新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

話数単位で選ぶ2022年TVアニメ10選

今年もaninadoでやっている話数単位10選の季節がやってきました。こちらの記事にあるとおり、

・2022年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

というルールで今年放送されたアニメの良かった回を10個紹介します。

『明日ちゃんのセーラー服』、第7話、「聴かせてください」

脚本:山崎莉乃
絵コンテ:Moaang
演出:Moaang
作画監督:川上大志
やっぱ蛇森さん素晴しいんですよねぇ。ギター弾けないのに強がって弾けると言っちゃう蛇森さん、他の子が部活などで頑張ってる姿を何とも言えない表情で見つめる蛇森さん、ギターを持って部屋ではしゃいで戸鹿野さんに目撃される蛇森さん、江利花の演奏を聞いて様々な感情が押し寄せてきて胸が詰まってしまう蛇森さん。練習を始めてすぐに壁にぶつかってくじけそうになる蛇森さん、でもそんな時に傍に寄り添って的確なアドバイスをくれる戸賀野さんとの関係性。思春期真っ盛りのどこか痛々しくて繊細な心理描写。明日ちゃんに聞かせる曲がスピッツの『チェリー』なのも、その歌がぶっちゃげあんまり上手くない(ギター覚えたての中学生が必死に歌った曲なのだからこのくらいのクオリティで当たり前)のも、とてもリアルで素晴らしい。初めから終わりまで、蛇森さんの魅力が全て詰まっている。

かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』、第3話、「柏木渚は誅したい」「四条眞妃は何とかしたい」「白銀御行は信じられたい」

脚本:菅原雪絵
絵コンテ:畠山守
演出:池田愛
作画監督:矢向宏志、水谷雄一郎、横山穂乃花
総作画監督:矢向宏志
原作読者100人中100人が待ち望んでいた四条眞妃ちゃん登場回。親戚である四宮かぐやと同じく、プライドが高くてなかなか素直になれない子。でも、かぐやとは違い自分の感情を隠すのが下手で、すぐに泣き出す。落ち着いたかと思いきや、翼くんのことを思ってまた泣く。その後すぐ泣き止んで強がって見せるけど、石上になんか言われるとまたすぐ泣く。次から次へと繰り出されるギャグ。眞妃ちゃんの言動全てが圧倒的な可愛さ。だが、その後のアイキャッチに書かれている「だれかに話すだけで…こんなに心がかるくなるんだ…」というモノローグは、眞妃が友情と恋心との板挟みで思い悩んでいたことを物語っている。その健気で繊細な姿が、あまりにも美しく、愛おしい。

『SHAMAN KING』、第52話、「SHAMAN KING GOD END」

脚本: 米村正二
絵コンテ:古田丈司
演出:四ノ宮春
作画監督:渡辺健一、飯泉俊臣、陸田聡志、西島圭祐、柴田ユウジ、飯塚正則、糸島雅彦、白鳥弘公、森悦史、高瀬健一*1
総作画監督:渡辺健一
平成を代表するバトル漫画の本当のラストがついにアニメになった。憎しみの連鎖を断ち切るため、葉たちは、これまでに登場した全ての敵・味方と共に、ハオに「天地を返すほど珠玉の愛」*2をぶつける。それまでずっと余裕ぶっこいてたハオが、圧倒的な愛の力にたじろぎ、最後はへなへなになっていくカタルシス。52話にわたって積み上げてきた物語のクライマックスにふさわしい奇跡のような最終回。

『よふかしのうた』、第2話、「てかラインやってる?」

脚本:横手美智子
絵コンテ:関野関十
演出:関野関十
作画監督:露木愛里、北島勇樹、Kim dae jung、Son kil young
総作画監督:佐川遥
美しい夜の風景、その中で繰り広げられる軽妙な会話劇、恋愛の事になるとすぐに顔が赤くなるナズナちゃん、嫉妬するコウ君。もうこの二人が可愛くて可愛くて、ずっと見続けていたいという気持ちになる。沢城みゆきさんの名演が光った第11話とかなり迷った末に、やはり『よふかしのうた』の真髄が詰まった回である第2話を選出しようと決めた。

リコリス・リコイル』、第3話、「More haste, less speed」

脚本:枦山大
絵コンテ:足立慎吾、丸山裕介
演出:丸山裕介
作画監督水谷雄一郎、滝口弘喜、小沢久美子、山村俊了、しまだひであき、TOMATO
アクション作画監督:岩澤亨、柴田海
総作画監督:鈴木豪、晶貴孝二
DAへの復帰が叶わず焦りが募るたきなを千束が抱きかかえ、回転しながら「私は君に会えて嬉しい」と叫ぶシーンは、百合アニメ史に残る名シーンとなった。特別な舞台装置の中で百合的なトランス状態が生まれ、2人の距離が物理的にも精神的にも近づくという演出は、『響け!ユーフォニアム』の大吉山のシーンを彷彿とさせる。そして、この回を見ることでようやくエンディング曲『花の塔』が真価を発揮し、強烈なエモさを伴って心に響いてくる。

ラブライブ!スーパースター!! 第2期』、第4話、「科学室のふたり」

脚本:花田十輝
絵コンテ:いまむら
演出:いまむら
作画監督:伊藤幸、杉本海帆、水野辰哉、向川原憲、森淳
総作画監督:斎藤敦史、佐野恵一
第7話「UR 葉月恋」と迷ったが僅差でこちらを選出する。人付き合いが苦手な者どうし自然と惹かれ合っていくメイと四季。相手を想うがゆえに、自分の本当の気持ちを伝えられず、すれ違ってしまうもどかしさ。それらを丁寧に描いたからこそ光る、夕焼けの科学室での和解シーン。本シリーズ随一のエモーショナルな百合回。

『継母の連れ子が元カノだった』、第8話、「元カップルは警戒する『わたしはもうフラれてるんですから、大丈夫ですよ』」

シナリオ:静原舞香
絵コンテ:Royden B
演出:松本マサユキ
作画監督:森谷春樹、洪範錫、STUDIO MASSKET
幾多のヒロインが主人公に告白して振られてフェードアウトしていく中、振られてもなお存在感を見せつける東頭いさなは特異な存在だろう。東頭いさなにとっては、水斗と恋人になれるかどうかは二の次であり、水斗と友達であり続けて楽しく駄弁っていたいという気持ちの方が強いのだろう。だから、振られた後でもお構いなしに家に押しかけ、グイグイ距離を詰めてくる。もはや彼女の前ではカップル、友達、兄弟といった普通の枠組みは通用しない。その強烈なキャラクターが駆動力となり、水斗と結女の関係性をも揺さぶっていく。

『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』、第6話、「DIYって、どうでも・いいもの・やくにたつ!」

脚本:筆安一幸
絵コンテ:安藤尚也
演出:安藤尚也
作画監督松尾祐輔
言ってしまえば日常系アニメでよくある海で遊ぶ回(水着回)なのだが、キャラクターの何気ない仕草や服装デザインにスタッフの並々ならぬフェティシズムが感じられ、キャラクターの可愛さをよく引き立てている。と同時に、ぷりんがせるふへと向ける温かくもどこか寂しげな眼差し、揺れ動く心を懇切丁寧に描き出す幼なじみ百合回でもあった。肌の露出を増やしたり綺麗な画を見せたりするだけが水着回ではない、ということを教えてくれるお手本のような回。

『ぼっち・ざ・ろっく!』、第12話、「君に朝が降る」

脚本:吉田恵里香
絵コンテ:斎藤圭一郎
演出:斎藤圭一郎
作画監督:けろりら
ギターのために青春の全てを捧げてきた後藤ひとりという少女が、仲間達と出会い、今日のために必死に努力して、劣等感、悔しさ、恐怖、ありとあらゆる感情を演奏にぶつけた時、ステージが、教室が、世界が、こんなにも光り輝いて見える…。後藤ひとりがあれほど忌み嫌っていた輝かしい青春の日々。だが、これは紛れもなく、後藤ひとりという少女の青春の物語。にもかかわらず、その後ステージから転倒し保健室に運ばれ、Bパートでも相変わらずコミュ障全開の情けない姿。過度に感動的にせずにこうしてギャグで落としてくるのは、アニメスタッフが後藤ひとりの人物像を徹底的に解剖し、深く原作を理解しているからこそできる描写だろう。

機動戦士ガンダム 水星の魔女』、第11話、「地球の魔女」

脚本:大河内一楼
絵コンテ:金澤洪充、綿田慎也、小林寛
演出:倉富康平、綿田慎也
作画監督:菱沼義仁、戸部敦夫、丸山修二、宍戸久美子
自信を無くしトイレに引き籠ってしまったスレッタが無重力の中で膝を抱えて丸まっている構図は、明らかに母親の胎内のメタファーである。ミオリネがスレッタをそこから引きずり出すことで、スレッタの親離れと再生を表現しているように思う。一度開けた扉をもう一度無言で閉めようとするスレッタと、全身を使ってドアをこじ開け反動で頭を打ち痛がるミオリネ、持ち前の体力でピョンピョンと逃げ回るスレッタと、何度も壁にぶつかりながら必死に追いかけるミオリネ。必死なのにどこかコミカルな一連のカット全てが美しい。その後、胸の内を打ち明けるたどたどしい口調のスレッタ、スレッタの胸にしがみつきながら自分の気持ちを伝えるミオリネ。2人の間に「愛さえあれば言葉なんていらない」などという綺麗事は要らない。心の底から発せられた本当の言葉だけが、スレッタとミオリネを結びつける。文句無しの神回。

*1:クレジットにはアクション作画監督と表記あり。

*2:「Get up! Shout!」、作詞:水樹奈々、作曲:山本玲史