新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『星屑テレパス』の雷門瞬は、私達自身の心の写し鏡である

真っすぐなキャラクターよりも、捻くれていてなかなか素直になれないキャラクターの方が好き。いつも明るくて誰からも好かれるキャラよりも、どこか影があって面倒くさい性格をしたキャラの方が好き。雷門瞬は、そんな性癖を持ったオタクたちの心に強烈に突き刺さってくる。

『星屑テレパス』の主人公・小ノ星海果は、極度の人見知りで友達もできず、地球には自分の居場所がないと思っていた女の子。いつしかロケットに乗って自分と分かり合える宇宙人を探したいという壮大な夢を抱くようになった海果は、高校入学と同時に自称宇宙人の明内ユウや、クラスの副委員長・宝木遥乃と出会い、彼女たちとともにペットボトルロケットの製作を始める。アニメ第3話で海果たちは、ロケット製作を本格的に進めるため、機械工学に詳しいクラスメイト・雷門瞬の家を訪ねる。

雷門瞬*1。自宅のガレージで巨大ロボット製作に打ち込む高校1年生の少女。だが、ロボ製作以外のことには興味を示さず、入学以来一度も学校に行っていない。まんがタイムきらら系作品に特有の萌えキャラ然とした容姿の中にも、鋭い目付きや、どこか中性的な雰囲気、トレードマークのゴーグルといった特徴が加味され、他キャラとは一線を画す存在感を醸し出している。ようするに、雷門瞬はメチャクチャ顔が良いのである。

アニメ『星屑テレパス』第3話より。

だがその一方で、瞬の内面は、きらら作品にあるまじき一癖も二癖もあるキツい性格をしている。緊張してうまく話せない海果に向かって瞬は「そうやってまた黙るのか?」「助けてくれる優しいお友達が欲しいなら他を当たれよ」と辛辣な言葉を放ち、3人を追い返してしまう。

だが、ユウの言葉に勇気づけられた海果は再び雷門瞬の家へと向かう。実は中学時代にも瞬に声をかけようとして結局出来ないまま瞬が不登校になってしまったという経験をしていた海果は、今度こそ後悔することのないよう、勇気を振り絞って瞬と向き合おうとする。シャッターの奥にいる瞬に向って、自分がロケットを作りたい理由を語る海果。

アニメ『星屑テレパス』第3話より。

このシャッターは言うまでもなく、瞬の心の壁のメタファーである。海果は瞬にペットボトルロケット対決を申し込み、「私が勝ったら直接お話を聞いてください!」と叫ぶ。海果の熱意に押されるように、頑なに閉ざされていた瞬の心が少しだけ開かれていく。

続く第4話、海岸で行われた対決で瞬は、ガワだけペットボトルで作った火薬ロケットという禁じ手を使い見事海果たちに勝利を収める。「話せよ。お前の話。負け犬の遠ぼえくらい最後に聞いてやるさ」と言い放つ瞬。「どうせロケットを手伝えとか必要な部品をよこせとかそんな勝手でくだらねえ話なんだろ」「そんな期待、私がばっさり切り捨ててやる!」という気持ちでいた瞬だったが…。

海果はただ「そのゴーグルかっこいいね!」と言ってきただけだった。そう、海果は元から瞬の技術を当てにしていたわけではなかった。ただ、一匹狼のように毅然とした瞬に憧れ、お話をしてみたいと思っていただけだったのだ。あまりに予想外の出来事に力が抜け、「くだらねえよな…ほんと…」とつぶやきながらゴーグルをかける瞬。

アニメ『星屑テレパス』第4話より。

ようやく心のシャッターを開いた瞬は、「少しだけつきあってやる。出席日数稼ぎのついでにな…」というあまりにもテンプレなツンデレ仕草で、海果たちのロケット製作に協力を申し出る。

アニメ『星屑テレパス』第4話より。

こうして再び学校に通い始めた瞬だったが…。クラス内での海果は、ロケットを飛ばしている時とは打って変わって、いつもオドオドしていて見るからに頼りない感じだった。そんな海果の様子に瞬はあきれつつも、自分が海果の力になりたいと願うようになる。第5話、ロケット研究部の設立申請を行った帰り道、瞬は「欲しかったんだろ。自分の居場所。ここにもできてよかったじゃん」と海果に声をかける。

アニメ『星屑テレパス』第5話より。

瞬にとって海果は、自分を孤独から救い出してくれたヒーローであると同時に、自分が庇護すべきか弱い存在でもある。これは、『ぼっち・ざ・ろっく!』の伊地知虹夏や喜多郁代にとっての後藤ひとりと同様である。虹夏や郁代にとって後藤ひとりは、バンドメンバーとして自分を支えてくれる「ギターヒーロー」である。だが、普段の後藤ひとりは、虹夏や喜多ちゃんがサポートしてあげなければまともに社会生活を送れない極度のコミュ障でもある。あるいは、『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の椎名立希にとっての高松燈もまた、同じような関係性であろう。このような複雑な関係性の中で、瞬は海果への巨大感情を募らせていくのである…。

その後、瞬たち4人はロケット研究同好会を設立、夏に行われるモデルロケット選手権での優勝を目指して活動をスタートさせる。だが、第6話、父親と喧嘩し頬をケガした瞬はメッチャ不機嫌に。機嫌が悪い時の雷門瞬は本当に顔が良い、と再認識させられる。*2

アニメ『星屑テレパス』第6話より。

また、同じ第6話では、モデルロケット競技でのライバルとなる秋月彗が再登場。彗に海果を取られた瞬は、あからさまに嫌な顔をして対抗心を燃やすようになる。

アニメ『星屑テレパス』第6話より。

そして、第7話、全国の雷門瞬推したちが大歓喜した最萌エピソードがやってくる。誕生日パーティーのケーキビュッフェ、平静を装いつつも嬉しさを隠し切れない雷門瞬。そのことを指摘されて顔真っ赤にして反論してくる雷門瞬。プリクラに誘われて一度は拒否するも「一回だけなら撮ってやってもいい…」とデレる雷門瞬。恥ずかしがりつつも一緒にプリクラを撮ってくれる雷門瞬。

アニメ『星屑テレパス』第7話より。

もう雷門瞬の一挙手一投足が圧倒的な可愛さ。まさにケーキビュッフェのような濃厚で激甘なデレが、我々視聴者の脳を満たしてくれる。ここにきて、第5話で瞬が言った言葉は、そっくりそのまま瞬の方に跳ね返ってくる。海果だけでなく、瞬にとっても、同好会はかけがえのない居場所となっていたのだ。それでもまだ完全にデレることができずに強がってみせる瞬。その不器用な生き様、めんどくさい性格が、最高に尊くて、いとおしい。

めんどくさい性格をしたオタクは皆、雷門瞬のことが大好きである。原作者が言っていたように「オタクの心の中には雷門瞬がいる*3のである。オタクは皆、自分の心の中に独自の世界を築いていて、自分の好きなことに没頭しがちである。そして、自分の趣味について誰からも理解されなくてもいいと考えているし、他人に合わせるくらいなら独りでいることを望んでいる。だから、いつも斜に構えた態度でいきがって孤高であろうとする。だが、心の奥底では、話の合う仲間が欲しい、誰かから必要とされたい、世間に認められたい! そんな相反する感情を抱えている承認欲求モンスターが、我々オタクであり、雷門瞬なのである。

海果たち4人がロケット製作に打ち込む理由は千差万別である。海果とユウは「宇宙に行きたい」という究極の目標がある。遥乃は、海果やユウの夢を応援したいと思っている。では、瞬は? 瞬が同好会にいる理由は「誰かから必要とされたい」からである。

中学時代まで、ロボット製作という趣味について誰からも理解されず、ずっと独りぼっちだった瞬。だが、高校入学後、子犬のように小さくて可愛いクラスメイトが話しかけてくれて、「ゴーグルかっこいいね」とか「雷門さん、すごい」とか言ってもらえて、ロケット製作についてもいろいろと頼りにしてくれるのである。瞬からしたらもうそれだけで内心嬉しくて仕方がないのだ。そんな瞬にとってロケット研究同好会とは、この世界でただ一つの自分を必要としてくれる場所であり、自分の持つ知識やスキルを活かすことのできる場所なのである。

だからこそ瞬は、海果の前ではカッコつけたいし、海果の夢も叶えてあげたいと思うのである。そのためには、自分が同好会を導いて、大会で好成績を収めなければならない…。「じゃなきゃ…ここに私がいる意味ないだろ」。そんな風に思い詰めていく中で、次第にロケット製作活動の歯車がかみ合わなくなってゆく。

アニメ『星屑テレパス』第8話より。

雷門瞬が機械に強いとは言っても、ロケットに関しては所詮付け焼刃でしかない。また、あの性格だから、海果たちに作り方を教えたり指示を出したりするのも下手くそなのだろう。結局、ロケット製作はなかなか思うように進まず、イライラを募らせた瞬は海果たちを怒鳴り散らしてしまう。

アニメ『星屑テレパス』第8話より。

アニメ放送開始にあたってかおり監督は「かわいい!と、しんどい!が交互に来ますので気持ちをしっかり持って」とコメントしている*4が、「しんどい!」な展開になるのはいつも瞬のせいである。口が悪い、目付きが悪い、態度が悪いと三拍子そろった猛獣のような存在を、海果のようなか弱い女の子の前に放ったら、そりゃこうなるのも当たり前である。

そして迎えた大会当日。彗たちのチームが完璧な打ち上げを見せる一方で、海果は緊張のあまり何もできず、打ち上げも散々な結果に終わる。立ち去ろうとする瞬を遥乃が呼び止めるが、瞬は「私には…ここしかなかったんだ」「もう二度と…私に構うな」と言い残して一人去っていく。

アニメ『星屑テレパス』第9話より。

試合後しばらくの間ふさぎ込んでいた海果だったが、秋月彗に励まされ、ユウと再開することで、ようやく立ち直る。夏休みが明け、同好会活動を再スタートさせる海果・ユウ・遥乃だったが…。

一方そのころ、雷門瞬はまたガレージの中に引きこもり、感情を失ったロボットのようになっていた…。そんな瞬のもとに遥乃がやってくる。遥乃もまた、瞬と接する中で「何かを特別に思うことからずっと逃げて」いた自分に気付き、そんな自分を変えようとしていた。瞬をタコ殴りにし、必死に自分の思いを伝える遥乃だったが、結局瞬の心を開くことはできなかった。遥乃が去った後、「分かってない、分かってないんだよ、本当に。私はお前らが思うほど何かができる人間じゃないんだ」と一人つぶやく瞬。

心が折れて自暴自棄になった瞬は、私の気持ちなんてどうせ誰にも理解されない、と思い込み、完全に心を閉ざしてしまうのだった。せっかく差し出された手を振りほどき、自ら関係を断ち切ろうとするその様子は、今流行り(?)の人間関係リセット症候群そのものである。

数日後、海果が瞬のもとにやってきてモデルロケットでの決闘を申し込む。自らシャッターを開けた瞬は、やけに素直に申し出を受けるが…

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

約束したよな。またしようって。やるぞ。きっとこれが最後だ」、そう不穏な言葉を口にする瞬の目からは輝きが失われ、瞬は完全に闇堕ちモードになっていたのだ…!

かつてペットボトルロケットを飛ばしたのと同じ場所で海果たちと再会した瞬は不敵な笑みを浮かべ…

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

さぁ。私に勝ってみろ

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

もう完全にバトル漫画のラスボスの表情である! これもう、きららアニメのキャラがやっていい顔じゃないのよ…。

海果たちの前に立ちはだかる最強のラスボス。だが、対決は海果たちの圧勝に終わり、瞬は「お前達に私は必要ない」と言うのだが…。実は、瞬が出力の小さい火薬を使い、わざと負けようとしてたことが発覚!

私には何もない。だから私はここにいてはいけない。仮に同好会に戻ってもまた海果たちを傷つけてしまうだけ。壊れて無くなってしまう関係性なら最初から要らない。だから勝負にはわざと負けて綺麗さっぱり関係を断ち切ろう…。そんなクッソまわりくどいやり方で、悪役を演じることしかできない雷門瞬。あまりにもめんどくさい女…!

そんな瞬のもとに駆け寄り抱きしめる海果。泣きながら「雷門さんのこと何もわかってなくてごめん」「本当は雷門さんも自分の居場所…探してたんだ…」と話しかける海果。「お前らと私を一緒にするな! これ以上私に、くだらない言葉を吐くんじゃねえ!」と激昂し、最後の悪あがきを見せる瞬。だが、3人は怯むことなく瞬に声を届け続ける。

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

誰かを傷つけるくらいなら、ずっと独りのままでいい、そんな風に閉ざされた瞬の心のシャッターをこじ開けるのは、これまでも、そして今も、海果たちだった。

瞬と同じようにずっと孤独で居場所を探していた海果だからこそ、

その明るく温かな心で海果を孤独から救い出したユウだからこそ、

誰よりも他者を思いやる優しさを持ち、本気で何かに打ち込むことの素晴らしさも怖さも理解している遥乃だからこそ、

雷門瞬の心の声が手に取るように分かる。

瞬が鋭い言葉を投げる時、本当は瞬自身が一番傷ついているということ。海果の夢を叶えるために、瞬が誰よりも厳しくあろうとしていたこと。いつも強く孤高で在り続けようとした瞬が、本当は誰よりも自分の居場所を探していたということ。

今度は私も! 雷門さんの居場所になりたい! 雷門さんが…ここにならいてもいいかなって、そう思えるような、小さな理由になりたい

これまで、瞬にとって居場所とは、「自分を必要としてくれる場所」のことだった。その考えは、「ここで成果を残せないなら自分がいる意味はない」という強迫観念に直結していた。

だが、本当に大切な居場所とはそういうものではないはずだ。これは居場所という言葉に限った話ではない。損得勘定などを気にすることなく、ただ一緒にいたい、一緒にいると楽しいと思える人こそが、真の友人である。何の見返りも求めず、ただ相手に尽くしたいと思う心こそが、本当の愛である。瞬にとって同好会もまた、誰かから必要とされてるから居る場所ではなく、瞬自身が本心からその場所に居たいと思える場所だったのだ。

どうせ…なくなるなら…最初からいらないんだよ…言葉も…慰めも…なにも…

なくならないよ。言葉も…思いも…ずっと…何度だって…私が雷門さんに届けるから…

凍り付いた瞬の心に、海果の暖かい言葉が優しく降り注がれる。ついに零れ出す瞬の本心。

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

今だって…本当は…また…私も…お前達と…ロケット作りたい…

雷門瞬、攻略完了!

アニメ『星屑テレパス』第11話より。

これは、孤独を抱えた雷門瞬という少女が、大切な居場所を見つけるまでの物語

ここで他の作品にも視野を広げてみると、「居場所」をテーマにした作品が結構多いということに気付かされる。

例えば、『響け!ユーフォニアム』。原作者の武田綾乃先生は、原作小説の最終楽章のテーマは「居場所と拠り所」だと述べている*5

例えば、『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』。居場所を探してさまよい歩く寄る辺なさを、作中では「迷子」と表現している。

もちろんこれだけでなく、『宇宙よりも遠い場所』、『かぐや様』、『SPY×FAMILY』、『ぼっち・ざ・ろっく!』、その他いろいろ、近年注目されたアニメ作品の背後には、「居場所」というテーマが純然と存在していたように思うのだ。令和時代の日本において「居場所」というものが極めて希求力の高いテーマとなっていることを伺わせる。

アニメ最終話、同好会に復帰し、これからは私自身の目標のために同好会に参加する、と宣言する瞬。こうして、雷門瞬と居場所にまつわる物語は一段落ついた形となる。

だが、我々はこれからも雷門瞬の姿を追い続けるだろう。なぜなら、我々オタクは皆、心の中に雷門瞬がいるからである。雷門瞬とは、私達自身の心の写し鏡である。鋭い言葉を吐いて自分を守ろうとする脆い心も、いつも空回りして相手を傷つけてしまう不器用さも、本心を隠して孤独であろうとする面倒くさいムーブも、すべては我々自身の心の写像である。

だからこそ、私たちは雷門瞬という女に、これほどまでに心揺さぶられるのだろう。

*1:「らいもん またたき」と読む。

*2:完全に余談ではあるが、本編ではあまり触れられていない瞬と父親との関係は、実際のところどのような感じなのだろう。瞬の親父さんは、娘の顔に向けてスパナを投げつけてくるくらいだから苛烈な性格なのはきっと間違いない。だが、不登校の娘を無理やり学校に行かせたりすることなく、自宅のガレージで瞬のやりたいことを自由にやらせてくれるというのは、紛れもなく良い親だとも思う。瞬がロボット製作・プラモデル・バイクなどを趣味としているのも、もともとは父親の影響なのかもしれない。

*3:https://www.youtube.com/watch?v=M-9UwOVHDl4

*4:TVアニメ『星屑テレパス』

*5:https://twitter.com/ayanotakeda/status/1118458729261719553