新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『Aチャンネル』と『けいおん!』の比較―るんとトオルとの微妙な距離感

Aチャンネル』と『けいおん!』は、出版社が同じということもあり、今後いろいろと比較されると思う。両作品の共通点として、主要登場人物の相関が「複数の先輩と、一人の後輩」という形になっていることが挙げられる。しかし、『けいおん!』ではキャラクターが軽音部という特定の集団に所属していたが、『Aチャンネル』ではキャラクターが何らかのはっきりとした目的を持って集団を形成しているわけではない。るん・ナギ・ユー子という2年生組とトオルとを結ぶ接点は、心理的・経験的な親密性でしかありえない。とりあえず、両作品におけるキャラクターの相関図を簡単に示して見よう(親密な関係にあるキャラ同士を青線で結んである)。

まず『けいおん!』については、主要キャラ5人が軽音部に所属していて、お互いの親密度は同じくらいであると言える。*1 また、軽音部外での関係については、梓は純・憂とも親しく、唯は憂とも親しい(というか姉妹)、という事になっている。一方、Aチャンネルでは、当初は、るん・ナギ・ユー子という2年生組が三角形の集団を形成していて、その外部でるんとトオルが親しい、という関係が成り立っていた。それがしばらく経つと、るん・ナギ・ユー子・トオルという4人の関係になり、その外部でトオルとそのクラスメイト2人が仲良くしているという構図になった。しかし、この4人の関係は、クラスや部活という社会的な共通項を持たない。つまり、これはあくまでも心理的・経験的な集団でしかないので、上図でも点線を用いて軽音部と区別した。*2

入学したばかりの頃は、トオルにとって、るんとの関係以外は「おまけ」でしかなかった。いや、それ以上に、ユー子やナギの存在は、るんと自分との関係を維持する上で「目障り」なものですらあった。端的に言えばトオルは、ユー子やナギに嫉妬していたわけだ。しかしその構図は、物語が進むにつれて徐々に変化してゆく。ユー子やナギとも親密になり、第2巻では「末永く四人で仲良くしていけますように」と絵馬に願い事を書くようになっている。しかし、トオルにとって頭の痛い問題がもう一つあって、要するに学年が違うという、絶対的な距離感というものがあるわけだ。『けいおん!』の場合は、上級生と梓は軽音楽部という部活動によって結びついていたけど、『Aチャンネル』ではそれが無い。るん・ナギ・ユー子は同じクラスメイトだけど、トオルは一つ年下の下級生。この疎外感というものはどうしようもない。

日常系4コマ漫画において(というか、現実の学校生活でもそうだけど)、集団を形成する方法は幾つかある。『けいおん!』のようにある特定の部活に入るとか、『らき☆すた』のように同じクラスになるとか。何らかの社会的な共通項がある者同士であれば、その親密な関係を維持することは比較的簡単になる。*3 でも、その共通項が無くなってしまえば、親密な関係はあっと言う間に失われてしまう危険性を孕んでいる。だから、かがみはこなた達と同じクラスになりたいと思ってるわけだし、先輩達が卒業してしまうという事実を前にして梓は泣いてしまうわけだ。で、問題の『Aチャンネル』についてだけど、こちらはキャラ間の共通項というものが元々から無い(2年生組は「同じクラス」という共通項があるけど、そこにトオルを加えた4人組の場合は、部活も学年も違っているから共通項が見出せない)。だから、トオルはいつも寂しい気持ちを抱いてしまう事になる。

さらに、るん達が卒業した後には、いわゆる「あずにゃんぼっち問題」みたいに、「トオルンぼっち問題」が浮上してくるかもしれない。あずにゃんぼっち問題は、一般的には、「卒業しても放課後ティータイムとしての活動は継続するよ」とか「純・憂が軽音部に入るからOKだよね」的な展開で解決を見たことになっている。でも、『Aチャンネル』の場合は、部活じゃないから前者みたいな心理はなかなか働かない可能性もある。唯一、トオルのクラスメイトとしてユタカとミホがいるのが救いではある。けど、トオルにとって大切な一番大切なのはやっぱりるんなんですよねえ。澪と律の関係もそうだけど、やっぱり幼馴染だからね。

るん>>>ナギ=ユー子>>>ユタカ=ミホ

言うまでもなく、トオルという子は結構人見知りなところがあるので、あの4人組に代わる関係を構築することは大変だし、というか、本人はそれをしようとは思っていないだろう。サザエさん時空にでもしない限りこの問題は解決しないし、そもそも学年が違うということに起因する疎外感は解消不可能だ。だから、原作でもアニメでも、トオルの「るんちゃんと同じ授業うけたいな」的な心境は今後もずっと描かれると思う。

とりあえず、上の文章を整理してみましょう。

  1. トオルにとって、るんとの関係は掛け替えのないものであり、入学当初はその関係に割り込んできたユー子・ナギに嫉妬していた。それは次第に「ずっと4人と一緒にいたい」という気持ちへと変化していったが、依然としてるんとの関係が最も親密だと思われる。
  2. トオルとるん達は、『けいおん!』の軽音部のように何かはっきりとした目的を持って集まっているわけではない。この4人はあくまでも心理的・経験的に親しい間柄であって、社会的な共通項があるわけではない。
  3. ユー子・ナギ・るんの3人は学年とクラスが同じという共通項があるが、トオルは一つ年下である。ゆえに、常に疎外感と寂しさ、および「トオルンぼっち問題」が付きまとうであろう。
  4. トオルは人見知りではあるが、一応、ユタカとミホというクラスメイトとは仲が良い。しかし、この二人の存在が「トオルンぼっち問題」の解決につながるかどうかは分からない。

残念なことだが、「るんちゃんと同じ授業」を受けたいというトオルの想いは、(留年・飛び級でもしない限り)絶対に叶う事はない。むしろ、トオルの感じている孤独感みたいなものを癒すための代替策が必要なわけだ。それがどのような形になるのかはまだ分からない。いずれにせよ、上で述べたような、るんとトオルの微妙な距離感をどう描くかが、アニメ化成功のカギを握ってるような気がする。*4

*1:正確に言えば「律と澪は幼馴染だから親密度が高い」とか「紬と梓はあまり親密度が高くない」とか色々あるけど、細かい違いは省略する。

*2:Aチャンネル』における物語の「場」というものは、部活やクラスのように社会的に認知された集団ではなく、極論を言えば、作者によって設定されただけの集団という事が言えるだろう。詳しいことは「アニメ・ライトノベル・マンガを考察する、とはどういうことか」を参照のこと。

*3:それと同じ原理で、あまり馬が合わない相手とも否応なしに付き合わなきゃならない、という人間関係もあるわけだけど。

*4:個人的には、「サザエさん時空」は根本的な解決にはならないと思うんだけどね。アニオタ保守本流さんじゃないけど、るんとトオルの「別れ」みたいなものを描くという展開も、十分アリじゃないかと思う。