新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『がっこうぐらし!』、堂々完結

ゾンビ映画の伝統を踏襲しつつも、それを超えるテーマ性が付加された見事なエンディングだった。

ジョージ・A・ロメロが製作したゾンビ映画の金字塔『ゾンビ』(原題: Dawn of the Dead)では、人間というものの愚かさや醜さが徹底的に描かれている。欲望のおもむくままにショッピングモールにやってくるゾンビの群れは、言うまでもなく当時の大量消費社会の中で踊らされるアメリカ国民のメタファーである。

登場人物たちは入口にバリケードを作ってゾンビの侵入を防ぎ、モールの中で束の間の快適な生活を送る。そこにギャング集団がバイクで乗り付けてきて、モールの中で暴れまわる。立て籠もってたメンバーの一部は怒り狂って彼らに攻撃を仕掛ける。ここにあるのは俺たちの物だ!お前らには渡さない! そういって敵を深追いしていった彼らはゾンビに襲われ、自らもゾンビとなってモールの中を彷徨い歩くことになる。

彼らをゾンビにしたのは、心の中に深く刻まれた所有欲である。豊かな生活がしたい、美味しいものをお腹いっぱい食べたい、自由に好きなものを買えるお金が欲しい、そういう欲望が奪われそうになった時、人は簡単に理性を失い、まるで獲物を狩る獣のように他人に襲い掛かる。

そこには、資本主義というもの、より広く言えば、人間の理性というものに対する徹底した懐疑が存在する。

がっこうぐらし!』もまた、1巻からずっと人間の醜さを徹底的に描き出し、その地獄のような世界で懸命に生きようとする由紀たちの姿を描いてきた。

何度も傷付き、何度も裏切られて、それでもなお由紀たちは信じ続けた。人は困難にぶつかった時、手を取り合い助け合うことができる。人が協力して知恵を絞り、必死に考え抜けば、苦しみや悲しみの少ない社会を創り上げることができる。私達は、破滅的な戦争や環境破壊を回避するために、正しい選択をすることができる。

由紀たちが信じていたのは、人間の理性である。冷静に物事を観察し本質を見抜く能力、他者を思いやる心、そういうものが我々には備わっているという事を彼女たちは信じ続けた。確かにこの世界は醜くて地獄のような場所かもしれないけれども、世界は少しずつ良い方向へ変えることができる、そう信じ続けたからこそあのエンディングがあるのだ。

由紀たちが生きる未来が、明るく希望に満ちていることを願う。