新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『響け! ユーフォニアム』総評

演出・ストーリーについて

  • 個人的な好みもあるが、7話、8話あたりから大化けした印象が強い。そこから最終回まで、各話それぞれに異なる見どころや味わい深さがあった。
  • この手の作品に有りがちな「主人公補正」が一切無く、あくまでも吹奏楽部という組織の一員として主人公を描いていたのが新しいと思った。例えば他の作品なら、新人特有の柔軟な発想で危機を乗り越えるとか、主人公の行動がきっかけとなって部の雰囲気が変わっていったとかいう感じで、主人公にはある程度の活躍の場が設けられている。しかし本作の主人公・久美子は終始、吹奏楽部という組織の中で流され、振り回され、苦悩する一人の部員として描かれていた。
  • 部員の数だけ頭の中に思い描く理想の部活像があり、一人ひとり部活に対する考え方も能力も性格も違っている以上、全員が納得できるルールや方針を作ることは不可能だし、摩擦や不満が生じるのは避けられない。例えば、第2話で行われた多数決、練習に対するモチベーションの差、葵ちゃんの退部、オーディション合格組と落選組との対比、年功序列実力主義かの対立、など。そういった部員間の差異と対立をこれでもかと描き出し、そこから何とか折り合いをつけて部のあり方や方向性を決めていこうとする人間ドラマが、実に見ごたえがあり素晴らしかった。
  • 吹奏楽部の練習の場合、運動部などのように肉体的な限界まで自分を追い込む的なものではないので、努力してる感じ、一生懸命さ、ストイックさを表現するのが難しいが、本作ではあらゆる方法を駆使してそれを上手く表現していた。しかも、安易な長時間練習してますよアピールでごまかすことなく、真正面から努力を描いたのが良かった。例えば、炎天下で一心不乱に個人練習をしている姿、緑輝の指に巻かれたテーピング、練習中の鼻血(鼻血は熱中症の症状の一つ)など。

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  • ペットボトルを用いた演出がやたら多かった印象。例えば、あすか先輩が久美子(第10話)や中世古先輩(第11話)と話している時、手にはペットボトルが握られている。夏紀先輩や久美子が個人練習している時もペットボトルが登場する。いずれも重要な場面なので何か演出上の意味がありそうだが、私にはよく分からなかった。誰か分かる人は教えてほしい。

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各キャラクターについて

  • 同パートの友人にすら本音を隠しているように見える久美子と、誰とも混じらず孤高に生きる麗奈、その2人が惹かれ合い、愛を深めていく過程が実に美しい。特に第8話で、久美子と麗奈が2人だけで山に登ってる時の怪しげな会話の数々は、食い入るようにTVを見つめてしまった。普段は必要以上にベタベタすることはないが、何かある度に二人の距離が精神的にも物理的にも急接近し、お互いが影響を及ぼし合うその関係性は、友人・恋人・ライバルといった言葉では言い表せない独特な雰囲気を纏っていた。
  • 葉月・川島・秀一あたりについては、メインとなるエピソードもあるにはあったが、少し掘り下げ方が浅かったかなあと思う。葉月ちゃんについては、吹奏楽初心者であるが故の苦悩、久美子・秀一との三角関係などが描かれており、まだマシなレベルだったが。2期がもしあるのなら、もう少し1年生組にスポットが当たるようにしてもらいたい。
  • いつも気だるげな表情で窓際にいて低音パート内でぼっち状態だった中川夏紀先輩が、久美子たちと次第に打ち解けていったのが本当に良かった。オーディションに落ちた後も久美子を気遣い、感謝の言葉まで口にする彼女の姿は、まさに地上に舞い降りた天使そのものだった。
  • 第10話と第11話のデカリボンちゃん(本名・吉川優子)の行動は、野球で例えるなら、ファールかホームランか微妙な打球に対して「あれは絶対ホームラン!ビデオ判定を要求します!」って抗議するんじゃなくて、「審判が八百長やってる!」とか「飛距離は十分なのにホームランにならないなんて、そもそも野球のルールがおかしい!」とか言ってるレベルなんで、なんかもう話が噛み合ってないというか、見てられないほど痛々しかった。それも全て中世古先輩を想っての行動ではあるのだが、肝心の先輩は小笠原部長とイチャイチャしてるし、……もう、夏紀先輩と付き合えば良いと思うよ。
  • 泣き虫で頼りないけど誰よりも部員のことを考えていて、いつも貧乏くじを引かされる小笠原晴香部長が愛おしくて仕方なかった。特に、第7話であすか先輩からハンカチを受け取り、涙を拭きキレるまでの一連の仕草が最高に可愛い。その後、「あんたも断れば良かったんだよ」と言われて完全に心が折れた時の表情も素晴らしい。傷ついた部長の家に中世古先輩が出向いて話を聞いてあげたのと同じように、第11話では今度は部長が中世古先輩に寄り添い励ましていたのが、百合的にすごく興奮した。

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  • 部のムードメーカーとして常に明るく振る舞っていた田中あすか先輩の化けの皮が次第に剥がれていき、物語が進むにつれて彼女の異質性が浮き上がっていく展開はすごくワクワクした。
  • そして忘れてはならないのが、第7話で退部することになった葵ちゃん。部活動を描く作品では、部員全員が一つの目標を共有して一致団結して頑張る様子を美化して描いているが、その団結について行けずに辞めてしまう部員もいるという事実はあまり描かれない。顧問が変わり部員の意識も変わっていく中で、葵ちゃんはマイノリティとなって退部に追い込まれた犠牲者だ。葵ちゃんは吹奏楽がそれほど好きじゃなかったと言っていたが、そんな吹奏楽部での活動は、彼女の今後の人生においてどういう意味を持つのだろう。部活動に費やされた膨大な時間と労力を通して、彼女は一体何を得たのだろう。大切な仲間を得た? でもそれは吹奏楽部でなくても得られるものだよね? 私はどうしてもこんな風に穿った見方をしてしまうが、そんな理不尽さを前にして感じた苦悩や挫折感が、彼女の人生において最終的にプラスの意味を持つようになると信じたい。

その他、気になったこと

  • 他の京アニ作品と同様、モブキャラの可愛さが光っていた。特にアニメ第10話で、片づけられた毛布の上にダイブしてたおさげ髪の八重歯の子が、バカっぽくて可愛い。リボンの色からして久美子と同じ1年生だと思われるが、あすか先輩から「何遊んでんの? 練習したくないんなら帰って良いんだよ? ほら、練習の邪魔だからさっさと帰んなよ、ほら早くしなって!」みたいな感じで煽られて、一気に表情が曇り涙目になる八重歯ちゃんを、遠くから「ぎゃははは、ざまあwwwww」って笑いながら眺めていたい。

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  • 本作や他の京アニ作品の舞台となっている、都会から近からず遠からずの距離にある関西近郊の住宅地の描写が結構好きだったりする。騒がしいというほど都会でもなく、のどかというほど田舎でもない、それでいて無機質な新興住宅地とも異なるあの感じ。実際に住んだことはないが、京都や大阪からも近く、住み心地良さそう。
  • 声優については、1年生と2年生に若手を配置し、3年生キャラはベテラン(と言っても十分若いが)の実力派声優を置く布陣が良かった。特に、はやみん部長の情緒不安定な演技が可愛くて最高だった。
  • 各話終わるたびに色んな人が自分なりの考察をブログなどで発表していたので、それを読むのが本編と同じくらい楽しかった。特に印象に残った記事を下に挙げておく。個人的に良いと思った記事に共通する特徴としては、(1)他の作品と比較するなど、多面的な観点から作品を考察していること、(2)論点が明確で分かりやすく、その人にしか書けないと思わせるオリジナリティがあること、といった点が挙げられると思う。

注目記事(順不同)