新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

なぜカントリーマアムのサイズは小さくなってしまうのか

食品会社が原料費の高騰などの要因によって従来の価格で商品を売ることが難しくなった場合、まず最初に原材料や製造方法を見直し製造コストを削減しようとする。それでもどうしようもなくなった場合、食品会社が取り得る選択肢は2つしかない。

「食品の内容量をそのままにして価格を上げる」か「価格をそのままにして食品の内容量を減らす」かである。しかし、実際には多くの企業が後者を選択している。それは何故か。その理由は行動経済学でいうところのアンカリング効果で説明できると思う。

例えば、あるお菓子を最初から300円で販売した場合より、最初200円だったのが後から300円に値上げされた場合の方が、どこか割高な印象を覚えないだろうか。消費者は長年200円という価格で慣れ親しんでいる状況で、いきなり300円に値上げしますと言ったら、「え?この前までは200円で買えたのにどうして?」という心理からその商品にかなりのマイナスイメージがついてしまう。まるで船を係留する錨(アンカー)のように、まるで生まれて最初に見たものを親と思い込むひな鳥のように、消費者は最初に提示された200円という価格に引きずられて、300円を実際のお財布へのダメージ以上に「高い」と感じてしまう。

それゆえに、「食品の内容量をそのままにして価格を上げる」という選択をすると、値上げによる需要の減少分に加えて、アンカリング効果による買い控えも重なり、企業は二重のダメージを受けてしまうと考えられる。であるからこそ、ポテトチップス1袋のグラム数は減り、チョコパイ1パックに含まれるパイの個数は少なくなり、カントリーマアムのサイズは小さくなるのだ。

このアンカリング効果を最も効果的に利用している日本企業は間違いなくジャパネットたかたである。

「はい、今日ご紹介するのは、この最新型掃除機! お値段なんと5万円! 5万円ですよ皆さん! 見てくださいこの吸引力! 今なら専用ノズルと専用ブラシもお付けして、さらに今回に限り、通常5万円のところを、先着1000名様に限り3万円でご奉仕いたします! こんなチャンス、二度とありませんよ! 今すぐお電話を!」

一方、アンカリング効果が悪い方向に働く場合もある。アニメの製作費が低く抑えられている(そのせいでアニメーターの給与が低くなっている)のは、手塚治虫が最初に著しく安い価格でアニメを制作してしまったためだという話がある。もしこれが事実なら、アンカリング効果によって価格が不当に低く抑えられている一例と言えるだろう。

また、アンカリング効果を利用しようとして失敗してしまうケースも存在する。鳴り物入りで名古屋にオープンしたレゴランドの評判がいまいち良くない理由の一つに、大人6900円という高い入場料が挙げられている。東京ディズニーランドの7400円や、ユニバーサルスタジオ・ジャパンの7600円に比べたら割安だが、客はそれでは満足しなかったようだ。運営会社としては「TDRUSJのような本格的テーマパークが格安の値段で楽しめる!」と宣伝したかったのかもしれないが、「TDRUSJに比べて規模がかなり小さいのに入場料だけは同じくらい取られる」というマイナスイメージの方が上回ってしまったのだろう。

参考著書: 予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)