新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

「普通」と「異常」の境界で―『WORKING!!』『荒川アンダーザブリッジ』が語りかけるもの

今年、注目すべき2つの作品がアニメ化された。『WORKING!!』と『荒川アンダーザブリッジ』である。この2つには共通点がある。それは「普通」と「異常」とが遭遇することによって起こる出来事を描いているという点である。「日常」と「非日常」、「常識」と「非常識」と言い換えてもよい。WORKING!!の場合、主人公の小鳥遊宗太が「普通」の、ファミレス『ワグナリア』で働く面々が「異常」の象徴として描かれている。荒川アンダーザブリッジの方も、主人公の市ノ宮行(リク)が「普通」、荒川河川敷のメンバーが「異常」の象徴として描かれている。

この手のお話のオチには3種類ある。それは以下のとおりである。

  1. 主人公が「異常」な登場人物達のやらかす騒動に巻き込まれ、ツッコミを入れたりとばっちりを食ったりするギャグ的パターン。例えば、荒川の住人が常識はずれな行動をとって、それにリクがツッコミを入れる、といった具合。視聴者の声を代弁する主人公が、非常識かつ不条理な場面に遭遇することで笑いの要素が生まれてくる。
  2. 一見常識人に見える主人公だが、実は他の登場人物に負けず劣らず「異常」だった、というオチ。例えば、小鳥遊宗太は、働かない店長や男性恐怖症のまひるにツッコミを入れる役目を負っているが、自分も可愛いものに目がないロリコン、もといミニコンである。つまり、「普通」の中に潜む「異常」が表に出てきた瞬間をとらえているのだ。
  3. 一見「異常」に見える登場人物も、実は「普通」な要素を備えていました、というオチ。例えば、伊波まひるは極度の男性恐怖症で、小鳥遊をすぐに殴る。どう考えても「異常」である。しかし彼女も、普通の女性と同じように泣いたり笑ったりするし、小鳥遊に恋もする。男性恐怖症であることを除けば、いたって「普通」の女の子である。このように、2とは逆に、「異常」の中に「普通」を見出してくる。

我々は2や3のような場面を通して「普通」と「異常」の境界線が揺らいでゆく様を目の当たりにする。この2作が我々に語りかけてくるのは、「普通」と「異常」を厳密に区別する事など出来ないし、何が「普通」で何が「異常」なのかは人によって異なる、という事実に他ならない。では何故、似たようなテーマの作品が同時期に現れてきたのだろうか。それは、現代の世界がまさに大きな転換点に立っているからであろう。2009年、アメリカと日本で相次いで政権交代が実現した。また、ネットの世界でもツイッターや電子書籍が登場し、世界は大きく変わろうとしている。このような中で、今までの「常識」、今まで「普通」とされてきたものも変わってゆかざるを得ない。こんな時代の転換点だからこそ、「普通」と「異常」と対比させた作品が注目されているのかもしれない。「異常」を見つめるという事は、我々の「常識」を今一度見つめ直すという事なのだ。レヴィ・ストロースはかつて未開社会を研究することで西洋文明の「常識」を見つめ直した。我々も今、同じようなことをしているのかもしれない。

この2作と同様に、「普通」と「異常」の交流を描いたアニメが今年9月からスタートする。それが電撃文庫ライトノベルが原作の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』である。これについても語りたいが、長くなったのでそれはまたの機会にしよう。