新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ココロコネクト』第1話考察

※作品に対する様々な考え方を併記するために、対論形式の記事にしてあります。

文化研究部

司会者  ついにアニメ『ココロコネクト』が始まりました。今日は第1話の考察ということで、はじめに作品の舞台となる山星高校・文化研究部について話し合ってもらいたいと思います。それではまず、九州人さんに、山星高校の校則と文研部誕生までの流れについて、ご説明を願います。

九州人  分かりました。さて、この山星高校では、生徒は必ずどこかの部活に所属していないといけない決まりになっているそうです。そして文研部は、どの部活にも所属できなかった「あぶれ者」たちを集めて作られた部活なんですね。例えば、主人公である八重樫太一は、自他共に認める大のプロレスファンで、プロレス研究会を作りたいと考えていましたが、人数が揃わずに断念しています。また、稲葉姫子は、情報収集と情報処理が得意だということで、パソコン部に入部する予定でしたが、仮入部期間中にそこの部長さんと衝突してしまい、結局入部することはなかったそうです。ここでは説明を省きますが、永瀬伊織、桐山唯、青木義文も、それぞれ色んな事情によって既存の部活に所属できずにいました。本来、そういう生徒は、形だけどこかの部活に所属しているという事にして幽霊部員になるんでしょうが、彼ら5人は変に頑固なところがあって、なかなか既存の部に入部しようとしなかった。で、見かねた教師達が彼らをまとめて一つの部として活動させようと考え、出来あがったのがこの文研部なんですね。

アニオタ  いつも思うんですが、こういう「生徒は必ず特定の部活に入っていなきゃ駄目」という校則のある高校って、実在するんですかね。私の通っていた高校は、文武両道を重視する校風で、特に体育会系の部活動が盛んでしたが、どの部活にも所属していない帰宅部員もかなりの割合で存在していましたよ。僕のように、特に部活をやりたいとも思わない、ただアニメを見ていたいだけの学生にとっては、少々面倒な校則ですね。

左翼思想家  文研部のメンバーは既存の権力に反抗するアウトローなのである。アニメ第1話でもその事は言及されていたが、原作小説にも次のような文章が書かれていて、彼らがアウトローであることが強調されている。

アウトローはいつどこにだって、そこに集団がある限り存在するのだ。*1
確かにアウトロー達は、圧倒的権力を有する体制側に屈服することが多いかもしれない。だが時にアウトロー達は、反逆する。*2

アニオタ  アウトローと聞くと、『僕は友達が少ない』の隣人部を連想しますね。彼らも、学校というコミュニティの中で迫害されたアウトローであると言えなくもない。あるいは、数多くの賑やかな文化部が活動する中で、地味に活動を続けている点が、『氷菓』の古典部とも似ている。いや、待てよ。放課後に部室の机を囲んで、各人が思い思いにくつろいだりおしゃべりしたりしている様は、まさに『けいおん!』の軽音楽部じゃないか。そもそも、原作小説のイラストレーターである白身魚氏は、アニメ『けいおん!』でキャラクターデザインを担当した堀口悠紀子氏と同一人物だと言われていて・・・

司会者  申し訳ありませんが、そのお話は長くなりそうなので、続きはまた別の機会にお願いします。

左翼思想家  話を元に戻そう。そもそも近代以降の学校というものは、権力者が自らに都合の良い従順な国民を養成するための施設、という側面を持っている。全員部活に参加すべしなどとという校則は、その典型例で、非常に全体主義的だ。そもそも、学業や家庭の都合で部活に所属できない生徒もいるかもしれないのに、一方的に全員部活に入れなどというのは、おかしいと思わないかね? そういう体制派の横暴に反旗を翻したのが、文研部の5人なのだ。実に勇敢な若者達ではないか。

九州人  しかし、義務教育機関での話ならまだしも、彼らは皆「全員部活に入るべし」という校則を知った上で山星高校に入学してきたわけですから、この校則が間違ってるとは一概には言えないのではないですか? それに、彼らは別に、好き好んで反抗しているわけではなくて、ただ単に入りたい部活がなかっただけでして・・・

アニオタ  お二人とも堅苦しく考え過ぎですよ。もっと気楽にアニメを楽しめば良いと思います。

左翼思想家  いや、事はそう単純ではないぞ。作中に出てくる描写だけが全てだと考えてはいけない。文研部のメンバーは、もしかしたら、アウトローということで他の生徒や教師から白い目で見られたり、差別を受けたりしているのかもしれない。おまけに、彼らには『人格入れ替わり』現象という誰にも言えない秘密がある。結果として、外からは文研部が何をやっているのか全く見えないし、文研部も外部に対して閉鎖的になってしまって、彼らはどんどん孤立してしまうんじゃなかろうか。

アニオタ  そんなネガティブな事ばかり考えてちゃ駄目ですよ。我々視聴者は何も考えずに、天真爛漫な伊織たん、クールビューティーな稲葉ん、そしてツンデレ唯たんを見てブヒブヒ言っていれば良いんです。

九州人  「ブヒブヒ言っていれば良い」には賛同しかねますが、ネガティブな事ばかりじゃないという点は私も賛成ですね。というのも、部活に入らなければならないという校則の存在と、文研部5人がその校則に従わないアウトローであったという事実がなければ、彼らが同じ部に入ることも、絆を築くこともなかったからです。もし、山星高校が普通の高校で、別に部活動をやらなくても構わないという制度をとっていたなら、彼らはどの部にも所属しない帰宅部員になっていたでしょう。当然、文研部も作られることなく、『ココロコネクト』の物語も始まらなかった。

アニオタ  そう考えると、文研部の5人が出会い、同じ時間を過ごすことができたのは、いくつもの偶然が重なって起きた奇跡のような気がしてきました。いや、文研部に限らず、現実のあらゆる人間関係も、無数の偶然が重なって生まれた奇跡なのかもしれなせんね。

左翼思想家  確かに、そこに至るまでの過程はどうであれ、文研部の5人が同志になれたのは、実に幸運なことだったと言えるだろう。人間が差別や偏見といった苦しい状況に陥った時、最後に頼りになるのが、近しい仲間どうしの絆に他ならない。奇跡のような偶然の巡り合わせで絆を深め合う事ができた文研部の5人が、これからやってくる試練をどう乗り越えてゆくのか、今後の展開が非常に気になる。

人格入れ替わり

司会者  論者の皆さんの意見がある程度一致しましたので、ここで次のテーマに移りたいと思います。文研部のメンバーが巻き込まれた心と体が入れ替わる現象――原作小説ではこれを『人格入れ替わり』現象と呼んでいますが――、これについて話していこうと思います。

アニオタ  そうですね。人格入れ替わりネタは、アニメ・漫画・ライトノベルなどで使い古された設定で、前クールのアニメでも『這いよれ! ニャル子さん』や『夏色キセキ』で見受けられました。しかし、そういった作品における人格入れ替わりは、非常にギャグ・コメディ的な要素を前面に押し出して描かれていると言えます。原作小説を読んだ方なら分かると思いますが、『ココロコネクト』はそういった作品とは一線を画し、人格入れ替わりによってもたらされるシリアスな問題を真正面から描いた作品だと思います。

左翼思想家  よくよく考えれば、人格が入れ替わっても平気でいられるなんてことがある訳ないじゃないか。人格が入れ替われば、普段は知ることのできない相手の秘密を知ってしまうことにもなるし、その逆に、決して他人に知られたくない秘密を知られてしまうことだってある。プライバシーなんてまるで存在しないよ。おまけに、人格が入れ替わっている間は、周囲から不審に思われないように、常に相手の性格・行動パターンに合わせて行動しなければならない。これでは心休まる時がない。にもかかわらず、こういった深刻な問題をこれまでのアニメは全く描いてこなかった。これはまさに、今日のアニメがリアリティの欠片もない駄作ばかりであるという証拠ではないだろうか。

アニオタ  実に聞き捨てならない暴論ですね! そもそも、人格入れ替わりなんていう非現実的な設定に、リアリティを求める方がおかしい。あなたみたいなバカバカしいイチャモンを付けてくる輩がいるから、アニメが面白くなくなるんだ!

九州人  まあそう熱くならないで落ち着いてください。お二人が言われたことは、非常に核心を突いてると思いますよ。『人格入れ替わり』現象という非常にリアリティのない設定の中で、高校生5人のリアルな心の問題がクローズアップされるという「倒錯」がこの作品にはあると思います。原作2巻以降も同様です。例えば第2巻では、『欲望解放』という現象が文研部を襲い、彼らの友情に亀裂が生じてしまうわけですが・・・

オープニング、エンディング

司会者  申し訳ありません。原作第2巻以降の内容については、話すと長くなりますし、ネタバレにもなってしまいますので、また別の機会にお願いします。さて次は、アニメ作品の顔とも言うべきオープニングとエンディングの映像について話して参りましょう。

アニオタ  オープニングは京都アニメーションを意識したような演出が目立ちましたね。例えば、部員達のカバンが5つ並んで映っているシーンや、部室の机を斜め上から映しているシーン。

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左翼思想家  しかし、所詮は京アニの二番煎じ。映像技術的には京アニの方が圧倒的に優れていると言わざるを得ない。だが、黒板を使った演出はなかなか良かった。登場人物の性格や、その登場人物が他人からどう見られているかが端的に表現されていて、実に見ごたえがあった。

九州人  それにしても、伊織さんは何故あれほどまでにカレーに執着していたんでしょうか? 私、気になります!

アニオタ  次にエンディングですが、何と言っても一番目を引くのは、ところどころで登場する丸い点ですね。その点がキャラクターに変わったり、キャラクターがまた点になったりが延々と繰り返される。この演出は一体何を表現しているのでしょうか。

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左翼思想家  これはアレじゃないかね。点と点(dots)を結ぶ(connect)ということを示唆しているのではないのかね?

九州人  なるほど。スティーブ・ジョブズですね。

アップル信者  おっしゃる通りです。アップルの創設者、スティーブ・ジョブズは2005年、大学の卒業式のスピーチに呼ばれて、大変有名な名演説を残しました。その中で彼が述べたのが、「点と点を結ぶ」ことの重要性です。我々は人生の中で様々な事を学んだり経験したりします。その一つ一つは、始めは「点」でしかなく、お互いに何ら繋がりが無いように見える。しかし、いつの日か、その点と点が繋がって、人生の道が開ける時が来るんですね。実際ジョブズも、大学で学んだカリグラフィーの授業が、その後Macのワープロソフトを作る上で非常に役に立ったと述べています。だから、我々が今すべきこととは、将来、点と点が繋がることを信じて、様々な事を学び経験して点を増やしていくことなんです。

アニオタ  つまり、今はまだ「点」でしかない文研部の5人も、将来必ず、その点と点が繋がる(connect)時が来る、ということですね。

各キャラクター

司会者  では最後に、アニメ第1話での各キャラクターの描写について、何か気になった点、特に言及すべき点があるのなら、お話し下さい。まずは、桐山唯について、何かある方はどうぞ。

アニオタ  まず、唯の声を聞いて真っ先に思ったのは、声優である金元寿子さんの声がすごく合ってるなあ、ということです。彼女はこれまで、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』のカナタや、『侵略!イカ娘』のイカ娘などを演じてこられましたが、本当に役に恵まれていると思います。桐山唯の可愛いけど芯があって、意地っ張りで少し子供っぽい性格が、よく表現できていると思います。

左翼思想家  冒頭に出てきた唯の部屋のファンシーな感じも、彼女の性格をよく表していて良い。文研部の部室の隅に置かれているぬいぐるみも、間違いなく唯の私物だろう。

司会者  永瀬伊織についてはどうですか?

九州人  冒頭の家でのシーンは、普段明るく振舞っている伊織の別の顔が垣間見える重要な描写だと思います。まず1点目が、彼女の表情ですね。具体的には、母親が見ていない時の表情と、母親と会話してる時の表情を比べてみてください。

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司会者  確かに、一人の時の表情は静かで暗い感じですが、母親が話しかけてきた途端、表情が一変していますね。

九州人  これは、文研部の中で彼女が見せる天真爛漫な姿は、実はそう見えるように「演技」をしているだけではないか、という事を示唆しています。また、顔をしかめるほど飲み物が熱かったのに「ううん、平気」と嘘をつく、という描写も重要です。この日、母親はただでさえ寝坊して朝食を用意できず、伊織に申し訳ないと思っている。ここでさらに「熱すぎるよ!」とでも言おうものなら、母親はますます申し訳ないと思って気を使ってしまう。そう考えたからこそ、あのような嘘をついてまで明るく振舞っているのでしょう。要するに伊織は、人間関係にさざ波を立てたくないがゆえに、自分を偽って明るく振舞ったり本当の気持ちを押し殺してしまっている。そんなことが推測できます。

司会者  そう言えば、稲葉が怒鳴って場の空気が悪くなった時、伊織が「教室にノート忘れた」と叫んで場の空気が和む場面がありました。稲葉は「あいつはこれを狙ってやっていそうだ」と言っていましたが、九州人さんも、やはり狙ってやってるんだと思われますか?

九州人  大いにあり得るでしょうね。さらに言えば、こういう事態が起こった時にサッとその場を抜けられるように、常に「取りに帰る」専用のノートを机に入れているのかもしれない。普通、伊織のようなキャラクターなら、あの場面で「まあまあ、稲葉ん、落ち着いて・・・」とでも言ってその場をなだめたりするでしょう。にもかかわらず、伊織は取ってつけたような理由を付けてその場を離れた。これは、場を和ませるための処世術というよりむしろ、単に彼女が不協和音のする空間に居たくないだけじゃないのかなあ、という気もしているんですね。

司会者  なるほど。では、伊織について、他の方のご意見も伺いましょう。

左翼思想家  伊織の家の様子が、近年の学園物にありがちな比較的裕福な一軒家ではなく、あまり裕福そうではない感じなのも、特筆すべきことだ。近年のアニメ、特に、日常系と呼ばれる作品群では、楽しいの学園生活を成立させる上で障害となる家庭や経済の事情については、視聴者が一切心配しなくて良いように、登場人物の家庭は比較的裕福で家族間の問題が少ないという設定になっていることが多い。しかし、小泉・竹中的な弱肉強食の論理がまかり通るようになって、日本国内の格差はますます大きくなっているというのに、こんなことではリアリティが無いと批判されて当然だ。『けいおん!』など、世間では「リアルな女子高生の日常を描いた」などと評価されているが、私に言わせれば、あの作品はリアリティの無さの極みだよ。

アニオタ  またリアリティの話ですか! 『けいおん!』だって、確かにムギちゃんはお金持ちな家庭に育ったお嬢様ですが、他のメンバーの家はごく普通の家庭じゃないですか!

左翼思想家  卒業旅行でロンドンに行ける家庭のどこが「普通の家庭」かね! 典型的なブルジョワ階級の裕福な家庭ではないか!

アニオタ  仮にそうだとして、何がいけないんですか! 視聴者は、女子高生のまったりした平穏な日常を見たいのに、家庭や経済に関する生々しい話を見せられて何が楽しいんですか!

左翼思想家  そういった平穏な日常が最早この日本のどこにも存在していないのに、アニメの中だけでそれを見せられて虚しいと思わないのかね?

九州人  ちょっと待ってください! 確かに、学園ラブコメの登場人物は裕福な家の出身であることが多いですが、全てがそうだとは限らないんじゃないですか? 『かんなぎ』の仁や、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の黒猫は、決して裕福な家庭の出身ではないでしょう。『とらドラ!』のように、家庭と経済の問題がクローズアップされた学園ラブコメもあります。

司会者  議論が紛糾しておりますが、一旦話を伊織に戻しましょう。要するに、伊織の家庭の描写が、学園ラブコメでよくある綺麗な一軒家ではなく、ボロそうな安アパートっぽい内装をしていたということでした。

九州人  そうです。実際に原作小説第3巻では、伊織の家は「年季が入った二階建てのアパート」と表現されており、そこで母親と二人暮らしをしているようです。

アニオタ  なるほど。もし伊織が男で、家でブサイクな鳥でも飼っていたなら、完璧に『とらドラ!』でしたね。もうこの時点で、非常にシリアスな家庭の事情がクローズアップされるだろうと示唆されているわけですね。実際、原作小説では・・・

司会者  大変興味深い話ですが、これ以上はネタバレになってしまいますので、次に進みたいと思います。稲葉姫子について、何かご意見のある方はいないでしょうか。

アニオタ  パソコン部の部長と対立したというエピソードや、プロレスについて意気揚々と語る太一に「黙せ」と言う描写などからして、稲葉姫子という女性は、思った事をはっきりと口にするタイプのように見えました。これは、上で述べられたような伊織の性格とは、全く正反対の性格をしていると言えるのではないでしょうか。確かに、伊織のように自分の気持ちを押し殺すことも場合によっては必要かもしれないですが、口に出さないと相手に伝わらないこともあります。だからこそ、言いたい事をはっきり口にできる稲葉に共感を持ちましたね。もっとも、彼女の性格はもっと複雑で、一言では言い表せないと思いますが。

九州人  はじめはクールで芯が強くて大人びていた稲葉が、物語が進むにつれてどんどん化けの皮が剥がれてきて、最後はあの「デレばん」になってしまう。こういう、最初は見えなかった心の内が少しずつ明らかになってゆく過程こそが、『ココロコネクト』の醍醐味だと思います。

左翼思想家  ちょっと待ちたまえ。稲葉が本格的に「デレばん」になるのは、原作の第5巻以降からだ。ゆえに、今回のアニメでは「デレばん」を見ることは出来ないだろう。だからこそ、我々がこうやって『ココロコネクト』のアニメを盛り上げて、アニメ2期が製作されるように尽力しなければなるまい!

アニオタ  おっしゃる通りです。僕も早くアニメで「デレばん」を見たい。

九州人  というわけで、アニメ『ココロコネクト』の関係者の皆様には、早急に第2期の製作に取り掛かることをお勧めします。もっとも、はじめから分割2クールで放送予定である可能性も無きにしもあらずですが。

司会者  えー・・・、白熱した議論の中で唯一見られた意見の一致が、「早くデレた稲葉んを見せろ!」ということのようですね・・・。皆さん稲葉の事が大好きなんだな、という事が分かったところで、本日の対論を終了したいと思います。

*1:第1巻、79P

*2:第1巻、81P