新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ステラのまほう』感想

この怪作を心の中でどう整理すればいいのか判断がつかないでいる。

主人公・本田珠輝は高校入学と同時にSNS部(死んだ魚の目 日照不足 シャトルラン部)に入部し、先輩の村上椎奈、関あやめ、藤川歌夜たちと共に同人ゲーム製作に打ち込んでいく。SNS部のOGであり創設者である百武照は、物語前半では、時々部にやってきて珠輝に助言したりするいわゆるトリックスター的存在だった。ところが中盤以降、きらら系の萌え4コマ漫画とは思えないような驚くべき展開になっていく。

まず、照先輩が第一志望の大学に落ちていたことが発覚。さらに、滑り止めで受かった大学すら自主退学し、浪人生となっていることも判明。時折語られる照先輩のモノローグや台詞からは、他者を信用せず、極端に刹那的で達観的な内面が垣間見える。

生きることは 全てエゴだと私は思ってる
何かを消費し 誤ちを犯し 誰かを傷付ける
誰かの為に行動し 誰かと一緒に人生を歩もうとする
ああいう在り方が 私には恐ろしくて 妬ましいんだ
(第7巻、73ページ)

私が生きる理由は ただ死ぬためなんだ
(中略)
ただ 後悔しながら自殺したくないから やる前にこのライフを飽きるまで楽しんどこ~って
(第8巻、99ページ)

ひぇっ…! 闇が深いっ! 照先輩、闇が深いよ…。このあたりにくるともう読者は、SNS部の行く末と同じくらい、照先輩がどうなってしまうのかが気になって仕方がなくなる。

語られる照先輩の過去。いわゆる毒親的な母親に育てられたことで、自罰的な思いを募らせるようになった照先輩。他人を信用できず、高校でも部活を転々とする生活を送っていたが、卒業間近でたまたま関あやめ達と出会い、SNS部でのゲーム製作を楽しむこととなる。だが、自分のような存在がSNS部に関わっていいのだろうかという思いに苛まれた照先輩は、最終第10巻で部屋に置き手紙をして失踪してしまう。

照をここまで追いつめられたのは一体何故だったのだろう。それは、照の中に築かれた「城」が崩れたからではないだろうか。他者を誰も信頼することができず、自分の内面を他人に見せることを怖れる照が、自らの心に築いた城。その城の中に身を隠すことで、なんとか心を安定させ、高校生活を送っていた照。だが、想定以上に深く長くSNS部の面々と関わっていく中で、その城はボロボロに崩れ、照の心は壊れていったのだ。

だがそれでも、照は最後に少しだけ救われて物語は幕を閉じる。照先輩と出会ったことで人生が変わったSNS部の後輩たち。彼女たちの存在が、彼女たちがかける言葉が、照を闇から救い出す。でもそれは、歌夜自身が言っていたように、照先輩を縛り付ける新たな呪いなのだろう。けれども、この呪いが無ければ、照先輩は自ら命を絶っていたかもしれない。照にとって呪いでしかないと思っていたSNS部との繋がりが、照先輩をかろうじでこの世に繋ぎ止めたのだ。

人は繋がりの中でしか生きていくことができない。人と人との出会いや繋がりが、まるで「まほう」のようにその人の人生を変え、未来を照らし出す。SNS部という名を象徴するようなテーマだが、それはこの作品の一部でしかないだろう。才能と努力、クオリティと納期のバランス、きょうだいや親との関係、承認欲求、作品を晒す羞恥心との戦い――。創作活動に関わるありとあらゆるテーマを散りばめながら平成・令和の時代を駆け抜けた、唯一無二の4コマ漫画として、『ステラのまほう』は4コマ漫画の歴史に残り続けるだろう。