新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

アニメ『かぐや様は告らせたい』各話感想

第1話

第1話の感想は下記記事を参照。

第1話のMOP(Most お可愛い Picture)は、白銀のお弁当を見てよだれを垂らすかぐや様。
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普段のかぐや様はクールで近寄り難く、怖い印象すらある。けれども実際は、お嬢様であるがゆえに世間知らずで、まだ知らないもの見たことがないものに強い憧れを抱いている、そんな内面がふっと表に出てきた瞬間のかぐや様は最高にお可愛い。第1話(原作では第1巻)でありながら、かぐや様のお可愛さの本質が見て取れる場面でした。

第2話

夏休みに海に行くか山に行くか論争、スマホの連絡先交換を巡る駆け引きも面白かったが、何と言っても、会長が恋愛相談に応じる回が最高。白銀が裏声で「付き合って欲しいな~」とか言ってる場面は腹を抱えて笑った。かぐや様のあのキレッキレなツッコミもまさにアニメでしか味わえない魅力だろう。

柏木さんとその彼氏が恋愛相談に来る回は原作でも何回かあって、私は勝手に「バカップル恋愛相談回」と呼んでいるのだが、正直、原作では特別面白いエピソードではない。ところが、これがアニメになっただけでこんなにも爆笑不可避な作品になるなんて…。やはりマンガのアニメ化に際しては、「アニメ映え」するエピソードとそうでないエピソードというのがあって、バカップル恋愛相談回は物凄くアニメ映えする何らかの要素を兼ね備えているのだろう。

表向きは、「どう考えても会長のアドバイスは的外れだったけど、何故か告白は上手くいって柏木さんと付き合い始めた」、というお話。だが、実際には、生徒会長のもとに恋愛相談しに行く勇気があった時点で、あの男子の告白が成功するのは確定だったのだろう。秀知院学園での生徒会長というのは、(実態はともかくイメージとしては)雲の上の存在であって、一般生徒にとってはとても話しかけづらいオーラがある。そこにわざわざ出かけていって、学園と何の関係もない私的な相談をできるという行動力があったからこそ、この男子生徒は柏木さんと付き合うことができたのだ。

第2話のMOP(Most お可愛い Picture)は、ドアに隠れながら会長が話してるのを聞いてちょっとムッとしてるかぐや様。
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この場面も、原作漫画の時はスルーしてた。でも、これがアニメになると、何故だかは分からないけど、メチャクチャお可愛い。単なる原作の書き写しだけではない、新しいかぐや様のお可愛さが垣間見えた。

第3話

原作第1巻でも特に印象に残っている自転車2人乗りで登校する回。小学校から高校2年生までずっと車で登校していたかぐや様、その事実を嫌というほど知っている原作読者だからこそ、このエピソードが感動的に見える。将来かぐやと白銀が付き合い出して、結婚までしたとしても、大好きな人と一緒に登校するこの瞬間は、もう二度と訪れないかもしれないのだ。道に迷い電信柱に寄りかかるかぐやの腕時計が指し示す時刻は8時25分。おそらく、白銀と遭遇し、2人乗りしてた時間はほんの2、3分だっただろう。でもその僅かな時間が、かぐやにとっては一生に一度しかない尊い時間だったに違いない。

そんな感動的な回のすぐ後に訪れる特殊エンディング「チカッとチカ千花!」の衝撃。ラブ探偵チカの登場は第5話、「森へお帰り」で有名なゴキブリ回はアニメにすらなっていない。本編と何の関係もないエンディングにこれほどまでに力を入れ、しかもそれをたった1回だけの放送で終わらせるという凄さ。これだけでもう、本作が普通のアニメではないという事を物語っている。

第3話のMOP(Most お可愛い Picture)は、初体験=キッスのことだという勘違いにようやく気付いたかぐや様。
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この表情、もう最高である。ドヤ顔でマウント取りに行ったのに全部勘違いだったという恥ずかしさ、会長の前でとんでもない事やらかしてしまったどうしようという焦り、性の知識に初めて触れたことによる恐怖…。この瞬間にかぐや様の頭の中に去来する様々な感情を想像しただけで、もうニヤニヤが止まらなくなる。

第4話

この回あたりから、各キャラが初登場時とは異なる新たな一面を見せるようになる。例えば、NGワードゲームで無双する藤原とか、自室で早坂と会話するかぐやとか。その中でも印象的なのは、これまで相手に対してマウント取りに行って恋愛頭脳戦を有利に進めることしか考えていなかった会長とかぐやが、ようやく相手に自分の弱点や本音を見せるようになった点だと思う。

会長をバカにする発言をした生徒に対して、かぐやが怒涛の勢いで言い返す。フランス語で罵詈雑言を繰り出すかぐやの姿は、白銀と出会う前のいわゆる「氷のかぐや様」時代の残滓だ。誰にも心を開かず、他人を蹴落とすことしか考えていなかった昔のかぐや。それは、今のかぐやにとっては忘れてしまいたい黒歴史のようなものだろう。だからこそ、かぐやはそんな姿を会長の前で晒してしまったことを恥じ、落ち込んでしまう。でも、かぐやは、そこまでしてでも会長を守りたかったのだ。そんなかぐやの心境を分かっているからこそ、白銀の方も、実はフランス語はほとんど聞き取れなかった、と本当のことをかぐやに打ち明ける。間違いなく、二人の距離が大きく縮まったエピソードと言えるだろう。

第4話のMOP(Most お可愛い Picture)は、ネコ耳をつけたかぐや様。
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これはもう鉄板だろう。

第5話

相合傘回は原作でも屈指のイチャイチャラブコメ回だと思うが、ただ単に、二人がイチャイチャしてお前らもう結婚しろよ、ってなるだけじゃないのが本作の醍醐味だ。せっかくの作戦を藤原に邪魔され、顔赤くしながら傘を差しだすかぐや。傘の下からその表情が少しだけ見えて、勇気を振り絞って一緒に帰ろうとしてくれてた事が御行にも分かったからこそ、御行もまた勇気を出して「半分借りる」と言うのである。ああもう尊いなぁ~。

第5話のMOP(Most お可愛い Picture)は、作戦が台無しになって傘をパタパタさせてるかぐや様。
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次点は、柏木さんの恋愛相談中、あくまでも友人の話だと言い張るかぐや様。

第6話

石上会計がようやく登場。さすがに出てくるの遅すぎだろと思ったりもしたが、後になって振り返るとここしかない絶妙なタイミングでの登場だったと思う。第5話までは生徒会室にたまに来てる程度で会長たちとはほとんど会話しない。第6話でようやく顔見せ。第7話で本筋のストーリーに絡むようになってきて、第8話ではかぐやとも交流を持つ(テスト勉強回)。そして第9話では藤原のことをボロクソにこき下ろし、第10話で「うるせーバーーーカ!!!」が発動する。これは、他人に心を閉ざしていた石上が、少しずつ、一歩ずつ着実に、傷を癒し周囲と打ち解けていく軌跡だ。

第6話のMOP(Most お可愛い Picture)は、ラストの「もうっ…もうっ!」のかぐや様。
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次点は、会長にネイルを気付いてもらえなくて拗ねるかぐや様。

第7話

おそらく、女性声優が最も多く「ちんちん」という台詞を言ったTVアニメの回、としてギネスブックに載るであろう。この回を本気でアニメ化したスタッフの心意気、そして声優陣の名演に心から拍手を送りたい。

第7話のMOP(Most お可愛い Picture)は、「会長からそんなワードが出てきたら…絶対に笑ってしまう!」のところのかぐや様。
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この回だけに限らないが、本作はかぐや様の顔のどアップをメチャメチャ多用している。これは第2話とか第8話でも顕著に表れているのだが、元を辿れば原作漫画の時点でかぐや様の顔がコマいっぱいに描かれていて、台詞やモノローグの文字が顔に重なってるような構図が頻出しているのだ。こういうところにも、アニメスタッフの原作へのリスペクトが垣間見える。

第8話

第8話の感想は下記記事を参照。

第8話のMOP(Most お可愛い Picture)は、期末テストで白銀に負けて悔しがるかぐや様。
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この場面で初めて、生徒会副会長のかぐや様でもなく、白銀に恋するかぐや様でもない、本当に素のかぐや様が描かれたように思う。そうか、そうなのか…、テストで負けたのが泣くほど悔しかったのか…。第4話のNGワードゲームで負けてメッチャイラついてた時にも思ったが、かぐやは筋金入りの負けず嫌いだと思う。大財閥の令嬢としての仮面を被り感情を殺しながら生きてきたかぐや様にも、こういう人間らしい一面があるのだと再確認できて、感動すら覚えた。

第9話

原作読者全員が待ちわびたイカサマトランプ回、そしてお見舞い回である。ここぞとばかりに藤原を攻撃する石上、風邪をひいて幼児退行してしまったかぐや様、声優の名演が特に光る回だった。

第9話のMOP(Most お可愛い Picture)は、もちろん、風邪で弱っている甘えんぼかぐや様。
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何この可愛い生き物…。風邪ひいたときに食べたい物が桃の缶詰という意外と庶民的な物であるのも何か可愛い。だが、原作漫画14巻では、甘えんぼかぐや様の上位互換、この世で最も可愛い生き物といっても過言ではない、激レア生物「かぐやちゃん」も登場している。アニメしか見ていない人も、絶対にこの続きを見るべきだろう。Don't miss it!!!

第10話

台風の日→かぐや様風邪ひく(&藤原フルボッコ)→かぐや様幼児化→喧嘩→恋愛相談(「うるせーバーーーカ!!!」)→仲直り、というアニメ9話から10話の一連の流れは本当に素晴らしかった。この流れの中でいったい何個名言・名シーンが生まれた? 本作の一番の魅力の一つは、予想もつかないようなところから話がどんどん膨らんでいく事だと思う。

第10話のMOP(Most お可愛い Picture)は、白銀と喧嘩して「はーーーーーーーーーっ!!!」ってなってるかぐや様。
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原作者は本当に人間の心理描写が上手いというか、なんというか…。たしかに、気になってる相手とギクシャクして喧嘩してる、そんな矢先に相手から結構嬉しい事言われて、驚きとか嬉しさとか照れとかでいっぱいになってるけど、そんな感情絶対知られたくないっていう時、こういう反応になるっていうのは何となく分かるよね。

第11話

尺。尺、だよなあ…。このアニメにおいて、最大の敵は、12話、30分という時間の制限なんだよなあ…。せめてアニメが全13話だったなら、白銀・藤原の特訓回をもう1話増やせたし、ラーメン回ももっと面白くできた。「花火の音は聞こえない」も、本当は12話で一気に描き切って欲しかった。でも、これはもう、どうすることも出来ないよなあ。

そういった制限の中でも、かぐや様がツイッターを始める回は抜群に光っていた。何というか、この作品は、ツイッタースマホ、LINEといった現代のアイテムの使い方が本当に上手い。

第11話のMOP(Most お可愛い Picture)は、夏休みに白銀と会えなくて溜息をつくかぐや様。
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普段のクールな表情とは大違い。「は~~~~~~あ~~~~~~」という、体内の空気が全部抜けてしまうんじゃないかと思うくらい大きな溜息。完全にやさぐれてるおっさんである。でも、普段気を張って生きてる人ほど、プライベートではユル~い性格になってしまう、というのは現実の世界でもよくある事だし、かぐや様のような表向きは完璧超人な人が、気を許せる人の前でだけはこんなにもダラけてしまうというのは、すごく説得力のある描写だと思う。

第12話

第12話のMOP(Most お可愛い Picture)は、会長の横顔から目が離せないかぐや様。
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ルイ・パスツールはこう言った。「幸運は準備された心に宿る」

この世に神様など居ない。奇跡も魔法も存在しない。だが、それでも、たった一人の人間が、かぐやの事を思い、もっとかぐやの事を知りたいと願い、そのために必死に努力して、準備を続けた時、今までの不幸なんてきれいさっぱり忘れてしまうくらいに最高の幸運が訪れる。そこには夏らしいロマンチックな思い出も、特別な舞台装置も必要ない。花火ですら必要ない。大好きな人と一緒に夏を過ごす、ただそれだけの事で、かぐやは救われていたのだから。

かぐや様は告らせたい』は、ラブコメでも恋愛頭脳戦でもない。これは、四宮かぐやという少女の心の救済の物語。そして、かぐやだけでなく、石上やその他の登場人物みんなが、誰かから救われ、誰かを救う物語だ。

総評

アニメでナレーションを担当した青山穣さんが、インタビューでユニークな作品評をしている。

実は最初、タイトルを勘違いしていたんですよ。『かぐや様は告らせたい』じゃなくて『告られたい』だと。そのほうが普通じゃないですか? だから「告白されたい女の子の物語なのか」と読み進めていったら、なぜか恋愛バトルをしてるので「ん、なんか変だぞ?」と(笑)。
でも読んでいくうちに、タイトルを「告られたい」という受身ではなく、「告らせたい」という使役の表現にしたことが、『かぐや様』のポイントなんだなと感じるようになってきたんですよ。
(中略)
かぐや様は告らせたい』という作品は、「他人を自分を意のままに動かしたい」という欲望について物語なんだな、と個人的に解釈したんです。もしかしたら現代っ子は、人間を機械のようにコントロールしたいという、ちょっと薄暗い気持ちがあるのかもしれないなと。
でも人を自由に動かすなんて、そんな簡単なことじゃない。かぐやと白銀会長もいろいろな計画を企てるけれども、実際は失敗ばかりなわけで(笑)、だから『かぐや様』は相手を支配したいと考えていた二人が、人間は思い通りにはいかないことを悟るまでを描いたお話になるんじゃないか、と僕は勝手に想像していますね。
『かぐや様は告らせたい』青山穣さんがナレーションで手応えを感じたエピソードとは【連載】 | アニメイトタイムズより引用)

この見方は決して的外れではないと思う。物語の序盤はかぐやも白銀も「相手に告白させたい」「自分を選ばせたい」という気持ちから行動していたように思うが、原作漫画の巻数が増えるにつれて「相手に好かれたい」「嫌われたくない」という気持ちの方がより強くなってきている。つまり、最初の頃はまだ「相手の行動をコントロールして優位に立ちたい」という「使役」の感情が強かったのが、相手への愛を深めるにつれて、相手と一緒にいたい、この掛け替えのない高校生活を2人で楽しみたい、という気持ちがより前面に出てくるようになる。でもそれは、「相手に好かれたい」「告白されたい」という「受身」の願望だから、自らの行動はますます慎重になり、自我は空転し、見る側からしたら最高にお可愛い姿を拝める。

そういう意味で言えば、今回アニメ化されたのは原作の序盤にある「使役」の物語の部分だけだろう。これよりももっとお可愛くて最高に面白いエピソードは、後半の「受身」の物語の中にある。だからこそ、アニメ第2期をできるだけ早く実現してほしいと強く願わずにはいられない。

(下記関連記事は、原作漫画のネタバレを含みますので注意願います。)