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クレヨンしんちゃん映画全部見た(1993~2007)

今年4月22日、記念すべき第30作目のクレヨンしんちゃん映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』が公開される。ちょうど良い機会なのでこれまでのクレしん映画を第1作目から順に見直してみた。今回はまず、第1作『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』から、第15作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』までの簡単な解説をしてみようと思う。

クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王

映画 クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王 矢島晶子
【あらすじ】アクション仮面を演じる俳優・郷剛太郎の正体は、平行世界で正義のヒーローとして戦う本物のアクション仮面だった。元の世界に帰れなくなったアクション仮面に代わり、野原一家が平行世界に呼ばれるが、そこでしんのすけ達が目にしたのは、オカマの宇宙人・ハイグレ魔王に侵略されハイレグ姿にされた人々だった。

1993年公開。本作から『ヘンダーランドの大冒険』までの4作品が、本郷みつる監督作である。

記念すべき第1作目のクレヨンしんちゃん映画だが、名作とされる他の初期クレしん映画と比べると、本作の出来はかなり悪いと言わざるを得ない。本作の7年後に公開された『嵐を呼ぶジャングル』ではアクション仮面の設定が異なっており、公式にも半ば「なかったこと」にされているのかもしれない。しかし、子ども向け映画とは思えないような奇怪で不気味な映像表現や、高い所に登ってのドタバタアクションなど、後のクレしん映画の方向性を決定づけた作品と言える。

クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝

映画クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝
【あらすじ】福引でブリブリ王国5泊6日の旅を当てた野原一家だったが、実はそれが罠で、しんのすけはホワイトスネーク団に誘拐されてしまう。敵のアジトでしんのすけが目にしたのは、姿形がしんのすけと瓜二つなブリブリ王国王子・スンノケシであった。

前作に比べると脚本は大幅に改善されており、単なる子どもだましな映画にはしないという製作陣の努力が伺える。欲望に塗れた分かりやすい悪人を、しんのすけが子どもならではの自由でおバカな発想によって倒すという、クレしん映画全体を貫く痛快さのようなものがはっきりと打ち出されている。

クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望

映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望
【あらすじ】タイムパトロール隊員のリング・スノーストームは、時間犯罪の兆候を嗅ぎつけて過去に向かうが、事故により20世紀でシロの体に憑依してしまった。彼女と野原一家が戦国時代へと向かうと、そこには吹雪丸という侍が待っていた。吹雪丸は自分と一緒に雲黒斎を倒してほしいと頼み込むが、その雲黒斎こそがタイムパトロールの追っていた時間犯罪者であった。

タイムマシンやタイムパラドックスなどを駆使したSF色の強い作品。戦国時代で吹雪丸しんのすけが協力して雲黒斎を倒し、吹雪丸とその家族は平和な日常に戻り終了、と思いきや実は雲黒斎は生きていて20世紀で歴史改変を企んでいた、というクライマックスが2つに分かれる珍しい構造をとる。

クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険
【あらすじ】ヘンダーランドの王子と姫を幽閉したオカマ魔女・マカオ&ジョマは、しんのすけ達がいる世界をも支配しようと画策する。からくり人形の女の子・トッペマとしんのすけは魔法のトランプを持って逃げ出すが、ひろしとみさえが人質に取られてしまう。2人を助けるため、しんのすけはヘンダーランドへと舞い戻る。

絵具で書いたような色彩と輪郭をあえて歪めたデザインで描かれるヘンダーランドの造形が特徴的。その中で描かれる奇怪なシーンの数々、特にひろしとみさえがカラクリ人形に入れ替わるシーンは今見てもゾッとするほど怖い。ラストの城を駆け上がりながらの追いかけっこのシーンは、1分あまりのシーンだが作画・画面構成・声優の演技など全てが伝説級の仕事である。まさに初期の頃のクレしん映画の良さを全て結晶化したかのような名作。これは、クレしん映画に第1作目から設定デザインで参加し、本作では絵コンテも務めた湯浅政明氏の功績も大きいだろう。

クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡

映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡
【あらすじ】強大な魔人・ジャークの力が秘められた玉をひまわりが誤って飲み込んでしまう。ジャークの力を使って世界を支配しようとする珠黄泉族と、それを阻止しようとする珠由良族との争いに、野原一家が巻き込まれていく。

1997年公開。本作から『アッパレ!戦国大合戦』までが原恵一監督作品となる。また、しんのすけの妹・ひまわりが登場する最初の映画でもある。

ひまわりを含めた野原一家の絆がテーマとなった作品。ひろしの名言として有名な「自分一人ででかくなった気でいる奴はでかくなる資格は無い」が登場する作品でもある。新宿・健康ランド・大型スーパー・青森県臨海副都心へと逃亡・追跡を繰り返しながら、各地で玉を巡るド派手なバトルが展開される。その度に仲間が敵に捕まったり、ひまわりが誘拐されたりと、状況が目まぐるしく変化していく構成はまさにハラハラドキドキの連続であり、『オトナ帝国』や『戦国大合戦』に並ぶ名作との呼び声も高い。

クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦

映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦
【あらすじ】強力なコンピュータウイルスを駆使して世界制服を目論む悪の秘密結社「ブタのヒヅメ」に、正義の秘密組織SMLのメンバー、コードネーム・お色気が潜入する。お色気はウイルスの入ったディスクを奪う事に成功するも、その後しんのすけ達と共に「ブタのヒヅメ」に捕まってしまう。敵の幹部がディスクを起動させるが、その中にいたのは、天才科学者が作り出した電脳生命体・ぶりぶりざえもんであった。

サイバーテロ、AI、仮想空間など、21世紀に多く登場するSF作品のテーマを先取りしたような内容。また、クライマックスでしんのすけがぶりぶりざえもんと対話する場面は、これまでのクレしん映画には見られないシリアス要素もあり、後の『オトナ帝国』『戦国大合戦』に繋がるようなクレしん映画の方向転換が垣間見える。

クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦

映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦 / 映画クレヨンしんちゃん クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉
【あらすじ】風呂を憎む悪の組織・YUZAMEは、巨大ロボットを使って地下のマグマを海に流す「地球温泉化計画」を実行に移す。その計画を阻止するため温泉Gメンが立ち上がり、野原家の地下にあるとされる「金の魂の湯」の掘削を開始する。

巨大ロボットが埼玉を襲撃するシーンでは、TV中継や政治家、さらに自衛隊も登場するなど、怪獣映画を意識した演出が特徴的。怪獣大戦争のテーマに合わせて大量の戦車が行進するシーンは、本作の絵コンテ・演出として水島努氏が参加していることもあって『ガールズ&パンツァー』を彷彿とさせるが、水島氏は後に当該シーンの絵コンテは原恵一監督であったと述べている。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル
【あらすじ】アクション仮面を演じる俳優・郷剛太郎としんのすけ達が乗ったクルーズ船がサルに襲撃され、大人達は全員南の島に連れ去られてしまう。島に潜入したかすかべ防衛隊・ひまわり・シロは、アフロヘアーの屈強な男・パラダイスキングを発見。サルと人間を奴隷化し自分の王国を築こうという彼の計画を阻止するため、アクション仮面が戦いに挑む。

2000年公開。本作以降、第20作目の『嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』まで、ほとんどの作品タイトルに「~~を呼ぶ」が入る。

アクション仮面にスポットを当て、ヒーローとは何か、正義の味方とは何か、というテーマを深く掘り下げた作品。大人達が何者かに連れ去られ、大人達を救うためにかすかべ防衛隊が出動する、という構図は次作『オトナ帝国の逆襲』でも引き継がれる。第1作目からずっと登場してきたオカマのキャラクターが一切登場せず、また、しんのすけ側の味方として戦うお姉さんも登場しないなど、これまでのクレしん映画でお決まりとされた構造を打ち破った作品。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲
【あらすじ】薄汚れた現代日本を嫌悪するケンとチャコは、20世紀博というテーマパークを作って大人たちを「懐かしい匂い」によって洗脳し、子ども時代に見た輝かしい20世紀を取り戻そうと計画する。かすかべ防衛隊は20世紀博に潜入し、大人達の洗脳を解こうと奮闘する。

2001年公開。子ども向けTVアニメの劇場版でありながら数々の賞を受賞し、子ども達よりもむしろ大人が感動し泣ける作品と称賛された金字塔的作品。クレしん映画の得意とするド派手なアクションやギャグを残しつつ、懐かしさとは何か、過去とは何か、大人になるとはどういうことか、という究極のテーマを描き出す。

20世紀博の中にある街は明らかに昭和30年代頃の東京であり、ひろしとみさえはその街並みを見て強烈な懐かしさを覚えているが、そもそも2人は秋田・熊本の出身であり子ども時代に東京でそのような光景を見たはずがない。それは、実際には昔にも数多くの凶悪犯罪が発生していたにもかかわらず「昔は犯罪が少なく平和だった」と過去を回顧するようなもので、人の記憶の中にある過去は、現実とは乖離していることが多いのである。「懐かしさ」によって作り上げられた世界には、汚いものや不快なものは無く、見たいものだけが見える。だが、そこに未来はない。

だからこそ、ひろしとみさえの洗脳を解くのは足の臭いなのであり、たとえどんなに臭く汚れていても私たちはその未来を選ぶという高らかな宣言が、強烈なエモさとなって観客の胸を打つ。これが21世紀最初の年に公開されたという時代性も含めて、歴史に残る傑作と言えるだろう。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦
【あらすじ】戦国時代にタイムスリップしたしんのすけ達は、春日家に仕える侍・井尻又兵衛と出会う。又兵衛は春日家当主の娘・れんに恋をしていたが、想いを打ち明けられずにいた。隣国の大名・大蔵井高虎が春日領に攻め込み、又兵衛らは戦に出陣していく。

2002年公開。文化庁メディア芸術祭アニメ部門の大賞を受賞し、後に実写映画としてリメイクもされるなど、傑作と評される作品。子ども向けアニメとは思えないほどのリアルな合戦シーン、しんのすけと又兵衛との友情、そして又兵衛が鉄砲で撃たれて死ぬという衝撃のラスト等によって、視聴者に強い印象を残した。また、同じ原恵一監督作品で戦国時代が舞台となった『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』*1を彷彿とさせるシーンも多い。

だが、友情やラブロマンスを中心に据えた物語によって、クレしん映画の醍醐味であるおバカでハチャメチャな雰囲気は薄れている。クライマックスに至るまでの脚本も他のクレしん映画に比べて起伏に乏しく、また、野原家がタイムスリップできた理由もかなり苦し紛れな説明しかなされない。良くも悪くもクレヨンしんちゃんらしくないストーリーであり、それを無理やり力技でクレしん映画として完成させたという印象が強い。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード
【あらすじ】朝食中の野原家に白衣を着た謎の男が侵入、その男を追ってきた軍人風の男もやってきて野原一家を拘束しようとする。野原一家は家から逃げ出すが、何故か街中に指名手配が出されてしまい、身を隠しながら逃亡する羽目に。追跡者の一人から聞いた情報をもとに、野原一家は敵のアジトがある静岡県熱海市へと向かう。

2003年公開。本作と次作『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』が水島努監督作品となる。

最初から最後まで水島監督らしいシュールで不条理なギャグの連続で、前作『戦国大合戦』とは方向性が180度変わっている。クレしん映画は毎回ゲストキャラと野原一家が協力して戦うのがお決まりだが、本作はそれに該当するキャラクターはおらず、野原一家が孤立無援の中で戦うという珍しい構造になっている。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 夕陽のカスカベボーイズ
【あらすじ】しんのすけ達が迷い込んだ古い映画館でスクリーンを見ていると、突然映画の中の世界に吸い込まれ西部劇に出てくるような町に辿り着く。知事ジャスティス・ラブの圧制とも戦いながら、しんのすけ達は春日部に戻る方法を探る。

よく分からないまま映画の世界に引きずり込まれ、そこで生活していくうちに元いた世界の記憶を徐々に忘れていく、という怖ろしい状況下で物語前半はゆっくり進行する。そして後半は打って変わって、元の世界に帰るために立ち上がったかすかべ防衛隊、改めカスカベボーイズを中心とするド派手なアクションが繰り広げられる。少し切なく独特な余韻を残す終わり方は、水島監督の味がよく出ている。ヒロインを演じた声優がだいぶ棒読みなところが残念なポイント。

クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃
【あらすじ】未来から来た時空調整員・ミライマンは野原一家に、もうすぐ怪獣が現れて世界が破滅すると告げる。それを阻止するために野原一家は3分後の世界に向かい、ヒーローに変身して怪獣と戦うことになる。

2005年公開。本作から『歌うケツだけ爆弾!』までの3作がムトウユージ監督作品である。

序盤・中盤は、一体ずつやってくる多種多様な怪獣を野原一家の誰かが変身して迎え撃つ、というシーンがただ繰り返されるだけ。怪獣を倒して調子に乗るひろし・みさえ、何故か唐突に登場する波田陽区怪獣など、ギャグも完全に滑っている。終盤、何故かそれまで倒した怪獣がアクション仮面やカンタムロボの姿を借りて野原一家の味方に付くなど、意味不明な展開になるも、特に盛り上がることもなく終了。最初から最後まで面白くしようという工夫を一切感じられないストーリー構成で、本記事で挙げたクレしん映画の中でも一二を争う駄作であろう。

クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!
【あらすじ】街中の人々がいつの間にか本人そっくりのニセモノと入れ替わってしまうという事件が発生。そのニセモノは狂ったようにサンバを踊りながら、周りの人をニセモノへと変えてゆく。幼稚園の先生や風間くんもニセモノと入れ替わってしまい、野原一家は春日部から逃げ出そうとするがニセモノ達に捕えられ、地下にあるアジトへと連行されていく。

前半はホラー映画調の不気味な演出が多用され、得体の知れない何かが日常に侵食してくる恐怖をこれでもかと見せてくる。特に、スーパーでみさえの偽物が出てくるシーンは大人が見てもゾッとするレベル。陽気なサンバの音楽も、逆に不気味さを際立たせる。

ニセモノの正体はこんにゃくで作られたクローンであった。黒幕のアミーゴスズキは、世界サンバ化計画を進め世界中の人々にサンバを躍らせようと画策するも、最後はしんのすけ達の春日部音頭に圧倒され敗北する。前半の緊張感と盛り上がりがすごかった分、後半は肩透かしを食らったような気持ちになる。竜頭蛇尾という言葉がよく似合う残念な作品。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌う ケツだけ爆弾!
【あらすじ】沖縄旅行中にやってきた野原一家だったが、しんのすけが拾った謎の円盤がオムツ型に変形しシロにくっついて取れなくなってしまう。実はその円盤は宇宙から飛来した爆弾で、爆発すれば地球が丸ごと吹き飛ぶレベルの危険物だった。爆弾をシロごとロケットで地球外に捨て去ろうと試みる組織・UNTIと、爆弾を使って世界制服を目指す組織・ひなげし歌劇団との間で、熾烈なシロ争奪戦が始まる。

ひなげし歌劇団、UNTI、そして野原一家という三つ巴の対立構造をとる、クレしん映画としては珍しいタイプの作品。ひなげし歌劇団がド派手で荒唐無稽な理念を掲げるクレしん映画にありがちな敵キャラだとするならば、UNTIは「爆弾から地球を守る」という目的があるため単純な悪役とは言い切れない面がある(しかし、UNTIの長官・時雨院時常の非人間的な側面も強調され、最終的には本映画のラスボス的ポジションとなる)。一方、この映画のメインでは、これまであまり着目されなかったしんのすけとシロとの絆が描かれ、タイトルの印象とは真逆の感動的な作品となっている。

まとめ

ひとまず1993年から2007年までに公開された15作品をまとめてみた。その中でも最も初期のクレヨンしんちゃん映画に共通する特徴としては、以下のような点が挙げられる。

  1. オカマ*2が登場する。
  2. 敵は分かりやすい悪党で人間離れした能力を持っている。
  3. きれいなお姉さんと野原一家が協力して敵と戦う。
  4. かすかべ防衛隊*3はほとんど活躍しない。

そして、時代が新しくなるにつれて、これらの特徴に当てはまらない作品が増えていく。それらを表にまとめてみた。

多くの人がご存じのように、初期のクレヨンしんちゃん映画には必ずオカマが登場する。『ハイグレ魔王』や『ヘンダーランド』のようにオカマがラスボスになってる作品もあれば、『暗黒タマタマ』のように味方側のキャラとして出てくる場合もある。そして、多くの作品でオカマの「気持ち悪さ」をギャグにしており、ポリコレ的観点から今日では放送できないような描写が多く存在する。第7作目の『爆発!温泉わくわく大決戦』を境としてオカマはほとんど登場しなくなる*4

一方、敵キャラについては、初期の作品では宇宙人・魔女・超能力者など、超人的な能力を持っている場合が多く、見た目や性格も分かりやすい悪党という感じである。しかし、原恵一監督作の後半になるにつれて悪役も普通の人間になる傾向が強く、『オトナ帝国』のケンとチャコに至っては単純な悪役とは言い切れない複雑なキャラ設定を持っている。新しい映画であるほど、映画のラストで改心し和解するラスボスも多い。

また、しんのすけ達と一緒に戦うきれいなお姉さんキャラも、初期の映画では必ず登場していた。しかし、8作目以降では登場しない作品も増え、登場したとしても『戦国大合戦』の廉ちゃん、『カスカベボーイズ』のつばきのように、戦闘にはあまり参加しないケースも出てくる。

かすかべ防衛隊(風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃん)については、初期の5作品ではほとんど活躍の場はないが、第6作目を皮切りに出番が増えていく。ただし序盤・中盤での出番が主であり、クライマックスでは登場しない映画も多いが、第12作目の『カスカベボーイズ』ではクライマックスでもしっかり活躍している。

こうして見返してみると、上記の特徴の内、②敵キャラ、③お姉さん、④かすかべ防衛隊、は互いに関連した現象と言えなくもない。初期の作品では、戦闘能力の高いお姉さんがゲストキャラとして登場し、敵キャラとバトルをする傾向が強い*5。しかし後期の映画では、野原一家やかすかべ防衛隊全員に見せ場が用意され、彼らが直接敵と戦うシーンが多くなった。その結果としてお姉さんキャラを登場させる必要性が減っていったのだろう。また、それに伴い敵キャラも、野原一家が頑張れば何とかなるレベルにパワー調整がされているのかもしれない。

というわけで、今回は第1作から第15作目まで、年代で言うと1993年から2007年までのクレヨンしんちゃん映画について述べてきた。今年公開の映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』(シリーズ第30作目にあたる)を映画館で見た後、16作目以降の映画についても感想を述べたい。

*1:1991年公開。『ドラえもん のび太ドラビアンナイト』と同時上映された。のび太のご先祖・のび平を助けるため、調査ロボットのアララとドラミちゃんが戦国時代へ向かう、というストーリー。

*2:差別語だが作中でオカマという言葉が使われているのでそのまま表記する。

*3:しんのすけ、風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんにより結成された組織。

*4:第11作目『嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』でゲイ風の男が登場したり、第15作『嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』でオネエ口調のキャラが登場したことはあったが、明確にオカマと分かるキャラは第7作目以降登場しなくなる。

*5:第1作目『アクション仮面VSハイグレ魔王』など、例外もある。