好き」と伝えることに成功します! 長かった…。自分の気持ちを伝えるというただそれだけのことを、これほどまでに丁寧に、時間をかけて描き切ったアニメ作品というのは、他に例がないのではないでしょうか。

そしてそして、2人にとっての新しい人生の1ページが始まった瞬間、聴こえてくるエンディング曲「KOI NO UTA」のなんとカッコいいことか! お父さん、ごめんなさい! 黒歴史とか言って散々バカにしてごめんなさい! 自分の気持ちを歌にして伝えたお父さんはすげえよ。それに歌で返事したお母さんもすげえよ。勇気を振り絞ってたまこに好きだと伝えたもち蔵もすげえよ。それに対してずっとずっと葛藤しながら最後にようやく大好きと伝え返したたまこもすげえよ。なんかもう見てるこっちが赤面するくらいこっぱずかしい事だけど、でも黒歴史なんかじゃねえよ。みんなすげーカッコいいよ。相手に気持ちを伝えるって素晴らしいことだよ! そう心の底から叫びたくなるような素晴らしいエンディングでした。

2人がこれからどうなるのか、それは映画の中では描かれません。でもきっとこの2人は、デート、キス、セックスと段階を経ていくたびに、ヘタレもち蔵が周囲から背中を押されて、たまこが「かたじけねぇ、かたじけねぇ」言ってるんだと思うと、もう可愛すぎて、可愛すぎて……

爆発しろ!

原子レベルまで粉々に砕け散って餅の上に蒸着しろ!

はぁ……

………

…たまこ、

…もち蔵、

……幸福に暮らせよ。

そして、『聲の形』へ。

と、まあ、こんな感じで、見終わった後に幸せな気持ちになるのが『たまこラブストーリー』という作品なわけですが、さあ、次は『聲の形』ですね。僕が考えるに、『聲の形』もまた、伝えるということ、そして「黒歴史」と向き合うということが大きなテーマとなっている作品で、特に後半部分は、自分の過去と向き合うことの辛さ、苦しさを徹底的に描きつくした作品です。

自分の過去と向き合うってスゲー苦しいよ? お前が思ってるよりはるかにしんどいよ? 世間の目って物凄く冷たいよ? 誰も理解してくれないよ? 死にたくなるくらい辛い事これから沢山あるよ? それでもお前は過去と向き合える? 目の前にある扉を開けることができる?

そう突きつけられた主人公たちが、それでも自分の思いは必ず誰かに届く、そうすれば必ず道は開けると信じて、胸を張って扉を開けるまでを描いた物語です。

でも実際のところ、京アニ山田尚子監督がこの作品をどう描くのかは分からないし、原作漫画と映画とではやはり雰囲気が違ってくると思いますので、映画館でそれをしっかり見届けたいと思います。