新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『水平線の、文月』は全人類必読の聖典である

艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 水平線の、文月 (1) (角川コミックス・エース)

艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 水平線の、文月 (1) (角川コミックス・エース)

『水平線の、文月』第1巻読んだ。

かわいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! 第22駆逐隊かわいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! あ~~~~~~~~~~~~~睦月型尊すぎるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! もう最高すぎだろおおおおおおおおおおおおおお!!! 萌wwwwwえwwwww死wwwwwぬwwwwwwwwwwwwwwwwww

……こんな尊いものがこの世に存在していいのだろうか。これはもう単なる書籍ではない。もはや聖典と言っていいだろう。これは紛れもなく文月教の新しい聖典として、末永く語り継がれていく作品だ。

ちなみに、2018年現在、文月教の信者数は全世界で約25億人と言われている。また、皐月教、長月教、水無月教の信者もそれぞれ20億人以上いると言われており、それらを全部足し合わせると地球の人口を大きく上回ってしまうというおかしな現象が起こる。まあ流石に全人類というのは言い過ぎであろうが、この地球上の人類の大多数が睦月型駆逐艦のいずれかを信仰していることは間違いない。その世界数十億人の同胞が何よりも心待ちにしていたのが、この『水平線の、文月』なのである!

見どころ1 圧倒的な萌え力

『水平線の、文月』の一番の見どころは何と言っても、文月たち第22駆逐隊の可愛さを最大限に描いている点にある。

本作の主要キャラクターは第22駆逐隊に所属する文月、皐月、長月、水無月。この4人の性格は、ゲーム版やそれに準ずる各種作品と概ね一緒と言っていいだろう。普段はマイペースでおっとりしているけど、海上では常に冷静で頼りがいのある文月。いつも天真爛漫だけど、たまに暴走しがちになる皐月。真面目でクールだけど、よく皐月たちに振り回されている長月。皐月と同じように明るい性格だけど、文月のように冷静な一面もある水無月

この4人の可愛さは、睦月型信者の皆様であれば百も承知だろうし、それは主要キャラ4人中3人が登場したライトノベル『陽炎、抜錨します!』でも散々描かれてきたことであるが、本作を通して改めて第22駆逐隊を見てみると、まあ、何と可愛いことかと再認識させられる。

表情も、台詞も、もう全てが可愛い。文月たちのやることなすこと全部かわいい。全ページ可愛さで埋め尽くされている。まさに地上に舞い降りた天使。その光輝くかわいいお姿は、日々ストレスに晒されている現代人にとってこの上ない癒しである。

ああ~~~心がポカポカするんじゃ~~~!

なお、第22駆逐隊のライバルとして登場する白露や時雨についても、私は真に驚くべき萌えポイントを多数発見したのだが、それを説明するにはあまりにも余白が狭すぎる。

見どころ2 不利な状況でも一生懸命頑張る姿

この作品が睦月型駆逐艦の可愛い姿を描くだけだったとしたら、それは単なる萌えマンガとして消費されるだけであっただろう。しかし、『水平線の、文月』が真に素晴らしいのは、古くて性能が低いという睦月型駆逐艦の「現実」をしっかりと描いているからである!

作中の鎮守府では、3か月後の大規模作戦を見据えた練度向上のために、駆逐隊対抗の模擬戦闘が行われている。そこで第22駆逐隊と戦うのは、睦月型よりも後発の高スペックな駆逐艦ばかりである。つまり、文月たちはスタートの時点で既に大きなハンデを背負って戦わざるをえない。それは睦月型の悲しい宿命みたいなものである。

しかし、それでも第22駆逐隊は常に前向きに、自分たちの力を信じて勇敢に戦っていく。性能の低さを努力と創意工夫とチームワークで補いながら、勝利を重ねていく姿は、全ての読者の胸を打つ。

そして第1巻のクライマックスで4人の前に立ちはだかるのは、圧倒的な強さを誇る第17駆逐隊。所属するのは磯風、浦風、浜風、雪風。全員が最新鋭の陽炎型駆逐艦で、性能も実戦経験も文月たちとは桁違いのエリート駆逐隊である。そんな強敵に苦戦を強いられる文月たち。さらに悪いことに、天候が崩れ、深海棲艦も出現。皐月が被弾し、戦闘不能に陥る。

そこに颯爽と現れた磯風たちが深海棲艦と対峙する。皐月も「ボクたちだって戦える」と言って参戦しようとするが、文月の必死の説得により思い止まり、第22駆逐隊は鎮守府へと帰還する。こみ上げてくる悔しさ、情けなさ。それでも皐月たちは決して下を向かない。唇を噛みしめ、涙をこらえながら、じっと前を見つめる皐月君の表情。なんて尊いシーンなのだろう…。

繰り返すが、『水平線の、文月』は単なる「萌え」だけのマンガではない。他の艦種と比べて火力が低く脇役に回りがちな駆逐艦、その中でも特に旧型でスペックの低い睦月型駆逐艦が、自分たちの置かれた不利な状況にもめげずに、ひた向きに頑張る姿を描く作品なのだ!

見どころ3 時代の最先端を行く思想

最後に、『水平線の、文月』は、現代社会が忘れてしまった大切な考え方を提示してくれている、という話をしよう。現代社会に生きる我々は「新しいものは全てにおいて古いものよりも優れている」と信じ切っている。でも、それは本当に正しいのだろうか? 今、本当に求められているのは、「古いものを大切に使う」という思想なのではないだろうか?

例えば航空機業界を見てみよう。今、旅客機の世界は世代交代の真っ只中である。アナログの古い機体は、次々に高性能コンピュータを搭載した最新機に置き換えられている。日本でも、全日空は最新鋭のB787を次々に購入し、三菱が満を持して開発したMRJも大量に投入する予定である。B787MRJは、駆逐艦で例えるなら最新鋭の陽炎型や夕雲型である。機体は軽くて丈夫で、燃費はメチャクチャ良い。様々な安全対策やコンピュータ制御が取り入れられ、安全性は格段に向上している。であるからこそ、多くの航空会社がこぞって最新機を求める。

しかし、実際には、最新機を導入することのデメリットも存在する。最新技術を使った飛行機は、飛行実績がなく、航空会社側にも運用スキルが蓄積されていないので、想定外のトラブルが発生しやすくなる。実際に、B787は就航当初、バッテリーやエンジンの不具合が多発し、全日空B787を使った便の欠航を余儀なくされた。また、旅客機の開発には遅れがつきものである。当初2013年を予定していたMRJの納入は延びに延び、早くても2020年までかかると言われている。納入されるまでの間、航空会社は別の機種を購入したりリースしてもらったりする羽目になり、莫大な追加出費と経営方針の変更を迫られる。私は別にB787MRJをディスってるわけではないが、はっきり言って、最新機を大量購入するというのは、航空会社にとって極めてリスキーな選択なのである。

一方、世界には、MD-80シリーズやB717、つまり駆逐艦で言えば睦月型みたいな古い機種を大切に使い続けている航空会社も存在する。それらの飛行機は、古くてボロいし、燃費も悪い。しかし、古い飛行機が長く使われているのには、それ相応の理由がある。古い機種は長年運用が続けられることによって、メーカーや航空会社に修理・メンテナンス・パイロット育成のノウハウが蓄積されている。たとえスペックは低くても、歴史に裏打ちされた信頼と実績があるのだ。だからこそ、全てが最新機に置き換わるということはなく、古い飛行機が大切に使われ続けるのである。

しかし、古い飛行機が花形路線に投入される事はほとんどない。大都市と大都市を結ぶ華やかな国際線で活躍するのが陽炎型なら、地方空港で細々と引退の時が来るのを待っているのが睦月型である。それでも、彼女たちは文句一つ言うことなく、懸命に飛び続ける。華やかな主力機の陰に隠れながら、黙々と最後まで自分の仕事を全うしようとしている。その健気な姿が、多くの人々の心を打つ。

今、時代は、間違いなく睦月型である。