新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選

例年通り、今年観たアニメの中で最も良かったと思う回を10話選出します。

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ウマ娘 プリティーダービー Season 2』、第8話、「ささやかな祈り」

脚本:杉浦理史
絵コンテ:及川啓
演出:佃泰佑
作画監督:中島順、宗圓祐輔、坂本俊太、桐谷真咲、鈴木光
総作画監督椛島洋介藤本さとる

普段気弱そうなライスシャワーが見せる鬼気迫る表情、これまでの回で積み上げてきたマックイーンとテイオーの思い、三冠を目指す名馬たちの前に立ち塞がり「黒い刺客」と呼ばれたライスシャワーの史実。それらすべてが春の天皇賞を舞台にして交差し、すべてのバトルアニメ、スポーツアニメが避けては通れないテーマが浮かび上がってくる。

誰かの夢が叶うことは、他の誰かの夢が破れるということ。ありとあらゆる物語の主人公が、自分や仲間やファンの夢を背負って、努力し、勝とうとしている。でも、そうして打ち負かした相手もまた、別の誰かの夢を背負った存在なのだ。マックイーンとライス、どちらの気持ちも痛いほどよく分かるからこそ、このテーマが生きてくる。

ゆるキャン△ SEASON2』、第8話、「ひとりのキャンプ」

脚本:田中仁
絵コンテ:金子伸吾
演出:相澤伽月
作画監督:近藤律子、北島勇樹、堤谷典子、遠藤大輔
総作画監督:渡邉亜彩美

なでしこが初めてソロキャンに行く回。原作ファンからは、さくリン不倫旅行回として非常に有名だが、それだけでは終わらせないのがこのアニメの素晴らしいところ。8話冒頭「うなぎおいし浜松~」のインパクトが強すぎて元の歌詞を忘れそうになるけど、そこからのラスト「夢は今も巡りて」につなげるのは反則過ぎる。なでしこにとっては静岡こそが故郷、だからこそこの選曲なんだと気づくと、もう美しすぎて涙出てきそうになる。

スーパーカブ』、第1話、「ないないの女の子」

脚本:根元歳三
絵コンテ:藤井俊郎
演出:安部祐二郎
作画監督:齊藤佳子
総作画監督:齊藤佳子、井上英紀

親も友達もいない、ただ淡々と暮らすだけだった少女の生活が、カブを手にした事で大きく変わっていく。人口減少によって交通インフラが消えつつある令和時代において、スーパーカブを手に入れて見える景色が一変するというのは、何ら大げさな表現でなく、リアリティのある感覚となっている。と同時に、そこには、子どもの頃はじめて自転車で遠出した時のような、自分の世界が広がっていくという喜びと、知らない世界に来てしまったという不安(芥川龍之介が小説『トロッコ』で書いたような)が同居している。

それらを際立たせる音声や美術。HONDAが監修しているのでスーパーカブの描写が完璧なのは当たり前だが、例えば主人公が暮らしている家や学校・田舎の道路のあまりにもリアルな風景、水筒・炊飯器・自転車、その他様々な生活音。さらに演出面で言えば、あえて画面を少し暗くするなど。全ての要素で文句の付けどころのない100点満点の第1話だった。

ホリミヤ』、第7話、「君がいて、僕がいて。」

脚本:永井千晶
絵コンテ:奥田佳子
演出:奥田佳子
作画監督:河合拓也、清水裕
総作画監督飯塚晴子、清水祐実

以前の記事(『ホリミヤ』第7話―ゴミ箱のシーンが最高だった - 新・怖いくらいに青い空)で述べた通り、登場人物の心の揺れ動きを完璧な演出で表現していた。

ゾンビランドサガ リベンジ』、第2話、「ぶっ壊れかけのレディオ SAGA」

脚本:村越繁
絵コンテ:石田貴史
演出:石田貴史
作画監督:後藤有宏、日高真由美、村長由紀、佐藤元桑原剛佐々木守
総作画監督:崔ふみひで、桑原幹根

サブタイトルの元ネタとなった『壊れかけのRadio』の歌詞のようなストーリー。また、そのサブタイトルは往年の名曲『ラジオ・スターの悲劇』(Video Killed the Radio Star)も連想させる。時代と共に消えてしまうものと、世代を超えて受け継がれるもの。変わっていくものと、変わらないもの。憧れのスターが老いていく悲しみ、老いることも大人になることもできない悲しみ。その対比を残酷なまでに浮き上がらせるストーリー構造の美しさ。同シリーズ全部を通しても最高の回だった。

弱キャラ友崎くん』、第12話、「ヒロインにしか装備できないアイテムには特別な効果がある」

脚本:志茂文彦
絵コンテ:石倉敬一
演出:ナンバーナイン
作画監督:新海翔斗、清水勝祐、水野隆宏、大木賢一、北山景子、劉雲留、胡峰成、RadPlus
総作画監督:矢野茜、佐藤麻里那、紙葉礼

感情や願望といった曖昧なものを切り捨て、人との繋がりを課題とか目標で判断していく日南のやり方に、友崎は納得がいかない。けれども、着飾ることをやめて自然体で菊地さんと会った時、友崎は鏡に写った自分の姿を見て「気持ち悪い」と思った。ここに、人生というゲームの本質がある。

結局のところ、どちらか一方に偏ってしまってはダメなのだ。ただ自然体で好きな事を好きなようにやるだけでは、人は成長することが出来ない。自分の感情を切り離して合理的な課題と目標を設定するだけでは、真に人生を楽しむことは出来ない。その両軸の間で揺れ動きながら選択を繰り返していくのが、人生というゲーム。本作のテーマが凝縮した最終回。

シャーマンキング』、第33話、「恐山ル・ヴォワール quatre4」

脚本:米村正二
絵コンテ:古田丈司
演出:西島圭祐
作画監督:犬塚政彦、いいのやすぞう*1
総作画監督:犬塚政彦

少年ジャンプの歴史に燦然と輝く恐山ル・ヴォワール編。身も凍るような寒さと、どことなく寂しげな下北半島の街並み、その中で描かれる葉とアンナの出会い、マタムネとの別れ。今回ついに明かされるハオとマタムネとの関係。愛とは、信じ続けるということ。信じることをやめた時、人の闇が生まれる。それこそが本作を貫く大きなテーマ。これをアニメ映像で見ることができただけでも再アニメ化した価値がある。

『月とライカと吸血姫』、第7話、「リコリスの料理ショー」

脚本:牧野圭祐
絵コンテ:須永司
演出:新留俊哉
作画監督:Kwon Oh sik、Lim Kuen soo、Chae Gwang Han、Jeong Yeon soon
総作画監督:加藤裕美、反町司、内田利明、渕脇泰賀

人間よりも早く宇宙へ行きたい、そんなイリナの願いは、いつしか2人の願いとなり、ここに結実する。それは、ガガーリンが宇宙へ飛び立った時、あるいはアポロ11号が月に降り立った時と同じ、現代の神話が生まれた瞬間。地球に帰還後、誰よりもそれを願っていたレフが真っ先に駆けつけ、イリナを抱きしめる。それは、醜く汚れた世界で、2人だけが星のように美しく輝いているような、美しく、尊く、どこか儚げな名シーン。

ラブライブ!スーパースター!!』、第6話、「夢見ていた」

脚本:花田十輝
絵コンテ:誌村宏明
演出:遠藤広隆
作画監督いとうまりこ、尾尻進矢、木村文香、永山恵、山村俊了
総作画監督:斎藤敦史、佐野恵一

ラブライブ伝統の幼なじみ回。嵐千砂都ちゃんのダンスに対するストイックさが「ダンスで成果を上げなければ私はかのんちゃんと並び立つ資格がない」という強迫観念と結びついているのはさすがに愛が重い…。千砂都ちゃんのために何時間もかけて東京に戻ってくるかのんちゃんもまた然り。

無職転生異世界行ったら本気だす~』、第1話、「無職転生

脚本:岡本学
絵コンテ:岡本学
演出:平野宏樹
作画監督:杉山和隆、齊藤佳子、世良コータ、みやち、山崎絵美
総作画監督:杉山和隆

どれを選出しようか迷ったけどやはり第1話を選んだ。他の異世界転生ものとは一線を画すクオリティ。細かい小道具や背景描写、人物の仕草、あらゆるものが一級の仕事で、アニメスタッフの本作にかける意気込みが伝わってくる。特に、Bパートで初登場となるロキシーちゃんの一挙手一投足すべてが可愛くて仕方がない。

例えば、ルディに魔法を教える時のロキシーちゃんや杖の動き、間違えて木を倒してしまって慌てふためき治癒魔法をかける一連のコミカルなカット、ささやかながらも精一杯のおもてなしでロキシーちゃんを歓迎しようとしてくれるグレイラット家の人々(それは家出同然で故郷を捨ててきたロキシーにとってどれほど救いだっただろう)。すべての場面で、ロキシーちゃんが可愛くて、画面に躍動感があって、それでいてストーリー上の意味がある。

*1:スタッフロールの表記はアクション作画監督