新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『UNCOntrollable』への苦言

『UNCOntrollable(アンコントローラブル)』は、女子高生が文字通りコントロール不能な生理現象をただひたすら我慢してるだけの漫画です。これはさぞ酷い光景が見られるんだろうなあ(ゲス顔)と思って、さっそく読んでみたのですが…、これはひどい…。思った以上にひどい…。

UNCOntrollable(アンコントローラブル)(1) (メテオCOMICS)

UNCOntrollable(アンコントローラブル)(1) (メテオCOMICS)

この作品の第1巻は、主人公・犬飼ハルがおしっこを我慢したり、腹痛に襲われたり、乗り物酔いでゲロ吐きそうになったりする、素敵な7つのショートストーリーから構成されています。我慢だけに特化した作品というだけでも実にチャレンジングで称賛に値すると思いますが、巧みなシチュエーション設定、我慢時のあるあるネタ、女子高生らしからぬ変顔の数々など、作者の非凡な才能が随所で感じられますね。本当にひどい(褒め言葉)作品です。

そもそも、この種の作品というのは、一見簡単そうに見えますが、実に奥が深いのです。おしっこ我慢を例に説明しましょう。まず、我慢に至るまでのシチュエーションの提示。予期せぬ事態が重なりトイレに行けなくなるという状況を丁寧に描く必要があります。次に、我慢している子が見せる複雑かつ魅力的な仕草。トイレに行けないという焦りと不安、強烈な尿意に耐える苦悶の表情、我慢していることを周囲に隠そうとする仕草、結局バレて沸々と湧き上がる羞恥心、これらをバランスよく配置しなければなりません。しかもそれらのバランスは、尿意がどんどん増していく中で、刻一刻と変化していきます。そして、お漏らし後の描写。水たまりが広がって周りがザワザワとなる状況、羞恥心と情けなさが込み上げてきて泣き崩れる女の子の様子、濡れたパンツや服を処理する一連の流れなど、物語をきれいに締めるための重要なステップがいくつも存在します。

これらの重要なポイントを押さえた良質な作品がお漏らし漫画の王道だとすれば、『UNCOntrollable』は我慢描写と変顔に特化した異色の作品と言えるでしょう。強烈なストレートで勝負する速球派ではなく、誰も真似できない独特の変化球で勝負する技巧派ピッチャーという感じです。

個人的に、お漏らしではなく我慢を主体にした構成になっている点が、『UNCOntrollable』の最大の特徴であり、最も素晴らしいところだと思います。一般的によくある衆人環視のもとでおしっこ漏らして泣き崩れるといったオチは一切なくて、普通に最後はトイレに間に合ったりしますが、その分、我慢描写の方を緻密に描くというスタイルです。歴史を振り返ってみても「お漏らしの醍醐味はそこに至るまでの過程、すなわち我慢描写にある!」というのは自明のことです。むしろ、用を足して苦痛から解放された後の恍惚とした表情などが、作品に新たな魅力を付加していると言っていいでしょう。さらに、主人公・犬飼ハルのキャラクターも素晴らしい。普段の元気で明るい姿と、我慢時の苦悶の表情とのギャップが実に良いのです。

ただ不満点を挙げるとすれば、やはり、変顔描写ばかりに気をとられ過ぎている。これではまるで変顔自慢大会だ。もっと、我慢してるのを隠そうとする際の機微や羞恥心などを丁寧に描くべきだと思いますね。そして、我慢描写がほとんど全て「ギリギリ」の切羽詰った状態しかないのも残念。尿意や便意が少しずつ強くなっていき、次第に表情に余裕がなくなっていく一連の過程をしっかり描かないと駄目ですよ。まあ、ページ数の制限がある中でこれをやろうとするのは至難の業だと思いますが。

という感じで偉そうに不満点も述べてみましたが、私がここまで言うのはもちろん、この作者への期待の裏返しでもあります。私は今、応援しているプロ野球球団に実力No.1の新人ピッチャーが入団してきて、デビュー戦で強打者相手に次々と三振を取っている姿を見て「ああこれでうちも10年は安泰だ」と喜びを噛みしめているような、そんな気分です。

参考記事:徒然なる一日 : 【生理現象と戦う女子高生】UNCOntrollable(アンコントローラブル) 第1巻