新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『グランベルム』のアンナという強烈なキャラクターについて

日笠陽子。『けいおん!』の秋山澪役でブレークし、その後も天草シノ(生徒会役員共)、篠ノ之箒インフィニット・ストラトス)、遊佐恵美(はたらく魔王さま)、八神コウ(NEW GAME!)など、印象的なキャラクターを演じ続けてきた。もうすでにベテランの域に達しつつある彼女のキャリアに、また一つ、視聴者に強烈な印象を残したキャラクターが加わることとなった。

アンナ・フーゴ。魔術師の名門・フーゴ家に生まれ、幼い頃から立派な魔術師になる事を夢見てきた。しかし、彼女には魔術師としての才能は無く、彼女の母親も新月・エルネスタを養子にして家を継がせようとしていた。新月への嫉妬で怒り狂ったアンナは、魔術師達の戦い・グランベルムで執拗に新月への攻撃を繰り返すようになる。

物語の前半は、新月に粘着するアンナの姿がこれでもかと描かれる。とにかくこの粘着の仕方がハンパなくて、毎回、エルネスタああああああ!!!!!とか叫びながら、鬼の形相で攻撃を仕掛けてくるので、視聴者の誰もが「コイツ、ヤベえ奴や…」と思ったであろうし、それが一周回って最早ギャグの域にまで達していた。

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見てるだけならギャグでも、粘着される方からしたらたまったもんじゃない。アンナはまるで天災のように理不尽に襲い掛かり、暴れる猛獣のように制御不能だった。より分かりやすく例えるなら、高速で煽り運転してくるDQNみたいなものである。よくもまあこんなヤバいキャラクターを考え出したもんだと感心したが、これはまだほんの序の口でしかなかったのである。

第6話、自分の才能の無さに打ちのめされ、母親や新月から「魔術師以外の道で幸せになってほしい」と諭されたアンナ。一度は笑顔で新月を見送り、これで一件落着かと思いきや…

ED後のCパート、アンナは母親を襲撃、フーゴ家に伝わる魔石を盗み出し、「これでエルネスタに勝てる」とでも言わんばかりの凄まじい形相で不気味に笑っていました。

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で、ですよね~……。あれだけ新月に粘着してた奴がそう簡単に改心するわけないわ…。次回予告のナレーションでも「エルネスタを困らせたい、自分を嫌というほど意識させたい。それは全てを懸けたストーキングという名のライフワーク」とか散々な言われようで、もはや公式も完全にギャグとして描いてんじゃねえか!という感じになってきました。

そして第7話の最終決戦。新月にボコボコにされて降参する素振りを見せ、相手が油断した瞬間に反撃開始という卑怯極まりない戦いで新月を追い詰めていくアンナ。

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「アドレナリイイイイイン!」「ドーパ、ミイイイン!!!」「エンドルフィイイイイイイン!!!!!!」

って、もはや何言ってるか全然分かんねえよwwwwwwwwww

こうして新月を追い詰め、最後の一撃を加えようとするアンナの顔は、心の底から喜びで満ち足りて、恍惚とした表情をしていました。

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しかし、新月とアンナの間には決して埋まることのない才能の差が、歴然と存在していたのです。結局、新月に反撃を食らったアンナは、断末魔の叫び声とともに消え去っていきました…。

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そこには、アニメでありがちな、ハートフルで穏やかなエンディングなど一片たりとも存在しない。結局アンナは、最後の最後まで改心などすることなく、新月を恨み、妬み、嫉妬と憎悪に身を焦がしたまま消えていきました。この強烈なキャラクターを描き切ったアニメスタッフ、そして日笠陽子さんの名演に、最大級の賞賛を送りたい。

これは本当に凄い描写だ…。この話を振り返る時、私は、どうすればアンナは救われたのだろうと考える。

確かに、アンナの置かれた境遇には同情できる余地がたくさんある。すぐそばに圧倒的な才能を持った新月がいて、新月ばかりが周りから期待され、嫉妬で気がおかしくなってしまうのも分かる。それでも、アンナの周りの人達はアンナを救おうとしていた。その人達から差し伸べられた手を振りほどき、闇に堕ちていったのは、他ならぬアンナ自身の意思だ。

人は、不幸な状況に陥ったとしても、誰かしらが救いの手を差し伸べてくれる。けれども、その手を振り払ってしまったら、もう誰もその人を救えない。そういう人を救うことはとても難しい。

これは現実の社会でもあらゆるところで垣間見える現象ではないだろうか。「自分は病気ではない」と言って頑なに治療を拒む患者たち。「生活保護を貰うのは恥だ」と言って本来されるべきはずの支援を断る人達。

我々の社会は、こういう人達を救うことができない。『グランベルム』という作品は、このどうしようもない現実を我々に突きつけてくる。