新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『恋する小惑星』のイノ先輩のことを一番よく理解しているのは自分なんだという強い自負

9月12日は『恋する小惑星』のイノ先輩こと猪瀬舞さんの誕生日です。おめでとうございます!

アニメ第1話の反復横飛びは本当に衝撃的だった。そこからずっとイノ先輩を見続けてきたけれど、もうイノ先輩の一挙手一投足がただただ可愛い。桜先輩のことが大好きでデレデレしているイノ先輩、可愛い。先輩達が部活引退して泣くイノ先輩、最高に可愛い。手ブレで上手く写真が撮れずに泣くイノ先輩、もう死ぬほど可愛い。頼りなくて、不器用で、でもいつも一生懸命なイノ先輩のことが、ただひたすらに可愛くて大好きでした。

でも、イノ先輩と言えば、アニメ第3話は決して外せないポイントでしょう。休みの日にすずちゃんと一緒に探索しているイノ先輩。あおとみらが後を付けていくも見つかってしまい、イノ先輩はこう言います。

今日は飛び地を見に行きたくて

もうこの言葉聞いた瞬間テレビの前にいる地理オタクは全員歓喜に打ち震えたことでしょう。そうか…イノ先輩、飛び地ガチ勢だったのかぁ(恍惚)

みらから「それ面白いんですか?」と聞かれたイノ先輩は、手をめっちゃパタパタさせながら、

面白いんです!」と叫びます。

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この天真爛漫な笑顔。子どものようにはしゃぎ目を輝かせる姿。そう。イノ先輩の言う通り、飛び地は最高に面白いのである。イノ先輩が訪れた場所は実在しているので、もちろん私も後で見に行った。

『恋する小惑星』聖地巡礼 - 新・怖いくらいに青い空

その場所の近くに地図があったのでそれを見てみよう。

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川越市の一部が盲腸のように飛び出して、ふじみ野市側に突き出ている不思議な境界線。境界線が何故このような形になっているのかは分からない。おそらく、道の両側の土地の所有権か道路管理の都合でこんなことになっているのだろう。

ただ、ここは厳密に言えば飛び地ではない。本当の飛び地の例を以下に示す。

こちらは飛び地マニアの間では割と有名な飛び地で、できた理由もはっきりしていて由来は江戸時代にまで遡る。そもそも県をまたいでの飛び地が珍しいことに加え、飛び地が近い距離で3つも並んでるというのが実に面白い。

あるいは、こういう境界線もある。

おそらく昔はこの境界線に沿って川が流れていたが、河川改修で川の流れが真っ直ぐになったため、このように川によって分断された土地ができたのだろう。これもまた広い意味では飛び地と言えなくもない。

飛び地に限らず、境界線というものは調べれば調べるほど面白い。ただ地図で見るだけでも楽しいのだが、その場所を実際に訪ねてみるというのはまた格別な楽しさがある。面白い県境の例を以下に示そう。

まさに、イノ先輩が見たら「面白いですー!!!」ってなること間違いなしである。

この記事をここまで見てきてもまだ境界線の魅力に気付けない人は、残念ながらイノ先輩のことを真に理解することはできないだろう。

地学、それは最も身近な学問であり、我々人類が根源的に持つ「知りたい!」という欲求を満たしてくれる学問。

我々人類が学問という営みをスタートさせた時、最初に生まれたのは地学だったに違いない。この宇宙や地球はどのようにしてできたのか。何故世界は今のような形になったのか、そして、これからどう変化していくのか。海や川や山はどうやってできたのか。金銀銅や宝石、その他あらゆる岩石や天然資源は、いつどのようにして作られたのか。天気が移り変わったり、災害が起こったりするのは何故なのか。私達が住む日本や他の国々に、独特の地形や歴史や文化が生まれたのは何故なのか。何故この地球上には戦争や貧富の格差があるのか。何故、世界はこんなにも美しく、多様性に満ちているのか。地学の中には、これらの問いに対する答えが全て詰まっている。

そして、地図とは、人類が必死に世界を理解しようとして作り上げたもの。広大で複雑すぎるこの世界を、なんとかして手元にある1枚の紙に収めて理解しようとした、人類の執念と工夫の結晶。そこに書かれた境界線とは、所有という概念を手にした人類が、長い長い歴史の中で土地を区分けしていく中で作られたもの。利権や自然環境や人々の都合など、ありとあらゆるものが複雑に絡み合って、境界線は複雑に入り組み、飛び地も生まれる。境界線からは、その地域の長い歴史と、そこで代々暮らす人々が歩んできた道のりを感じられる。

私もイノ先輩も、こんなふうに地学や地図の魅力をいくらでも語ることができるけれども、それは全く本質的なことじゃない。これは全ての学問に言えることだが、イノ先輩の台詞「面白いんです!」これが全てなのだ。何故面白いのかと理由を問うことは、マラソンや登山をしている人に対して「そんなキツいことして何が面白いのか?」と聞くようなものである。そこに理由など存在しない。面白いものは面白い、楽しいものは楽しい、ただそれだけなのである! 飛び地は最高に面白い。地図は最高に楽しい。私もイノ先輩も、その面白さを知っている。

だからイノ先輩が、学校の休み時間に帝国書院の地図帳を一心不乱に眺めていたことも知ってるし、休みの日に親のパソコンを借りてグーグルマップで一日中遊んでいたことも知ってるし、紙に架空の町や道路や鉄道路線網を描いて遊んでいたことも知っている。何故ならば、私とイノ先輩は同志であり、一心同体だから。地図を愛する者どうしだから、イノ先輩の気持ちは100%理解できるし、イノ先輩の大好きなものを誰よりもよく理解できるのは自分なんだという強い自負がある。

私もイノ先輩も、学校で教わるよりずっと前から、都道府県の名前や位置も、県庁所在地も、地図記号も、全部暗記していた。リアス式海岸、陸繋島、三角州、扇状地フィヨルド三日月湖、そうした言葉の意味も完璧に理解できた。世界各地の国名と位置関係、その国はどんな気候でどんな天然資源や農作物が取れるのか、学校のテストで出るレベルの問題ならほぼ完璧に理解できた。それらを学ぶことは苦痛でも何でもなかった。休みの日や学校の帰り道に、まだ行った事のない道を探索しながら通るのが、どんな遊びやゲームよりも心躍った。私とイノ先輩はもちろん会ったことも話したこともないけれど、イノ先輩が何を考えているのか、何を面白いと感じるのか、手に取るように分かる。

こんなふうにオタクのキモい妄想を無限に膨らませてくれるイノ先輩であるが、イノ先輩を見続けているうちにふと思うのだ。所詮イノ先輩の足元にも及ばないのに、何勝手に分かった気になってるんだと。自分は一度でも地学オリンピックに出てみようとか学生時代に思ったりしたか? 自分は所詮、地図を見て楽しんでるだけの素人。対するイノ先輩は、地学という学問を本気で学ぼうと努力しているではないか。これはどんな分野でもそうだが、いくら「好きこそ物の上手なれ」と言えども「好き」だけでは何も成し得ないのである。例えば、土壌や岩石がどのような組成でどのような構造をしているのか、それを研究するのは紛れもなく化学の分野に近い。山や谷はどうやってできるのか、それは水や風による浸食を研究すないといけないが、それはもちろん流体力学、つまり物理と数学の仕事である。ただ「面白い!」だけじゃない、より難解で、だからこそ奥深い学問の世界へ足を踏み入れようとしているイノ先輩。その真摯さ、ひた向きさもまた、我々がイノ先輩を愛する理由ではないだろうか。

あらためまして、お誕生日おめでとうございます。今年度の地学オリンピックも頑張ってください。