今年も、最も印象に残ったTVアニメを選出しました。
選考方法は、「話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選: 新米小僧の見習日記」に挙げられているように、
・2018年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
としました。
『スロウスタート』、第7話、「ぐるぐるのてくび」
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『スロウスタート』は、中学浪人した主人公・花名がその秘密を抱えながら高校で新しい友達を作っていく「再生」の物語である。だが実は、まんがタイムきらら系の4コマ漫画の中でも特に百合百合しい部類に入るという別の一面もあり、第7話は後者の面が最も強調された回である。
栄依子と榎並先生との歳の差カップルという珍しい組み合わせ、普段大人びている栄依子が先生相手には全く異なる子どもっぽい一面を見せるという関係性、ようやく優位に立てたと思ったところで襲い掛かってくる一発逆転の展開…。すべてが百合的に最高である。この第7話を通じて視聴者は、栄依子というキャラクターのまた別の一面を目撃し、それによって以降の物語はより一層深みを増してくる。
『ゆるキャン△』、第1話、「ふじさんとカレーめん」
一人の少女が冬のキャンプ場にやってきて、準備体操(?)をして、黙々とテントを組み立て、ペグを打ち込み、椅子に腰かけて本を読む。使い捨てカイロを取り出すがあまり効かず、薪と松ぼっくりを集め、薪を割り、火をおこし、友達とLineで会話し、また本を読む。静かで満ち足りた独りの時間をこんなにも丁寧に描いたアニメがかつてあっただろうか。リンにとってはこの冬のソロキャンこそが、何物にも代えがたい尊い時間なのだ、ということが画面全体から伝わってくる。第1話Aパートの描写を見ただけで、この作品が名作であると確信した。
そこからBパートで急転直下、なでしことの印象的な出会い、カレー麺をこの上なく美味しそうに食べるなでしこの表情、ついに見えた夜の富士山の美しさなども含めて、アニメの第1話の作り方としてパーフェクトな出来であったという他ない。
『三ツ星カラーズ』、第5話、「どうぶつえん」
- 脚本: ヤスカワショウゴ
- 絵コンテ: 河村智之
- 演出: ほりうちゆうや
- 作画監督: 山本亮友、大槻南雄、森悦史、本多弘幸、片山敬介、藁科将人、泉美紗子、藤井文乃、木下由美子、平山剛士、松本勝次
- 総作画監督: 横田拓己
『かわいそうなぞう』というよく知られたお話を起点にして、カラーズの3人が上野動物園へ来襲、本物そっくりに描かれた園内の見所を巡っていくという、まさに聖地巡礼アニメとしてこれ以上ない出来栄え。それでいて、「このハツカネズミが他の動物の餌になってるんだ!」とか「だって牛も動物だろ?」とかの台詞に代表されるように、大人の意表を突き、痛いところを逃さず攻撃してくる「カラーズらしさ」も健在で、何度見ても楽しい気分になる。
『ヤマノススメ サードシーズン』、第12話、「ともだち」
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主人公2人がクライマックスで山頂に辿り着かずに終わる登山アニメがかつてあっただろうか。ヤマノススメは一貫して、頂上に辿り着くことだけが全てではないという事を描いている。もちろん頂上を目標としてはいるのだが、そこに辿り着けなくても全てが終わるわけではない、むしろ、そこに至るまでに皆と過ごした時間そのものが、かけがえのないものであるという事をきちんと描いている。
『ヤマノススメ サードシーズン』の後半5話にわたる長いすれ違い、来年夏に向けての体力づくり、渡せなかった池袋のお土産、富士山でもらった羊羹、全てはこの12話のためにあった。本作第1話から、いや、第1期の頃からずっとずっと積み上げてきたものが、ここに集約され、2人はようやく仲直りする。見事なシナリオ構成としか言いようがない。
『はねバド!』、第13話、「あの白帯のむこうに」
本作のヒロイン・羽咲綾乃は、はっきり言ってクズである。試合に負ければすぐに不貞腐れ、勝てばすぐに調子に乗る、日ごろの態度も最悪なクソガキである。でもそれは、彼女があまりにも純粋で不器用であるということの裏返しでもある。最終話、なぎさとの試合に負けて、それでもなおバドミントンを続けてきて良かったと心の底から思えるようになった綾乃の目に光る涙。バドミントンを通してでしか、人の優しさや暖かさに触れることができない、そんな不器用で不安定な生き様に心が震える。
『SSSS.GRIDMAN』、第9話、「夢・想」
世界を創造した神・新条アカネが見せる、裕太・六花・内海にとっての理想の世界。でもそれは、他でもないアカネ自身が望んで止まなかった世界でもある。「神」から与えられた心地良い理想の世界をあえて拒絶し現実へと舞い戻る構図は、『天元突破グレンラガン』第26話を彷彿とさせるが、本作はその世界を創造した「神」側の気持ちも痛いほど分かってしまうがゆえに、何とも言い難い悲しみを伴っている。
『ゴールデンカムイ』、第5話、「駆ける」
- 脚本: 柳井祥緒
- 絵コンテ: 鳥羽聡
- 演出: 鳥羽聡
- 作画監督: 飯飼一幸、八木元喜
第七師団に捕えられた杉元の決死の脱出劇、まるでターミネーターのようにしぶとく杉元を追いかける鶴見中尉、ついにオソマ(味噌)を口にするアシリパさんの顔芸、圧倒的な強さを見せる土方一味、二瓶鉄造と谷垣の邂逅、というように実に見どころ満載で、これぞ『ゴールデンカムイ』の真髄という感じ。事態が刻々と動いていく中でも、ギャグと顔芸と、美味しいグルメ、アイヌ文化についての蘊蓄は必ず入れてくる、そのバランス感覚も素晴らしい。
『ゾンビランドサガ』、第11話、「世界にひとつだけの SAGA」
努力が報われなかった時、その努力は全て無駄になってしまうのか。世界に絶望し、希望を見失っても、人は「再生」することができるのか。ギャグアニメの域に留まらない深いテーマを描きながらも、ギャグのセンスは相変わらずキレキレの見事なストーリー。
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』、第3話、「君だけがいない世界」
本作で描かれているのは、社会の中の「空気」によって「真実」が捻じ曲げられていく恐怖。ネットに上げられたデマは、昔ながらの噂話とは比べ物にならないスピードで拡散し、それはいつの間にか「真実」とされてしまう。この現代特有の恐怖は、有名人だけの問題ではなく、我々一般人にも振りかかってくる。
麻衣先輩の存在を無かった事にしようとする無言の空気によって、本当に世界から消し去られつつあった彼女をクライマックスで救い出したのは、その空気を吹き飛ばす咲太の渾身の叫び。この話に限らず、本作は空気に抗うことの意味、間違っている事に毅然とノーと言うことの大切さを一貫して描いている。
『やがて君になる』、第6話、「言葉は閉じ込めて」「言葉で閉じ込めて」
第5話までは完全に燈子が侑に押され気味だった。普段はクールな燈子が侑の前でだけはまるで子どものように甘えてきて、それを侑は呆れながら余裕しゃくしゃくと受け流す。これは勿論、「特別という気持ちが分からない」という侑の性格からくる関係性である。
ところが、第6話になってその関係性に変化が訪れる。文化祭での劇を止めましょうと提案する侑を、燈子は明確に拒絶する。この瞬間、侑は、「私の言うことなら先輩は受け入れてくれる」と信じて疑わなかった自分、先輩が遠くに行ってしまうことに言いようもない恐怖を感じている自分に気付き、作中で初めて余裕を失って焦り出す。この関係性の転換点を、見事な作画と演出で描き切った。