新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『疑似ハーレム』感想

疑似ハーレム (1) (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

疑似ハーレム (1) (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

これは萌える。圧倒的に萌える。

演劇部に所属する七倉凛は、同じ部の先輩で「ハーレムに憧れる」という北浜瑛二のために、いろんな人格を演じ分けて北浜と会話する「疑似ハーレム」状態を作り上げる。現在のところ、小悪魔ちゃん、クールちゃん、ツンデレちゃんなどの人格が確認されており、七倉は状況に応じてそれらを巧みに使い分け、北浜と会話を重ねていく。

七倉が生み出すキャラクターは、好意を寄せる先輩である北浜と上手く会話するために編み出された「仮面」である。その「仮面」によって七倉は北浜との距離を縮めていくことができるが、それは諸刃の剣でもある。時々七倉が北浜に本心を伝えても、それは「仮面」によって発せられた「演技」に過ぎないと誤解されてなかなか本心が伝わらない。この切なさともどかしさを様々なシチュエーションを駆使して描いているのが、本作の醍醐味である。

七倉にとっての仮面、それは自動車のようなものかもしれない。自動車は私達の行動範囲を大きく広げてくれるが、車に乗ったままでは狭い路地や階段や屋内へは入って行けない。仮面は七倉と北浜を接近させる便利な道具だが、まさにその仮面によって二人はある一定の距離を保ち続けそれ以上近づくことは出来なくなる。

近年は、恋人になる前の2人の駆け引きと自我の空転を描く作品が流行りである。代表的なのが『かぐや様は告らせたい』とか『からかい上手の高木さん』であるが、よくよく考えるとそれらの作品も全て「仮面」にまつわる話である事が分かる。高木さんは「西片をからかって遊ぶ意地悪な女子」という仮面を被っているのである。何故そんなことをするのか? そうする事でしか西片と自然に会話できないからである。西片のことが好き過ぎて素の状態では自然に会話できないからこそ、高木さんは仮面を被るという手段に逃げるのだ。

これは恋愛に限らず、様々な人間関係における本質を突いている。仮面は私達を守る武器であると同時に、私達を縛る枷でもある。全ての人がそうした仮面を付けて生活している。

もちろん本作のもう一人の主人公である北浜瑛二も例外ではないだろう。彼もまた、「後輩と疑似ハーレムごっこで遊ぶ先輩」という仮面を付けて演技をしているのではないだろうか。