新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』観てきた感想

  • 『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』見てきたけど、マジで百合だった。
  • 結城明日奈と兎沢深澄はお嬢様学校で成績トップクラスの秀才で、皆に隠れて格ゲーをプレイするゲーム仲間でもあった。深澄はミトというプレイヤーネームでSAOに参加、彼女に誘われて明日奈もログインしてしまい、そこでSAO事件に巻き込まれる、というのが冒頭。アスナがSAOにログインするまでの経緯をこれほど詳しく描くとは思ってなかった。
  • 取り乱すアスナをミトが強く抱きしめ、「アスナは絶対私が守る」と宣言。ミトはベータテスターとしての経験を活かし、アスナにゲームで生き残る術を一から教えていく。2人はパーティーを組み、同じ宿屋で寝食を共にしながら、少しずつスキルを上げていく。もうこの時点で百合好きにはたまらない展開。もうキリトさん出て来なくて良いよという気持ち。
  • ところが、些細なミスから2人はモンスターの群れに囲まれてしまい、さらにミトが崖から落下。アスナがモンスターに追い詰められHPも残り僅かとなった時、ミトはパーティーを解消しアスナを置いて逃げ出してしまう。
  • そこに颯爽とキリトが登場(観客全員が予想できた展開)し、アスナを助ける。この後アスナに話しかけるキリトさん、絶対にアスナと目を合わせようとしないのが笑える。どう見ても童貞です、本当にありがとうございました。
  • ミトに裏切られたという気持ちになったアスナは自暴自棄になり、第1層の迷宮区で危険なソロプレイを繰り返す。そこでキリトと再会し、さらにディアベルが中心となったボス攻略作戦に参加することとなる。ディアベルの繰り出す「は~い、6人組作って~」で焦り出すアスナとキリト、最高に萌える。
  • その夜、激ウマクリーム&お風呂で恍惚とするアスナも丁寧に描かれる。その時のキリトの言動もやはり童貞ムーブ全開で最高に萌える。
  • ミトとの一件をキリトに相談するアスナ。キリトは「極限状態の咄嗟の行動なんかよりも、普段アスナと接している時の行動こそがその人の本心に近いんじゃないか」というようなことを言う。実際、ミト視点から見ると、アスナのHPが0になる(=死ぬ)瞬間を見たくないという理由でパーティー解消しただけだし、アスナはもう死んだと思ってるので、決してアスナを見捨てて逃げたわけじゃない、ということが分かる。
  • ここで「とっさの判断を迫られる極限状態で取った行動は、必ずしもその人の本性や人間性を表しているわけではないし、必ずしもその意図が相手に正確に伝わるわけではない」というテーマ性が浮かび上がってくる。このタイプのテーマ性を持った作品は珍しいと思う(これと逆のテーマなら頻繁に取り上げられるが)。何かピンチになった時にこそ人の本当の姿が見える的な言説を偉そうに語る人はどこにでもいますが、果たしてそれは常に正しいと言えるのか? 極限状態で取った行動は本当にその人の人格・性格と結びついているのか? それはよくよく考えてみると、意外と複雑で、簡単に答えを出せない問題だということが分かる。
  • 結局ボス攻略戦を通して2人のわだかまりは解消されるものの、アスナはミトに別れを告げてキリトと共に第2層へと進んでいく。ミトにとってアスナは学校で唯一ゲームの話ができる友達で、そんな友達をSAO事件に巻き込んでしまったという後悔、「アスナは私が守る」と言ったのに守る事ができなかった罪悪感、でも結局アスナは生きててアスナ視点から見れば最低な事をしてしまったというショック、そして見ず知らずの男がいつの間にかアスナの横にいてアスナはそいつに付いて行ってしまってという状況。この時のミトの気持ち想像したらさあ、…もう、たまらんよね。
  • というわけで、『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』はアスナ視点でアインクラッド編を再構成しつつ、ミトとのエモすぎる百合描写、童貞キリトさんの圧倒的可愛さなど、見所満載という感じでした。

『ホリミヤ』第7話―ゴミ箱のシーンが最高だった

本記事の結論は、まあタイトルの通りなんですが、他人に勧められてようやくアニメ『ホリミヤ』を見て、第7話まで見て、かなりグッとくるシーンだったので一応記事にします。

主人公たちの友達として透と由紀っていうクラスメイトが出てくるんですが、端的に言うと由紀は透のことを好きになりかけてるわけです。でも他クラスに桜っていう子がいて、彼女もまた透のことが好きで、少しずつ透と親しくなって手作りのクッキーとか渡しに行ってるんですね。

で、桜が由紀にもクッキーをくれて、由紀は思わず小声で「いらない」とつぶやくんだけど、自分の感情を押し殺しながらそれを貰います。

そしてこの後のシーンが、クッキーの袋持ちながらゴミ箱の横を歩く由紀っていうのがもうね。視聴者は、ひょっとしてクッキー捨てんじゃないかってドキッとするわけです。
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でも次のシーンでは、由紀はちゃんと階段に座ってクッキーを食べてて「美味しい…これじゃ毎回貰っちゃうよな…」とつぶやきます。
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ここで視聴者は胸を撫で下ろすんだけど、由紀はチラッとゴミ箱の方を見て、そしてまた画面にゴミ箱が映る。
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そして、「私…醜い…」って言うんですよ。

いやこれもう凄くないか?

つまり、画面にゴミ箱が見えた時視聴者が思ったのと同じことを、由紀も頭に浮かべていたということ。実際に捨ててはいないけれど、そうする事が一瞬頭によぎった、その事に対して自己嫌悪を抱いている。

そんな揺れ動く心を、一切説明することなく、たったこれだけゴミ箱を映すだけで全て表現し尽しているわけで、これはちょっと鳥肌が立つくらい凄いシーンだなと思った次第です。以上。

『スーパーカブ』と地理学

国土地理院のサイトで日野春駅周辺を見てみる(標高350-600m付近で色が変わるように調整済)。

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小熊ちゃんの家は日野春駅(図右上)のすぐ近くの公営住宅という設定で、そこから2キロほど離れたところにある高校(図左下。作中では高校となってるが実際のその場所には中学校がある。)に通っている。

日野春駅の標高が約600mで、そこから蛇行する道を下って図中央にある橋のところで標高約500mとなる。高低差約100メートル! 実際に現地にも行ってみて分かったが、女子高生が毎日自転車で上り下りできるような坂ではない。というか、学校だけに限らず、コメリやスーパーマーケットなども全て図左下の低地の方にあるので、原付か車が無ければ相当不便な生活を強いられる場所である。スーパーカブを手に入れて見える景色が一変するというのは、何ら大げさな表現でなく、リアリティのある感覚であるということが分かる。

では何故こんな高低差があるのかというと、それは川によって山地が削られたからである。少し範囲を広げた地図を見てみよう。

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釜無川と塩川が山地を削り、山地が舌状に突き出した形状になっている。その舌の付け根あたりに日野春駅があるというわけである。釜無川と塩川は下流で合流し甲府盆地へと至る。そのさらに下流笛吹川などと合流し富士川となる。富士川は身延へと繋がる。『スーパーカブ』と『ゆるキャン△』の舞台は川で繋がっていたのである。

作中で出てきたコメリとかがあるのは国道20号沿いである。国道20号とは要するに昔の甲州街道である。人口が多いのは当然この甲州街道沿いなわけだが、ではどうして日野春駅(要するに中央本線)はそこから離れた山地を通るのだろう。

それは、鉄道が坂道に弱いということが関係していると思われる。中央本線は図上側へと延び、諏訪・松本へ向けてどんどん登って行かなければならない。そんな時に、川沿いの低地を悠長に走っていたら、いずれ山地にぶつかって先に進めなくなるのだ。だから、釜無川と塩川に挟まれた山地を使って徐々に徐々に高度を稼ぎながら進むしかないのである。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』感想

次にくるマンガ大賞で2位となった実力は伊達ではない。主人公・オグリキャップだけでなく、全てのウマ娘たちが、まさに命がけで死闘を繰り広げる。これぞスポーツ漫画の醍醐味。だが、それにも増して、このコロナ禍だからこそ光るテーマ性がこの漫画にはある。

オグリキャップは、地方競馬で圧倒的な実力を発揮し、中央へ転進する。しかし、最も歴史のあるクラシック競走に出場するためには、その前年にクラシック登録というものをしなければならなず、その規則のためにオグリキャップ日本ダービーへの出走を逃す。この描写は今日のコロナ禍におけるアスリートの置かれた状況と似たものがあると感じずにはいられない。

これは確か為末大さんが言っていた事と思うが、オリンピックに出場するアスリートが一番恐れているのは、「世界一」を決める場という五輪の性質が失われる事だという。多くのアスリートにとっては、自身が負ける事や、無観客での開催になることは、最重要の事柄ではない。しかし、コロナ禍のために十分に練習が出来ない国が生じたり、そもそもコロナのせいで五輪に参加できない選手が出てきたりすることは死活問題になる。何故ならば、アスリートにとっては、一流の選手が全員そろって公平な条件下で勝負をする、ということが何より重要だからだ。そういう環境が整わない状況でたとえ金メダルを取ったとしても、それは真の王者とは言えない、と考えるのがアスリートなのである。

本作は、己の肉体と技術を極限まで鍛え上げるというだけでなく、本人の努力ではどうすることもできない高い壁と対峙せざるを得ない、というアスリートの本質をよく体現している。だかこれは、コロナ禍が始まる前からずっと変わらないことだとも思う。

マイケル・サンデルが著書の中で取り上げたケーシー・マーティン裁判というものがある。プロゴルファーであるケーシー・マーティンは先天性の障害があり長距離を歩行することができない。そのため、プレー中にカートを使用する事を認めてほしいと訴えたが、ゴルフ協会はそれに反対し裁判にもなった。結局マーティンは裁判で勝利したが、判事の意見は割れた。判事の一人はこう述べた。「そもそもあらゆるスポーツのルールは恣意的に決められるものであり、何が公正か等を判断することなど出来ない。与えられたルールに則って戦うというのがスポーツの本質である」。

だが、これは本当か。スポーツのルールには、著しく公平性を欠いてはならない、選手や審判や観客の安全が確保されなければならない、といった大前提があるものの、それさえ守っていればあとはどんなルールでも良いのか。いや、それはちょっと違うだろう、とサンデルは述べる。例えば、野球のDH制。投手に代わって打撃専門の選手が打席に立てば、打線の繋がりが良くなって試合がよりエキサイティングになる。また、守備が苦手な選手でもDHによる出場機会が与えられる。つまり、スポーツのルールは、観客がより面白いと感じるものでなければならない、という側面を持つ。その競技をより面白くエキサイティングなものにするために、ルールは日々更新されていくものである。

本作は、競馬という競技に限らない、スポーツにおけるルールというものの本質を実によく描き出している。

『かぐや様は告らせたい』―最近の伊井野ミコがヤバすぎる

遅ればせながら『かぐや様』を22巻まで読んだのですが、いやもう、これ、スゲーわ・・・。

伊井野ミコがどんどん魅力的なキャラになっていってるのよ!

初登場時の伊井野ミコって、融通が利かない真面目一辺倒って感じの子で、良くも悪くもステレオタイプな風紀委員という役付けだったのよね。

ところが、ヒーリングボイスとか、大食いとか、登場回数が増えるにつれて、どんどん化けの皮が剥がれていく。さらに、藤原書記への依存度も日に日に増していき、コイツ実はヤバいやつなんじゃね?ってなっていく。

その勢いはクリスマスパーティでの骨折事件で一気に加速。怪我で片手が使えないことを利用して石上に身の回りの世話をさせるなど、もうやりたい放題。さらに、石上への恋心を自覚するとほぼ同時期に、タオルケット依存症、闇ポエム、般若心経など、激ヤバメンヘラ設定が目白押しとなる。

そして、般若心経と同じ回なんですが、ついにミコと会長との関係性にも急展開が生じます。

もしかして私のタイプって白銀先輩なのかもしれませんよ どうします?
もちろん冗談です 私……会長と四宮先輩が付き合ってるの気づいてますから
(『かぐや様は告らせたい』第19巻、190話より)

気づいてたんか~い! ていうかちょっと待って、ミコちゃん、会長をからかうようなキャラじゃなかったよな・・・。だが、ここから伊井野ミコの会長イジりはどんどん加速する。

……先輩はそうやって何人の女の子を泣かせてきたんですか?
私にもこんなに優しくしちゃって……本命チョコは会長にあげますね
(『かぐや様は告らせたい』第20巻、194話より)

極めつけが21巻206話、石上がつばめ先輩に振られ、そのことを内心で喜んでしまったミコは自己嫌悪に陥ります。何か出来ることはないかと白銀が声をかけると、なんと「私を抱きしめてください」と。もうヤバすぎる展開。焦る白銀。するとミコは笑いながら、

先輩の慌ててる顔見たら ちょっと元気出ました
(『かぐや様は告らせたい』第21巻、206話より)

ってもう、完全に白銀をからかって遊んでるんですよね。そしてその後も、

先輩だったらいつでもハグして来ていいですよ
お互い変な気起こしたら その時は一緒に地獄へ堕ちましょうね
あーあ… 先輩が女の子だったら良かったのに
そしたらいっぱいイチャイチャ出来たのにな
(『かぐや様は告らせたい』第21巻、206話より)

ひぇ~~~~~~!!! 怖えよ!!! なんなの、この女!?

第22巻でもヤバさ全開。

先輩も大人な私にどんどん甘えてくれて構いませんよ?
私は子供扱いも頭なでられるのも好きなタイプなので
いつか先輩からのなで返しを期待しています
(『かぐや様は告らせたい』第22巻、213話より)

とか言いながら、会長の頭ナデナデしています。

一体何なんだ。この豹変ぶりは。ミコちゃん、いつの間にこんな強キャラになった?

でも、これが、伊井野ミコが生徒会に入って大きく成長したということの何よりの証拠じゃないでしょうか。

中学時代の辛い経験もあって人前でスピーチする事すらできなかったミコちゃんが、白銀会長の協力もあってトラウマを克服した。でもその時点ではまだ生徒会役員としても人間としても全然会長の足元にも及ばないヒヨっ子だった。

そんなミコちゃんが、会長や他のメンバーとフランクに会話できるようになり。いや、それだけじゃない。仕草、話術、度胸、人間力、全てのレベルが格段に上昇していて、白銀会長をからかい弄んで遊んでいる。あのかぐや様と恋愛頭脳戦をやってきた百戦錬磨の会長が、本気でタジタジとなり狼狽えている。

この様子を見るだけでもう涙が出てきそうになる。

ああ、伊井野ミコ、成長したなぁ・・・。間違いなく、生徒会メンバーの中で一番成長したのは伊井野ミコだと断言できる。

ここからさらに物語が進んだら、伊井野ミコは一体どうなるんだろう。本当に末恐ろしい子だ。

正直、かぐやと御行がカップルとなり、あとは最終回に向けてソフトランディングしていくだけと思っていた。しかし、ここに来てキャラクターの新たな一面が開花し、物語は想像もつかない方向へと進もうとしている。見事としか言いようがないです。