新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『ダーリン・イン・ザ・フランキス』総評

第18話、ついに自分の気持ちを打ち明けたイクノに、イチゴが優しく語り掛ける。

私たち、みんなめんどくさいんだよ。でもさ、それで良いかなって最近思い始めてきてるんだ。もしかしたら、こういうのの積み重ねが、生きてるっていうことなんじゃないかなって気がして。
(『ダーリン・イン・ザ・フランキス』、第18話より)

結局、本作のテーマはこの言葉に集約されていたように思う。

人間をはじめとする多くの生物が、有性生殖という「めんどくさい」仕組みを使っているのは何故か。それは有性生殖が、遺伝子の多様性を増し、環境の変化に対応して生き残るために必要不可欠な仕組みだからだ。

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グレンラガンキルラキルも、突き詰めれば同じテーマに行きつく。一見不合理で不必要に見えるものこそが、実はもっとも合理的で、そして強い。

それは、現代の人間社会にも言えることではないだろうか。あらゆる分野において「合理化」が徹底的に追及される世の中で、私たちは気付かないうちに、人として、生物として、とても大切なものを失ってしまうかもしれない。

例えば、エネルギー問題。今ある資本主義経済を回すことだけを考えれば、化石燃料をバンバン燃やし、原発を動かして、安く電気を作ればいい。しかし、将来のことを考えるなら、本当にそれが正しい選択と言えるのだろうか。化石燃料はいつか枯渇する。原発は事故が起こってしまうと取り返しがつかない。だからこそ、今は効率が悪いと言われていても、より環境に優しく枯渇しないエネルギーに投資していくことが重要になる。

安倍政権が再生可能エネルギーへの投資に消極的なのは、それが完全に「未来」のための政策であり、現在の日本経済には基本的に何の貢献もしない、むしろマイナスになるからである。彼らは、目先の好景気や株価の上昇でしか支持者の心を繋ぎ止めることが出来ない、という事実をよく理解しているから、自然エネルギーのような「非効率的」なものには見向きもしないのだ。

最終回、地球に残ったコドモ達がマグマ燃料をもう使わないという選択をしたのは、実に示唆的だと思う。マグマ燃料は叫竜人が姿を変えてできたものだとされているが、現実の化石燃料も大昔の生物が変性してできるものだからだ。

そして、このような大胆な転換が可能だったのも、彼らが他の何物にも染まらない、真に未来を見据えて行動することのできる子どもだったからだろう。

現実世界を生きる我々なら、たとえ大人であっても、子どものことを思い、子どもの心を忘れることなく行動することができるはずだ。地球上でもっとも理性的で、未来を予測する能力に長けたヒトという生物だからこそ、それが可能であると信じたい。

進化生物学には「幼形進化」という概念がある。進化した生物はその祖先となる生物の幼体に似ているという。例えば、ホヤの幼体は原始的な脊椎動物に似ている。そして、チンパンジーの子どもはヒトに驚くほどよく似ている。

我々ヒトもまた、サルから進化した「コドモ」なのかもしれない。