新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

今年も、こちらの記事にあるように、

・2020年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

というルールのもと、印象に残ったアニメを10話選出しました。

『映像研には手を出すな!』、第7話、「私は私を救うんだ!」

  • 脚本:木戸雄一郎
  • 絵コンテ:小山菜穂
  • 演出:おゆなむ
  • 作画監督:なつのはむと、Prasearth thongkhum、イェ・リーグゥォ、シュ・チャオ、レイ・ジィェンジュン、ヂャン・シュジュエン、Nyki Ikyn、七霊石
  • 総作画監督浅野直之

この第7話を見て、アニメーターとはまさに研究者なのだと思った。スケッチを通して、人の動きを、物体の性質を、世界の理を、理解しようとする研究者。ありとあらゆる研究は、物事を徹底的に観察することから始まる。目の前で起こった出来事を食い入るように観察して、それを一心不乱にスケッチとして記録することで、この世界を必死に理解しようとした、水崎氏の努力、気迫、執念。歴史を振り返ってみれば、カメラが無かった時代、優れた科学者は皆スケッチの天才でもあった。

『恋する小惑星』、第12話、「つながる宇宙」

アオとミラの前に現れた小惑星発見への扉。それはほんの一瞬、2人を誘惑するかのように開き、そしてまたしっかりと閉じた。人類が有史以来脈々と続けてきた天文学の営み、その奥深さ、厳しさ。それでも2人は、その扉の向こうに光輝く未来を垣間見た。本作の良さが全て詰まったような美しい最終回。

かぐや様は告らせたい?』、第11話、「そして石上優は目を閉じた(3)」「白銀御行と石上優」「大友京子は気づかない」

ついに明かされる石上の過去、会長との出会い。この世の中は理不尽で、不平等で、自分に正直に誠実に生きようとすればするほど生き辛くなる。それでも、ただ真っ直ぐに、正義を貫き通すのならば、きっと誰かがそれを見ている、誰かが手を差し伸べてくれる。それは石上だけではない。かぐやもミコ、白銀自身も、そしてきっと藤原や他の登場人物も、誰かから救われ、誰かを救っている。『かぐや様』の厳しくも暖かい世界観を凝縮した神回。

『放課後ていぼう日誌』、第7話、「穴釣り」

この第7話はキャラクターの意外な一面が垣間見える回だった。Aパート、何でも完璧にこなせて後輩からの尊敬を集める大野先輩が見せる意外な弱点。そしてBパート、休日に夏海の家に勉強をしにやってきた陽渚が初めて目にするメガネ姿の夏海。そのことを指摘されて顔を真っ赤に染めるなど、部室では決して見ることのできない夏海の繊細な一面。単なる記号的なキャラではなく、各キャラのこういう意外な一面、心の機微をしっかりと描いているからこそ、本作には絶対の信頼があるのだ。

イエスタデイをうたって』、第3話、「愛とはなんぞや」

ハル、かわいいよ、ハル…。携帯電話が普及していない時代だからこそ起こる擦れ違い、3話にしてハルが初めて見せる繊細な心、どんなに勝ち目が無くても諦めずにリクオに向かっていく健気さ。すべてが最高である。この回で完璧にハル推しになった。いや~、見事だ。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、第11話、「想いは、触れた熱だけが確かに伝えている。」

  • 脚本:大知慶一郎
  • 絵コンテ:鈴木龍太郎
  • 演出:鈴木龍太郎
  • 作画監督:五十子忍、川島尚、立田眞一、林信秀、細田沙織
  • 総作画監督:清水慶太、枡田邦彰、高原修司、古山瑛一朗、柳川沙樹、穂積彩夏

あまりにも不器用で、繊細で、臆病な登場人物たち。であるがゆえに何度も傷つき、悩み、それでも諦めることなく必死に「本物」を追い求めた末に、ようやくたどり着いたクライマックス。自分の心の奥底へと潜り、自分の本当の気持ちを考え抜いた先に答えはあった。平成・令和を代表するラノベ作品の有終の美を飾るクライマックス。

安達としまむら』、第9話、「そして聖母を抱擁する愛 マリーゴールド

  • 脚本:大知慶一郎
  • 絵コンテ:桑原智
  • 演出:山本隆太
  • 作画監督ウクレレ善似郎、大塚八愛、興村忠美、Lee Min-bae、劉泉、ビート
  • 総作画監督:氏家章雄、豊田暁子、薄谷栄之、神谷美也子、森田莉奈

安達としまむら』は平成後半のライトノベルの中で数少ない「時代を作った」と言える作品だと思う。後の『やがて君になる』や『リズと青い鳥』にも多大な影響を与えた偉大な作品。その中で大きなターニングポイントとも言えるエピソード。バレンタインデーという特別な日、とその前日。視点と時系列が何度も行ったり来たりする中で、島村は気付きを得、安達、樽見との関係性が変わっていく。

『いわかける!』、第12話、「全一への道」

  • 脚本:待田堂子
  • 絵コンテ:アミノテツロ
  • 演出:松川朋弘
  • 作画監督:三橋桜子、小田裕康、永田正美、浪上悠里、手島勇人、井上貴騎、山﨑香、志賀道憲、STUDIO MASSKET
  • 総作画監督:渡辺義弘、西田美弥子、寺尾憲治

より速く、より遠く、より高い場所へ…。大きな壁にぶつかり、それでもその壁を越えようと努力を重ねてきた者。クライミングに青春の全てを捧げ、一時は登ることの楽しさを忘れかけていた者。クライミングに出会って自分の可能性に気付き、自分の世界を広げていった者。それぞれが積み上げてきたもの、抱えてきた想いが、決勝の舞台で結実する最終回。

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』、第4話、「200マイルの向こう」

バイクの最速記録への挑戦を通して、シャーリーとルッキーニが喧嘩もしつつも友情を深め合う、まさに王道のストーリー。この第4話と第9話の脚本は、『陽炎、抜錨します!』や『スオムスいらん子中隊ReBOOT!』を手掛けた築地俊彦氏。この2つの回が突出して素晴しかったが、さもありなんだと思う。

『魔女の旅々』、第9話、「遡る嘆き」

  • 脚本:筆安一幸
  • 絵コンテ:板井寛樹
  • 演出:板井寛樹
  • 作画監督:河野絵美、三島千枝
  • 総作画監督:矢向宏志

なんて救いのない物語だ…。絶望の淵でエステルがセレナの首を撥ねるよりはるか以前にもう、セレナの心は死んでいたのだ。どんなに修行を積んでも、どんなに優れた才能を持っていても、救えないものがあるという事実。その事実をまざまざと見せつけられ、イレイナと視聴者の心に深い傷跡を残す神回。

目を覚ませ僕らの世界が新型コロナに侵略されてるぞ!

『SSSS.GRIDMAN』の放送開始からもうすぐ2年が経とうとしているが、この2年で世界は完全に変わってしまった。

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はっす、放送当時は「いつもマスクつけてる変な子」みたいな位置付けだったのに、それがたったの2年足らずで、どこにでもある当たり前のスタイルに変わってしまうなんて…。

人は恐怖や不安に取りつかれた時に怪物を生み出す、という本作のテーマ性も、まるでコロナ禍の世界を先取りしたかのよう。

『放課後ていぼう日誌』の夏海ちゃんが可愛すぎて生きるのがつらい…

『放課後ていぼう日誌』は、釣りを通じて人生において大事なものを全て描き尽したような作品だった。

しなる釣り竿や、震える糸の動きを、これでもかとリアルに表現することで、魚の生命力の強さが画面越しにも伝わってくる。第3話、陽渚を泣かせたのは、言うまでもなくマゴチの圧倒的な生命力である。その小さな体で、最後まで食われまいと必死に動き回る魚の姿。命の尊さ。だからこそ、魚を締めるのは釣った者の責任。血を抜き、内臓を取り出すシーンもしっかりと描く。我々は、雄大な自然の恵みをいただいて生活しているに過ぎない。でも、一歩間違えれば、人間の行為が生き物を傷つけ、自然を破壊してしまうという事実も、第9話を中心にしっかりと描かれる。

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第10話、八代海に沈む夕日のシーン。美しい海と空。でもそこには自然だけでなく、堤防があり、船があり、人々の生活がある。自然と人間との調和。それを守るための釣りのマナー、遊漁券などのルール。海は美しいだけではない。猛毒を持つ生き物や海難事故。だからこそ必要な知識と備え。それらが、格式ばらずに分かりやすく解説されていく。

そして終盤。陽渚は疑似餌を使ってキスを釣ろうとするが全く釣れない。黒岩部長はあえて明確なアドバイスはせずに陽渚の成長を促そうとする。納得の行くまで何度も試してみる努力、色んな方法を試す創意工夫、そして、何故釣れないのか徹底的に観察するということ。釣れないのには必ず理由がある。何が間違っているのか、どこに変化点があるのか、まさに糸を一本一本解きほぐすように分析し、仮説を立て、それを検証していく作業。それは釣りに限らず人生において最も大事なことの一つであり、全ての科学そして人間的な活動の基本である。

そして、自分にできることを全てやって、それでも駄目だった時。その時はきっぱり諦めるのである。広大で複雑な自然は、人間の思考能力ではとても太刀打ちできない場合がある。だから、夏海が言っていたように、その時は「魚の機嫌が悪かっただけ」と思って、きれいさっぱり諦める。まさに、人事を尽くして天命を待つ。

そこまでやってようやく釣り上げた時、陽渚は本当の意味で釣りの楽しさを知ることになる。誰かに教えてもらった知識とは違い、自分で掴み取った経験は何年、何十年も自分の中に残り続ける。それこそが教育の本質。生徒が自ら学び気づきを得られるように手を差し伸べること。それは言うまでもなく、陽渚を見守る夏海や先輩達、両親や先生が無自覚に、あるいは意識的にやっていたこと。いつか陽渚自身もそのことに気付くのだろう。

また、それは、アニメが担う究極の役割でもある。今は大人向けのアニメもあるので一概には言えないが、アニメにとって一番大切なことは、子どもの成長を促すことなのだ。『放課後ていぼう日誌』は、その基本を思い出させてくれる。

さて、前置きが長くなったが、ここからが本題である。本作の一番の見どころは何と言っても、我らがヒロイン・帆高夏海ちゃんの圧倒的な可愛さであることは言うまでもないことですが、それではここで夏海ちゃんの可愛かったシーンをランキング形式で振り返ってみましょう。

第10位 陽渚といっしょにイカ刺しの歌を唄う夏海ちゃん(第4話)

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いやもうお前ら可愛すぎだろ…。

第9位 陽渚の代わりに自己紹介をしてあげる夏海ちゃん(第1話)

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陽渚と再会して同じ部活に入れると知って嬉しくてたまらないという表情の夏海ちゃん。

第8位 砂浜で遊ぶ夏海ちゃん(第11話)

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守りたい、この笑顔…。

第7位 「はいはーい!私に任せろ!」のところの夏海ちゃん(第3話)

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陽渚に釣りを教えたくて仕方がない夏海ちゃん、もう陽渚のこと大好きすぎやろ…。

第6位 休日に陽渚のところへ秒速で駆けつける夏海ちゃん(第6話)

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普段の制服とは異なり、パーカーに短パンというボーイッシュな格好が夏海の可愛さをさらに引き立てる。

第5位 パンツを見られて取り乱す夏海ちゃん(第2話)

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元気で明るい子が不意に見せる恥じらい、実に素晴らしい。原作でもアニメでも、物語序盤のこのシーンで夏海を好きになったファンは多いだろう。

第4位 橋の下で謎の動きを見せる夏海ちゃん(第8話)

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直前のアヒルの鳴き真似している夏海も可愛かったが、この日の夏海は妙によく動き、ぐるぐる回っていたので、もう最高だった。かと思いきや、陽渚のために下に敷く段ボールを持ってきてくれるなど、陽渚に対する優しさも見せる。

第3位 「大野先輩の1ヒロながーい!」のところの夏海ちゃん(第10話)

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満面の笑みでピョンピョン飛び跳ねてるのがもうたまらん…。お前マジどんだけ可愛い生き物なんだよ…。

第2位 陽渚からお礼を言われて照れて顔を背ける夏海ちゃん(第12話)

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最終回でこの表情はもう反則だろ…。この場面、1カット1カットがもう尊すぎるので、ぜひみんな一時停止して見てみよう。

第1位 眼鏡姿を陽渚に指摘されて顔真っ赤にしてる夏海ちゃん(第7話)

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第7話は全体的にキャラクターの意外な一面を描く回だった。Aパート、完璧に見えて実はカナヅチな大野先輩。そしてBパート、一見勉強出来なさそうに見えて実は成績優秀と分かる夏海。そして、初めて家に陽渚を呼んだ時の眼鏡姿。それを指摘されて急に恥ずかしがる夏海。その後、探りを入れるように陽渚の中学時代の友達のことを聞こうとする場面も含め、まさにギャップ萌えの極致という感じ。夏海というキャラクターを、いつも笑顔の快活なキャラという記号的な描き方をするのではなく、繊細な心の揺れ動きをきちんと描いているのがもう素晴らしいのである。

というわけで、夏海ちゃんの言葉では言い表せない可愛さ、皆さんお分かりいただけましたか? コロナ禍と水害の影響が続く中、アニメ第2期が作られるのかは不透明だが、アニメを見返し、原作を読みながら気長に待とう。

『恋する小惑星』のイノ先輩のことを一番よく理解しているのは自分なんだという強い自負

9月12日は『恋する小惑星』のイノ先輩こと猪瀬舞さんの誕生日です。おめでとうございます!

アニメ第1話の反復横飛びは本当に衝撃的だった。そこからずっとイノ先輩を見続けてきたけれど、もうイノ先輩の一挙手一投足がただただ可愛い。桜先輩のことが大好きでデレデレしているイノ先輩、可愛い。先輩達が部活引退して泣くイノ先輩、最高に可愛い。手ブレで上手く写真が撮れずに泣くイノ先輩、もう死ぬほど可愛い。頼りなくて、不器用で、でもいつも一生懸命なイノ先輩のことが、ただひたすらに可愛くて大好きでした。

でも、イノ先輩と言えば、アニメ第3話は決して外せないポイントでしょう。休みの日にすずちゃんと一緒に探索しているイノ先輩。あおとみらが後を付けていくも見つかってしまい、イノ先輩はこう言います。

今日は飛び地を見に行きたくて

もうこの言葉聞いた瞬間テレビの前にいる地理オタクは全員歓喜に打ち震えたことでしょう。そうか…イノ先輩、飛び地ガチ勢だったのかぁ(恍惚)

みらから「それ面白いんですか?」と聞かれたイノ先輩は、手をめっちゃパタパタさせながら、

面白いんです!」と叫びます。

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この天真爛漫な笑顔。子どものようにはしゃぎ目を輝かせる姿。そう。イノ先輩の言う通り、飛び地は最高に面白いのである。イノ先輩が訪れた場所は実在しているので、もちろん私も後で見に行った。

『恋する小惑星』聖地巡礼 - 新・怖いくらいに青い空

その場所の近くに地図があったのでそれを見てみよう。

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川越市の一部が盲腸のように飛び出して、ふじみ野市側に突き出ている不思議な境界線。境界線が何故このような形になっているのかは分からない。おそらく、道の両側の土地の所有権か道路管理の都合でこんなことになっているのだろう。

ただ、ここは厳密に言えば飛び地ではない。本当の飛び地の例を以下に示す。

こちらは飛び地マニアの間では割と有名な飛び地で、できた理由もはっきりしていて由来は江戸時代にまで遡る。そもそも県をまたいでの飛び地が珍しいことに加え、飛び地が近い距離で3つも並んでるというのが実に面白い。

あるいは、こういう境界線もある。

おそらく昔はこの境界線に沿って川が流れていたが、河川改修で川の流れが真っ直ぐになったため、このように川によって分断された土地ができたのだろう。これもまた広い意味では飛び地と言えなくもない。

飛び地に限らず、境界線というものは調べれば調べるほど面白い。ただ地図で見るだけでも楽しいのだが、その場所を実際に訪ねてみるというのはまた格別な楽しさがある。面白い県境の例を以下に示そう。

まさに、イノ先輩が見たら「面白いですー!!!」ってなること間違いなしである。

この記事をここまで見てきてもまだ境界線の魅力に気付けない人は、残念ながらイノ先輩のことを真に理解することはできないだろう。

地学、それは最も身近な学問であり、我々人類が根源的に持つ「知りたい!」という欲求を満たしてくれる学問。

我々人類が学問という営みをスタートさせた時、最初に生まれたのは地学だったに違いない。この宇宙や地球はどのようにしてできたのか。何故世界は今のような形になったのか、そして、これからどう変化していくのか。海や川や山はどうやってできたのか。金銀銅や宝石、その他あらゆる岩石や天然資源は、いつどのようにして作られたのか。天気が移り変わったり、災害が起こったりするのは何故なのか。私達が住む日本や他の国々に、独特の地形や歴史や文化が生まれたのは何故なのか。何故この地球上には戦争や貧富の格差があるのか。何故、世界はこんなにも美しく、多様性に満ちているのか。地学の中には、これらの問いに対する答えが全て詰まっている。

そして、地図とは、人類が必死に世界を理解しようとして作り上げたもの。広大で複雑すぎるこの世界を、なんとかして手元にある1枚の紙に収めて理解しようとした、人類の執念と工夫の結晶。そこに書かれた境界線とは、所有という概念を手にした人類が、長い長い歴史の中で土地を区分けしていく中で作られたもの。利権や自然環境や人々の都合など、ありとあらゆるものが複雑に絡み合って、境界線は複雑に入り組み、飛び地も生まれる。境界線からは、その地域の長い歴史と、そこで代々暮らす人々が歩んできた道のりを感じられる。

私もイノ先輩も、こんなふうに地学や地図の魅力をいくらでも語ることができるけれども、それは全く本質的なことじゃない。これは全ての学問に言えることだが、イノ先輩の台詞「面白いんです!」これが全てなのだ。何故面白いのかと理由を問うことは、マラソンや登山をしている人に対して「そんなキツいことして何が面白いのか?」と聞くようなものである。そこに理由など存在しない。面白いものは面白い、楽しいものは楽しい、ただそれだけなのである! 飛び地は最高に面白い。地図は最高に楽しい。私もイノ先輩も、その面白さを知っている。

だからイノ先輩が、学校の休み時間に帝国書院の地図帳を一心不乱に眺めていたことも知ってるし、休みの日に親のパソコンを借りてグーグルマップで一日中遊んでいたことも知ってるし、紙に架空の町や道路や鉄道路線網を描いて遊んでいたことも知っている。何故ならば、私とイノ先輩は同志であり、一心同体だから。地図を愛する者どうしだから、イノ先輩の気持ちは100%理解できるし、イノ先輩の大好きなものを誰よりもよく理解できるのは自分なんだという強い自負がある。

私もイノ先輩も、学校で教わるよりずっと前から、都道府県の名前や位置も、県庁所在地も、地図記号も、全部暗記していた。リアス式海岸、陸繋島、三角州、扇状地フィヨルド三日月湖、そうした言葉の意味も完璧に理解できた。世界各地の国名と位置関係、その国はどんな気候でどんな天然資源や農作物が取れるのか、学校のテストで出るレベルの問題ならほぼ完璧に理解できた。それらを学ぶことは苦痛でも何でもなかった。休みの日や学校の帰り道に、まだ行った事のない道を探索しながら通るのが、どんな遊びやゲームよりも心躍った。私とイノ先輩はもちろん会ったことも話したこともないけれど、イノ先輩が何を考えているのか、何を面白いと感じるのか、手に取るように分かる。

こんなふうにオタクのキモい妄想を無限に膨らませてくれるイノ先輩であるが、イノ先輩を見続けているうちにふと思うのだ。所詮イノ先輩の足元にも及ばないのに、何勝手に分かった気になってるんだと。自分は一度でも地学オリンピックに出てみようとか学生時代に思ったりしたか? 自分は所詮、地図を見て楽しんでるだけの素人。対するイノ先輩は、地学という学問を本気で学ぼうと努力しているではないか。これはどんな分野でもそうだが、いくら「好きこそ物の上手なれ」と言えども「好き」だけでは何も成し得ないのである。例えば、土壌や岩石がどのような組成でどのような構造をしているのか、それを研究するのは紛れもなく化学の分野に近い。山や谷はどうやってできるのか、それは水や風による浸食を研究すないといけないが、それはもちろん流体力学、つまり物理と数学の仕事である。ただ「面白い!」だけじゃない、より難解で、だからこそ奥深い学問の世界へ足を踏み入れようとしているイノ先輩。その真摯さ、ひた向きさもまた、我々がイノ先輩を愛する理由ではないだろうか。

あらためまして、お誕生日おめでとうございます。今年度の地学オリンピックも頑張ってください。

久しぶりに『ハナヤマタ』を見た

浜弓場双先生の『おちこぼれフルーツタルト』が10月からアニメ化されるのに合わせて『ハナヤマタ』が再放送されていて、毎週楽しみに見ていたが我慢できずにdアニメストアで全部見てしまった。

リアルタイムで見ていた時は気付かなかったが、いやもうこれ、素晴らしいアニメだなあ。

霞がかかったような淡い色彩表現は『ノーゲーム・ノーライフ』や『宇宙よりも遠い場所』を彷彿とさせ、いしづかあつこ監督の味が実によく出ている。

そして登場人物が毎回ぐだぐだウジウジ思い悩んでああもうコイツらめんどくせーってなるんだけど、みんな顔真っ赤になって泣いて笑って、見てるこっちが恥ずかしくなるようなセリフ吐いて、でもそれが良いんだよなぁ。

何の取り柄もない普通の女の子でも、自分から一歩前に踏み出すことができれば、世界は変わる。このテーマは『宇宙よりも遠い場所』にしっかりと踏襲されています。

特に、なるとヤヤちゃんとの関係性は、まさに『宇宙よりも遠い場所』のキマリとめぐっちゃんとの関係性と同じなんですよね。ヤヤにとってなるは大切な親友であると同時に、ヤヤはなるのことを自分より下の人間だとも思っていて、そういう子を身近に置いておくことで安心感を得ているわけです。で、そんな子が、自分が知らない間にパッと出の外国人と親しくなっていて、いっしょに部活まで始めてなんか前よりも輝いて見える…、という女どうしの複雑な激重感情、そこからの関係性の転換がしっかりと描かれている。

やはりと言うべきか、いしづか監督はハナヤマタから強いインスピレーションを受けて『宇宙よりも遠い場所』を作ったんだという事がよく分かります。