新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ハルチカ~ハルタとチカは青春する~』総評

『ハルチカ』を見て二言目にはホモアニメとかホモチカとか騒ぎ立てているバカどもがウザかったので、この作品に対してちょっと気の毒に思う面もあるのだが、それを差し引いたとしても、いやそれおかしいだろと思う部分が多々ある作品だった。まず第一に、主人公であるハルタとチカの行動に全く共感ができない。部員を増やすためだか何だか知らないが、赤の他人の内面にズカズカと入り込んで行って、お前ら何様のつもりだと思った。また、ハルタが成島さんを評して「オーボエを長く続けてると息苦しい性格になる」などと言っていたが、お前、オーボエ奏者を何だと思ってんの? というわけで、序盤があまりにもひどかったので、徹底的にあら探しをしないと気が済まなくなってしまったのである。

例えば、肝心の推理描写にしても、いくら日常的に油絵具を扱っている家庭とはいえ、普通の高校生じゃ到底解けないような難問を死ぬ間際に残していく弟っていったい…。しかも、ハルタがそれを見事に解読して、ちょうど成島さんの前で絵具が剥がれ本当のメッセージが見えてくるとかもう、あまりに出来すぎててこっちが赤面しそうになった。あと細かいところでは、「エレファンツ・ブレス」の原作改悪もひどかった。あれは元々、清水南高校の発明部のところに朱里から依頼が来て、そこから話が進んでハルタ達が推理を始めるという話なのだ。なのにアニメ版では、朱里が直接ハルタに会いに来たという形になっているので、見ず知らずの高校生に「エレファンツ・ブレスってどんな色や?」と聞いて回ってる頭おかしい人みたいになってんじゃねえか!

そもそもこの作品のミステリー要素は、いくらなんでも今の高校生は知らないだろっていうレベルの知識がないと解けないし、逆にキーとなる知識さえあればあっさり謎が解けてしまうという、お世辞にも良質とは言えないものだ(本当に優れたミステリーは、はじめに前提となる知識が提示されて、それを元にして緻密に論理を組み立てて謎に迫っていくものではないだろうか)。その欠点は、人間ドラマとかでカバーしなければならないが、それが全然カバーできてなかった。

そんな中、一番良かった話を強いて挙げるとすれば「初恋ソムリエ」だろうか。まあストーリーについては、チカと芹澤さんが以前から偶然にも知り合っていて、さらに、かつて学生運動に参加していた叔母さんが偶然日本に帰国していて、偶然チカ達の高校に恋愛研究などという変わった活動をしている生徒がいて、高校生でも頭をひねれば解けるレベルの謎が偶然用意されていて、そして、その時に「チカや芹澤さんが漠然と感じていた不安」と「叔母さんによって持ち込まれた謎」とが偶然にもリンクしている、という感じなのでちょっとやりすぎだと思う。いや、もちろん、推理小説というものは多かれ少なかれ非現実的な偶然が重ならないと成立しないものではあるのだが、『ハルチカ』に関してはちょっと度が過ぎると思うのだ。

でも「初恋ソムリエ」は何と言っても芹澤さんが可愛いし、原作ではなかなか気付けなかったこの可愛さを堪能できたというだけでアニメ化した意味があったと言えるだろう。例えば、朝霧と言い合いになって「何時何分何秒地球が何回回った時」とか言い出した時は可愛すぎて爆笑したが、気になって原作を読み返してみると、アニメと全く同じ台詞が書かれていた(笑)。最初に小説で読んだ時は全く気にも留めずスルーしていた場面だが、映像と音声が入るだけでこうも破壊力ある場面に変わるとは……。その後、チカが家でくつろいでる時にチャイムが鳴って、こんな夜中に誰や→え?芹澤さん?→しかも後ろにハルタと朝霧おるやん!→しかも何故か2人とも紐で拘束されとるwww、と段階的に状況が分かるようになってる場面もなかなか上手い作りだと思った。また、研究所に飾ってあるビート板に「片桐圭介 初恋格付け 4級」とか書かれいて「っておい!部長なにやってんのwww」となるシーンなど、いろいろ小ネタが入っていて楽しかった。