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科学技術関連で最近気になった記事など(その3)

トムソン・ロイター引用栄誉賞

「トムソン・ロイター引用栄誉賞」(ノーベル賞予測)2016年、日本からの受賞者は3名 - トムソン・ロイター

今年は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究において注目されているEPR効果を発見したとして、前田浩氏、松村保広氏が受賞。この他にも、がん免疫療法の本庶佑氏など、合計24人が受賞されています。

今や猫も杓子もDDSの時代。先進国から新興国に至るまであらゆる研究者があらゆるジャーナルにDDS関連の論文を投稿しており、その有象無象の論文の多くがEPR効果について引用しているわけです。なので、まあ、引用数を指標にしてノーベル賞候補を選んだら当然こういう結果になるよなぁ、という感じ。実際に受賞できるかというと、う~ん、どうなんでしょう。

ロジャー・チエン死去

ノーベル化学賞受賞者 ロジャー・チェン氏死去 64歳 - 産経ニュース

緑色蛍光タンパク質GFP)の発見と開発によりノーベル賞を受賞したロジャー・チエン博士が亡くなりました。享年64。ノーベル化学賞を受賞した2人目の中国系アメリカ人でした。

1960年代、下村脩博士はオワンクラゲを研究する過程でGFPを発見しました。1994年、マーティン・チャルフィー博士はGFP遺伝子を線虫や大腸菌に組み込んで光らせることに成功しました。一方、チエン博士の業績は、そのGFPの詳しい発光機構を解明したこと。そして、そのデータをもとにGFPを改良することで、様々な波長の光を放つ人工タンパク質を作り出したり、より発光効率の良いGFPを開発したことです。

もちろん、下村、チャルフィー両氏の業績も素晴らしいのですが、生物学に欠かせないツールとしてGFPをここまで普及させた最大の功労者は、チエン博士だったと言えるかもしれません。ご冥福をお祈りします。

ノーベル医学・生理学賞

オートファジーの仕組みを解明した大隅良典 東工大名誉教授が、2016年ノーベル医学生理学賞を単独受賞ということで、非常に驚きました。近年は多くの研究者が共同で研究を行ったり、多数のライバルがいる中で切磋琢磨しつつ研究が進んで行ったりするので、ノーベル賞も2人または3人が同時に受賞するケースが非常に多くなっています。また、どの分野もノーベル賞候補がいっぱいいるので、似たような分野の研究者を一まとめにして、なるべく多くの人が受賞できるよう配慮されてるように感じます(例えば、去年の医学生理学賞は、寄生虫病治療薬の開発者とマラリア治療薬の開発者が共同で受賞しましたし、2009年の物理学賞は、光ファイバーの開発者とCCDセンサーの発明者が共同受賞しました)。

医学生理学賞について言えば、21世紀に入って単独受賞したのは今年の大隅氏と、体外授精技術を開発したエドワーズ氏(2010年)しか居ません。70年代から90年代までを見ても、利根川進バーバラ・マクリントックスタンリー・プルシナーなど、数人しか居ないんですね。これらの研究者に共通するのは、他の誰も注目していない新領域を切り開いてきたということだと思います。大隅氏も会見で「競争するのは好きじゃないので、まだ誰もやったことがない分野を選んだ」と言っていました。

もちろん大隅氏の他にも、水島昇さんなど、優れたオートファジー研究者が国内外にたくさんいるのは間違いないですが、それらの成果も全て大隅氏の研究があってのものであり、やはり単独受賞しかないとノーベル賞の選考委員が判断するくらいに大隅さんの功績が他を圧倒していたという事なのでしょう。おめでとうございます。

ノーベル化学賞

分子マシンの設計と合成により、英・仏・オランダの研究者が受賞。日本でこの分野の第一人者と言えば新海征治さんだったので、今回受賞を逃したのは残念だったと思います。でも正直、こんな言い方は大変失礼かもしれないけれど、この分野にノーベル賞が与えられるとは思ってませんでした。

例えば、過去の日本人受賞者を見ても、導電性高分子、不斉触媒、MALDI、鈴木カップリングなど、社会の中で幅広く使われている材料・原理・反応を発見した人に贈られていますよね。分子マシンの研究自体は凄いと思うけど、まだまだ応用には程遠いというイメージなので、今回の受賞はちょっとびっくりしました。

将来有望かもしれないけれど応用はまだまだこれからという分野はたくさんあって、思いつく限りで言うと、光触媒(人工光合成)、配位高分子、EPR効果、DNAナノ構造体、金ナノ粒子などです。これらは毎年ノーベル賞候補にはなってますが、ぶっちゃげ受賞の確率はかなり低いし、貰えたとしてもかなり先だと、個人的には思ってました。でも、分子マシンで貰えるのなら、これらの分野も案外早く貰えるのかもしれません。

長谷川豊氏の暴言

長谷川豊氏の暴言を超えて行こう (1/2)
透析患者だった。
ドクター苫米地ブログ − Dr. Hideto Tomabechi Official Weblog : 長谷川豊さんの「患者自己責任論」発言とMXバラいろダンディ降板に思うこと - ライブドアブログ

この件に関してはもう色んな人が意見を書いているので特に何か言うことはないんだけど、一点だけ言うとすれば、何というか長谷川豊みたいに「遺伝か環境か」「自業自得かそうでないか」「善良な患者か横柄な患者か」みたいな単純な図式で物事を二分できると考えてる人って本当に愚かだなあって思います。

エウロパの探査

木星の衛星エウロパ、氷の下から海水が200kmの高さに噴出?|ギズモード・ジャパン

この記事を読んで、生物学者の長沼毅さんが言ってたことを思い出しました。長沼さんいわく、エウロパの海を探査することは現在の技術でも十分可能だと言うんですね。

しんかい6500という日本の潜水艦は、高い水圧にも耐えられるのでエウロパの海に入れても大丈夫。で、スペースシャトル級のロケットを使えば、しんかい6500を宇宙に持っていくことは余裕でできる。また、南極のボストーク湖でロシアが3000m以上の深さまで氷を掘ることに成功しているので、この技術を応用すればエウロパの氷を掘って海に到達することも可能。

まあ「言うは易し、行うは難し」ですが、実に夢のある話だと思うんです。でも、エウロパで本当に水が噴き出しているのなら、わざわざ掘削しなくても内部の水を探査することが可能となるので、これはかなりの朗報だと言えると思います。

ゾンビ遺伝子

「死」してから目覚めるゾンビ遺伝子が発見される:研究結果|WIRED.jp

まず大前提として、多細胞生物の場合、心臓が止まって死んだ後も個々の細胞レベルでは生命活動が続いている、ということは皆さんお分かりかと思います。一方で、生物が死ねば、細胞の置かれている環境自体は大きく変化することが考えられます。例えば、酸素の供給が止まり、二酸化炭素濃度も上昇するでしょう。必要な各種栄養素の供給もストップします。

であるからこそ、死の前後で発現してくるタンパク質の種類や量に違いが生じるのは当然と言えば当然であり、その中には、普段はほとんど発現しないけど死後に急に発現量が上がるタンパク質もあるでしょう。なので、この研究自体やこのニュースは非常に意義のあるものだと思いますが、ゾンビ遺伝子なんて言い方をするのは非常に違和感があるんですけどねぇ。

子宮頸がんワクチン

あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相(前篇) WEDGE Infinity(ウェッジ)
子宮頸がんワクチンデータ捏造疑惑「科学的議論不足」…信大に研究再実験要求 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

この件で一番問題なのは、情報が錯綜して訳分からなくなってることでも、疫学調査で不正が横行していることでもありません。一番問題なのは、この国で、それも政権の中枢で、真実を捻じ曲げてまで子宮頚がんワクチンの普及を妨げようとする勢力がいるということです。

彼らの表向きの主張は「ワクチンには副作用があり危険」ですが、本音は「子宮頸がんワクチンは女性の婚前交渉を奨励することに繋がり社会秩序が乱れる」なのです。そして、こういう主張をしている連中は、親学とか江戸しぐさを学校教育に取り入れようとしている連中と極めて親和性が高いのです。

生物から見た世界

生物から見た世界

生物から見た世界

今、読んでます。アニメ『フリップフラッパーズ』に出てくるユクスキュルの元ネタ。

本の内容を超ざっくり説明すると、世界を認識する方法は生物種によって全く異なる、という事です。生物はこの世にある「客観的事実」を直接認識することはできません。あくまでも光や音や匂いといった「知覚標識」を通して、脳内に再構成された世界を認識しているに過ぎないのです。また、「光を感じる→明るい方へ向かう」「敵の発見→逃げる」「花の形→蜜を吸う」という風に、「世界の認識」には必ず何らかの「行為」が紐付けられています。

今でこそ、分子生物学脳科学の発達によって、この世界認識の概念が正しいことが明らかになっています。しかし、この本が書かれた1930年代当時に、初歩的な動物行動学だけを頼りにして上のような推察ができたというのは、考えてみると実に凄いことだと思います。