新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

クレヨンしんちゃん映画全部見た(2008~2022)

前回の記事では、第1作目から第15作目までのクレヨンしんちゃん映画について見てきた。

kyuusyuuzinn.hatenablog.com

本記事では、第16作目『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』から、今年公開されたばかりの第30作目『もののけニンジャ珍風伝』までを解説していこう。

クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者

映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者
【あらすじ】暗黒世界の帝王アセ・ダク・ダークは「金の矛」と「銀の盾」を使って世界征服を企てるが、マタタビはそれを阻止するために矛と盾を人間界へと送る。しんのすけは偶然「金の矛」に選ばれた勇者となり、マタタビの娘マタタミと共に、襲い掛かってくるダークの刺客と戦うこととなる。

2008年公開。12年ぶりに本郷みつる氏が監督を務めた。ファンタジックな世界観や奇怪な敵キャラクターが特徴的で、『アクション仮面VSハイグレ魔王』や『ヘンダーランドの大冒険』など初期クレしん映画の雰囲気を感じられる。ヒロインは堀江由衣声のボクっ娘・マタで、その中性的で可愛らしい見た目はしんのすけのみならず、現実世界の「大きいお友達」をも虜にする。

しかし、ストーリー設定上しんのすけが一人で戦うシーンが多くなるため、アクション描写は単調で盛り上がりに欠ける。不必要なカットや、不自然な長い台詞がところどころで見られ、そのせいで映画のテンポは悪く退屈な印象を与える。

クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国

映画クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国
【あらすじ】しんのすけが拾ってきたドリンクを飲んだひろしとみさえは動物の姿に変身してしまい、さらには過激な環境テロリスト集団・SKBEに誘拐されてしまう。SKEBのリーダー・四膳守は、全人類を動物にすることで環境破壊を阻止しようとする「人類動物化計画」を進めようとしていた。

2009年公開。本作と次作『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』がしぎのあきら監督作品。本作は、環境問題とエコテロリスズムという題材により、行き過ぎた正義感に警鐘を鳴らすとともに、地球を守るといった壮大な意思の根底にも必ず個人的な家族愛があることを描く。また、次作は大企業が支配するディストピアを描くなど、両作品とも現実世界の問題とリンクしたテーマを選んでいるように見える。

クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁

映画クレヨンしんちゃん 超時空! 嵐を呼ぶオラの花嫁
【あらすじ】ある日突然、しんのすけの未来の婚約者だと名乗る金有タミコがやってきて、とある目的のためしんのすけ達を未来へと連れていく。未来の日本は金有電機という大企業に支配され、一般市民は貧しい生活を強いられていた。未来のしんのすけは明るい世界を取り戻すために活動していたが、金有電機トップ・金有増蔵に捕えられてしまう。増蔵は自社の利益の為に、娘であるタミコと、金有電機でエリート社員となっていた風間トオルを結婚させようと画策する。

大人になったしんのすけ達が活躍する異色作。未来の世界は、隕石の衝突によって日光が遮られ、電力を独占支配する金有電機によって支配されているという設定。徹底的に利益を追求しようとする増蔵によって、ひろしの勤める会社は倒産に追い込まれ、物価は上昇し、貧富の格差も広がり、野原家がある付近は荒廃している様子が見て取れる。ディストピア小説のような細かい描写によって、行き過ぎた新自由主義的の先にある日本の姿を見ているような感覚に陥る。

最後は未来の野原一家・かすかべ防衛隊らが協力して敵を倒し、しんのすけが持つとされる謎の力・おバカパワーによって街に日光が戻る。作中でタミコは、しんのすけの魅力について「一緒に居て楽しい」ことだと語っており、暗い世の中にあっても常に明るくマイペースな性格が、お金や社会的地位などでは測れないしんのすけの長所として描かれる。ドラえもん映画で言うところの『のび太結婚前夜*1のような構造を持つ作品だと言えるだろう。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦
【あらすじ】スパイの少女・レモンは、自分はアクション仮面の部下だと偽って、しんのすけに仕事を手伝ってほしいと頼みこむ。まんまと騙されたしんのすけは、とある研究所から、食べるとオナラが止まらなくなる物質「メガヘガデルII」を盗み出すことに成功する。レモンの雇い主であるスカシペスタン共和国は、メガヘガデルIIを利用して兵器を作り出そうとしていた。

メガヘガデルIIを保管してある部屋を開けるためにはヘガデル博士の体型データが必須であるため、ヘガデル博士と同じ体型を持つしんのすけが必要だった、という設定。同様の理由でしんのすけが拉致された『ブリブリ王国の秘宝』のセルフオマージュと言えなくもない。かすかべ防衛隊や野原一家の見せ場は少なく、代わりに、「子どもはたまには親にワガママを言うことがあってもいい」というテーマを軸にして、ゲストヒロインであるレモンの成長を描くという側面が強い。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! オラと宇宙のプリンセス
【あらすじ】突如現れた宇宙人によってヒマワリ星に連れていかれた野原一家だったが、そこで何故かひまわりは熱烈な歓迎を受ける。ヒマワリ星人によると、現在、太陽系の平和を保つために必要なヒマ・マターが枯渇しつつあり、それを防ぐためにはひまわりがヒマワリ星で暮らすことが必要だという。野原一家は、家族の絆か、地球の未来かという究極の二択を迫られる。

記念すべき第20作目のクレしん映画ということもあり、ところどころで回想などが入れられて野原一家の絆が強調されているが、脚本はかなり支離滅裂で、意味不明な演出が繰り返される。クライマックスでも、天球儀を模した謎の部屋で野原一家が奮闘すると、何故か世界にヒマ・マターが満ちてあっさり問題解決になるなど、ご都合主義で視聴者置いてけぼりな印象が強い。

クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!

映画クレヨンしんちゃん バカうまっ! B級グルメサバイバル!! 
【あらすじ】B級グルメカーニバルの会場が突如、B級グルメを嫌悪し根絶させようと企む集団・A級グルメ機構に占拠される。かすかべ防衛隊は、B級グルメを救うカギとなる「秘伝のソース」を持って会場へ向かおうとするも、トラブルと敵襲によって森に迷い込んでしまう。5人は時には喧嘩をしつつも一致団結してソースを守り抜き、B級グルメカーニバルへ突撃する。

2013年公開。監督は『TARI TARI』『ソウルイーターノット!』などの橋本昌和。この年以降、橋本昌和氏と高橋渉氏が1年おきに監督を務める体制となる*2。敵キャラとして中村悠一神谷浩史早見沙織など有名声優を起用していることでも話題に。

キャビア、トリュフなどの高級食材の名を冠した敵キャラが次々に襲い掛かってきて、かすかべ防衛隊は内輪揉めで解散の危機に瀕するも、最後は知恵と勇気で敵を蹴散らしてゆく。ラストまで大人の出番は極めて少なく、かすかべ防衛隊の活躍をメインに据えた作品である。

また、敵のボス・グルメッポーイの幼少期の回想なども挿入され、どんなに高級な食材を使った料理でも、マナーなどに雁字がらめになり笑顔を忘れてしまった状態では美味しくない、というテーマ性が浮き上がってくる。最後は「秘伝のソース」で作った焼きそばの美味さが敵すらも感動させ、大団円を向かえるという、クレしん映画史上随一の飯テロ映画である。

クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん

映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん
【あらすじ】腰の治療のためマッサージ店に入ったひろしはそこでロボひろしに改造されてしまう。最初は戸惑いつつも次第にロボひろしを受け入れていく野原家だったが、ある日ロボひろしが豹変し暴力的な性格となってしまう。これは、情けない男達をロボットに改造して昔ながらの「強い父親」を復活させようと目論む組織「父ゆれ同盟」によって仕組まれた事だった。父ゆれ同盟の基地に潜入したロボひろしとしんのすけは、そこで捕えられていた「本物」のひろしを発見する。

脚本は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の中島かずき。子ども向け作品でありながら、人間の意識とは何か、力とは何か、家族とは何か、というSF的・哲学的なテーマを描き出した怪作。

映画前半でひろしの記憶をコピーしたロボットの側に感情移入させることで、人間とロボットとの境界線が揺らいでいく様を描き出す。「テセウスの船」というパラドックスでもたとえられるように、生命の本質とは、体を構成するパーツを入れ替えながらも同一のパターンを保ち続けようとする作用に他ならない。それは、組織の構成員が次々に入れ替わってもずっと継続している会社やスポーツチームなどと本質的には何ら変わりなく、そのような物質の入れ替わりの中で保たれ続ける一定のパターンのことを我々は「生命」と呼び、その中で行なわれる電気信号のやり取りのことを「意識」と呼ぶのである。だとするなら、「ひろしの脳内のパターンをコピーしたロボット」と「本物の肉体を持つひろし」との間に、本物か偽物かという区別はつけられないのではないか。このような科学哲学的問題を、子ども向けアニメの文脈に落とし込みながら描く技法は見事という他ない。

と同時に本作は、家族の在り方について極めて批評的な物語を展開していく。「父ゆれ同盟」の根底にあるのは、父親たちのロボット化、つまり力によって家庭を支配し、保守的な家父長制を復活させたいという野望に他ならない。それは結局のところ、家父長制的なものも男尊女卑的な考え方も元を辿れば「男は女よりも力が強い」という単なる生物学的事実から自然発生した「慣習」に過ぎない、という事実を浮き彫りにする。そうした力の不均衡による支配構造の中に愛は生まれない。しかし、そこに本当に愛が芽生えるのだとしたら、それは力で家族を支配するのではなく、その力で家族を守ることによってであろう、という強いメッセージ性が読み取れる。

クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃

映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~
【あらすじ】メキシコのとある田舎町に生えるサボテンを日本に輸入するため、野原ひろしがメキシコに異動を命じられる。春日部の人々に見送られながら日本を立った野原一家は、メキシコで新しい生活を始める。赴任先の町長は、美味しい実をつけるサボテンを町おこしに利用しようと意気込むが、祭りの日に突然サボテンが動き出し人々を襲い始める。

思わせぶりにタイトルや宣伝で引越しを強調しているが、そういったシーンは序盤であっさり終了し、中盤・後半は野原一家のメキシコでの戦いがメインとなる。植物型の怪物が移動しながら人々を襲う光景は、コミカルでありながらも不気味で印象的。『ゴジラvsビオランテ』『ガメラ2 レギオン襲来』などの怪獣映画を彷彿とさせる。

クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃

映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃
【あらすじ】春日部じゅうの人が同じ悪夢を見る事件が発生。その事件の黒幕である貫庭玉夢彦は、見たい夢を見ることができる世界「ユメミーワールド」を作り上げ、その中で人々の夢から「ユメルギー」を吸い取ることで、娘・サキの見ている悪夢を消し去ろうとしていた。かすかべ防衛隊と野原一家は、サキが悪夢を見るようになったきっかけを知ることとなり、サキを救うために再び夢の中へ潜入してゆく。

しんのすけ達と同い年の女の子・サキを中心とした物語を通して、夢を見ることの大切さ、そして、どんな時でも変わらない母の愛を描く。ゲストキャラとして子どもが登場したクレしん映画はこれまでにもあったが*3しんのすけ達と同い年でしかも女の子というのはこれまでありそうでなかったパターンである。

クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ

映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ
【あらすじ】ナースパディ星からやってきたシリリは、バブバブパワーでひろしとみさえを子ども化してしまう。2人を大人に戻すためにシリリと野原一家は、シリリの父が待つという種子島へと向かう。だが、シリリの父は、全人類を幼児化し再教育を施そうという「人類バブバブ化計画」を進めていた。

2017年公開。本作から野原ひろしの声優が、藤原啓治から森川智之に交代となった。

第19作目『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』や、前作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』などと同様、野原一家とゲストキャラの家族関係とを対比的に描く作品。これまで父親の期待に応えるためだけに頑張ってきたシリリが、しんのすけ達との交流を通して少しずつ変わっていく過程を感動的に描くと同時に、子どもの自尊心を傷つける毒親的な教育方針や、怯えている子どもをリアリティショー的に消費する文化への批判的なまなざしを内包する。

クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~
【あらすじ】かすかべ防衛隊の5人はチャイナタウンでタマ・ランとその師匠に出会い、伝説のカンフー「ぷにぷに拳」の修行を始める。その頃、ブラックパンダラーメン社長のドン・パンパンは、「やみつき拳」よって人々をラーメン中毒にして金儲けをしようと企む。その企みを阻止するため、タマ・ランとしんのすけは「ぷにぷに拳」を極め、最終奥義を習得するために中国へと向かう。

昔ながらの商店を駆逐していくブラックパンダラーメンと、その副作用によって凶暴化し狂ったようにラーメンに食らいつく人々の描写は、得体の知れない調味料と大量の油によって客をシャブ漬けにする飲食チェーン店と、それに踊らされる現代日本の消費者を痛烈に皮肉っている。

その後、苦労してぷにぷに拳の最終奥義を体得したランだったが、強すぎる正義感と怒りによって我を見失い、些細なルール違反をした人でも容赦無しに制裁を加えていくようになってしまう。これは、災害の後などに不謹慎な行動をとった人を見つけ出して吊るし上げにする行為に代表されるような、現代日本における正義の暴走を表現しているのではないだろうか。そのようなギスギスした社会において、どんな時でもおバカで柔軟な発想を持ったしんのすけのような存在が必要なのだということを、高らかに謳い上げて作品は幕を閉じる。

クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~

映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~
【あらすじ】オーストラリアに旅行に来た野原一家だったが、仮面族にひろしが誘拐されてしまう。彼らは「金環日食の時に選ばれた花婿を花嫁に捧げればお宝が手に入る」という言い伝えを信じ、ひろしを花婿として祭壇まで連れて行こうとする。残されたみさえ達は、トレジャーハンターのインディ・ジュンコと協力してひろしの奪還を目指す。

2019年公開。本作から野原しんのすけの声優が、矢島晶子から小林由美子に交代となった。

ジャングルでしんのすけ達が奮闘するというクレしん映画にお馴染みのパターン*4を駆使して、ひろしとみさえとの愛を描く。ここ数年のメッセージ性の強い作品とは違い作品構造は単純ではあるものの、ジャングル・水辺・遺跡・岩場などあらゆる舞台で野原一家がハチャメチャに動き回る痛快さがある。

クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者

映画クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 [DVD]
【あらすじ】ラクガキングダムは地上の子ども達の自由なラクガキをエネルギー源として空に浮かんでいたが、現代の子どもがラクガキをしなくなったため墜落の危機に瀕していた。そこでラクガキングダムは春日部に侵攻し、特殊なカメラで大人達を壁の絵に変え、子ども達に無理やりラクガキを描かせようとする。しんのすけは、描いた物を具現化できるミラクルクレヨンを使って、春日部を救うために奮闘する。

ラクガキという題材を通して、子どもを型にはめ自由な発想を奪う現代の教育を批判的に描く作品。例えば駅に描かれたラクガキからキース・へリングのような独創的なアーティストが生まれたように、若い人の自由な発想こそが新しい文化を生み出し、社会に活力を与えてくれるのだということを謳い上げる。

そして、しんのすけと共に戦ったゲストキャラの少年・ユウマが、常にタブレットを持っていたことに象徴されるように、街中からラクガキが消えてもその精神はネット上で生き続けていることも描かれる。今や、pixivやyoutubeニコニコ動画、各種SNSなど、あらゆるネットメディアで誰もが自由に作品を発表できる時代となり、今後はそのような場所こそが芸術の発信源になるということを示唆している。

クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園 [DVD]
【あらすじ】天カス学園に体験入学したカスカベ防衛隊の5人だったが、風間君が謎の吸血鬼に襲われてアホ化してしまう。しんのすけ達は生徒会長・阿月チシオと協力して事件の謎を解き明かすも、今度は風間君がスーパーエリート化してしまい、しんのすけの前に立ち塞がる。

2021年公開。学園が舞台のため、ひろしやみさえの出番が非常に少ない分、しんのすけと風間君との友情に焦点が当てられ、さらに学園ミステリーの要素も組み込まれた異色作。

私立天下統一カスカベ学園、略して天カス学園では、オツムンというAIによって生徒の成績や行動が監視され、数値化されている。ランク上位の生徒は様々な特権を得られるが、ランク下位の生徒は学園の隅に追いやられ差別的な待遇を受けるというシステム。それは、例えば中国の芝麻信用のような、様々なネットサービスによって人々のあらゆる行動がランク付けされ、人々がそのランキングに縛られていく様子を分かりやすく表現している。AIによってありとあらゆる行動を監視することが可能になった現代だからこそ起こり得る問題を掘り起こし、教育・社会制度の「食べログ化」に警鐘を鳴らす作品だと言えよう。

クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝

【あらすじ】忍者の里から脱げだしてきた屁祖隠ちよめ・珍蔵の親子は、野原一家を言いくるめて泊めてもらうが、追っ手に襲われてちよめとしんのすけが里へ誘拐されてしまう。忍者の里には、地球内部にあるエネルギー「ニントル」が溢れ出さないように巨大な金塊で栓をした「地球のへそ」と呼ばれる場所があった。そこを代々守る屁祖隠家の子どもとして生活を始めたしんのすけだったが、「地球のへそ」の栓が外れてしまい、地球は滅亡の危機に瀕することとなる。

2022年公開の記念すべき第30作目のクレしん映画。近年のクレしん映画によく見られる、ゲストキャラの親子が抱えている問題と世界規模での危機とが分かち難く結びついており、それらを野原一家が一致団結して解決する、という構図の作品。しんのすけと珍蔵の2人が普段と異なる環境に行く事で初めて家族の大切さや自分の本当の気持ちに向き合い、その中でしんのすけの誕生からこれまでの歩みが回想で流されるなど、30周年の節目に相応しい内容。

まとめ

近年のクレヨンしんちゃん映画についてまず最初に言えることは、初期の頃と比べて映像のクオリティが格段に上がっているということだろう。これは『ドラえもん』などの他の劇場版アニメでも言えることだが、アニメの製作工程のデジタル化が進んだことが大きく影響している。一方で、映画自体の面白さが上がっているかというと、そうとは言い切れない面もあり、単純に作画が良ければ良い映画になるわけではないという所に、アニメ製作の難しさが感じられる。

次に、前回記事でも挙げた、①オカマ、②ラスボス、③ヒロイン、④かすかべ防衛隊、という観点から映画を俯瞰してみよう。参考までに、前回記載した表も再掲する。

初期のころの映画では必ず登場していたオカマキャラだが、第7作目の後はほとんど登場しなくなり、その傾向は現在まで続く。『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』では例外的にオカマが出てくるが、オカマという単語は一切使われていない。初期の映画をリアルタイムで見ていた層は、「クレしん映画=オカマが出てくる」という印象が強いかもしれないが、実際にはオカマが登場しない作品の方が多数であることが分かる。

敵キャラについては、お馴染みの宇宙人・異世界人から、悪徳企業のトップ、果てはサボテンまで、前回以上に多様化していることが分かる。第30作目『もののけニンジャ珍風伝』に出てきた長老が典型的だが、最初はラスボスだと思われていたのにクライマックス手前でフェードアウトしていくキャラも結構いる。

ヒロインキャラについても、初期によく見られたような、きれいなお姉さんが野原一家と協力して敵を倒すパターンは少なくなり、ヒロインに相当するキャラが居ない映画もある。しんのすけの好みの綺麗で有能なお姉さんよりもむしろ、どこか抜けていて親しみやすいヒロインが増えているように感じる。

かすかべ防衛隊についても、しっかり活躍する映画が多数派であり、主要キャラ全員に満遍なく見せ場があるように脚本を工夫していると考えられる。

最後にクレヨンしんちゃん映画全体を貫くコアの部分について述べておこう。クレしん映画の芯となるもの、それは何と言っても、おバカこそが世界を救うんだという事である。世間では真面目で真剣であることが良い事とされ、ふざけてバカなことをするのは悪い事とされがちである。だが、しんのすけはおバカだからこそ常に明るくマイペースで、柔軟な発想が出来るのだ。そのおバカなパワーを駆使して、大人の痛いところを突き、予想不可能な動きで大人を翻弄する。その痛快さこそが、クレしん映画が世代を超えて愛される最大の理由ではないだろうか。

そこに、野原一家の絆や、かすかべ防衛隊の友情という要素、時には社会的・教育的なメッセージが加えられることで、単なる子ども向けアニメではない、大人が見ても面白く、感動するアニメ映画が次々に生み出された。こうして、かつてPTAなどから「子どもに見せたくないアニメ」とまで言われた作品は、今や、多くの人に愛される国民的アニメ映画シリーズとなったのである。

また、『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の原恵一、『ガールズ&パンツァー』『SHIROBAKO』の水島努、『四畳半神話大系』『映像研には手を出すな!』の湯浅政明など、日本を代表する数多くのクリエイターが、『クレヨンしんちゃん』を通して技術を磨き、その後世界に羽ばたいていった。

クレヨンしんちゃん映画が作られて今年でちょうど30年となるが、これからも40年、50年と映画は続いていくだろう。そして、その中で活躍したスタッフが、また別の名作を手掛けていくに違いない。

*1:1999年公開。『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』と同時上映された短編映画。将来本当にしずかちゃんと結婚できるのか心配になったのび太が、ドラえもんと一緒にタイムマシンで結婚式の前日へ向かう、というお話。

*2:2020年公開の『激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』のみ京極尚彦監督。

*3:例えば、『ブリブリ王国の秘宝』のスンノケシ王子、『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』マタ・タミ、『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』のレモンなど。

*4:例えば、『ブリブリ王国の秘宝』『嵐を呼ぶジャングル』『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』など。

クレヨンしんちゃん映画全部見た(1993~2007)

今年4月22日、記念すべき第30作目のクレヨンしんちゃん映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』が公開される。ちょうど良い機会なのでこれまでのクレしん映画を第1作目から順に見直してみた。今回はまず、第1作『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』から、第15作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』までの簡単な解説をしてみようと思う。

クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王

映画 クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王 矢島晶子
【あらすじ】アクション仮面を演じる俳優・郷剛太郎の正体は、平行世界で正義のヒーローとして戦う本物のアクション仮面だった。元の世界に帰れなくなったアクション仮面に代わり、野原一家が平行世界に呼ばれるが、そこでしんのすけ達が目にしたのは、オカマの宇宙人・ハイグレ魔王に侵略されハイレグ姿にされた人々だった。

1993年公開。本作から『ヘンダーランドの大冒険』までの4作品が、本郷みつる監督作である。

記念すべき第1作目のクレヨンしんちゃん映画だが、名作とされる他の初期クレしん映画と比べると、本作の出来はかなり悪いと言わざるを得ない。本作の7年後に公開された『嵐を呼ぶジャングル』ではアクション仮面の設定が異なっており、公式にも半ば「なかったこと」にされているのかもしれない。しかし、子ども向け映画とは思えないような奇怪で不気味な映像表現や、高い所に登ってのドタバタアクションなど、後のクレしん映画の方向性を決定づけた作品と言える。

クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝

映画クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝
【あらすじ】福引でブリブリ王国5泊6日の旅を当てた野原一家だったが、実はそれが罠で、しんのすけはホワイトスネーク団に誘拐されてしまう。敵のアジトでしんのすけが目にしたのは、姿形がしんのすけと瓜二つなブリブリ王国王子・スンノケシであった。

前作に比べると脚本は大幅に改善されており、単なる子どもだましな映画にはしないという製作陣の努力が伺える。欲望に塗れた分かりやすい悪人を、しんのすけが子どもならではの自由でおバカな発想によって倒すという、クレしん映画全体を貫く痛快さのようなものがはっきりと打ち出されている。

クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望

映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望
【あらすじ】タイムパトロール隊員のリング・スノーストームは、時間犯罪の兆候を嗅ぎつけて過去に向かうが、事故により20世紀でシロの体に憑依してしまった。彼女と野原一家が戦国時代へと向かうと、そこには吹雪丸という侍が待っていた。吹雪丸は自分と一緒に雲黒斎を倒してほしいと頼み込むが、その雲黒斎こそがタイムパトロールの追っていた時間犯罪者であった。

タイムマシンやタイムパラドックスなどを駆使したSF色の強い作品。戦国時代で吹雪丸しんのすけが協力して雲黒斎を倒し、吹雪丸とその家族は平和な日常に戻り終了、と思いきや実は雲黒斎は生きていて20世紀で歴史改変を企んでいた、というクライマックスが2つに分かれる珍しい構造をとる。

クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険
【あらすじ】ヘンダーランドの王子と姫を幽閉したオカマ魔女・マカオ&ジョマは、しんのすけ達がいる世界をも支配しようと画策する。からくり人形の女の子・トッペマとしんのすけは魔法のトランプを持って逃げ出すが、ひろしとみさえが人質に取られてしまう。2人を助けるため、しんのすけはヘンダーランドへと舞い戻る。

絵具で書いたような色彩と輪郭をあえて歪めたデザインで描かれるヘンダーランドの造形が特徴的。その中で描かれる奇怪なシーンの数々、特にひろしとみさえがカラクリ人形に入れ替わるシーンは今見てもゾッとするほど怖い。ラストの城を駆け上がりながらの追いかけっこのシーンは、1分あまりのシーンだが作画・画面構成・声優の演技など全てが伝説級の仕事である。まさに初期の頃のクレしん映画の良さを全て結晶化したかのような名作。これは、クレしん映画に第1作目から設定デザインで参加し、本作では絵コンテも務めた湯浅政明氏の功績も大きいだろう。

クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡

映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡
【あらすじ】強大な魔人・ジャークの力が秘められた玉をひまわりが誤って飲み込んでしまう。ジャークの力を使って世界を支配しようとする珠黄泉族と、それを阻止しようとする珠由良族との争いに、野原一家が巻き込まれていく。

1997年公開。本作から『アッパレ!戦国大合戦』までが原恵一監督作品となる。また、しんのすけの妹・ひまわりが登場する最初の映画でもある。

ひまわりを含めた野原一家の絆がテーマとなった作品。ひろしの名言として有名な「自分一人ででかくなった気でいる奴はでかくなる資格は無い」が登場する作品でもある。新宿・健康ランド・大型スーパー・青森県臨海副都心へと逃亡・追跡を繰り返しながら、各地で玉を巡るド派手なバトルが展開される。その度に仲間が敵に捕まったり、ひまわりが誘拐されたりと、状況が目まぐるしく変化していく構成はまさにハラハラドキドキの連続であり、『オトナ帝国』や『戦国大合戦』に並ぶ名作との呼び声も高い。

クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦

映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦
【あらすじ】強力なコンピュータウイルスを駆使して世界制服を目論む悪の秘密結社「ブタのヒヅメ」に、正義の秘密組織SMLのメンバー、コードネーム・お色気が潜入する。お色気はウイルスの入ったディスクを奪う事に成功するも、その後しんのすけ達と共に「ブタのヒヅメ」に捕まってしまう。敵の幹部がディスクを起動させるが、その中にいたのは、天才科学者が作り出した電脳生命体・ぶりぶりざえもんであった。

サイバーテロ、AI、仮想空間など、21世紀に多く登場するSF作品のテーマを先取りしたような内容。また、クライマックスでしんのすけがぶりぶりざえもんと対話する場面は、これまでのクレしん映画には見られないシリアス要素もあり、後の『オトナ帝国』『戦国大合戦』に繋がるようなクレしん映画の方向転換が垣間見える。

クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦

映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦 / 映画クレヨンしんちゃん クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉
【あらすじ】風呂を憎む悪の組織・YUZAMEは、巨大ロボットを使って地下のマグマを海に流す「地球温泉化計画」を実行に移す。その計画を阻止するため温泉Gメンが立ち上がり、野原家の地下にあるとされる「金の魂の湯」の掘削を開始する。

巨大ロボットが埼玉を襲撃するシーンでは、TV中継や政治家、さらに自衛隊も登場するなど、怪獣映画を意識した演出が特徴的。怪獣大戦争のテーマに合わせて大量の戦車が行進するシーンは、本作の絵コンテ・演出として水島努氏が参加していることもあって『ガールズ&パンツァー』を彷彿とさせるが、水島氏は後に当該シーンの絵コンテは原恵一監督であったと述べている。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル
【あらすじ】アクション仮面を演じる俳優・郷剛太郎としんのすけ達が乗ったクルーズ船がサルに襲撃され、大人達は全員南の島に連れ去られてしまう。島に潜入したかすかべ防衛隊・ひまわり・シロは、アフロヘアーの屈強な男・パラダイスキングを発見。サルと人間を奴隷化し自分の王国を築こうという彼の計画を阻止するため、アクション仮面が戦いに挑む。

2000年公開。本作以降、第20作目の『嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』まで、ほとんどの作品タイトルに「~~を呼ぶ」が入る。

アクション仮面にスポットを当て、ヒーローとは何か、正義の味方とは何か、というテーマを深く掘り下げた作品。大人達が何者かに連れ去られ、大人達を救うためにかすかべ防衛隊が出動する、という構図は次作『オトナ帝国の逆襲』でも引き継がれる。第1作目からずっと登場してきたオカマのキャラクターが一切登場せず、また、しんのすけ側の味方として戦うお姉さんも登場しないなど、これまでのクレしん映画でお決まりとされた構造を打ち破った作品。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲
【あらすじ】薄汚れた現代日本を嫌悪するケンとチャコは、20世紀博というテーマパークを作って大人たちを「懐かしい匂い」によって洗脳し、子ども時代に見た輝かしい20世紀を取り戻そうと計画する。かすかべ防衛隊は20世紀博に潜入し、大人達の洗脳を解こうと奮闘する。

2001年公開。子ども向けTVアニメの劇場版でありながら数々の賞を受賞し、子ども達よりもむしろ大人が感動し泣ける作品と称賛された金字塔的作品。クレしん映画の得意とするド派手なアクションやギャグを残しつつ、懐かしさとは何か、過去とは何か、大人になるとはどういうことか、という究極のテーマを描き出す。

20世紀博の中にある街は明らかに昭和30年代頃の東京であり、ひろしとみさえはその街並みを見て強烈な懐かしさを覚えているが、そもそも2人は秋田・熊本の出身であり子ども時代に東京でそのような光景を見たはずがない。それは、実際には昔にも数多くの凶悪犯罪が発生していたにもかかわらず「昔は犯罪が少なく平和だった」と過去を回顧するようなもので、人の記憶の中にある過去は、現実とは乖離していることが多いのである。「懐かしさ」によって作り上げられた世界には、汚いものや不快なものは無く、見たいものだけが見える。だが、そこに未来はない。

だからこそ、ひろしとみさえの洗脳を解くのは足の臭いなのであり、たとえどんなに臭く汚れていても私たちはその未来を選ぶという高らかな宣言が、強烈なエモさとなって観客の胸を打つ。これが21世紀最初の年に公開されたという時代性も含めて、歴史に残る傑作と言えるだろう。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦
【あらすじ】戦国時代にタイムスリップしたしんのすけ達は、春日家に仕える侍・井尻又兵衛と出会う。又兵衛は春日家当主の娘・れんに恋をしていたが、想いを打ち明けられずにいた。隣国の大名・大蔵井高虎が春日領に攻め込み、又兵衛らは戦に出陣していく。

2002年公開。文化庁メディア芸術祭アニメ部門の大賞を受賞し、後に実写映画としてリメイクもされるなど、傑作と評される作品。子ども向けアニメとは思えないほどのリアルな合戦シーン、しんのすけと又兵衛との友情、そして又兵衛が鉄砲で撃たれて死ぬという衝撃のラスト等によって、視聴者に強い印象を残した。また、同じ原恵一監督作品で戦国時代が舞台となった『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』*1を彷彿とさせるシーンも多い。

だが、友情やラブロマンスを中心に据えた物語によって、クレしん映画の醍醐味であるおバカでハチャメチャな雰囲気は薄れている。クライマックスに至るまでの脚本も他のクレしん映画に比べて起伏に乏しく、また、野原家がタイムスリップできた理由もかなり苦し紛れな説明しかなされない。良くも悪くもクレヨンしんちゃんらしくないストーリーであり、それを無理やり力技でクレしん映画として完成させたという印象が強い。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード
【あらすじ】朝食中の野原家に白衣を着た謎の男が侵入、その男を追ってきた軍人風の男もやってきて野原一家を拘束しようとする。野原一家は家から逃げ出すが、何故か街中に指名手配が出されてしまい、身を隠しながら逃亡する羽目に。追跡者の一人から聞いた情報をもとに、野原一家は敵のアジトがある静岡県熱海市へと向かう。

2003年公開。本作と次作『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』が水島努監督作品となる。

最初から最後まで水島監督らしいシュールで不条理なギャグの連続で、前作『戦国大合戦』とは方向性が180度変わっている。クレしん映画は毎回ゲストキャラと野原一家が協力して戦うのがお決まりだが、本作はそれに該当するキャラクターはおらず、野原一家が孤立無援の中で戦うという珍しい構造になっている。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 夕陽のカスカベボーイズ
【あらすじ】しんのすけ達が迷い込んだ古い映画館でスクリーンを見ていると、突然映画の中の世界に吸い込まれ西部劇に出てくるような町に辿り着く。知事ジャスティス・ラブの圧制とも戦いながら、しんのすけ達は春日部に戻る方法を探る。

よく分からないまま映画の世界に引きずり込まれ、そこで生活していくうちに元いた世界の記憶を徐々に忘れていく、という怖ろしい状況下で物語前半はゆっくり進行する。そして後半は打って変わって、元の世界に帰るために立ち上がったかすかべ防衛隊、改めカスカベボーイズを中心とするド派手なアクションが繰り広げられる。少し切なく独特な余韻を残す終わり方は、水島監督の味がよく出ている。ヒロインを演じた声優がだいぶ棒読みなところが残念なポイント。

クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃
【あらすじ】未来から来た時空調整員・ミライマンは野原一家に、もうすぐ怪獣が現れて世界が破滅すると告げる。それを阻止するために野原一家は3分後の世界に向かい、ヒーローに変身して怪獣と戦うことになる。

2005年公開。本作から『歌うケツだけ爆弾!』までの3作がムトウユージ監督作品である。

序盤・中盤は、一体ずつやってくる多種多様な怪獣を野原一家の誰かが変身して迎え撃つ、というシーンがただ繰り返されるだけ。怪獣を倒して調子に乗るひろし・みさえ、何故か唐突に登場する波田陽区怪獣など、ギャグも完全に滑っている。終盤、何故かそれまで倒した怪獣がアクション仮面やカンタムロボの姿を借りて野原一家の味方に付くなど、意味不明な展開になるも、特に盛り上がることもなく終了。最初から最後まで面白くしようという工夫を一切感じられないストーリー構成で、本記事で挙げたクレしん映画の中でも一二を争う駄作であろう。

クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!

映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!
【あらすじ】街中の人々がいつの間にか本人そっくりのニセモノと入れ替わってしまうという事件が発生。そのニセモノは狂ったようにサンバを踊りながら、周りの人をニセモノへと変えてゆく。幼稚園の先生や風間くんもニセモノと入れ替わってしまい、野原一家は春日部から逃げ出そうとするがニセモノ達に捕えられ、地下にあるアジトへと連行されていく。

前半はホラー映画調の不気味な演出が多用され、得体の知れない何かが日常に侵食してくる恐怖をこれでもかと見せてくる。特に、スーパーでみさえの偽物が出てくるシーンは大人が見てもゾッとするレベル。陽気なサンバの音楽も、逆に不気味さを際立たせる。

ニセモノの正体はこんにゃくで作られたクローンであった。黒幕のアミーゴスズキは、世界サンバ化計画を進め世界中の人々にサンバを躍らせようと画策するも、最後はしんのすけ達の春日部音頭に圧倒され敗北する。前半の緊張感と盛り上がりがすごかった分、後半は肩透かしを食らったような気持ちになる。竜頭蛇尾という言葉がよく似合う残念な作品。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!

映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌う ケツだけ爆弾!
【あらすじ】沖縄旅行中にやってきた野原一家だったが、しんのすけが拾った謎の円盤がオムツ型に変形しシロにくっついて取れなくなってしまう。実はその円盤は宇宙から飛来した爆弾で、爆発すれば地球が丸ごと吹き飛ぶレベルの危険物だった。爆弾をシロごとロケットで地球外に捨て去ろうと試みる組織・UNTIと、爆弾を使って世界制服を目指す組織・ひなげし歌劇団との間で、熾烈なシロ争奪戦が始まる。

ひなげし歌劇団、UNTI、そして野原一家という三つ巴の対立構造をとる、クレしん映画としては珍しいタイプの作品。ひなげし歌劇団がド派手で荒唐無稽な理念を掲げるクレしん映画にありがちな敵キャラだとするならば、UNTIは「爆弾から地球を守る」という目的があるため単純な悪役とは言い切れない面がある(しかし、UNTIの長官・時雨院時常の非人間的な側面も強調され、最終的には本映画のラスボス的ポジションとなる)。一方、この映画のメインでは、これまであまり着目されなかったしんのすけとシロとの絆が描かれ、タイトルの印象とは真逆の感動的な作品となっている。

まとめ

ひとまず1993年から2007年までに公開された15作品をまとめてみた。その中でも最も初期のクレヨンしんちゃん映画に共通する特徴としては、以下のような点が挙げられる。

  1. オカマ*2が登場する。
  2. 敵は分かりやすい悪党で人間離れした能力を持っている。
  3. きれいなお姉さんと野原一家が協力して敵と戦う。
  4. かすかべ防衛隊*3はほとんど活躍しない。

そして、時代が新しくなるにつれて、これらの特徴に当てはまらない作品が増えていく。それらを表にまとめてみた。

多くの人がご存じのように、初期のクレヨンしんちゃん映画には必ずオカマが登場する。『ハイグレ魔王』や『ヘンダーランド』のようにオカマがラスボスになってる作品もあれば、『暗黒タマタマ』のように味方側のキャラとして出てくる場合もある。そして、多くの作品でオカマの「気持ち悪さ」をギャグにしており、ポリコレ的観点から今日では放送できないような描写が多く存在する。第7作目の『爆発!温泉わくわく大決戦』を境としてオカマはほとんど登場しなくなる*4

一方、敵キャラについては、初期の作品では宇宙人・魔女・超能力者など、超人的な能力を持っている場合が多く、見た目や性格も分かりやすい悪党という感じである。しかし、原恵一監督作の後半になるにつれて悪役も普通の人間になる傾向が強く、『オトナ帝国』のケンとチャコに至っては単純な悪役とは言い切れない複雑なキャラ設定を持っている。新しい映画であるほど、映画のラストで改心し和解するラスボスも多い。

また、しんのすけ達と一緒に戦うきれいなお姉さんキャラも、初期の映画では必ず登場していた。しかし、8作目以降では登場しない作品も増え、登場したとしても『戦国大合戦』の廉ちゃん、『カスカベボーイズ』のつばきのように、戦闘にはあまり参加しないケースも出てくる。

かすかべ防衛隊(風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃん)については、初期の5作品ではほとんど活躍の場はないが、第6作目を皮切りに出番が増えていく。ただし序盤・中盤での出番が主であり、クライマックスでは登場しない映画も多いが、第12作目の『カスカベボーイズ』ではクライマックスでもしっかり活躍している。

こうして見返してみると、上記の特徴の内、②敵キャラ、③お姉さん、④かすかべ防衛隊、は互いに関連した現象と言えなくもない。初期の作品では、戦闘能力の高いお姉さんがゲストキャラとして登場し、敵キャラとバトルをする傾向が強い*5。しかし後期の映画では、野原一家やかすかべ防衛隊全員に見せ場が用意され、彼らが直接敵と戦うシーンが多くなった。その結果としてお姉さんキャラを登場させる必要性が減っていったのだろう。また、それに伴い敵キャラも、野原一家が頑張れば何とかなるレベルにパワー調整がされているのかもしれない。

というわけで、今回は第1作から第15作目まで、年代で言うと1993年から2007年までのクレヨンしんちゃん映画について述べてきた。今年公開の映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』(シリーズ第30作目にあたる)を映画館で見た後、16作目以降の映画についても感想を述べたい。

*1:1991年公開。『ドラえもん のび太ドラビアンナイト』と同時上映された。のび太のご先祖・のび平を助けるため、調査ロボットのアララとドラミちゃんが戦国時代へ向かう、というストーリー。

*2:差別語だが作中でオカマという言葉が使われているのでそのまま表記する。

*3:しんのすけ、風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんにより結成された組織。

*4:第11作目『嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』でゲイ風の男が登場したり、第15作『嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』でオネエ口調のキャラが登場したことはあったが、明確にオカマと分かるキャラは第7作目以降登場しなくなる。

*5:第1作目『アクション仮面VSハイグレ魔王』など、例外もある。

『縄文と世界遺産』感想

2021年に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」についての解説書。この世界遺産登録に関して、よく言われている「何故、北海道・北東北が対象なのか」「建物等が現存しない遺跡を世界遺産登録する意義は?」といった疑問に答える本と言えるだろう。

まず第一の疑問について、今回世界遺産になったのは北海道・青森県岩手県秋田県にある17か所の縄文遺跡であるわけだが、何故日本の他の地域にある遺跡は対象でないのか、という疑問は当然出てくるであろう。これにたいして著者は、そもそも縄文文化というものを一括りに捉えることは難しいと述べる。世界遺産に登録されるためにはその遺跡が「顕著な普遍的価値」を持つ事を立証しなければならないが、場所や時代によって多種多様な縄文遺跡を一まとめにしてそれを立証することは無理があると考えられる。例えば「百舌鳥・古市古墳群」と「宗像・沖ノ島と関連遺産群」のように同じ古墳時代の遺跡でも別々の世界遺産として登録されているように、縄文の中でも一部に着目して世界遺産としているのである。

著者は北海道・北東北の縄文遺跡の特徴について以下の4点を挙げている。

  1. 東アジアの中でも最初期に土器が誕生し使用されたこと
  2. 環状列石(石を環状に並べて作った祭祀場)が作られたこと
  3. 上記のような特徴が津軽海峡を超えて伝播し一つの文化圏が形成されたこと
  4. 農耕の発達が遅れ、狩猟採集を中心とする生活が長い期間継続したこと

特に「狩猟採集」については、例えば西洋では土器などが発達すると同時に小麦などの農耕生活に移行するのに対して、土器を持ながらも狩猟採集生活を1万年以上も継続させた文化というのは世界的にも珍しいとされる。これら4つの特徴を併せ持つ遺跡群は他に例がなく「顕著な普遍的価値」がある、というロジックによって世界遺産への推薦がなされているため、他地域の遺跡は対象とはしていないのである。逆に言えば、北海道・東北以外の地域の縄文遺跡でも、また別の切り口から「顕著な普遍的価値」を証明できれば、世界遺産登録される可能性もある。

第二の疑問についてもよく言われるところであろう。縄文遺跡の多くは、発掘が終わると土壌を保護するために盛り土がされ、その上に環状列石のレプリカを並べたり、縄文時代にあった建物を復元するなどし、一帯は公園として整備される。土器・石器・骨などの出土品は博物館などに持っていき管理される。つまり、世界遺産となった遺跡に観光客などがやってきても、本物の建物跡は土の中にあり、出土品は博物館に持って行かれてるのだ。中には、土器や石斧が見つかっただけで、住居跡や祭祀場跡は一切見つかってない遺跡すらある。世界遺産は建物などの不動産を対象とするため、出土品それ自体は世界遺産にはならない。よって、そのような遺跡は、単に「貴重な遺物が発掘された場所」という意味合いしか持たない。*1

これを世界遺産という観点からどう捉えるべきだろう。確かに、現地に行っても殺風景な公園があるだけでは、他の世界遺産と比べて見劣りしてしまう、と思うのも無理はない。こうした遺跡を世界遺産とする意義があるとすればそれは何なのか、その疑問の答えも本書に書かれている。

実際のところ、世界遺産に地域・時代の偏りがあることは事実であり、制度ができた当初は、例えばヨーロッパにある綺麗な寺院とかお城とかが数多く世界遺産登録された。古代の遺跡についても、例えば壁画が描かれた洞窟とかが登録されている。要するに、これまでの世界遺産は、「パッと見てスゴいと分かる芸術性があるもの」が中心だったわけである。

しかし近年ユネスコは、そうした偏りを是正し、世界各地の幅広い年代の遺物を世界遺産として保護していこうと試みており、特に先史時代の遺跡について登録数を増やす方向に進んでいる。よくよく考えてみれば、人類が高度な文明を築いたのは高々5千年前ほどであり、その何倍もの長さの先史時代が存在しているにもかかわらず、先史時代に関する世界遺産は少ない。これまであまり注目されてこなかった部分を強化し、世界各地に存在したあらゆる文化をカバーしていこうという流れの中で、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録がなされたのである。

こうした遺跡は確かに京都・奈良などに比べれば地味かもしれないが、上で挙げたような世界で類を見ない特徴を持つ貴重な遺跡であることは間違いない。それらを発掘された当時のまま保存し、そこに遺跡があったことを伝えていくために、世界遺産という制度はあるのではないか。縄文時代を含む先史時代の遺跡が世界遺産登録されることは、この地球上に西洋の価値観とは異なる多種多様な文化が存在したことを後世に伝えていくという、重要な役割を担っているのだ。

これは縄文遺跡に関わらず、日本にある他の世界遺産についても重要な示唆を含んでいると個人的に思う。最初の頃に世界遺産となった京都・奈良の寺社、姫路城、日光、厳島神社などは、見た目も美しく多くの観光客を魅了している。一方、後から世界遺産となった場所、例えば石見銀山富岡製糸場明治日本の産業革命遺産、百舌鳥・古市古墳群などは地味で、時には「がっかり名所」など酷い言われ方をする場合もある。しかし、だからといってそれらが「世界遺産に相応しくない」かと言えば決してそうではない。それは、見た目の美しさや、スケールの大きさなどが無いため、その価値が一般人には分かりづらいというだけである。これは世界遺産に限った事ではなく、見た目だけではよく分からない歴史遺産の価値をどう人々に伝えるかが今後の大きな課題といえるだろう。

*1:同じようなケースは他にもあり、例えば、南アフリカにある「南アフリカの人類化石遺跡群」はアウストラロピテクスなどの化石が見つかった地として世界遺産登録されている。これも、建物などではなく単に「化石が見つかったという事実」のみに価値が置かれた世界遺産であるといえる。

『タコピーの原罪』感想

宇宙からやってきたハッピー星人であるタコピーは、小学生の女の子・久世しずかと出会う。タコピーは様々なハッピー道具を使ってしずかを笑顔にしようと試みるが上手く行かず、ある日、しずかは自宅で首を吊って死んでしまう。その理由を探るために、タコピーはハッピーカメラの能力で過去に戻る。

タコピーが出してくる様々な道具、しずかというキャラクター名、空き地に置かれた土管など、明確に『ドラえもん』へのオマージュが見受けられるけど、本家と根本的に異なるのは、舞台が東京ではなく地方であるという点と、不思議な道具を使ってもしずかちゃんを救うことができない点だと思う。

作中では細かい場所などは示されてないが、舞台が北海道であることだけは明記されている。また、作中の風景などから推察するに、舞台は札幌のような大都市ではなく、森や田畑が近くにあり建物が疎らにしか存在していない田舎のような土地である。少子高齢化が進んで活気を失ってしまった現代日本の地方都市。例えば、同じ北海道を舞台にした『僕だけがいない街』、あるいは『半分の月がのぼる空』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『スーパーカブ』などを彷彿とさせる。

タコピーはしずかちゃんに連れられて学校に潜入するが、そこでは雲母坂まりなという同級生からしずかちゃんが壮絶なイジメを受けている。しずかの親や教師はイジメについて見て見ぬ振りを続けており、誰もしずかを助けてはくれない。現実の日本はここまで酷い状況ではないと思いたいが、これは教育や福祉といった行政サービスがほとんど機能していないという状況を示唆しているのではないだろうか。

一番分かりやすい例が交通網である。国鉄民営化の後、北海道内にある路線は次々に廃線となり、路線バスなどに置き換わった。そのバスですら、過疎化が進む地域では維持することが難しくなっている。多くの地域で、交通網だけでなく、地元企業や町内会や神社・寺といったあらゆる地域コミュニティを維持することが困難になってきている。本作に描かれているのは、鉄道やバスが次々に廃止され、あらゆる地域コミュニティが崩壊した先にある、地方都市の姿かもしれない。

一方、ここで物語の視点が入れ替わり、まりなちゃんサイドの悲惨な状況も判明していく。実はまりなの父親はしずかの母親と不倫関係にあり、そのことが原因でまりなの母親は精神的に不安定になり、家庭環境は崩壊してしまっている。であるがゆえに、まりなはしずかへの憎悪を募らせ、執拗にいじめを繰り返すようになったのだ。

タコピーはハッピー道具を使ってしずかちゃんを救おうとするが、その試みはどれも的外れで問題の解決には繋がらない。しかも、しずかちゃんが大切にしている愛犬・チャッピーがまりなちゃんに噛みついてしまい、保健所へ送られてしまう(作中では明記されてないがおそらくは殺処分されてしまう)。タコピーはハッピーカメラで何度も過去に戻るが、その度にまりなちゃんが上手く立ち回ってチャッピーが保健所送りになるよう仕向けるため、未来を変えることができない。

ひみつ道具を駆使してのび太を助けるドラえもんとは真逆の状況。目の前に道具はあるにもかかわらず、タコピーはしずかちゃんを救うことができない。それはまるで、様々な福祉制度が十分に機能していない日本の現状を見ているよう。新自由主義の影響を受けて貧富の格差が増大した後も、政府は貧困対策と称して様々な政策を打ち出しているが、それが十分に機能していない。例えば各種の手当や奨学金、減税措置、生活保護などの制度で救われた人がいる一方で、そのセーフティネットでカバーできない人々がいる。富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる。最も支援を必要とする人達が、その支援制度にアクセスできていないという矛盾。本作は、21世紀の日本にドラえもんは居ない、という事実をこれでもかと突きつけてくる。

そしてここから物語は怒涛の展開を見せる。まりなちゃんに暴力を振るわれていたしずかちゃんを助けるために、タコピーがまりなちゃんを殴打し殺してしまう(その際、ハッピーカメラは壊れて過去に戻れなくなる)。しずかちゃんは、まりなちゃんが死んだことを悪びれる様子もなく、その場に居合わせていた同級生・東くんを焚きつけて死体の隠蔽を諮る。東京にいる父親のもとに行けばチャッピーに会えると思い込んだしずかちゃんは、東くんと共に東京行の旅行計画を立てる。

その後、隠蔽工作がバレて警察沙汰に発展。しずかちゃんは東くんに罪をかぶせ*1、しすかちゃんとタコピーの2人だけが東京へ向かう。父親の住むマンションを訪れたしずかだったが、そこにチャッピーはおらず、父親はしずかの知らない子ども達と一緒に新しい家庭を築いていた。しずかは「あの子たちがチャッピーを食べちゃったのかも」「人間をつかまえて胃の中を調べる道具 出して」などとタコピーに迫り、もはや正気を失っているのが見て取れる。タコピーは震えながら「わかんないっピ…」と返し、この場面が「無理難題を吹っ掛けられて困惑する」というシチュエーションを表すコラ素材としてネット上でバズった。

何故タコピーはしずかちゃんを救うことが出来ないのか。それは、「分からない」からである。宇宙からやってきたタコピーにとっては、しずかちゃんやまりなちゃんの苦しみはなかなか理解することができない。それは、国民全体を一まとめにして「こうすれば皆が幸せになれるんだ」と上から押さえるような、今の日本の政治状況と全く同じであるように感じる。耳障りの良い言葉や強い言葉で人々を従わせるだけでは、国民が何を望んでいるのかは分からない。

タコピーがもう自分を助けてくれないと分かると、しずかはタコピーを殴打、タコピーはかつての記憶を思い出す。高校生になったまりなちゃんに拾われたタコピーだったが、ここでも上手くいかずにまりなちゃんは母親を殺したのちに自殺する。自殺の原因となったしずかを殺すためにタコピーは過去に戻ったが、記憶を失ってしまった状態で小学生の久世しずかと出会う。

全てを思い出したタコピー。まりなちゃんが幸せになるためにしずかちゃんを殺さなければならない。だが、しずかちゃんはタコピーを救ってくれた。タコピーの中の善悪は揺さぶられ、思考は混乱する。そこに東くんが現れ、タコピーへの感謝の言葉を述べて去っていく。東くんが残した「助けてあげようなんて思うのが違ったんだ」という言葉を胸に、しずかちゃんと対峙するタコピー。ボロボロになりながらもお互いの気持ちをぶつけ合い、ようやく仲直りする。

そして最後はタコピーが自らの体を犠牲にしてタイムスリップし、「おはなしがハッピーをうむんだっピ」という言葉と共に物語は幕を閉じる。一人一人と真摯に向き合い「おはなし」を続けなければ、人を救うことはできない。「おはなし」は全てを解決する魔法ではないし、「おはなし」しても他人を完璧に理解することなどできないが、それでも「おはなし」こそが最後の希望なのだという高らかな宣言。

全く救いのない状況からよくこのエンディングに辿り着いたと思う。その間、SNSなどで多くの人が物語を見守り、数多くの考察がなされ、その反応まで全て込みで完成された作品だった。単行本にしてわずか2巻という短さで、作中の細かい設定や展開などはあまり描写されず分からない部分もあるが、別にそれで構わないと思う。しずかちゃんと、まりなちゃん、そして東くんが、無事に大人になり、幸せになってくれれば、それでいい。

最終回のラスト、高校生になったしずかとまりなが並んで買い物に行く姿が、2人の明るい未来を何よりも明確に物語っていた。

*1:作中では明確に自首したとは描写されてないが、東家に悪い噂が立ち大変な状況の追い込まれていることが示唆されている。

東京都のアーケード街(その1)

阿佐ヶ谷パールセンター

f:id:kyuusyuuzinn:20180519150728j:plain
場所:阿佐ヶ谷駅南口にある。
天井:アーチ状だが複雑な構造
道幅:細い
長さ:約700m

高円寺パル商店街

f:id:kyuusyuuzinn:20180408122633j:plain
場所:高円寺駅の南口側。(北口側には小説名としても有名な高円寺純情商店街がある)
天井:アーチ状
道幅:細い
長さ:アーケード部分が300mくらい

荻窪北口駅前通

f:id:kyuusyuuzinn:20170730115627j:plain
場所:名前の通り荻窪駅北口にある。荻窪駅周辺にある11箇所の商店街のうちの1つ。
天井:平面的。結構古そう。
道幅:細い
長さ:100mくらい

西荻窪 仲通街

f:id:kyuusyuuzinn:20180401151235j:plain
場所:西荻窪駅南口に広がる飲み屋街の中にある。
天井:平面的。カラフル。結構古そう。
道幅:細い(荻窪北口駅前通よりさらに細い)
長さ:100mくらい

吉祥寺サンロード商店街

f:id:kyuusyuuzinn:20170730140902j:plain
場所:吉祥寺駅北口にある。
天井:平面的。
道幅:中くらい。
長さ:300mくらい。

中野サンモール

f:id:kyuusyuuzinn:20200407211822j:plain
場所:中野駅北口。アーケードを進んで突き当りに中野ブロードウェイがある。
天井:ちょっと三角みを帯びたアーチ状
道幅:中くらい。
長さ:250mくらい

赤羽LaLaガーデン

f:id:kyuusyuuzinn:20200407222118j:plain
場所:赤羽駅東口
天井:アーチ状
道幅:広い。歩道有り。
長さ:約300m

十条銀座商店街

f:id:kyuusyuuzinn:20170701113234j:plain
場所:埼京線十条駅の西口側。
天井:アーチ状
道幅:中くらい
長さ:300mくらい