新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

アニメ『かぐや様は告らせたい』第1話感想

記念すべきアニメ第1話のサブタイトルは「映画に誘わせたい」「かぐや様は止められたい」「かぐや様はいただきたい」であり、全て原作にもあるタイトルとなっている。『かぐや様』原作漫画のサブタイトルは、いくつか例外はあるものの基本的に「○○は□□たい」(人物+行動)みたいな文章になっているが、原作第1話の段階ではそのようなルールが確立する前だったので「映画に誘わせたい」というサブタイトルになったものと考えられる。

なので、アニメ化にあたって「かぐや様は誘わせたい」などというようにサブタイトルを変えてくるかと思ったが、あえて原作と同じにすることで、アニメは原作を忠実に再現したものであることを強調しているようにも見える。

もう一つ、原作読者が驚いたのは、「かぐや様はいただきたい」(お弁当回)をあえて第1話に持ってきたことだろう。原作の順番で行けば、ババ抜きや映画館に行く話が入るはずなのだが、それらをあえて省略してお弁当回を1話に持ってきているのだ。この回は原作漫画の序盤でも特に人気の高いエピソードであり、作者自身が作品の転換点になった回であるとインタビューで述べている。

連載序盤は頭脳戦っていう看板が大きくあったから、思いつく限り頭脳戦のネタをやっていってたかな。でもだんだんとキャラクターについての理解が深まっていって、「この子はこういう表情を出す子なんだ。じゃあこの子がもっと恥ずかしがったり、怒ったり出来る場面を作ろう」という感じに、頭脳戦よりも感情優先になっていきましたね。転換点になったのは単行本1巻5話の「かぐや様はいただきたい」かな。
【インタビュー】『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』赤坂アカ「毎週、神が降りてくるのを祈ってる。」|コミスペ!より)

あのお話を描いたあと、最初はどうしてこんなにキャラが面白い動きをしてくれたのかわからなかったんですよ。分析をしていく中で、「キャラの感情を引き出せている」という部分にたどり着いて。そこから「今回はこんな恥ずかしがらせ方をしてみよう」「こうやってテンパらせよう」と感情の部分に重きを置くようになりました。
テレビアニメ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」特集、赤坂アカインタビュー - コミックナタリー 特集・インタビューより)

このように、副題にあるような恋愛「頭脳戦」を重視するのではなく、「キャラの感情を引き出す」という方向に作風をシフトさせるきっかけとなったのがこの回なのだ。まさにコペルニクス的転換と言えるだろう。この回が無かったら名作ぞろいのヤングジャンプの中で本作がここまで注目されることも無かっただろう。

それにしても、感情が引き出された状態のかぐや様は、何故こんなにもお可愛いのだろう。それは、ぶっちゃげて言えば、普段クールで聡明なかぐや様が別人かと思うくらいポンコツになっているからである。このポンコツかぐや様のお可愛さこそが、本作の一番の魅力と言っても過言ではない。私の個人的な統計によると、『かぐや様は告らせたい』の原作話のうち実に1/4がポンコツかぐや様回である。

一言でポンコツと言っても、その種類は実に様々であり、代表的なところを挙げれば、

  1. 御行のこと好きすぎて頭おかしくなってるかぐや様
  2. マウント取りに行って返り討ちに合い涙目になるかぐや様
  3. 世間知らずで行動がどこかズレてるかぐや様
  4. 深読み&論理の飛躍が酷すぎてしっちゃかめっちゃかなかぐや様
  5. 予想が外れてテンパるかぐや様
  6. 高速手のひら返しかぐや様

などがある。しかも、これらは毎回単体で登場するのではなく、2個か3個まとめて合わせ技一本という形になっているので、膨大な組み合わせが可能で、作品のマンネリ化を防いでいるのである。

例えば今回のお弁当回で言えば、御行のこと好きすぎて頭おかしくなってるかぐや様(藤原に嫉妬)、世間知らずで行動がどこかズレてるかぐや様(タコさんウインナーへの憧れ)、高速手のひら返しかぐや様(絶交とか言ってたのにウインナーくれたらすぐ仲直り)が含まれている。

本作から放たれる悶絶必死のお可愛さは、ただそこに偶然存在していたわけではない。作品を面白いと思うのには、理路整然とした理由があるのだ、ということを改めて実感した。