新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

ノーベル賞と基礎研究・応用研究について

はじめに

ここ1~2年、CRISPR-Cas9技術によるゲノム編集が注目されるようになってきています。関連特許をめぐる研究者間の争いなどのニュースもよく耳にします。

CRISPR-Cas9は、従来法に比べてはるかに低コスト・短時間で簡単にゲノムを改変できる技術であり、開発者が将来ノーベル賞を受賞するのは間違いないと見られています。それと関連して、CRISPRの発見者である九州大学の石野良純教授もノーベル賞を貰えるんじゃないかという声も聞かれるようになりました。例えば、以下のような記事です。

要するに、GFPの発見で下村脩さんがノーベル賞を貰ったのと同じように、第一発見者である石野さんもノーベル賞を貰えるんじゃないか、ということらしいです。じゃあ実際にこの分野の研究者にノーベル賞が贈られるとなった時に、石野さんが同時受賞の上限である3人までの中に入る可能性はあるのか? という話になるわけですが、それについて個人的な印象を述べると、これはもう「ノーベル賞の選考委員がCRISPR-Cas9技術のどの部分を評価するか」によって決まるとしか言いようがないわけです。

CRISPR-Cas9研究の流れ

そもそも研究の流れをざっと整理すると、次のようになります。

  • まず1986年、石野氏らが大腸菌のゲノム中に奇妙な回文配列を発見します。その後、他の細菌にも似たような配列が次々に見つかり、これが後にCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)と呼ばれるようになります。
  • 次に、CRISPRの近傍にCRISPRと関連する遺伝子が複数見つかり、そこから発現するタンパクはCasと呼ばれるようになります。この段階ではまだ、CRISPRやCasが一体何のために存在するのか不明でした。(今日ゲノム編集で一番よく使われているCas9はCasタンパク質の一つです。)
  • そして2007年になってようやく、Horvath氏らが、CRISPRやCasは細菌が持つ免疫機構であると証明します。(人間などと同じく細菌もウイルスに感染することがあります。その時、細菌はウイルスのDNAの一部を切り取ってCRISPR領域に挿入します。次に同じウイルスに感染した時は、挿入しておいたDNAを足がかりにしてウイルスのDNAを切断します。この切断などに関わる一連のタンパク質がCasであるわけです。)
  • その後、さらに研究が進んで、CRISPRによる免疫機構にはいくつかの種類があることも分かりました。
  • そのうちのタイプIIと呼ばれる機構を利用して、任意の配列を切断できる技術を開発したのが、Doudna氏、Charpentier氏らのグループ。それを改良してヒトの細胞などに適用したのがZhang氏らのグループ。現在、この2つのグループが関連特許について裁判所で争っている状況です。

こんな感じで、CRISPRが発見されてから今日に至るまで、かなりたくさんの研究者が関わっているわけですね。じゃあその中で誰がノーベル賞を取るのか? それは、選考委員が「細菌が持つ免疫機構の解明という基礎研究」を評価するのか、それとも「CRISPRを用いたゲノム編集技術の開発という応用研究」を評価するのか、にかかっているわけです。

ノーベル賞と基礎研究・応用研究

例えば、山中伸弥さんがノーベル賞を受賞したのは、iPS細胞の開発によって医学研究や再生医療に革命をもたらしたからではありません。「体細胞に4つの遺伝子を挿入するだけでその細胞が様々な組織へと分化できる能力(pluripotency)を獲得する」という発見自体が生物学の歴史上極めて重要であったからこそ、彼にノーベル賞が贈られたわけです。その証拠に、山中氏とほぼ同時にヒトのiPS細胞作製に成功した研究者はノーベル賞を貰っていません。同じようなことは、リボザイムやRNA干渉の発見についても言えます。リボザイムやRNA干渉は今でこそ医療分野に応用できるんじゃないかと散々言われていますが、「触媒機能を有するRNA(リボザイム)の発見」「siRNAによるRNA切断(RNA干渉)の発見」そのものに多大な価値があるからこそ、ノーベル賞が贈られているのです。昨年受賞した大隅先生とかも、基礎研究が評価されて受賞となった典型的な例ですね。

一方で、緑色蛍光タンパク質GFP)の発見で下村脩さんがノーベル賞を貰った事例は、ちょっと性質が異なります。彼の場合、GFPを生物学の研究に応用したChalfie氏およびTsien氏と同時に受賞しています。つまり、「GFPを利用することで生物学の研究が飛躍的に進歩したこと」まで評価の対象に含まれているんですね。オワンクラゲの研究とGFPの発見そのものも十分に凄い業績ですが、その後のGFPの応用がなければノーベル賞は難しかったでしょう。この他、DNAシークエンサーの原理の発見、PCRの発明、ノックアウトマウスの作製なども、明らかに「応用」的な面が評価されたノーベル賞だと言っていいでしょう。

CRISPRの発見者はノーベル賞をとれるか?

閑話休題。CRISPR-Cas9技術でノーベル賞を貰うのは誰かという話ですが、「CRISPRのゲノム編集への応用」という部分に焦点を当てた場合は、ノーベル賞を取るのは確実にDoudna氏とCharpentier氏です。3人目にZhang氏が入るかどうか、という感じでしょう。GFPの場合と同様に、基礎と応用の複合型だったとしたら、Doudna、Charpentier、Horvathの3人が受賞ということになるかもしれません。あるいは、CRISPR-Cas9より以前から使われていたゲノム編集技術(TALENとかZFNとか)の開発者と共同受賞とか。いずれにせよ石野氏の受賞は、難しいでしょう。

一方、ノーベル賞の選考委員が「細菌が持つ免疫機構の解明」という基礎研究に焦点を当てる可能性はあるでしょうか? 私は大いにあり得ると思います。「これまで知られていた獲得免疫や自然免疫などとは全く異なる免疫系が存在する、しかもそれは、ウイルスDNAを自身のゲノムに取り込んで記憶しておくという驚くべきシステムである」という事実それ自体にノーベル賞級の価値があると思うからです。選考委員が同じことを考えたのなら、ノーベル賞を貰う第一候補はHorvath氏ということになりますし、CRISPRの第一発見者である石野氏も受賞しても何らおかしくありません。しかし、その場合でも、石野氏はあくまでもCRISPRの発見者というだけであり、実際にそれが免疫システムとして使われているという事実を発見したわけではないので、受賞するかどうかは微妙なところでしょう。

『亜人ちゃんは語りたい』のOPにこの作品のテーマが全て詰まっている

アニメ『亜人ちゃんは語りたい』およびそのエンディング曲『フェアリーテイル』について、次のような考察をしている記事があります。

亜人デミヒューマンを題材に扱う作品の目的は、主に3つ。
「1:異世界ファンタジーらしさを出すため」「2:萌えキャラクターとして」「3:種の生態の表現・文化論」
(中略)
亜人ちゃん~』はというと、2と3の間。
4人の亜人女子の悩みや考え事を描くことで、現実の「マイノリティ」「バリアフリー」問題を間接的に考える作品だ。
エンディングで多様性を表すレインボーカラーのクレヨンを出しているあたり、意気込みが見える。
「亜人ちゃんは語りたい」が描くバリアフリー。バンパイアに国が月1で血液パックを支給 - エキレビ!(1/2)より引用)

しかしオープニング曲『オリジナル。』の方も、エンディングに負けず劣らず、意気込みが感じられて意味深な歌詞になっています。

語りたいよ 君の素敵 オリジナル
ざわめいた教室 浮きたくないみんな 愛想笑い
負けん気な瞳の君だけが 唇強く噛みしめていた
君は言ったね 誰かの目気にして 他の誰かを傷付けたくないよ
(『オリジナル。』、作詞:岡田麿里、作曲編曲:ミト、歌:TrySail*1

歌詞を見てもらえば分かると思うのですが、これ、明らかに学校での「いじめ」や「差別」のことを言ってる曲ですよね。

教室がざわめいているのは、そこで誰かがいじめられているからです。あるいは教室の中でマイノリティとなった生徒が、身体的特徴とか趣味嗜好とか家系とかをバカにされて笑われている。いじめは駄目だと分かっていても、みんな教室の中で「浮きたくない」ので、ただ流されるままに「愛想笑い」を浮かべている。そんな中で、「負けん気な瞳の君」=小鳥遊ひかりちゃんだけが、唇をギュッと噛みしめていたたまれない気持ちになっているわけです。「誰かの目」を気にするということは、すなわち、教室内で浮いてしまわないように空気を読みながら過ごすということ。でもそれは「他の誰か」、すなわち、「普通じゃない」というレッテルを貼られて差別されている人(それは亜人・障害者・LGBTの人など、色々な場合が考えられる)を傷付けることにもなる。そんなことはしたくない、間違っているものにはっきり「ノー」と言うことのできる自分でありたい、という風にひかりちゃんは強く決意する。

多数派によって形成された空気の中で、人々は同質化・規格化されていく。男は女を、女は男を好きになるのが普通、いつも五体満足でいるのが当たり前、共通の話題で盛り上がれるのが当然、という空気ができあがっていく。でも、人間とは本来、もっと多様性があるはずなんだ。障害者もいる、同性愛者もいる、血を吸いたくなる人もいるし、頭と体が分離してる人もいる。彼ら一人ひとりが掛け替えのない「オリジナル」な人間だ。その「オリジナル」をもっと知りたい、もっと語りたい、と高らかに謳い上げているのが、このOP曲なのです。

これはまさに、本作のテーマそのものと言えるんじゃないでしょうか。

*1:耳コピなので、間違っていたらごめんなさい。

『かぐや様は告らせたい』における四宮かぐや様の可愛さの指数関数的増大について

『かぐや様は告らせたい』第4巻読みました。もうね…本当にね…今回も我らがかぐや様が、

おかわわわわわわわわわわわわわわわわわあああああああ!!!!!!!

という感じで、相変わらず四宮かぐや様が異次元の可愛さで、読んでる間ずっと笑いが止まりません。いや、もう、とにかく凄いとしか言いようがないんですよ。話が進むにつれてかぐや様の可愛さが指数関数的に増大しています。エクスポネンシャルです。可愛さのハイパーインフレーションです。

普通のキャラの場合、可愛さが増していくということはありません。初登場時と同じレベルを最後までキープしていくというのが基本です。しかし、まれに、話が進むにつれて可愛さがどんどん増していくキャラクターもいます。しかし、この場合でも、可愛さの増大はリニア(一次関数的)な増え方しかしません。また、その増大もいずれは飽和に達し、最終的にはある一定の可愛さラインのところに落ち着くのです。ところが、かぐや様の可愛さだけは、エクスポネンシャルな増大を見せるのです。要するに、普通のキャラの可愛さは2倍、3倍、4倍…という増え方をするのですが、かぐや様の場合は10倍、100倍、1000倍…というケタ違いの増え方をしているのです! これは、宇宙の加速的膨張の発見(この功績により、Perlmutter氏、Schmidt氏、Riess氏が2011年ノーベル物理学賞を受賞)にも匹敵する、歴史的な大事件と言えるでしょう。

では何故、かぐや様の可愛さだけが、リニアではなくエクスポネンシャルな増え方をしているのでしょうか? それは、かぐや様の中で、生徒会長・白銀御行への恋心がどんどん増大していることと関連しています。もう巻数が増えるにしたがって、かぐや様がどんどん「恋する乙女」になって行ってるんですね。かぐや様はとにかく御行のことが大好きなのです。御行といっしょに居たい、デートしたい、手をつなぎたい、抱かれたい、キスしたい、私だけを見ていてほしい、ああもう大好きだあああああああああああああ!!!!!って叫びたくなるくらい、御行のことが大好きなのです。(それと同じくらいに、御行もまた、かぐや様のことが大好きでたまらないのだということは、もはや言うまでもないでしょう。)

でも、この作品特有の上手い設定によって、自分の感情を素直に受け入れることができない状況が生まれているのです。皆さんご存知の通り、かぐや様は超エリートでプライドが高くて、自分から告白するなんて恥だと思ってるわけですね。また、同様の理由から、相手に自分の弱みを見せられない、子どもっぽいところを見せられないと考えてしまって、いつも自分の感情に蓋をして平静を装っているわけです。しかも、自分の中の恋心が日に日に増大していくのを意識すればするほど、ますますその感情を隠そうという気持ちも強くなっていってるんです。(まあ、ぶっちゃげ、2人とも自分から告白するのが恥ずかしいから、もっともらしい理由を付けて告白できない言い訳にしてるだけ説もあるんですけどね。)

さて、上で見てきたように、現状のかぐや様は、大好きな人に近づきたいという引力と、自分の弱みを見せたくないという斥力が、どちらも日に日に増大しているような状態です。こうなると、自分の頭の中で相反する感情がせめぎ合い、感情が右へ左へ揺れ動き、脳内がもうしっちゃかめっちゃかになっていきます。このカオス状態こそが、強力な可愛さのビックバンを生み出し、指数関数的な可愛さの増大という現象を引き起こすのですね。

もうこれは、2017年の日本において、最も面白いラブコメと言っても過言ではないでしょう。早くアニメ化しろって思います。

『クズの本懐』と『小林さんちのメイドラゴン』について

今季アニメの第1話をざっと見ましたが『クズの本懐』がダントツで良いですねぇ。特に、ヒロイン・花火役の安済知佳さんの演技が素晴らしいんですよ。子どもの頃からずっと片思いしている先生に好きな人がいると知って、ひたすら思考がネガティブになってやさぐれてる感じを上手く演じています。その一方で、恋敵に敵意を向けるシーンとか、麦の家でのベッドシーンとか、感情が表に出てる時の声も良いですよね。

安済さんと言えば、『クオリディア・コード』で千種明日葉を演じていていました。その明日葉ちゃんがお兄ちゃんに対して「え?何?キモいキモい」みたいな感じになってるシーンは毎回、いわゆる声優声優した演技がかった声じゃなくて、「完全に警戒心とか緊張とかを解いた上で接することのできる肉親との会話」感が上手く再現されてて、ストーリーや作画は散々でしたが唯一そこだけは見所があったと言っても過言ではないと思います。

一方、世間一般で安済さんと言えば、『ユーフォ』で高坂麗奈を演じていたことで有名ですが、やはり京アニのキャスティングは秀逸だなあと改めて思いました。『ユーフォ』の例でいえば、久美子役の黒沢ともよさんの演技も良かったんですが、2期の12話で部長さんが最後の挨拶で泣き出してしまい、最後らへんもう何言ってるか全然わからなくなってるのがメッチャ愛おしくて、この泣き演技は早見沙織さんにしか出来ないよなあと唸らせてくれるシーンでした。

さて、その京都アニメーションが今期製作したのが『小林さんちのメイドラゴン』で、そのヒロイン・小林さん役が田村睦心さんという、これももう素晴らしいとしか言いようがないキャスティングとなっています。小林さんのどことなくボーイッシュで着飾らない姿が、ハスキーな田村さんの声とよく合うんですよ。しかも、メイド談義で荒ぶってるときの演技も流石ですし、全体的にキルミーベイベーのソーニャちゃんを彷彿とさせる演技で、キルミスト大歓喜のアニメと言えるんじゃないでしょうか。

次のような方法で生まれた子どもに皇位継承権はあるか?

次のような方法で生まれた子どもに皇位継承権はあるか?

ケース1 体外受精

  • 皇太子夫妻の間になかなか子どもが生まれなかったので、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵を皇太子妃の子宮に着床させ、10か月後に皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 現在すでに広く使われている技術であり比較的安全で社会的にも広く受け入れられている。自然出産で生まれた子どもと遺伝的には全く変わりないので、何の問題も存在しない。
  • 想定される反対意見: 皇族は昔ながらの自然な方法で子どもを作るべき。

ケース2 代理母

  • 皇太子妃の子宮には異常があり受精卵の着床が困難であった。そこで、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵を代理母の子宮に着床させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には完全に自然出産の場合と同じで、皇太子の血を受け継いでいるのだからOK。
  • 想定される反対意見: これは代理母となる女性に多大な負担を強いる制度であり、認められない。遺伝上の母親と出産した母親が違うのは自然に反するし、様々な混乱が生じる危険性もある。*1

ケース3 他人の卵子を利用

  • 皇太子妃の卵巣には異常があり正常な卵子を作り出すことができない。そこで、皇太子の精子と一般女性の卵子体外受精し、受精卵を皇太子妃の子宮に着床させ、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇太子妃の遺伝子は受け継いでないが、皇太子の血は受け継いでいるのでOK。歴史的に見ても、かつては側室制度などがあり皇太子妃以外の女性が男子を産むケースはあった。
  • 想定される反対意見: 遺伝上の母親と出産した母親が違うのは自然に反する。

ケース4 精子の凍結保存

  • 皇太子は不妊治療のために精子を凍結保存しておいた。その数年後にガンが見つかり、治療の副作用のせいで精子を生産できなくなった。そこで、凍結保存しておいた精子と皇太子妃の卵子体外受精し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 精子を取り出した時期が違うだけで通常の体外受精と変わらない。体外受精がOKならこの方法もOK。
  • 想定される反対意見: 子どもを作る能力が失われたにもかかわらず、子どもが生まれたということになるので自然に反する。

ケース5 皇太子の死後に対外授精

  • 皇太子は不妊治療のために精子を凍結保存しておいた。その数年後、不慮の事故により皇太子夫妻が亡くなった。事態を重く見た日本政府は、凍結保存しておいた精子と一般女性の卵子体外受精し、その女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には完全に皇太子の子どもと言える。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: 皇太子夫妻の死後に子どもが生まれたということになるので、自然に反するし倫理的に認められない。*2

ケース6 他人の精子を利用

  • 皇太子は精巣に異常があり精子を生産できなかった。そこで、皇位継承権を持つ男性の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝的には皇太子の子どもではないが、別の皇位継承者の遺伝子を受け継いでいるので問題ない。
  • 想定される反対意見: 法律的には皇太子夫妻の子どもであっても、皇太子の遺伝子を受け継いでおらず、自然に反するので駄目。

ケース7 ゲノム編集

  • 皇太子には深刻な遺伝子疾患があり、生まれてくる子どもは健康であって欲しいと考えた。そこで、皇太子の精子と皇太子妃の卵子体外受精し、受精卵の遺伝子をゲノム編集によって改変した後、受精卵を皇太子妃の子宮に戻し、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 安定的な皇位継承のためには、皇位継承者が健康でなければならない。病気に関連する遺伝子を取り除くなど、必要最低限の改変なら許される。
  • 想定される反対意見: 受精卵のゲノムを改変することは倫理的に問題がある。ゲノム編集によって皇太子の遺伝子が一部改変してしまうので、自然に反する。しかも、ゲノム編集によって人為的に改変されたゲノムが皇室で恒久的に受け継がれることになるので問題だ。

ケース8 iPS細胞

  • 皇太子は精巣に異常があり精子を生産できなかった。そこで、皇太子の体細胞からiPS細胞を作製し、そこから作りだした精子と皇太子妃の卵子体外受精させ、皇太子妃が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: たとえiPS細胞由来の精子であっても、皇太子の精子であることには変わりないのでOK。
  • 想定される反対意見: iPS細胞を作る工程でゲノム編集をする必要があるため、皇太子の遺伝子が一部改変してしまうことになり問題だ。子どもを作る能力が完全に無いにも関わらず子どもが生まれたということになるので、自然に反する。

ケース9 皇太子の死後にiPS細胞を作製

  • 不慮の事故により皇太子夫妻が亡くなった。事態を重く見た日本政府は、皇太子の体細胞からiPS細胞を作製し、それから作りだした精子と一般女性の卵子体外受精し、一般の女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: 皇太子の死後に、iPS細胞から精子を作り、皇太子妃以外の女性が出産、という問題のあるポイントが山積み。

ケース10 同性カップルの子ども

  • 日本で同性婚が認められ、皇太子も一般の男性と結婚した。皇太子の配偶者の体細胞からiPS細胞を作製し、そこからさらに卵子を作製した。その卵子と皇太子の精子体外受精させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 両親が2人とも男性であっても遺伝子を受け継いでいるのなら2人の子どもであると認めるべき。皇太子の精子を使って生まれた子どもなのだから何の問題もない。
  • 想定される反対意見: 皇室の場合は伝統を重視し、結婚は男女間でのみ認められるべき。

ケース11 性転換手術

  • 皇太子が性転換手術を受けて性別も女性となり、一般の男性と結婚した。皇太子の配偶者由来のiPS細胞から卵子を作製し、性転換手術を受ける前に冷凍保存しておいた皇太子の精子体外受精させ、代理母が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 皇太子は法律上女性となっているが、子どもには皇太子由来のY染色体が受け継がれているのでOK。皇太子の精子を使って生まれた子どもなのだから何の問題もない。
  • 想定される反対意見: 皇太子は法律上女性となっているので、その時点で皇位継承権を失う。ゆえに、その子どもにも皇位継承権はない。

ケース12 クローン技術

  • 不慮の事故により皇太子夫妻とその子どもが亡くなり、皇位継承者がいなくなった。事態を重く見た日本政府は、一般女性の卵子から核を除去し、皇太子の子どもの体細胞と融合させた後、その女性が男子を出産した。
  • 想定される賛成意見: 遺伝子的には完全に皇太子夫妻が自然に生んだ子と同じ。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。
  • 想定される反対意見: クローン人間を作ることは倫理的に認められない。子どもは精子卵子の受精によって作られるべき。クローンを作るくらいなら、女系天皇を認めるなどの代替案を考えた方がまし。

ケース13 天皇のクローン

  • 日本が核兵器による攻撃を受け皇位継承者が全員死亡し遺体も残らなかった。事態を重く見た日本政府は、数十年前に亡くなった天皇の墓を掘り起こして、骨の中からDNAを取り出し、クローン技術を使って子を誕生させた。
  • 想定される賛成意見: かつての天皇と完全に同じ遺伝子を持っているのでOK。皇室を存続させるために他に手段がないのであればやむを得ない。*3
  • 想定される反対意見: クローン人間を作ることは倫理的に認められない。技術的なハードルが極めて高い。ここにお金をつぎ込むよりも、まずは日本の復興を優先すべき。

まとめ

一応、大まかにケース分けしておくと、ケース1~6までが皇位継承者の遺伝子を全く改変しないケース(今ある技術でも可能)。ケース7~9は皇位継承者の遺伝子の一部を改変してしまうケース。あと、ケース10と11が同性婚などに関連するケースで、12と13がクローン技術を使うケースです。

今回は、「遺伝学的には」確実に天皇家の血を受け継いでいる場合のみを考えています。「女性天皇女系天皇を認めるべきか」とか「天皇家と全然関係ない男子を皇太子夫妻の養子にしてもその子に皇位継承権はあるか」みたいな話は考えていません。これはあくまでも、科学技術の進歩によって、自然出産では起こりえないような形で、天皇の血を受け継ぐ男子が生まれた場合を想定し、そのような場合に皇位継承権は認められるのかどうかを考えてみるという思考実験です。

*1:現在の日本では代理母による出産は認められていない。

*2:現在の日本では、凍結卵子および凍結精子は、本人が死んだらすぐに破棄される決まりになっている。

*3:今上天皇が亡くなられた時は火葬となる方針だが、昭和天皇までは土葬だったので、骨からDNAの断片を取り出せる可能性は高い。