新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

光遺伝学と劇場版『ソードアート・オンライン』の話

最近、光遺伝学という言葉をよく耳にするようになりました。光遺伝学(オプトジェネティクス)とは、まあ簡単に言ってしまえば、光によって神経細胞の状態を制御し、マウスのうつ状態を改善させたり、マウスの記憶を書き換えたり、記憶のメカニズムを解明したりするという学問です。ニュースとかで脳内にLED光源を埋め込まれたマウスの映像を見た人も多いかと思います。

僕は最初、この手のニュースを聞いても意味が分からなかったんですよね。何で、光を当てることでマウスの神経細胞を制御できるのか、その原理がちゃんと書かれていなかったし、自分で調べようとする時間も意欲もなかったからです。その後、いろいろ記事を読んでいくと、光遺伝学において一番重要なポイントとなるのは、チャネルロドプシン2(ChR2)という膜タンパク質だということが分かりました。

ChR2というのは、元々は微生物が持ってる光感受性のイオンチャネルなのですが、これをマウスのゲノム中に組み込むことで、上のような実験ができるようになるわけです。要は、

  1. ChR2遺伝子を持つマウスを作製する
  2. 特定の機能や記憶に関わる神経細胞だけでChR2が発現するようにする(標識化)
  3. 脳内にLED光を当てる→標識化された神経細胞だけを活性化させることができる

という流れです。では、標識化ってどうやってやるんや?という疑問が湧いてきますが、それについて詳しく書いてある記事はほとんどありません。でも、色々調べると、Tet Systemというものがよく使われているようです。このシステムは、テトラサイクリン応答性の転写調整因子を使い、テトラサイクリン存在下でのみ下流の遺伝子の発現が促進される(あるいは非存在下でのみ発現が促進される)、というものです。なるほど、そういう事だったんですね。

例えば、上の記事にあるように楽しい記憶だけを選択的にON・OFFさせる場合を考えましょう。まず、ChR2とTet Systemを使うことのできる遺伝子組み換えマウスを作製します。そして、マウスが楽しいと感じる状態を人工的に作り出し、その間だけTet SystemによってChR2が発現できる状態にしてやればいいわけです。そうすれば、その時に活性化している神経細胞(つまり楽しい記憶に関する神経細胞)でのみ選択的にChR2が発現されます。

この一連のシステムを駆使することで、ある特定の神経細胞の活動を光によって自由自在にON・OFFする、というのが光遺伝学の概要となるわけです(すげーざっくりした説明なんで間違ってたらごめんね)。

で、これって、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』でやってた事と全く同じだと思いませんか?

オーグマーで開催されてるイベントに旧SAOのボスキャラが登場すると、SAO経験者の脳内ではSAOの記憶に関する神経細胞だけが活性化された状態になりますよね。で、その活性化された神経細胞のみを標識化し、外部から何らかの方法でその神経細胞に操作を加える(例えば、SAOに関する記憶だけを選択的に消去させる)。劇場版SAOで出てきた技術の概要は、ざっくり言うとそういう事ですよね。必要なのは、操作したい神経細胞のみを選択的に標識化する技術と、実際にその神経細胞を外部から制御する技術。

そして驚くべきことに、それを可能にする基礎的な技術は、光遺伝学という形ですでにこの世に生まれてきているのです! SAOに描かれているような世界はもはや夢物語では無くなりつつあるわけです。これは本当にとてつもない事だと思います。