新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『からかい上手の高木さん』の素晴らしさ―微妙なラインを突く表情、ギャップ萌えに頼らない構造、可愛い男性主人公

この作品の素晴らしいところは次の3点に集約される。第一に、西片をからかう時の高木さんの表情や声が、過度なデフォルメ化やカリカチュアライズを使うことなく、一定の抑制のきいた形で表現されている点である。艦これに敷波という子がいる。その子についてのニコニコ大百科の記述はまさに正鵠を射ている。

そんなどうにも目立たないポジションにあることはキャラ付けにも反映されているのか、ややツンデレっぽいところがあるが目立つほどではなく、控えめで自己評価が低そうなところもあるが名取や羽黒ほど極端なわけでもなく・・・とたいへん微妙なラインの性格付けが為されている。が、そういった微妙なラインをつく台詞が意外な破壊力を発揮し、実際に使っている提督の間でひそかに「実はすごくかわいい照れ屋さん」として知られている。
敷波(艦これ)とは (シキナミとは) [単語記事] - ニコニコ大百科より引用)

高木さんにもこの「微妙なラインをつく」魅力がある。このすばのアクア様のようにドヤ顔で「プークスクス!」と煽ったりしない。あくまでも冷静に、的確に西片をからかっていく。それが他の作品にない独特の味となっている。

第二に、安易なギャップ萌えを一切利用していない。例えば他の作品の場合、

  • 主人公より優位に立とうとして背伸びする→失敗して赤っ恥をかく→ギャップ萌え
  • いつも冷静でクール→好きな人のことになると途端に慌てふためき出す→ギャップ萌え
  • いつもは本心を見せず素直じゃない→特別な日で珍しくデレてる→ギャップ萌え

という図式で成り立っている。その最たるものが『かぐや様は告らせたい』だと思う。一方、高木さんにはそうしたギャップ萌え要素がほとんど存在せず、西片の前で普段と違う姿を見せることはない。高木さんは高木さんのままで高木さんとして純然と西片の前に現れ続ける。何故そのような構成にすることが可能なのかというと、それは高木さんが西片に好意を持っていることが読者から丸分かりだからだ。いちいちギャップ萌え要素を入れて読者を萌えさせる必要すらない。高木さんは決して本心は見せないが、内心では実は大好きな人と一緒に過ごすのが嬉しくて舞い上がってるんだ、ということを読者が想像するだけでもう一種の「ギャップ萌え」として成立してしまうのが、本作のすごいところである。

第三に、高木さんにからかわれる西片がとにかく可愛い。本作を見ているのは主に男性だと思われるので、男性キャラの可愛さと作品の魅力には何の関係もないのでは、と思うかもしれないが、それは大間違いである。例えば、往年の萌えアニメ、『ゼロの使い魔』『ハヤテのごとく!』『かんなぎ』『バカテス』、みんな男性主人公が可愛い。『たまこまーけっと』『中二病でも恋がしたい』『氷菓』『GOSICK』『SAO』『ニャル子さん』『この美術部には問題がある』『だがしかし』、ヒロインだけでなく主人公も可愛い作品というのは枚挙に暇がないのである。近年では『メイドインアビス』や『ゲーマーズ!』等がそうである。『からかい上手の高木さん』もそういった作品群に連なる作品である。