読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

「システム」の「外部」にいるということ―『とある魔術の禁書目録』の上条当麻について考える

今日は、ライトノベルとある魔術の禁書目録』を13巻まで読んで思った事、特に主人公である上条当麻についての私論を述べたいと思います。さて、主人公というものは普通、主人公を取り巻く何らかの「システム」の内部にいます。そして、バトル物の作品の場合、そのシステムの外部にある敵と対峙することとなります。しかし、本作品の主人公は学園都市というシステムの外部に位置する存在であり、これが本作の大きな特徴とも言える。「システムの外部にいる」ということは、次の2つの意味において言えると思います。

  1. 学園都市で行なわれている「能力開発」という名のレベルアップシステムの外部にいる、という意味において。
  2. 「学園都市」や「十字教」といった組織の理念や思惑から一定の距離を置いている、という意味において。

これらの点について順に見てゆく事にしよう。

まずこの作品の科学サイドに目を向けますと、能力開発によって決定される能力者レベルが唯一の強さの基準として存在していることが分かります。学園都市という枠組みの中では、個人の才能を測る基準は能力者レベルのみであり、レベル5=強者、レベル0=弱者、という図式が成り立ちます。しかし、ある一つの基準のみに沿って人間を評価することが、いかに欺瞞に満ちたものであるかは、ここで言うまでもない事でしょう。ブログ『EPISODE ZERO』でも、アニメ『とある科学の超電磁砲』の中に垣間見える学園都市の問題点を指摘しています。このブログでは、レベル0の無能力者である佐天涙子について、「本当は彼女に能力が無いのではなくて、学園都市の統治機構が彼女の能力を測り間違えている」のだと主張しています。

初春のために料理を作ったり、初春の身体を拭いたりと、佐天さんの能力は「福祉系」とでも言うべきである。これらは明らかに美琴や黒子ではなく佐天さんにしかできないことであり、彼女はこの分野で必要とされるべき人材のはず。しかし、8話で強調された一連の彼女の長所は学園都市のレベル云々と直接結びつくことはない。
そもそも学園都市は最初から老人や障害者を排除した非福祉国家型の社会構造になっているので、彼女の長所が「能力」として評価されることはない。ここでは、いくら人助けや介護ができても学園都市が定めた基準を満たさない人間は全てレベルゼロの「落第者」として扱われる。上条さん然り、佐天さん然り。つまり、本来は社会に貢献できる能力を有しながらも、それがレベルとして数値化/定量化されて評価の対象にならないという制度的欠陥がある。
能力の測りまちがい―『とある科学の超電磁砲』第8話が面白いより引用)

上のブログではさらに論を進めて興味深い考察が繰り広げられるのだが、ここでは話を少し前に戻すことにしよう。バトル物の漫画やライトノベルでは、学園都市の能力開発と対応するような、主人公の強さを引き上げるレベルアップシステムが存在する(それは、「修行」「必殺技」「新兵器」といった形態であるかもしれない)。そして主人公は、そのレベルアップシステムの階段を上って行き、強い敵に立ち向かって行く。これがバトル物の「お約束」であり、それを最もよく体現したのが「努力・友情・勝利」というジャンプ三大原則です。それに対して、本作の主人公・上条当麻はどうか。彼の場合、超能力や魔術を無効化する幻想殺しイマジンブレイカー)を有しているわけですが、これは作中のレベルアップシステムでは絶対に数値化できない能力です。彼の能力は科学でも魔術でも説明できない特異なものとされ、能力開発というシステムの中ではその力を正しく評価できないわけです。つまり上条当麻は、バトル物の主人公でありながら、作中のレベルアップシステムの「外部」に位置する存在である。この点において本作は、ジャンプ漫画的な通常のバトル物と一線を画す作品であると言えるでしょう。

次に二つ目の観点に話を移しましょう。ある組織に所属している主人公が何らかの行動を取る場合、その組織の理念や思惑に従って行動する場合と、その組織から独立した個人的な信念に従って行動する場合とが考えられます。そして、上条当麻はもちろん後者です。彼は表面上は学園都市という組織に所属する学生ですが、彼の戦う目的はインデックスを守ること、あるいは学園都市で生活する仲間を守ること、という個人的なものです。ステイルや一方通行(アクセラレータ)についても同様です。

以上で見てきたように、上条当麻は二つの意味(レベルアップシステムと行動原理)で「学園都市」というシステムから独立した存在です。そして、この事が、彼が戦う上で極めて有利に働いていると言えます。もし、上条が学園都市のレベルアップシステムの内部に位置していたとしたら、彼が一方通行などと戦って勝つためには、そのシステムの内部でのレベルアップが不可欠となります。それは時に、能力のインフレーションを招きます。しかし、どんなに優れた刃物でも水や風を切る事は出来ないのと同じように、システムの外部から攻撃を加えることで、そのシステムを根幹から覆すことが可能となるのです。行動原理についても同様です。もし、ある組織の理念に従って行動している人がいた場合、その理念に何ら疑いを抱かないうちは良いのですが、その理念が間違っているのではないかと疑い始めた途端、その人の行動目的は大きく揺らいでしまいます。上条が戦う理由は、身近にいる仲間を守るという個人的なものでした。だからこそ、学園都市の思惑にも左右されずに行動できるし、敵がどんなに高尚な主義主張をしても自分の信念を曲げずに行動できるのです。以上が、私が上条当麻について考察した内容です。学園都市の問題点等については、また別の機会にじっくり述べたいと思います。