新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

修行僧的スポーツアニメとして見る『艦これ』―あるいは、司令官への愛ゆえにストイックに努力し、喜びと絶望を味わった一人の艦娘の物語

はじめに

タイトルにある「修行僧的スポーツ」とは、edopurpleさんが「修行僧的スポーツ漫画 - 江戸紫外郎のブログ」という記事で用いた言葉だ。努力と根性で上を目指すスポ根漫画や、努力してるところを極力描かないユルい部活漫画とも異なる、第3のスポーツ漫画として、主人公がまるで修行僧のように真面目にスポーツに打ち込む漫画が近年台頭してきている。アニメ版『艦これ』もまた、吹雪という主人公に焦点を当てた場合、修行僧的スポーツアニメとしてとらえることができるのではないか。

鎮守府着任から旗艦になるまで

第1話では、実戦で思うように活躍できず、劣等感にさいなまれる吹雪。一人で落ち込んでいると、そこに司令官がやってきて何かを言う。次のシーンでは、吹雪は何故かもう元気を取り戻していて、しかも、赤城先輩の護衛艦になるという目標もできる。

第2話では、全編を通じてあやねる艦隊による修行が描かれる。はっきりとは描かれてないが、吹雪をここまで突き動かしてるのは、第1話で司令官からかけられた言葉だと思う。自分は司令官に期待されている、自分は特別なんだ、だから努力すれば必ず報われる、頑張って司令官の期待に応えなければならない。そういった思いが吹雪を一心不乱に特訓へと向かわせる。

その努力が早くも第3話で実を結ぶ。実戦で仲間を守ることができ、大きな戦果も上げることができて、吹雪は自信を取り戻す。しかし、第4話では仲間の死を経験し、自らも危機的状況に陥ることで、戦場の厳しい現実を再確認する。

そして、第5話。問題児だらけの新設艦隊に配属され、司令官は何を考えてるんだろうと落ち込む吹雪。しかし、赤城さんと話をして、この再編成にもちゃんと意味があるはずだと思い直す。やっぱり自分は司令官から必要とされている、ここで失敗するわけにはいかない、自分はここで成果を出さなければいけないんだ。だから、瑞鶴さんが艦隊の解散を進言しに行こうとしても、必死でそれを止める。戦場でも積極的に指示を出してバラバラだった皆をまとめ上げ、信頼を勝ち得て旗艦という栄誉を手にする。

報われない努力、夕立ちゃんへの嫉妬

第7話では、作戦中に加賀が被弾し責任を感じる吹雪を、夕立と睦月がなぐさめる。怒られると思って提督室に向かった吹雪だったが、逆によくやってると褒められ、翔鶴さんの出撃の是非について提督直々に意見を求められる。その後の作戦でも、大きな成果を上げることに成功し、旗艦としての自信を取り戻す。

こんな感じで充実感に満ち溢れていた吹雪が、第9話で絶望のどん底に落とされる。夕立ちゃんは改二になったのに、何故自分はなれないのか。しかも、夕立ちゃんは赤城さんと同じ艦隊に栄転。一方、第五遊撃部隊は解散、吹雪は鎮守府への帰還を命じられる。あまりのショックに泣き崩れる吹雪。自分は司令官から愛されてると思っていたのに、その期待に応えるためにこれまでずっと頑張ってきたのに、結局どんなに努力しても自分には才能がないからダメなのか。才能ある赤城さんのそばに並んで、司令官から必要とされるのは、やはり天性の才能を持った夕立ちゃんだけなのか。次から次へと湧いて出てくる夕立ちゃんへの嫉妬の感情。

そんな吹雪の心の闇を取り払ったのは、自分と同じようにあやねる艦隊の特訓を受けていた夕立ちゃんの姿。そうか、自分だけが努力してるわけじゃない。一人ひとり性能や特徴は違うけれど、みんな頑張っている。みんなみんな自分のため仲間のために頑張って努力しているんだ。そう気付いた吹雪は元気を取り戻し、笑顔で鎮守府に戻っていく。

まとめ

才能の無さに絶望しそれでもいつか花咲くと信じてストイックに努力を続ける主人公を、これほどまでに真正面から描いた作品は、女の子が主人公のアニメとしては非常に珍しいと思う。特に、『ストライクウィッチーズ』や『ガールズ&パンツァー』といったガールズミリタリー系の作品で、このテーマをきちんと扱ったのは、私の知る限りアニメ『艦これ』だけだ。

と同時に、アニメの吹雪は明らかに司令官に対して特別な感情を抱いていると思う。赤城先輩と一緒に戦いたいという思いと同じかそれ以上に、司令官への愛が吹雪をここまで突き動かしてると考えるのは穿った見方だろうか。