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新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

NHKのニュースでiPS細胞について解説していた八代嘉美氏が、かつて『週刊SPA!』で『魔法少女まどか☆マギカ』について熱く語っていた、という話

京都大学山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞を各メディアが一斉に報じていたが、NHKのニュースでiPS細胞の解説をしていた東京女子医科大学八代嘉美特任講師が、『週刊SPA!』2011年7月19日号で『魔法少女まどか☆マギカ』について熱く語っていた事を知る人はあまりいない。この号では、彼以外にも宮崎哲弥宮台真司らが『まどマギ』について思い思いの言葉で語っており、このブログの以前の記事でもそれを紹介している。

さて、この特集で八代氏は『まどマギ』について次のように述べていた。

私の専門である再生医療の問題にしても、正解はありません。まどかが最終的に自らの意思で選択したように、万能な答えではないと知りながらも何かを選ばなければならないときがある。そのことに改めて自覚させられる。そういう結末なのかなあと。
(中略) 自分がやりたい研究をやるためには予算がいる。そのためには成果が必要で……とグルグルやっていくうちに次第に手段と目的がずれてしまう。どの世界でもあることですし、大人はそれがわかっていても選択しなくちゃいけない。結局は選択を繰り返すことで誰しもが大人になっていく。そんなシリアスで根源的なテーマを持ったアニメだと思います。

『まどマギ』と言う作品を、完璧な選択がない世界でそれでも少女達が選択を下して大人になってゆくという構図で見ると、確かに近年の再生医療との関連が少し見えてくる。そもそも再生医療が注目されている最大の理由の一つが、臓器移植に変わる新しい治療法の開発だろう。今日まで、臓器移植によって数多くの患者の命が救われている。しかしそれは、臓器を提供するドナーの死を前提として成り立つ医療技術でもある。この他にも、拒絶反応や脳死判定といった倫理的問題があり、現在でも臓器移植に対する賛否両論が沸き上がっている。この問題について完璧な正解が得られる日など永遠に来ないだろう。こういった倫理的問題を解決する方法として注目されたのがiPS細胞であるが、実用化に向けた課題はまだまだ山積しているのが現状だ。*1

八代氏が言うように、研究を続けていれば「次第に手段と目的がずれて」いくということは結構あると思う。その中でも山中氏が、患者のため、人のためになる成果を出す、という目的を見失わずに研究を続けて来られたのは、やはり若い頃の経験が大きかったのではないかと思う。彼は、夢と希望を持って整形外科の臨床医になったのはよかったものの、現在の医学では治療の出来ない患者を目の当たりにしたり、周囲から「じゃまなか」と呼ばれるほど手術が苦手であったりということもあって、臨床医になることを諦めて基礎研究の道に進んだわけだ。たとえ手術が難しくても目の前の患者と向き合うか、より多くの患者を救うために成果が出るかどうかも分からない基礎研究の道に進むか。どちらの道を選ぶかは人によって違うし、どちらが正解か決めることもできない。しかし重要なのは、自分や周りのおかれた状況を見ながら、ベストとは言えなくても、自分の納得できる選択を下して前に進む事なんだろうと思う。そうした選択を繰り返す中で、ごくまれにiPS細胞のような画期的な成果が生まれ、世界は変わってゆく。

八代氏が述べていたのは、そうした研究者・医療従事者としての心構えが、『まどマギ』のテーマとも通じるところがある、という事だったのではないかと思う。

*1:そもそもiPS細胞を使って人工的に臓器を作れるようになるまで後何年かかるか分からないし、もしかしたらずっと作れないままかもしれない。現状では、iPS細胞を使って神経や網膜の細胞を開発したり、病気発生のメカニズムを探る研究を行ったり、といった分野の方に注目が集まっている。