新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『プリンセス・プリンシパル』のプリンセス=エリザベス女王説

理由1 国民からの絶大な人気と政治家顔負けの外交手腕

60年以上の長きにわたってイギリスの女王として君臨するエリザベス2世。第二次大戦中は軍に入隊してトラックでの物資輸送も行うなど、常に国民に寄り添ってきた。ラジオ・テレビの普及に伴い、厳格で神聖なこれまでの王室のイメージは大きく変わっていった。

第二次大戦、植民地の独立、アイルランド紛争、サッチャー政権の誕生、アパルトヘイトの廃止…。イギリスとそのかつての植民地が歩んできた歴史、その舞台裏には常にエリザベス女王がいた。もちろん女王には政治的な権限は無いものの、様々なパーティーで各国要人と堂々と渡り歩くエリザベス女王の姿は、イギリス外交に無くてはならないものだった。ある時、イギリスの外相がエリザベス女王の外交手腕を褒め称えた。女王は「私が何年この仕事をやってるかご存じでしょう?」と答えた。

子どもの頃から様々なパーティーなどで経験を積み、公務、交渉、そしてスパイ活動までこなすプリンセスの姿は、若き日のエリザベス女王と重なるものがある。

理由2 突然やってきた女王即位への道

そんなエリザベス女王が即位するまでの道のりもまた、運命のいたずらとしか言いようのない数奇なものだった。

エリザベス女王の祖父・ジョージ5世の死去にともない、その長男がエドワード8世として国王に即位する。しかし、彼とアメリカ人女性ウォリスが不倫関係にあることが世間に知れ渡り、時の首相は「王冠を取るか、ウォリスを取るのか」と問う。結局ウォリスと共に生きる事を選択したエドワード8世は退位し、その弟でありエリザベス女王の父でもあるジョージ6世が新たに国王となった。

その後ジョージ6世は国民と共に第二次大戦を戦うこととなる。その姿は映画『英国王のスピーチ』でも描かれた。だが、元々病弱だった彼は1952年に56歳の若さで死去。その長女エリザベスがわずか25歳で女王に即位することとなる。

もしエドワード8世の退位がなければ、王位はその子・孫へと受け継がれ、エリザベスは一介の王族に過ぎなかっただろう。叔父の突然の退位によってわずか10歳で大英帝国の王位継承順位第1位となり、父の突然の死によって若くして女王に即位したエリザベス2世。この数奇な運命はまるで、革命の勃発によってシャーロットと入れ替わり、突如として王室での生活を余儀なくされたプリンセスと瓜二つではないだろうか。

理由3 フィリップとの結婚を巡る駆け引き

女王と70年以上付き添うエディンバラ公爵フィリップ。彼の出自と女王との出会いもまた、数多くの運命のいたずらと陰謀に満ちている。

1939年、エリザベスは父ジョージ6世と共にとある海軍兵学校を訪問する。そこで接待役を務めたのが、当時士官候補生だったフィリップ・マウントバッテンであり、2人はそこで意気投合する。国王一家がヨットに乗って学校を去る際、フィリップが制止を振り切って手漕ぎボートで追いかけてきて、ジョージ6世が「ちょ、何してんねんアイツ」と呆れるという場面もあった。その時の印象が余程強かったのか、エリザベスとフィリップはその後もデートや文通などを続け、1947年に結婚と相成った。

ところで、マウントバッテン家は元々バッテンベルクを名乗るドイツ貴族で、ヴィクトリア女王とも血縁関係のある由緒正しい家系であった。その後一族がイギリスに帰化し、名前を英語読みのマウントバッテンに改名していた。

フィリップの叔父であるルイス・マウントバッテンは、第二次大戦で名を上げた軍人であったが、生来の野心家であり王室の「乗っ取り」を画策していたとも言われている。ジョージ6世が亡くなった直後、ルイスは自宅で「マウントバッテン朝」の誕生を祝して乾杯を挙げ、この話を耳にした王室関係者は激怒したという。

事実、マウントバッテン家は元を辿ればヴィクトリア女王にも通じる貴族であったので、法律上は王朝名がウィンザー朝からマウントバッテン朝に変更されてもおかしくなかった。そもそも、海軍兵学校でエリザベスとフィリップが初めて出会った際、フィリップを接待役として当てがったのも、ルイスの差しがねだったと言われているのだ!

皆さんもうお分かりだろう。自分の息のかかった者を巧みに王女に近づけ、王室の乗っ取りを諮る…。これもう完全に、チェンジリング作戦じゃねーか!

結局、マウントバッテン家との係争が長引くのを恐れたエリザベス女王は、王族の名字として「マウントバッテン=ウィンザー」を使うことを認めざるを得なかった。係争の中心にいたルイスは、1979年、北アイルランド武装勢力によって暗殺された。ルイスを慕っていたチャールズ皇太子は知らせを聞いてひどく落ち込んだ。その時に彼を慰めたのが、あのダイアナ妃であると言われている。

まとめ

結局、紆余曲折はあったものの、エリザベス女王とフィリップはかれこれ70年以上、仲睦まじく結婚生活を続けている。これは、女王の妹・マーガレットや、長男・チャールズ皇太子が、恋愛関係をゴシップ誌で取り沙汰され、離婚を経験したのとは対照的である。

というわけで、プリンセスとアンジェも、添い遂げることは確実であると思われるのだ。

参考文献:君塚直隆著『エリザベス女王』(中公新書