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次のような方法で生まれた子どもに皇位継承権はあるか?

次のような方法で生まれた子どもに皇位継承権はあるか?

ケース1 体外受精

  • 皇太子夫妻の間になかなか子どもが生まれなかったので、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵を皇太子妃の子宮に着床させ、10か月後に皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 現在すでに広く使われている技術であり比較的安全で社会的にも広く受け入れられている。自然出産で生まれた子どもと遺伝的には全く変わりないので、何の問題も存在しない。
  • 想定される反対意見: 皇族は昔ながらの自然な方法で子どもを作るべき。

ケース2 代理母

  • 皇太子妃の子宮には異常があり受精卵の着床が困難であった。そこで、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵を代理母の子宮に着床させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には完全に自然出産の場合と同じで、皇太子の血を受け継いでいるのだからOK。
  • 想定される反対意見: これは代理母となる女性に多大な負担を強いる制度であり、認められない。遺伝上の母親と出産した母親が違うのは自然に反するし、様々な混乱が生じる危険性もある。*1

ケース3 他人の卵子を利用

  • 皇太子妃の卵巣には異常があり正常な卵子を作り出すことができない。そこで、皇太子の精子と一般女性の卵子体外受精し、受精卵を皇太子妃の子宮に着床させ、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇太子妃の遺伝子は受け継いでないが、皇太子の血は受け継いでいるのでOK。歴史的に見ても、かつては側室制度などがあり皇太子妃以外の女性が男子を産むケースはあった。
  • 想定される反対意見: 遺伝上の母親と出産した母親が違うのは自然に反する。

ケース4 精子の凍結保存

  • 皇太子は不妊治療のために精子を凍結保存しておいた。その数年後にガンが見つかり、治療の副作用のせいで精子を生産できなくなった。そこで、凍結保存しておいた精子と皇太子妃の卵子体外受精し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 精子を取り出した時期が違うだけで通常の体外受精と変わらない。体外受精がOKならこの方法もOK。
  • 想定される反対意見: 子どもを作る能力が失われたにもかかわらず、子どもが生まれたということになるので自然に反する。

ケース5 皇太子の死後に対外授精

  • 皇太子は不妊治療のために精子を凍結保存しておいた。その数年後、不慮の事故により皇太子夫妻が亡くなった。事態を重く見た日本政府は、凍結保存しておいた精子と一般女性の卵子体外受精し、その女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には完全に皇太子の子どもと言える。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: 皇太子夫妻の死後に子どもが生まれたということになるので、自然に反するし倫理的に認められない。*2

ケース6 他人の精子を利用

  • 皇太子は精巣に異常があり精子を生産できなかった。そこで、皇位継承権を持つ男性の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には皇太子の子どもではないが、別の皇位継承者の遺伝子を受け継いでいるので問題ない。
  • 想定される反対意見: 法律的には皇太子夫妻の子どもであっても、皇太子の遺伝子を受け継いでおらず、自然に反するので駄目。

ケース7 ゲノム編集

  • 皇太子には深刻な遺伝子疾患があり、生まれてくる子どもは健康であって欲しいと考えた。そこで、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵の遺伝子をゲノム編集によって改変した後、受精卵を皇太子妃の子宮に戻し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 安定的な皇位継承のためには、皇位継承者が健康でなければならない。病気に関連する遺伝子を取り除くなど、必要最低限の改変なら許される。
  • 想定される反対意見: 受精卵のゲノムを改変することは倫理的に問題がある。ゲノム編集によって皇太子の遺伝子が一部改変してしまうので、自然に反する。しかも、ゲノム編集によって人為的に改変されたゲノムが皇室で恒久的に受け継がれることになるので問題だ。

ケース8 iPS細胞

  • 皇太子は精巣に異常があり精子を生産できなかった。そこで、皇太子の体細胞からiPS細胞を作製し、そこから作りだした精子と皇太子妃の卵子体外受精させ、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: たとえiPS細胞由来の精子であっても、皇太子の精子であることには変わりないのでOK。
  • 想定される反対意見: iPS細胞を作る工程でゲノム編集をする必要があるため、皇太子の遺伝子が一部改変してしまうことになり問題だ。子どもを作る能力が完全に無いにも関わらず子どもが生まれたということになるので、自然に反する。

ケース9 皇太子の死後にiPS細胞を作製

  • 不慮の事故により皇太子夫妻が亡くなった。事態を重く見た日本政府は、皇太子の体細胞からiPS細胞を作製し、それから作りだした精子と一般女性の卵子体外受精し、一般の女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: 皇太子の死後に、iPS細胞から精子を作り、皇太子妃以外の女性が出産、という問題のあるポイントが山積み。

ケース10 同性カップルの子ども

  • 日本で同性婚が認められ、皇太子も一般の男性と結婚した。皇太子の配偶者の体細胞からiPS細胞を作製し、そこからさらに卵子を作製した。その卵子と皇太子の精子体外受精させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 両親が2人とも男性であっても遺伝子を受け継いでいるのなら2人の子どもであると認めるべき。皇太子の精子を使って生まれた子どもなのだから何の問題もない。
  • 想定される反対意見: 皇室の場合は伝統を重視し、結婚は男女間でのみ認められるべき。

ケース11 性転換手術

  • 皇太子が性転換手術を受けて性別も女性となり、一般の男性と結婚した。皇太子の配偶者由来のiPS細胞から卵子を作製し、性転換手術を受ける前に冷凍保存しておいた皇太子の精子体外受精させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇太子は法律上女性となっているが、子どもには皇太子由来のY染色体が受け継がれているのでOK。皇太子の精子を使って生まれた子どもなのだから何の問題もない。
  • 想定される反対意見: 皇太子は法律上女性となっているので、その時点で皇位継承権を失う。ゆえに、その子どもにも皇位継承権はない。

ケース12 クローン技術

  • 不慮の事故により皇太子夫妻とその子どもが亡くなり、皇位継承者がいなくなった。事態を重く見た日本政府は、一般女性の卵子から核を除去し、皇太子の子どもの体細胞と融合させた後、その女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝子的には完全に皇太子夫妻が自然に生んだ子と同じ。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: クローン人間を作ることは倫理的に認められない。子どもは精子卵子の受精によって作られるべき。クローンを作るくらいなら、女系天皇を認めるなどの代替案を考えた方がまし。

ケース13 天皇のクローン

  • 日本が核兵器による攻撃を受け皇位継承者が全員死亡し遺体も残らなかった。事態を重く見た日本政府は、数十年前に亡くなった天皇の墓を掘り起こして、骨の中からDNAを取り出し、クローン技術を使って子を誕生させた。
  • 想定される賛成意見: かつての天皇と完全に同じ遺伝子を持っているのでOK。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。*3
  • 想定される反対意見: クローン人間を作ることは倫理的に認められない。技術的なハードルが極めて高い。ここにお金をつぎ込むよりも、まずは日本の復興を優先すべき。

まとめ

一応、大まかにケース分けしておくと、ケース1~6までが皇位継承者の遺伝子を全く改変しないケース(今ある技術でも可能)。ケース7~9は皇位継承者の遺伝子の一部を改変してしまうケース。あと、ケース10と11が同性婚などに関連するケースで、12と13がクローン技術を使うケースです。

今回は、「遺伝学的には」確実に天皇家の血を受け継いでいる場合のみを考えています。「女性天皇女系天皇を認めるべきか」とか「天皇家と全然関係ない男子を皇太子夫妻の養子にしてもその子に皇位継承権はあるか」みたいな話は考えていません。これはあくまでも、科学技術の進歩によって、自然出産では起こりえないような形で、天皇の血を受け継ぐ男子が生まれた場合を想定し、そのような場合に皇位継承権は認められるのかどうかを考えてみるという思考実験です。

*1:現在の日本では代理母による出産は認められていない。

*2:現在の日本では、凍結卵子および凍結精子は、本人が死んだらすぐに破棄される決まりになっている。

*3:今上天皇が亡くなられた時は火葬となる方針だが、昭和天皇までは土葬だったので、骨からDNAの断片を取り出せる可能性は高い。