新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

ありがとう、『ゼロの使い魔』

以前にも書いたことがあるが、私が生まれて初めて読んだライトノベルは『ゼロの使い魔』だった。2000年代後半に猛威を振るった釘宮病は、当時中高生だった私にも強い影響を及ぼしており、『灼眼のシャナ』や『ハヤテのごとく!』などと同じく釘宮理恵が出演しているアニメ版『ゼロの使い魔』を私が見ることになるのは必然だった。その後、アニメで描かれたストーリーの続きを知りたいと思い、原作ライトノベルも読み始めた。

それはもう本当に衝撃的だった。当時の私が読んでいた小説と言えば、まあ普通の、健全な、一般的な文学作品だけである。ファンタジー系の作品にしても、『ダレン・シャン』とか『ハリー・ポッター』とかを読んでいた程度である。ところが、『ゼロの使い魔』ときたら、ツンデレ貧乳な女の子がいて、情熱的な赤髪褐色の子やクールな眼鏡っ娘がいて、庶民的で強引なメイドさんや気高く気品に満ちた王女様もいて、挙句の果てには、主人公が巨乳のハーフエルフのおっぱいを揉んだり、正妻とイチャイチャしながら「レモンちゃん可愛い」とか言ってるのである。こんな面白い小説がこの世にあるのかと思った。

これをきっかけにして、いろんなラノベを読み始めた。もちろん、萌えアニメや深夜アニメもますます見るようになった。『ゼロの使い魔』がなければ、私がこんなところでブログを書いてることもなかっただろう。

しかし、15巻を過ぎたあたりから、さすがにマンネリ化を感じずにはいられない状態になり、最新巻を読むのも忘れてしまった。それからしばらくして、ヤマグチノボル先生が亡くなったというニュースを聞いた。その後はショックで続きを読むこともできずにいたが、生前に書かれたプロットを元に完結編が書かれるというニュースを聞き、再び『ゼロの使い魔』を読み始めた。

初めて本書を手に取った時の新鮮さと喜びを思い出しながら、第20巻(ヤマグチノボル本人が執筆した最後の巻)を最後まで読んだ。あとがきには、次のような一文があった。

才人もね、いよいよ大人になってきました。少年ていうのは、やることを見つけると大人になるんすよ。作中でいつだかルイズもいってましたが、それはもう、一瞬で。見事なぐらいに。
(中略)
この本を読んでいるみなさんが、そんな『やるべきこと』を見つけることを祈ります。今はそういうの見つけにくい時代かもしれませんが、どんな時代だって必ずあるはず。『やるべきなにか』が。*1

私はこれを読んで涙が止まらなくなった。そして、ヤマグチノボル先生にとっては『ゼロの使い魔』を完成させることこそが「やるべきこと」だったんだと思った。『ゼロの使い魔』とは、大切な人のために命を懸けることなど考えたこともない普通の高校生・才人が、ルイズを守るという「やるべきこと」を見つけていく物語。才人が「やるべきこと」のために命を懸けたように、作者もまた彼の「やるべきこと」のために命を懸けたのだ。

おそらく私はこれからも数多くのライトノベルを読むだろう。時が過ぎるにつれて私の中の「名作」は次々とアップデートされていくだろうが、『ゼロの使い魔』が初めて夢中になった作品であるという事実だけは永遠に変わらない。私をオタクの道に引きずり込んだ作品として、日本中に釘宮病患者を生み出した作品として、そして、ヤマグチノボルという作家が命を懸けて完成させた作品として、『ゼロの使い魔』はこれからもずっと語り継がれていくだろう。

*1:ゼロの使い魔』、第20巻、230頁