新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選

今年見て最も印象に残ったアニメ10話を選出します。例年通り、ブログ「新米小僧の見習日記」を参考にして、

・2017年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

というルールで選出しました。

3月のライオン』、第26話、「Chapter.52 てんとう虫の木(2)」「Chapter.53 てんとう虫の木(3)」「Chapter.54 想い」

脚本:木澤行人、絵コンテ:黒沢守、演出:岡田堅二朗、作画監督杉山延寛・潮月一也・野道佳代・松浦力・浅井昭人

今の天皇陛下水俣病患者と面談された際、「真実に生きるということができる社会を、みんなでつくっていきたい」というお言葉を述べられたそうである。真実に生きるということ、それは、自分に嘘をつかないということ、間違っているものに毅然とノーと言えるということ。現代日本に生きる私達にとって、それはどんなに難しいことだろう。

川本ひなたは曲がったことが大嫌いで、おかしいと思う事に立ち向かえる勇気がある。しかし、そうして真実に生きようとした結果、彼女はボロボロになり、玄関先で泣き崩れる。27話以降の話になるが、教室で居場所を失い、ますます精神的に弱っていってしまう。真実に生きようとすればするほど、この社会は生き辛くなっていく。

それでもひなたの祖父は、ひなたは何も間違っていない、胸を張って生きろと力強く彼女を励ます。ベンチで泣きながらも後悔はしないと断言したひなたの姿を見て、零は自分が救われたような気持ちになる。自分が信念を持って真実に生きようとすれば、その思いは必ず誰かに届く。その生き方はきっと誰かの心を動かす。そういう強いメッセージを感じさせる回だった。

リトルウィッチアカデミア』、第18話、「空中大戦争スタンシップ」

脚本:樋口七海、絵コンテ:小林寛、演出:下平佑一、作画監督:坂本勝・田村瑛美

待ちに待ったコンスのメイン回。コンスタンツェかわいいよコンスタンツェ…。と同時に、本作のテーマの一つを最もよく体現した回だったとも言える。

本作における魔法界がアニメ業界のメタファーになっているということは、すでに述べた(2017年上半期アニメ総評 - 新・怖いくらいに青い空)。第18話では、アニメという芸術の最も普遍的な特徴の一つを見事に体現している。それは、一人では作り上げることが到底不可能である、ということだ。監督、脚本家、演出、絵コンテ、作画、声優、その他大勢の人間がかかわって一つの作品を作り上げている。これは、絵画や小説といった芸術作品とは大きく性格を異にするものである。人にはそれぞれに長所と短所があり、異なる長所をもった専門家達が力を合わせて作り上げるのが、アニメ(特にテレビアニメ)という芸術なのだ。

メカニックの設計や開発が得意だが人とのコミュニケーションが苦手なコンスタンツェ、バカだけど情熱と行動力だけは人一倍なアツコ。その2人が手を取り合って完成させたロボットはまさに、グレンラガンではないか! そうだ。あのロボットアニメ史に残る名作もまた、こうやって様々な長所と短所を持つスタッフが力を合わせて作り上げたものなのだ、ということをこの第18話は高らかに謳い上げている。

メイドインアビス』、第10話、「毒と呪い」

脚本:小柳啓伍、絵コンテ:小島正幸、演出:孫承希、作画監督:佐藤このみ・服部聰志・谷口義明・池津寿恵・萩尾圭太

まさに壮絶。迫真。強烈。圧巻の30分。親も兄弟もいないレグにとって、リコは共に旅をする仲間という以上の特別な存在、それこそ生きる意味そのものと言ってもいい。そのリコが突然の事故に襲われ、人が想像し得る限り最悪レベルの痛みと苦しみの中で命尽きようとしている…。そんな光景を目の当たりにしたレグの気持ちを想像すると、見ているこっちも胸が締め付けられる。

まさに、『メイドインアビス』という作品が持つ強烈な「毒」を、希釈も妥協も日和見も一切せずに徹底的に描き切った第10話だった。

けものフレンズ』、第4話、「さばくちほー」

脚本:たつき、絵コンテ:たつき、演出:たつき作画監督:伊佐佳久

以前書いたように(『けものフレンズ』のツチノコは言動が意味不明すぎて萌える - 新・怖いくらいに青い空)、小林ゆうの演技が最高すぎた。急に奇声を上げたり、突然饒舌になったり、とにかく先の行動が読めない。まさに珍獣という名にふさわしい名演。アニメ2期があるのならツチノコも再登場してほしいが果たしてどうか。

うらら迷路帖』、第5話、「花嫁と神様、時々はっくしゅん」

脚本:赤尾でこ、絵コンテ:岩崎良明、演出:福島利規作画監督:小森篤・小松香苗・村上雄・森七奈、総作画監督大塚舞

うらら迷路帖』の中では5話が一番良かった。神様を見ることのできる千矢の才能に嫉妬し、自分の負けず嫌いな性格を自覚する紺。そんな彼女に、その感情は何ら恥じることではない、今はただ未来の可能性を信じて頑張るしかない、と説くニナ先生。女の子どうしの楽しい空間を描くのがいわゆる日常系アニメのお決まりのパターンだが、本作で一緒に修行している彼女たちは、大切な親友であると同時に、お互いに切磋琢磨するライバルでもあるということをきちんと描いて見せた。

少女終末旅行』、第8話、「記憶」「らせん」「月光」

脚本:筆安一幸、絵コンテ:おざわかずひろ、演出:おざわかずひろ、作画監督:渡邉八恵子・本宮亮介

古来より人は、月の光や酒に特別な力が宿ると信じてきた。昔の文化や酒という飲み物も知らないはずのチトとユーリが、昔の人(ようするに現実世界に生きる現代人)が体験した「感覚」を追体験していく。そのような構造の話は原作漫画でも数多くあるが、私はその中でもこの話が一番好きだ。

月と都市の廃墟を背景にして2人が手をつなぎ踊り出すシーンはあまりにも美しい。しかしその直後にくる「いつか月に行こうよ」という台詞は実に切なく物悲しい。技術文明の崩壊した世界、それは人類があらゆる技術や文化を失い、もう二度と月に行くことができなくなった世界。そんな黄昏の世界で月に憧れる2人の姿が、涙が出るほどに美しく切ない。

エロマンガ先生』、第4話、「エロマンガ先生

脚本:髙橋龍也、絵コンテ:山﨑みつえ、演出:石川俊介作画監督:渡邊敬介・小林理・藤原奈津子・桜井木の実、総作画監督岡勇一

いつか俺が原作を書き、狭霧がイラストを描いたアニメを作って、それを一緒にリビングで見よう。正宗が自分の夢を語るシーンを見て不覚にも涙が出た。彼はその夢の中に光輝く未来を見たのだ。失われた家族の絆を取り戻し、悲しい事も辛い事もすべて吹き飛んでしまうような明るく楽しい未来を。

誤解を恐れずに言うならば、この第4話の時点で『エロマンガ先生』という作品は一つの区切りを迎えたと言っていいだろう。この兄妹の明るい未来を我々にもはっきりと感じさせてくれたからだ。

魔法使いの嫁』、第3話、「The balance distinguishes not between gold and lead.」

脚本:高羽彩、絵コンテ:長沼範裕、演出:二宮壮史、作画監督:高部光章・片山貴仁

チセが初めてドラゴンの国を訪れる第3話は、原作漫画の中でも一番好きな話の一つだ。世界に絶望し一時は命を絶つ事まで考えたチセに、年老いたドラゴンが世界の美しさを伝え、自らは自然へと還ってゆく。ドラゴン達との束の間の交流に心洗われつつも、その穏やかで安らかな死を羨ましいとも感じてしまうチセの姿に、彼女の抱える闇の深さが垣間見える。

サクラクエスト』、第21話、「氷の町のピクシー」

脚本:横谷昌宏、絵コンテ:高橋正典、演出:高橋正典、作画監督:野口征恒・原田峰文・新岡浩美・飯塚葉子・松本弘・徳田拓也

間野山大嫌いオーラ全開で周りに呪詛まき散らしてる鈴木エリカさんのメイン回。以前書いたように(『サクラクエスト』のエリカ様がクッソ性格ひねくれてて可愛い - 新・怖いくらいに青い空)、雪の中を一人で東京に行こうとする猛犬のようなエリカを、大人5人で必死に止めようとする姿は最高に笑える。黒沢ともよさんの名演も光る。この性格ひねくれた感じを演じることができる声優はなかなかいないだろう。

武装少女マキャヴェリズム』、第8話、「彼氏彼女オネエの「事情」」

脚本:下山健人、絵コンテ:澤井幸次、演出:鈴木拓磨、作画監督金正男・猿渡聖加・Park I Nam・Im Chae Gil

この作品に関しては、はっきり言ってストーリーとか作画とかはどうでもいい。今年最高のチョロイン・鬼瓦輪ちゃんの可愛い姿を拝むためだけに存在するかのようなアニメだった。

第8話にしてついに明かされる鬼瓦さんの過去。納村の前で怒り、照れ、泣き、笑う鬼瓦さんの何と可愛いことか。珍しく良い雰囲気になっている2人。だが隣には、今にもおしっこ漏らしそうになっている蕨の姿が…。これは酷い…(褒め言葉)。ここまでぶっ飛んだネタアニメは久しぶりに見た。